軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第363話 至高の杖ユリウスの館

「いらッしゃいませぇ~♪」

ライト達の目当ての杖職人工房『至高の杖ユリウスの館』に三人は足を踏み入れる。

その豪奢な建物の内側は、外よりもさらにきらびやかな世界が広がっていた。

金を基調としたインテリアに、数多の華美な彫刻や調度品がこれでもか!というくらいに並び飾られて、圧巻の空気で入店者を迎え入れる。

そして中に入った瞬間に、バニーガール風のコスプレをした美女達がライト達を囲むではないか。

え、何だろう、ここ、キャバクラ?もしかして入る店を間違えた?とライト達はただただ戸惑う他ない。

「えーと……ここ、杖職人ユリウスさんの工房……ですよ、ね?」

「はい!ここは世界一素晴らしい杖をお作りになられる、ユリウス様の工房に間違いございません~♪」

「そ、そうですか……」

「……あら?私達の接客ではお気に召しませんでしたか?では他の者と交代いたしますので、少々お待ちくださいませぇ~♪」

ライト達の実に微妙ーーーな態度にバニーな美女達はすぐに察したようで、明るい笑顔のままサクッと店の奥に退場する。

そしてそれと入れ替わりで、一人の真面目そうな執事風の男性従業員が出てきた。年の頃は四十代半ばくらいか。

「いらっしゃいませ。ようこそ『至高の杖ユリウスの館』にお越しくださいました。本日はどういった杖をご所望ですか?」

「あー、ここの評判を聞いて子供用のワンドを一本作ってもらいたくて来たんだが……」

「当工房の杖やワンドはこちらにございます」

執事が手指を揃えて指し示した先には、豪華なショーケースがあった。壁一面が全てガラス張りになっていて、それはまるで博物館の陳列室のようだ。

そのショーケースの中には、大小様々なタイプの杖やワンドが見本として飾られていて、その前で品物を見ている人も何人かいる。

中年男性の冒険者と思しき者には先程のようなバニーガールが、魔法使いらしき女性には男性執事風の従業員がそれぞれついて接客していた。

「こういう出来上がり済みの杖じゃなくて、俺の手持ちの素材で作ってもらいたいんだが」

「お客様の持ち込んだ素材から杖を作る、ということでございますか?」

「ああ、そういうことになるな」

「……そうしますと、完全オーダーメイドということでかなりのお値段を頂くことになりますが」

レオニスがオーダーメイドを所望していることを知り、執事の眉がピクリと動き表情が固くなる。

それまで愛想の良かった目つきは、途端にレオニスという客そのものを品定めするような視線をまとう。

「値段はいくらかかっても構わん。納得のいくものを作ってもらえるならな」

「……50万G、いや、100万G以上を先払いで頂くことになるかもしれませんが、それでも宜しいので?」

「くどい。構わんと言っているだろう。ただし―――」

執事が発する僅かな圧に対し、レオニスがそれ以上の圧をかけるべく執事をギロリと睨む。

「それだけの金額を要求し、こちらもそれに応じてきちんと先払いで満額を支払うからには、それ相応の品でなければこちらも納得しないことは理解できるな?」

レオニスにしてみれば単なる『売り言葉に買い言葉』というやつで、執事が無意識のうちに発していた『お前らみたいな冒険者風情の若造に、100万Gなんて大金払える訳ないだろ?』という侮蔑的な意味合いを敏感に感じ取った故の、軽いジャブ的な反撃だったのだが。

武具工房の接客業務という仕事柄、冒険者からの威圧など慣れきっているはずの執事風男性従業員ですら身体の内から湧き出る震えが止まらない。

ガタガタと震え上がる執事もどきを見たライトが、慌てて執り成す。

「ちょ、レオ兄ちゃん、お店の人が怖がっちゃってるよ!?」

「ン?……ああ、すまん。別に脅かすつもりなんぞなかったんだが」

「あのね?レオ兄ちゃんの圧とか、普通の人は耐えられないんだからね?」

「えー?俺、そんなに怖い人に見えるかぁ?」

ライトに向かって心底心外そうにむくれながら問いかけるレオニスは、自身が主張するようにさほど怖い人には見えない。先程の圧を発していた時とは打って変わって、そこら辺にいる気の良い兄ちゃんと何ら大差ない顔になっている。

だが、レオニスは根っからの冒険者だ。そして冒険者とは、かつてレオニスの仲間の冒険者達が言っていた『冒険者は怖がられてナンボ』の『舐められちゃいけない稼業』である。

そうした業界の掟を守るべく、つい職業病的な面がペロッと出てしまっただけなのだ。

そしてそのレオニスの圧を受けてなお失禁しなかった執事もどきは立派だ。もっとも、ライトが間に入るのがあと五秒遅かったら彼の股間のダムは決壊していたかもしれないが。

「……コホン。えーと、そういう訳で、予算は気にしなくていいのでワンドのオーダーメイドをお願いできますか?」

これ以上レオニスに対応窓口を担当させると何かと危なそうなので、ライトが代わって交渉を始める。

しばし放心状態だった執事もハッ!と我に返り、改めて背筋をしゃんと伸ばしながら答え始めたた。

「……は、はい。では予算は制限無しということでございますね。ですが、納期の方は二年程お待ちいただくことになります」

「えッ!?そんなに待つんですか!?」

「当然です。当工房は、世界でもその名を広く知られた至高の杖職人ユリウス様の工房です。たくさんの方々がユリウス様のお作りになる唯一無二の杖を求めて、オーダーメイドの予約を入れております。そしてどこのどなたであろうとも、等しく年単位でお待ちいただいているのです」

「そうなんですかぁ……」

値段交渉の時に屈服した執事が、その鬱憤や屈辱を晴らさんとしてここぞとばかりにふんぞり返りながら居丈高に説明する。

確かに人気店では予約待ちが当たり前だ。例えば、ライト達もよく知るアイギス。ドレスの作成に何年も前から予約を押さえておかなければならない、という話をハリエットから聞いたことがある。

このユリウスという杖職人も、冒険者仲間の間で真っ先にその名が挙がるくらいの知名度と人気ぶりだ。オーダーメイドで作ろうと思ったら、長期の予約待ちは当然のことだろう。

居丈高な態度の執事もどきには若干ムカつくが、それでも彼の言い分は尤も至極で正当性のある話だった。

だが、さすがに二年待ちまでは予想していなかった一同。

ライトも完全に予想外の話に、戸惑いつつレオニスに小声で話しかける。

「レオ兄ちゃん、どうする?ぼくはそんなに急いでワンドが欲しい訳じゃないし、出来上がるのが二年後でも別に構わない、んだ、け、ど……ヒョエッ」

ライトがレオニスにどうするかお伺いを立てようとしたが、みるみるうちにレオニスの機嫌があからさまに悪くなっていく。

眉間には深い皺が寄り、しかめっ面どころの騒ぎではない。口元も歯をギリギリとさせ、その背には地獄の業火の如き怒りのオーラが猛烈な勢いで立ち上る。

機嫌の悪さを隠そうともしないレオニスの不機嫌度は、とっくにマックス値突破である。

どうやら執事の対応がかなり癪に障ったようだ。

「ドレスとか鎧とか複雑な作りのもんならともかく、木の棒一本のワンド程度で二年待ちだぁ?ふざけんじゃねぇぞ、どんだけヘッポコなまくら職人だってんだ、ったく」

「こんなことならさっさと他の杖職人探した方がよっぽど早ぇよな?今からギルドに戻ってクレヤに他の杖職人教えてもらうか」

「つか、そもそも素材自体がものすごくいいんだ、そこら辺の修行中の見習い職人に作らせたってそれなりに良いもんができるだろ」

「素材は間違いなく最高級の逸品だし、本当ならライトにも一流のものを持たせてやりたかったが……ツィちゃんには申し訳ないが、何しろここじゃ話にならんな」

ギリギリと歯軋りする隙間から、レオニスの途轍もない不機嫌オーラとともに本音が容赦なくダダ漏れる。

ちなみにこのダダ漏れ本音、レオニスは執事に向かって意図的に放っているつもりは毛頭ない。レオニスの心の声が独り言となって、本人も知らぬ間に溢れてしまっているだけだ。つまりは単なる独り言である。

ただし、その音声レベルが独り言として許容される範疇からかなり飛び出てしまっているのだが。

そしてこの盛大かつ超絶不機嫌な独り言が漏れるにつれ、次第に周囲の空気が本当におかしくなってきた。

壁一面のショーケースがカタカタと小刻みに揺れ、心なしか室内の空気の温度も数度低下して冷え込んできた気がする。

ショーケースを見ていた他の客も異変に気づき、何事かと怯えながら周囲をキョロキョロと見回し始めた。

レオニスの目の前にいる執事風の男性従業員も、先程の比ではない圧の凄まじさに既に腰を抜かしている。

彼が先程は何とか凌げた股間のダム決壊も、もはや待ったなし!というところで奥の部屋に続くであろう扉が開いた。

「……これは一体何事だい?大気が怒りに満ちて震えているが……」

透き通るような声で、扉の近くにいた従業員に尋ねる一人の男。

その人こそ、この『至高の杖ユリウスの館』のオーナーにして工房の主、ユリウスだった。