軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第407話 炎の女王の願い

「さて、そしたら俺達からも質問していいか?」

炎の女王の快癒の喜びを存分に分かち合ったところで、レオニスが炎の女王に声をかけた。

『妾が知ること、話せることなら何でも答えよう』

「助かる。まず、女王が言っていた『妾に巣食う悍ましきもの』についてなんだが。女王はその正体を知っているか?」

『正確なところまでは知らぬ。ただ、妾の力を吸い取り奪い続ける核のようなものを植え付けられた、ということくらいしか分からぬ』

炎の女王はその身の内に穢れが埋め込まれたことは知っていても、その正体が何であるかまでは知らないようだ。

「いつ、誰に植え付けられたかってのは分かるか?」

『いつ、と言われてものぅ……何と言い表せば良いか分からぬ。はるか昔のような気もするし、つい先日のことのような気がしないでもないし』

「あー、そうか、あんた達に年月の概念はないか……ここにゃ四季もないもんな」

八咫烏のマキシもそうだったが、野に生きる者達に人間が使う暦のような月日や年月という概念は通じないことをレオニスははたと思い出す。

しかもここは炎の女王というが御座す洞窟という、完全なる閉鎖空間。通年常夏状態で、春夏秋冬という季節の巡りも一切ないのだ。

これでは時期の特定のしようがない。

「そしたら、誰に植え付けられたかってのは分かるか? 正しい名前とか分からなくてもいい、外見的な特徴とか何でもいいから分かる範囲で教えてくれ」

『ある日突然妾のもとに、青い外套を羽織った不気味な奴が現れてな……其奴は己のことを『シキショウ』と言うておった』

「ふむ……奴が直々にここまで出向いてきたのか」

炎の女王に穢れを埋め込んだのは、どうやら屍鬼将ゾルディスのようだ。

屍鬼という存在のことを、レオニスは熟知している訳ではない。だがそれでも、屍鬼将を名乗る青い外套を羽織った不気味な屍鬼と言えばゾルディス以外にあり得ないだろう。

『其奴は青黒い肌をした屍鬼でのぅ。妾の住処に足を踏み入れるのみならず、玉座にまで押しかけてくる無礼者を手打ちにしてくれようと思い【煉獄の息吹】を吹きかけてやったのだが……全く効かなくての』

『妾ですらそれじゃ、洞窟内の魔物達も其奴には全く歯が立たず―――挙句に其奴は妾の胸に腕を突っ込んで、悍ましきものを妾の体内に植え付けて消えたのじゃ』

炎の女王はその麗しい顔を歪めながら当時のことを語る。

炎の女王が繰り出す【煉獄の息吹】はかなり強力な魔法攻撃のはずだが、それを容易にいなすとはやはり屍鬼将ゾルディスの強さは尋常ではない。

「その時からずっと魔力を奪われ続けてきたのか?」

『ああ。その悍ましきものは常に妾の身体の奥深くにあり、妾の力を吸い取り続けてきた』

「そりゃ大変だったろうな」

『最初のうちはまだ良かった、少し気怠い程度で済んでいたから。だが、ここ最近になって急激に吸い取られる量が増えてな……妾が生み出す力以上の量を吸い取られ続けていくうちに、妾は身体を動かすこともできなくなっていった……』

炎の女王はその煌めく瞳を伏せながら、沈んだ声で語る。

ライトとレオニスがこの最奥部に辿り着いた時には、炎の女王はそれはもう見るからに酷い状態だった。あれはやはり、最近になって魔力を搾取する量が急増したことによる衰弱だったのだろう。

炎の女王もその時のことを思い出すとかなり辛いようだ。

「今はもう大丈夫か? 見たところではかなり回復したように思えるが」

『ああ、汝らのおかげで今は 頗(すこぶ) る調子が良い。妾の身の内に巣食っておった悍ましきもの、そしてそれによる気怠さなども今はもう感じない』

「そうか、そりゃ良かった」

レオニスがピースからもらった浄化魔法の呪符の最上級『究極』、それを十枚全て注ぎ込んだおかげで炎の女王に埋め込まれていた穢れを完全に取り除けたようだ。

マキシの穢れを祓えるフェネセンも凄いが、その一番弟子ピースも師匠に劣らぬ凄腕の持ち主であることが証明されたようなものである。

『……のぅ、人の子よ。汝らの力を見込んで、折り入って頼みたいことがあるのだが』

「ン? 何だ?」

そしてここで炎の女王が、レオニスをじっと見入りながら口を開いた。

改まって頼み事があると語る炎の女王に、レオニスも何事かと思いながらとりあえずその内容を聞いてみることにした。

『妾の姉妹達のもとを訪れ、安否を確かめてほしいのじゃ』

「炎の女王の姉妹ってーと……氷の女王とか風の女王、か?」

『そうじゃ。妾と同じく属性の頂点に立つ女王達のことじゃ』

炎の女王の頼み事とは、他の女王達の安否だという。

例えば炎の女王は火属性の化身だが、当然他の属性にもその化身は存在する。風属性には風の女王、土属性には大地の女王、そして水属性の上位である氷属性の氷の女王、風属性の一種である雷属性の雷の女王といった基本六属性以外の近縁種の女王などもいる。

そして彼女達は、人族や他の生物のように血の繋がった実の姉妹というわけではない。だが『属性の化身』という共通項があり、属性こそ違えどその存在意義は全く同じである。

故に彼女達は他の女王のことを姉妹と呼ぶのだ。

『妾に悍ましきものを植え付け、魔力を奪い取り続けていた者共。そんな悪辣な輩共が、妾だけで満足しているとは到底思えぬ』

「確かにな……」

『であろう? 妾は心配なのじゃ、妾の姉妹が妾と同じような酷い目に遭っていないか、苦しい思いをしているのではないか、そう考えると心苦しくてならぬ』

炎の女王がその麗しい顔を苦痛に歪めながら、悲しげな声で身を震わせる。

確かに炎の女王が言う通りで、穢れの大本にして元凶である廃都の魔城の四帝は無限の魔力を求めて世界中のあらゆるところで魔力を強奪し続けている。

そして炎の女王もまたその標的となり、塗炭の苦しみに喘いできた。そうなると、炎の女王と同等の位置付けにある他属性の女王達も当然その標的となっている可能性は十分高い。

炎の女王が他の女王達を心配するのも無理はなかった。

「そうだな……俺達もいずれそこら辺は調査しなくちゃならんところではある」

『おお、そうか。ならば話は早い、早速調べてきてはくれまいか』

「あ、いや、今すぐとかは無理だぞ? 俺達にだって都合ってもんはあるし」

『そうなのか? むぅ……致し方あるまい、では汝らの都合が良い時になら調べてもらえるか?』

「ああ、準備やら何やら整えてからならな」

レオニスの言葉に一喜一憂する炎の女王。パァッと明るい顔をしたかと思えば、レオニスの『今すぐには無理』という断りの言葉で一気にシュン……としたり、まるで猫の目のように表情をくるくると変える。

なかなかに忙しそうだが、ゲームの一枚絵では凛としたクールビューティーだった炎の女王が百面相のように豊かな表情を持っているというのもなかなかに趣深いものがある。

『では、妾から汝らにこれをやろう』

炎の女王は両の手のひらを上にして、目を閉じて何やら念じ始めた。

しばらくすると手のひらの上に何かが浮かび上がり、形作っていく。

『これは妾が認めし者にのみ授けるもの。これを示せば、他の女王達にもそれが伝わる』

炎の女王が手のひらで形作ったものを、ライトとレオニス双方に渡す。

それは炎の形をしたエンブレム、いわゆる『炎の勲章』というアイテムだった。

ライトが内心で『うおおおおッ!炎の勲章の実物ッ!』と超感激している横で、レオニスもまた物珍しそうに炎の勲章を眺めながら炎の女王に問いかける。

「ほう、これがあれば他の女王に会うのも楽になる、ということか?」

『どこまで楽になるかは保証できぬが、それでもこれを持つことにより汝らが妾と知見がある者という証にはなる』

「ああ、そうか……そうだな。もし他の女王も穢れに侵蝕されているとしたら、この炎の洞窟のように他の魔物も狂乱していて会話にならない事態になってるってのも十分にあり得るな」

レオニスの問いに答えた炎の女王の回答は、レオニスを十分に納得させるものだった。

他の女王が穢れに侵蝕されていなければ、炎の勲章を提示するだけですんなりと女王のもとに通してくれるだろう。だが、穢れに侵されていたら―――先程までの炎の洞窟のように、他の魔物達も全て状態異常の狂乱になっている可能性大である。

「……ま、何にしろ十分な準備を整えてからでないとな。もし他の女王も穢れに侵されているとしたら、それを祓える道具も用意しとかなきゃならん」

『汝の言う穢れとは、妾に巣食っていた悍ましきもののことか?』

「ああ、それのことだ。俺達はそれを『穢れ』と呼んでいる」

『穢れ、か……確かにあの邪悪の塊にはその言葉が相応しい』

レオニスが使っていた言葉『穢れ』の意味を知り、炎の女王も頷きながら納得している。

「穢れという言葉を初めて使い、それを一人で祓える奴が俺達以外にもいるにはいるんだがな。今そいつがどこにいるか分からないんだ。あいつがいてくれれば、手分けして迅速に調べることも可能なんだが」

『何と……人族には汝らのような強者がゴロゴロとおるのか……』

「ぃゃ、俺達をアレと同等に考えてもらっちゃ困るぞ? アレは全てにおいて規格外で人外で桁外れだからな? 俺達ゃ他の人間よりちょっとだけ使えるだけの普通の人間だ、間違ってもアレと肩を並べることなんざできん」

『ぃゃぃゃ、あの悍ましき穢れを取り除ける汝らも妾の目には十分規格外にしか見えんのじゃが……妾の目がおかしいのかのぅ?』

穢れという言葉繋がりで、レオニスがふと洩らしたフェネセンの存在に驚きを隠せない炎の女王。

そんな炎の女王に、アレ=フェネセンといっしょくたにされては困る、と釘を刺すレオニス。相変わらず己のことを普通の人間カテゴリに入れようとする癖は治らないらしい。

レオニスに釘を刺された格好の炎の女王、狼狽えつつも小声でゴニョゴニョと不安そうに反論するが、貴女の感性は間違っていないのでそこは大いに自信を持っていただきたいところである。

「調査結果は毎回ここに報告しに来る方がいいか?」

『妾に知らせてくれるならありがたいが、汝らの都合もあろう。それに女王の数も多い、逐一でなくとも後日まとめて教えてくれても良い』

「そうか、じゃあそこら辺は俺達の都合で回る順番や時期など適宜決めさせてもらおう」

ここは譲歩してくれた炎の女王の言葉に甘えることにするレオニス。

確かに各地に存在する女王は属性毎にいるので、何気にその数も多い。基本六属性以外にも何種類か存在するはずだ。

それらの居場所の確認はもちろんのこと、そこを訪ねる時期なども考慮しながら綿密な計画を立てねばならない。

『人の子よ―――妾の姉妹の件、よしなに頼む』

「ああ、何とか力になれるよう努力する」

「ぼくもレオ兄ちゃんといっしょに頑張ります!」

ライトとレオニスは炎の女王の願いを聞き入れて約束を交わす。

こうして二人は炎の洞窟の調査を終えて、プロステスに戻っていった。