軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第410話 月に二度の楽しみ

バレンタインデーのやり取りから遡ること三日前。

この日は日曜日、ライト達がプロステスでの炎の洞窟調査を終えた翌日。

ライトは朝早くから起きて、カタポレンの森の中を駆け回り修行していた。

起床後二十分くらいの間に洗顔や着替えを済ませ、ゼリードリンク代わりのハイポーションを一本飲む。水分補給兼エネルギーチャージにはもってこいである。

その後カタポレンの家を出て、周辺の森の中を走る。走るコースも適当なものではなく、ルートは決まっている。家の近くに設置されている魔石生成魔法陣を回りながら、魔石の回収も兼ねるのだ。

魔石はレオニスが設置した魔石生成魔法陣の上に適度な大きさの水晶を置き、カタポレンの森の魔力を溜め込むことで出来上がる。

空っぽの水晶に魔力を満タンまで充填するのに、必要な期間は約二週間。満タンになっているかどうかは、水晶の色を見れば分かる。オーロラのような様々な色が水晶の中心から力強く発していたらOKだ。

もともと魔石はレオニスが定期的に収集、貯蔵してはいた。だがここ最近は、復元魔法での大量消費や転移門の使用頻度の増加などにより、魔石の消費量がかなり早くなっていた。

そこに来て今度はアイテムバッグの動力源という新たな需要が生まれ、魔術師ギルドからも魔石の供給を依頼された。

こうした諸事情により、魔石の生産量を急遽増やしたのだ。そしてそれらの回収作業は、ライトの朝練のついでに任されたという訳である。

今日回るところは、半月前に設置したばかりの真新しい魔石生成箇所だ。

半月前に魔術師ギルド総本部のマスターであるピースと会談?をした際に、アイテムバッグ普及のために格安で魔石を提供するという契約を交わしたのだ。

その日のうちに、レオニスは魔石生成魔法陣を新たに十ヶ所増設した。ライトはその新たな十ヶ所を今から巡回するのである。

まず一ヶ所目の魔石生成魔法陣に到着したライト。

魔法陣の上に乗せられている水晶の様子を見ると、その輝き具合から十分に魔力が蓄えられているのが分かる。

ライトの目から見てOKの基準だったので、魔石となった半円状の水晶を取り出しウエストポーチに仕舞う。そして次の魔石にするための新たな半円状の水晶を魔法陣の上に置く。

それにしても、この半円状の水晶ってすっごく綺麗だなー。ただでさえ綺麗な形なのに、魔力が充填されるともっとキラキラになって宝石みたい!

もともとの使用目的はアイテムバッグの動力源だけど、バッグに付けるからには装飾品としての見栄えも考えて作られているんだろうな。

あー、一日も早くアイテムバッグが一般にも売りに出されるといいな!

ライトはそんなことを考えながら、他の魔石回収に回る。

魔石生成魔法陣は少なくとも500メートル以上離して設置されているので、十ヶ所回るだけでも結構な距離になる。だがそれもまたライトにとっては良い修行になる。

総計十個の半円状魔石を回収したライトは、ひとまずカタポレンの森の家に帰宅することにした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

朝のランニングをこなした後は、家で朝ご飯タイムだ。

その頃にはレオニスも起きていて、二人分の朝食の支度をしてくれている。

ライトもランニング用の服から普段着に着替えて食堂に行き、レオニスとともに朝食を摂る。

「「いっただっきまーす」」

トーストや季節の果物などの、簡単だが美味しくてヘルシーな朝ご飯。カタポレンの森の家で過ごす、いつもの朝の風景である。

「レオ兄ちゃんは今日はどこかお出かけするの?」

「ああ。今日はプロステスの炎の洞窟の問題が解決したことを、マスターパレンに報告しに行ってくる」

「あー、それは早くに報告した方がいいよねー」

「お前もいっしょに総本部に行くか? マスターパレンとはまだちゃんと会ってないだろ」

「ン? あー、そうだね、どうしようかなー……」

冒険者ギルド総本部に行くというレオニスが、ライトもついてくるかどうかを聞いてきた。

そう、ライトはマスターパレンとは正月三が日の中日の【Love the Palen】の店先やアクシーディア公国生誕祭の冒険者ギルドの出店などで会うには会った。だがそれらは店先ばかりで、まだきちんとした場所できちんとした会話はしていないのだ。

ライトとしても、冒険者ギルドの総本部マスターとは面識を得ておきたいし、もっとちゃんとした会話も交わしたい。将来冒険者を目指すならば、冒険者ギルドの長たるパレンと今から懇意になっておくのはとても有益なことだ。

だが、今日のライトには他にもしたいことがいくつかあった。

「んー……今日は学園の宿題したり他にもやりたいことがあるから、マスターパレンさんに会うのはまた今度でいい?」

「ああ、別にいつでも構わんぞ。特に急ぎで会わなきゃならん訳でもないしな」

「誘ってもらったのにごめんね。マスターパレンさんにもよろしく言っておいてね」

「おう、ライトもどこか出かけるなら気をつけてな」

「うん」

二人は朝食を食べ終えると、それぞれ別行動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

レオニスと分かれたライトは、カタポレンの森の家の転移門からディーノ村の冒険者ギルド出張所に移動した。

受付窓口にはいつものようにクレアが姿勢正しく座り、受付嬢としての使命を果たしている。相変わらず閑古鳥パラダイスのディーノ村出張所において、その姿はいつ見ても立派なものだ。

「クレアさん、おはようございます!」

「あら、ライト君。おはようございますぅ」

「日曜日もお勤めご苦労さまです!」

「いえいえ、これも私の仕事ですので」

元気良く朝の挨拶をするライトに、柔らかな笑みで応えるクレア。小さな少年と可愛らしい受付嬢の、心和む会話と安らぎのひと時である。

「今日はどちらにお出かけですか?」

「父さんと母さんの家の手入れと、家の周りの散策でもしようかと思いまして」

「ディーノ村のお家のお手入れですか、それはとても立派なことですねぇ。グランさんもレミさんも、とても喜んでくれると思いますよ」

「だといいんですが……」

今日の用事をクレアに尋ねられたライト、ここは正直に明かす。

まずはディーノ村の家の草むしり他お手入れをして、それから周辺の探索をする予定だ。

「ぼく、これから二週間に一度、月に二回はディーノ村の家の手入れをしに来ようと思ってまして」

「あら、そうなんですか? そしたら私とも月に二回は会える、ということですか?」

「そうですね!土日のどちらに来るかは、その時々で変わるとは思いますが」

「んまぁぁぁぁ、何と喜ばしいことでしょう!私にとっても月に二度、ライト君に会えるという楽しみができるんですねぇ」

クレアが殊の外喜んでいる。ライトとしても、自分に会うことを『月に二度の楽しみ』とまで言ってくれるクレアの好意は素直に嬉しく思う。

「でも、周辺を散策するにしても十分気をつけてくださいね? あのお家は村はずれにあって、家の裏はすぐ山がありますし」

「もちろん気をつけます!」

「何かあったら、すぐここに来て知らせてくださいね? 約束ですよ?」

「はい!」

右手の小指を差し出しながら心配そうに念押しするクレアに、ライトも右手の小指を出して指切りげんまんしながら約束を交わす。

「じゃ、いってきまーす!」

「いってらっしゃーい、お気をつけてー」

クレアに見送られながら、ライトは父母の家に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

冒険者ギルドディーノ村出張所を出てから、走り続けること約二十分。ようやく父母の家に辿り着いたライト。

クレアですら村はずれにあると言うだけあって、本当に村の端の端もいいところのとんでもなく離れた場所にある。

父さんも母さんも、よくもまぁこんなド田舎中のド辺境に家を借りたもんだよなぁ……とライトは思いつつ、毎回懐かしい気持ちで父母の家を眺める。

その家はかつてライトの父グランが『村はずれで山に近い方が、狩りや冒険に出やすいからここにした!』という理由で借りた家だ。

場所が場所だけに家賃も月200Gという、ほぼあってないような金額である。この家どころか周辺にも人っ子一人住んでいない辺鄙な場所だが、それでもなおレオニスが今でも家賃を払い続けて借りている。

グランとレミがこの家に住んだのは、ほんの数年の間だけのこと。だが、彼らの短い生涯の中で数年という年月は大きな割合を占める歴史だ。

孤児院を卒院した後に、天涯孤独の二人が身を寄せ合って過ごした大切な場所。二人の思い出が詰まった大事な場所を、レオニスはどうしても手放す気にはなれなかったのだ。

両親の記憶を何一つ持たないライトにとっても、この家は父母の思い出に触れられる唯一の場所。こうして今でもこの場所に来られることに、ライトはレオニスへの感謝をより深くする。

家の中に入り窓を開けて換気したり、外の草むしりなどの手入れをテキパキと手際良くこなしていくライト。何もない村の、何もない家なのに、不思議とライトの心が落ち着く。

「さて、家の方はこれくらいでいいかな」

ライトは額に浮いた汗を軽く拭いながら、玄関の扉を閉めて戸締まりする。

父さん、母さん、また来るね。ライトは心の中でそう思いながら、父母の家を後にした。