軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第380話 復帰祝い

ライトがクエストイベントの最新ページを更新してから三日後の土曜日。

いつもライトが心待ちにしている、週末休日の始まりである。

今日はレオニスとともに魔術師ギルドに行く予定だ。それは生誕祭初日に訪れた魔術師ギルドの出店にて、ピースと交わした『ライトとレオニス、二人で魔術師ギルドに会いに行く』という約束を果たすためである。

ライトとレオニスはカタポレンの森で朝食を食べつつ、その日の行動予定を話し合う。

「レオ兄ちゃん、魔術師ギルドってどこにあるの?」

「冒険者ギルドから普通に歩いて15分くらいかな」

「そっかぁ、割と近いところにあるんだね。何時頃に行く?」

「昼飯前の午前中、十時には行こう。俺は午後にちょっと遠めの警邏するつもりだから」

「分かったー。……あ、そういえばさぁ」

朝食を摂り終え、二人して食器を後片付けしながらライトがふとその顔を曇らせる。

「フェネぴょんの行方が分からないこと、ピースさんに話す?それともナイショにしとく?」

「…………」

「ピースさんって、フェネぴょんのお弟子さんなんでしょ?知らせるべきなのか、それとも教えない方がいいのかなぁ……」

「…………」

ライトの問いに、レオニスはしばらく無言のまま考え込む。

そうしてしばらくの後、徐に口を開いた。

「教えない方がいいだろうな」

「やっぱり?黙ってた方がいい?」

「ああ。探す宛もないのに行方不明だってことだけ教えるのは酷だしな」

「そうだよね……」

レオニスの考えでは、ピースには教えない方がいいという。

確かにどこを探せばいいかも全く分からないのに、行方不明だということだけ知らされても心配させるだけだろう。

「それに、八年前の廃都の魔城の反乱時にもフェネセンが行方不明になったってのはライトも知ってるだろう?」

「うん。四帝の罠で異空間に閉じ込められて、三年も出られなかったんだよね?」

「ああ。あの時のピースのことを思うとな……」

レオニスの話によると、八年前にフェネセンが行方不明になった時も、それはもう大変だったらしい。

フェネセンの一番弟子であるピースは、師匠の行方不明を知らされた時それはもう半狂乱で手がつけられない程に暴れたそうだ。

師匠を探しに行こうとするピースと、それを押し留めようとする周囲。もちろんレオニスは後者であり、荒れに荒れるピースを宥め説得する役割を任されたという。

その際に、周囲を蹴散らしてでも首都ラグナロッツァを出ていこうとするピースに『フェネセンが帰ってきた時に、お前がここで出迎えてやらないでどうする!』という言葉をかけたレオニス。それを受けたピースはようやく少しだけ我に返り、何とか彼をを思い留まらせることができたーーーという経緯があったのだそうだ。

そこから三年の間、ピースは魔術師ギルドという組織を守り続けつつ、休日はもちろんのことまとまった余暇ができる度にフェネセンをずっと探し続けたという。

「フェネセンが行方不明だった三年間、魔術師ギルドは本当に大変だったんだ」

「フェネセンに負けず劣らず底抜けに明るかったピースがずっと塞ぎ込んで、いつも眉間に皺を寄せて暗い顔ばかりするようになって……誰も気軽に近寄れないようになっていった」

「フェネセンが無事戻ってきた時には、それはもう泣いて泣いて泣きまくって、違う意味で手がつけられないくらいで……過呼吸と脱水症状起こして気絶するまで、フェネセンの身体にしがみついて離れようとはしなかった」

生誕祭の時に初めて会ったピースは、ああこりゃ間違いなくフェネぴょんの一番弟子だわ、と確信できるくらいに明るく朗らかな印象だった。

そんな師匠そっくりのピースでも、フェネセンが行方不明だった時期は相当酷い有り様だったようだ。

「今またフェネセンが行方不明だなんてピースが知ったら、間違いなくまた同じことが繰り返されちまう。それじゃあまりにもピースが可哀想でな……さすがにそれは避けたい」

「そうだよね……ピースさんは今でも魔術師ギルドの総本部マスターだもんね。自分で探しに行きたくても行かせてもらえないよね」

「そういうこと。フェネセンの捜索にどうしてもピースや魔術師ギルドの助けが要るとなったら、その時は改めてまた明かすが…………ま、フェネセンだって八年前と同じように、ある日突然ひょっこりと帰ってくるだろうさ」

レオニスがピースの心情を気遣いつつも、フェネセンはまたいつかひょっこり帰ってくるさ、と言う。

そのさらりとした言葉は限りなく楽観的で、根拠や明確な証拠など全くない。だが、そう信じたい気持ちはライトも同じだった。

「……そうだよね。フェネぴょんのことだから、きっとそのうち何事もなかったように『たろいもー!』って言いながら帰ってくるよね」

「ああ。だから今はピースやカイ姉達には余計な心配させたくないんだ」

「分かった。じゃあフェネぴょんのことは今まで通り『どこかを旅してる』ってことにしとくね…………あ」

「ン?どうした?」

ここでライトがとあることを思い出し、どことなく挙動不審になる。

「フェネぴょんが行方不明だってこと、こないだグライフに話しちゃったけど……大丈夫かな?」

「グライフにか?……何でまたそんな話に?」

「この前学園帰りにスレイド書肆に寄ったんだ。学園の図書室で調べても分からないことがあって、本屋さんをやってるグライフなら知ってるかも?と思ってさ」

「図書室で調べても分からんことを、本の虫であるグライフに聞きに行ったってのか……ライト、お前ラグーン学園で一体どんな難しい調べ物してんの?」

ライトがスレイド書肆に出向いた理由を聞き、レオニスが心底不思議そうな顔をしながら尋ねる。

レオニスにとっては本当に純粋な疑問なのだが、その『難しい調べ物』とは水神アープに関することだったので、ライト的には今はまだあまり積極的に触れたくない話題だ。

よってここは彼の神のご降臨とご加護を賜るべく、スルー一択である。キニシナイ!

「何かね、その時に聞いたんだけど、グライフが最近冒険者に復帰したんだって。何でもフェネぴょんが旅に出る前の日の食事会で、フェネぴょんに冒険者復帰のアドバイスを受けてそうしたとか」

「何ッ!?グライフの奴、冒険者復帰したのか!?」

「うん。今はリハビリがてら週に一回か二回、ラグナロッツァ周辺の魔物退治をしてるんだって。ていうか、レオ兄ちゃん、知らなかったの?冒険者ギルドで噂になったりしてないの?」

「あー……そういや生誕祭で冒険者ギルドに詰めてた時に、誰だかが冒険者稼業に復帰したって話してたな?あれ、グライフのことだったんか……半分寝呆けながら聞いてたわ」

ライトからグライフが冒険者に復帰したという話を聞き、心底驚くレオニス。

レオニスとグライフ、二人は知己の間柄ではあるがお互いそこまで頻繁に交流している訳ではないので、レオニスはグライフの復帰を知らなかったらしい。いや、生誕祭の際に噂程度には耳にしていたようだが、交代で仮眠室から出てきたばかりの時に聞いたので頭に残らなかったようだ。

そもそもグライフもわざわざ己の復帰を大々的に喧伝することもないし、レオニスの耳に入るのが遅くとも致し方なしか。

「だからね、グライフもこれから冒険者の仕事をする時には、フェネぴょんの痕跡がないか注意深く観察してくれるって言ってくれたんだけど……グライフにも口止めしといた方がいい?」

「んー、そうだなぁ……グライフの奴もそんなにおしゃべりな方じゃないし、八年前のピースのことも知ってるから無闇矢鱈に吹聴はしないだろうとは思うが」

レオニスが少しだけ考え込んでいたが、ふと何かを思いついたようだ。

「……よし、近いうちにグライフの冒険者復帰祝いでもしてやるか」

「ああ、それはいいかもね!どこか外のお店でやるの?」

「そうだな、昔の冒険者仲間も交えたいから総本部ギルドの直営食堂がいいかな」

「そっかぁ。そしたらぼくはいっしょに行けないけど、グライフ達とたくさん楽しんできてね!」

「ああ、フェネセンの件はその時に口止めしとくわ」

グライフの冒険者復帰祝いをするというレオニスの案に、ライトも大いに賛成した。

だが、冒険者ギルド総本部の直営食堂で開催するということは、その復帰祝いにライトは参加できないことを意味する。何故ならそこはいわゆる酒場であり、子供のライトは昼間の明るいうちしか入れない場所だからだ。

だが、グライフの冒険者復帰祝いに参加できなくてもライトに不満などない。かつての冒険者仲間とともに祝う方が、グライフにとってもより嬉しいものになるだろうことがライトにも分かっているから。

それに、ライトだってグライフの復帰を祝おうと思えばいつでも祝うことができる。ライトなりの祝いの気持ちを込めた品を用意して、学園帰りに寄り道して届けることだって十分可能なのだ。

思わぬところでグライフの冒険者復帰祝いという話になったが、こうして旧友と交流を深めることもレオニスにとって良いことだろう。

「じゃ、ぼちぼち魔術師ギルドに行くか」

「うん!」

その後ライト達は外出の支度を各々整え、カタポレンの森の家からラグナロッツァの屋敷に転移していった。