軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第373話 女性達の争奪戦

聖遺物の管理のリスクヘッジとはいえ、あれこれ考え出すと何となく気が滅入るライト。

ふと窓の外を見ると、天気も良く明るい日差しが差し込んでくる。

よし、ここは気分転換に行くか!とライトは外に出かけることにした。

「レオ兄ちゃん、目覚めの湖行ってくるねー」

「おう、明るいうちに帰ってこいよー」

「はーい」

書斎に篭ってアイテムバッグ作りに勤しんでいるレオニスに一声かけてから、外に出るライト。太陽の光と冬の冷たく凛とした空気が相まって、何とも心地良い。

ンーーーッ!と思いっきり背伸びをした後、ライトは目的地に向かって駆け出した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

まずは目覚めの湖の近くにあるナヌスの里に立ち寄る。

毎週末とまではいかないが、ライトは今でも月に二度くらいの頻度でナヌスの里に顔を出している。

実は今日は今年になってから初めての訪問だ。年末年始の多忙さに加え、アクシーディア公国生誕祭もあってだいぶご無沙汰してしまっていた。

いつもの場所からナヌスの里に入ると、衛士のエディが木の上でのんびりと番人の仕事をしていた。

「エディさん、こんにちはー!」

「ふぁぁ……ン?ライトじゃないか、久しぶりだな!」

「はい、ぼくも最近は結構忙しくて。ナヌスの皆さんは元気ですか?」

「もちろんさ!早く皆のところに行こうぜ!」

「はい!」

ライトの姿を認めたエディが、木からヒョイ、と飛び降りてライトのもとに駆け寄る。

一番最初の出会いこそ、衛士として外敵たるライトにギャンギャンと噛みついてきたエディだったが。今ではライトともすっかり仲良しだ。

里の中央にある広場に行くと、ナヌスの人々が一斉にライトを取り囲んでくる。

「あっ、ライト兄ちゃんだー!」

「あらぁ、ライト君。お久しぶりねぇ!」

「族長達を呼んでくるから、ちょっと待っててな!」

ナヌスの人々の熱烈な歓迎に、ライトは戸惑いつつも嬉しく思う。

広場で子供達によじ登られながらおとなしく待っていると、族長他里の重鎮達がやってきた。

「ライト殿、待たせたな」

「あっ、ヴィヒトさん、こんにちは!ご無沙汰してます!」

ライトの肩や腕に乗っかっていた子供達をそっと地面に下ろしながら、ヴィヒトと挨拶を交わす。

「オーガの里の結界用の『加護の勾玉』作りの方はどうですか?」

「先日レオニス殿からまた大珠奇魂を届けていただいてな、残りの十五個分も昨日完成したところだ」

「そうですか、それは良かったです!」

オーガの里の襲撃事件以降、ずっと進めていた結界運用計画もそろそろ大詰めを迎えるようだ。

もともとは武具の強化素材として鍛冶屋で用いられる大珠奇魂が、人族以外の者達の役に立つとは思いもしなかったライト。

こうして小人族や鬼人族のために、彼らの友として力を貸せたことが嬉しい。

「あ、ところで今日は皆さんに良いお土産がありまして」

「ん?土産?ライト殿にはいつも良い物をもらってばかりいるが、今日はまた何をいただけるのかな?」

ライトがアイテムリュックをガサゴソと漁り、一つの調味料入れを取り出した。

それはガラス製の容器で、ラグナロッツァの雑貨屋で購入したものだ。ライトにとっては両手で包んですっぽり収まる程度だが、ヴィヒト達小人族にはでかいバケツくらいの結構な大きさに感じるサイズである。

興味津々なヴィヒトが早速尋ねる。

「ライト殿、これは一体何かな?」

「えーとですね、この中には粉が入ってまして」

「……粉?」

「はい。『ぬるぬるの素』というもので、この粉を水に溶かすだけで簡単にぬるぬるドリンクが作れるんです」

「「「!!!!!」」」

ガラス容器の蓋を取って、中身である黄色のぬるぬるの素を見せながら解説するライト。

その話を聞いたヴィヒト他ナヌスの人達、特に女性達の目の色がギラリと変わる。

「ねぇ、ライト君、それ、本当!?」

「この粉の色は、黄色のぬるぬるよね!?」

「これを水に溶かすだけで、黄色のぬるぬるが簡単に作れるってこと!?」

ナヌスの女性陣がガラスの容器から透けて見える黄色を見て、レモン味の黄色のぬるぬるの素であることを目敏く察する。先程の子供達の如く、ライトの周囲にたくさん押し寄せてきてグイグイと迫るナヌスの女性達。

その迫力にライトもタジタジになる。

「は、はい……ナヌスの人達、特に女の人達に黄色のぬるぬるがとても好評だと聞きまして」

「これだけたくさんの粉があれば、ぬるぬるドリンクもたくさん作れるってことよね!」

「そしたらもう、黄色のぬるぬるドリンクを巡って争奪戦することもないわね!」

「!? そそそ争奪戦!?!?」

飛び上がらんばかりに嬉々とするナヌスの女性達の言葉に、ライトは心底慌ててヴィヒトの方に顔を向ける。

黄色のぬるぬるドリンクが、ナヌスの女性達に大人気!とは以前ヴィヒトからも聞いていたが。そこまで大人気だったとは夢にも思わなかったライト。

しかも『争奪戦』などという不穏な響きを伴っていたものだから、もしかして思いっきり仲違いとか不和の種になってたの!?と内心かなり焦っていた。

だが、聞けばそれはくじ引きで決めていたそうで、それを聞き少しだけ安堵するライト。取っ組み合いの喧嘩などの暴力行使でないだけ、かなり平和的な方法である。

ヴィヒトから聞いた話によると、黄色のぬるぬるドリンクの量が残り僅かになるにつれて『今日は誰がドリンクを飲むか』という権利を一日二名までくじで決めていたのだという。

『前日、前々日に飲んだ者は不参加』という条件のもと、黄色のぬるぬるドリンクを飲みたい女性達が仕事終わりの夕方に広場に集まってはくじを引き、その当落で悲喜こもごもの日々を過ごしていたとか何とか。

ちなみに朝一番でくじ引きすると、外れた者が一日中落ち込んでしまうので仕事終わりの夕方に引くことになったのだという。

聞けば聞くほど涙ぐましい話である。

「……黄色のぬるぬるの素、まだたくさんあるので次はもっと大きめの入れ物に持ってきましょうか?」

「ああ、そうしていただけると我等としても非常ーーーに助かる……」

「分かりました……ヴィヒトさんもお疲れさまです」

「ぃゃぃゃ、ライト殿にはいつもねだるばかりで本当ーーーに申し訳ないと思っておる……だがこれで、ようやくこの里にも平穏が訪れそうで何よりだ」

「…………世の中平和が一番ですよねぇ」

「ああ、全くだ…………」

黄色のぬるぬるドリンクを求めてやまない女性達が、新しいアイテム『黄色のぬるぬるの素』を得て大喜びでキャイキャイしている横で、ライト他ナヌスの男衆は気の抜けたような顔で半ば呆然と立ち尽くしていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ナヌスの里で小人族と交流した後、再び目覚めの湖に向かうライト。

その前に、この周辺に棲息しているデッドリーソーンローズの素材採取もついでにしていくことにする。

デッドリーソーンローズは、解毒剤であるアンチドートキャンディの原材料だ。クエストイベントのお題として出てきて以来、初採取以降も朝のジョギングの際に何度か採取している。

アンチドートキャンディのレシピ作成に必要なのは球根部分十個で、それ以外の花弁や花粉、蔓なども余すことなく素材としていただいているライト。前世から引き継がれた『もったいない精神』は、今もライトの中で健在である。

だが、当のデッドリーソーンローズにしてみれば『フザケンナコノヤロー!』である。

これでも立派な植物系魔物なので、敵であるライトを毎回攻撃し襲いかかる。そして、心なしか蔓での攻撃の鋭さが回を追う毎に鋭さが増していっている気がする。が、そんなことはキニシナイ!とばかりにデッドリーソーンローズの懸命かつ必死な反撃を易易といなすライト。

今日もまた一欠片の球根と根っこを残して、他は文字通り根こそぎいただいていく。

その後可愛らしい新芽がすぐに出てきたことを確認したライトは、おおー、今日も元気いっぱいだね!頑張ってまた大きくなってね!等々、毒茨の魔物に向けてかけるとは到底思えないような労いの言葉?をかけつつ、新芽の頭を一頻り撫でる。

もちろんデッドリーソーンローズは、力の限り抵抗し攻勢に出ている、のだが。如何せん生えたばかりの新芽なので、これまた文字通り手も足も出ない。新芽の頭をピョコピョコと動かすだけの可愛らしいものだ。

「デッドリーソーンローズの新芽ちゃん、また来るねぇー!」

すくっ!と立ち上がり、デッドリーソーンローズの新芽に向かって軽やかな言葉をかけ手を振りながら颯爽と駆け出すライト。

ライトが走り去るその後ろ姿を、デッドリーソーンローズの新芽十株がワナワナと小刻みに震えながら見送っていたような気がするが。多分気のせいだろう。キニシナイ!

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

毒茨の素材採取を終えた後は、目覚めの湖に行く。

ライトは桟橋の上に立ち、湖面に向かって大きな声で呼びかける。

「おーい。イード、ウィカ、アクア、いるー?」

「ぼくだよー、ライトだよー、こーんにーちはー!」

声をかけてしばらく待っていると、湖面からイード、ウィカ、出てきた。ウィカはいつものようにイードの頭にご機嫌で乗っているが、アクアの姿が見えない。

「……あれ?アクアはいないの?どこに行ったの?」

ライトが不思議に思いながらキョロキョロと周囲を見回すと、イードの背中からアクアがピョコッと顔を出してきたではないないか。

どうやらアクアはイードにおんぶしてもらっていたようだ。

「アクア、いたんだね!よかったぁ!」

アクアを見つけて安堵したライトに、アクアもイードの背中から出てきて嬉しそうに飛びつく。自分に向かって飛び込んでくるアクアを抱きとめるべく、両腕を広げて迎え入れる体勢を整えるライト。

だが、湖面から少し離れた桟橋から見えた小さなアクアは、ライトのもとに近づく毎に大きさがどんどん増していく。

「…………え?…………ゴファッ!!!!!」

いつの間にか、ライトの両腕でも抱えきれない大きさになっていたアクア。そのダイビングアタックをモロに受けたライト、そのまま一直線で数メートル後ろに吹っ飛ばされてしまった。

桟橋の上で白目を剥きながら、泡を噴いて仰向けに倒れるライト。ピクピクと小刻みに痙攣するライトに、イードとウィカが慌てて傍に駆け寄る。

唯一アクアだけが事態を把握できず、完全KOの仰向けライトに乗っかったまま嬉しそうに頬ずりしている。

只今絶賛KO中のライトを除き、今日も目覚めの湖は平和だった。