軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第362話 破壊神の父

「えーと……ここ、か?」

クレヤから渡された地図通りに歩いていったライト達。レオニスが地図を眺めながら、一軒の工房の入口に立って看板を見る。

看板には二本の斧が交差した紋章のような絵が描かれており、その下に『戦斧ガラルド工房』と書かれている。どうやらここが、目的地のひとつである斧職人ガラルドがいる工房のようだ。

ライトは背負っていたアイテムリュックからイグニスの手紙を取り出し、手に持ちながら工房の扉を叩く。

「ごめんくださーい」

中に入るとカウンターがぽつんとあるだけで、接客スペースは人が三人も入れば手狭になる最低限の広さしかない。

とはいえ、入った左右の壁にはとても立派な戦斧が額縁とともに飾られている。左右どちらも甲乙つけがたい立派な戦斧だ。

あー、そういえばクレアさんの得物ってハルバードだったよなー。ハルバードは『槍斧』『斧槍』とも言われるけど、まぁ教義的には戦斧のひとつだよね。クレアさんのあのラベンダー色のハルバードも、もしかしてここで作られたものだったりするのかな?

ライトがそんなことを考えながら、壁に飾られた斧を見ている。

しばらく待っていると、奥から人が出てきた。

「いらっしゃい。一見さんだね、新品の斧をご所望かい?それとも手入れや補修依頼?」

三十代半ばくらいの、人当たりの良さそうな中年男性がレオニスに向かって話しかける。

この工房に用事があるのは、実はライトの方なのだが。まさかこんな小さな子供が戦斧工房に用事があるとは、普通は夢にも思わないだろう。

「あ、いや、ここに用があるのは俺じゃなくてこの子なんだが」

「ん?こんな小さな子が?」

「あ、はい!えーと、斧職人ガラルドさんのところにスヴァロさんという人が修行しているって聞いてきたんですが」

「??……スヴァロは俺だが……君は誰だい?」

この中年男性がイグニスの父、スヴァロのようだ。

その赤銅色の髪に鮮やかな緑色の瞳はイグニスとそっくりで、間違いなく血を分けた親子であることが一目見ただけですぐに分かる。

『この人が、破壊神イグニスの父、か……』

ライトは内心で密かに感慨に浸る。

イグニスのじいちゃんであるペレもそうだが、このスヴァロもまたBCOでは全く語られることのなかった人物だ。

スヴァロやクレア以外の姉妹のような『ゲームには出てこなかった、省略された隠しキャラ』に出会う度に、ライトは思い知る。このサイサクス世界がゲームの世界でありながら、ゲームではない現実の世界としても己の目の前に存在していることを。

一方スヴァロにしてみれば、こんな小さな子供が自分のもとを訪ねてくる理由がさっぱり分からず、思わず鼻の頭を右手人差し指で擦りながら小首を傾げる。その鼻を擦る仕草もイグニスと全く同じだ。

見た目のみならず、仕草までもが親子して全く同じなのが何とも微笑ましい。クレア姉妹ほどではないが、それでも生き写しレベルのそっくり親子である。

スヴァロは『イグニスがもっと大きくなって成人を過ぎたら、きっとこうなるんだろうな』と思わせる、未来のイグニスの姿そのものであった。

「初めまして。ぼく、イグニス君の同級生でライトといいます。イグニス君と組は違うんですが、ラグーン学園で仲良くさせてもらってます」

「……ああ、イグニスの友達か!」

「はい!」

ライトが自分の息子イグニスの友達と知り、スヴァロの表情が怪訝なものから一転して明るくなる。

ライトは手に持っていたイグニスからの手紙をスヴァロに渡す。

「今日はぼくがこのファングの街に出かける用事があったので、イグニス君からお父さんに手紙を渡してくれって頼まれたんです」

「そうだったのか……わざわざイグニスの手紙を届けにきてくれたんだね、ありがとう」

その手紙は二通あり、イグニスの父と母それぞれに宛てたものだ。

封筒の表には『とーちゃんへ』『かーちゃんへ』と書かれており、その拙い字はイグニスの直筆であることが一目で分かる。

息子からの手紙を受け取ったスヴァロは、嬉しそうに手紙を眺めながらライトに礼を言った。

「ぼく達はこれから他の職人さんの工房に行くんですが、もしよければその間にイグニス君への返事の手紙を書いてもらえますか?」

「それは、返事の手紙を書けばラグナロッツァのイグニスに届けてくれる、ということか?」

「はい。イグニス君からも『一言でもいいから、とーちゃんとかーちゃんの返事がほしい』とお願いされてますので」

「そうか、分かった。今からかーちゃんにもこの手紙を渡して、俺も昼休みに返事を書こう」

「ありがとうございます!」

スヴァロが快諾してくれたことに、ライトは明るい笑顔で礼を言う。

「いやいや、礼を言うのはこちらの方だ。息子からの手紙を届けてもらった上に、返事まで届けてもらえるんだからな」

「イグニス君も、お父さんとお母さんからの返事をとっても楽しみにしてると思います!」

「ああ、そうだな……なかなか手紙も書けないし、年に一度盆の時期に数日帰省できればいい方だからな」

ふぅ、と小さなため息をつきながら、スヴァロが目を伏せる。

「このファングに修行に来てから、もう五年になるか。イグニスには随分と寂しい思いをさせちまってるが……あと五年も修行すればラグナロッツァに帰れる。それまではイグニスにも我慢させちまうが……」

「親父からペレ鍛冶屋の看板を継いで、イグニスの代まで繋ぐには……生半可な修行で妥協する訳にはいかないんだ」

スヴァロがグッ、と拳を握りしめながら秘めたる決意を呟く。

その武骨な手は、鍛冶師としてハンマーを揮い続けてきた力強さに満ちていた。

「イグニスが中等部を卒業する頃には、俺もペレ鍛冶屋の立派な跡取りとして修行を終えて、ラグナロッツァに戻ることができるだろう」

「ライト君、といったか。うちのイグニスはだいぶやんちゃ坊主だが、いいところもたくさんあるんだ」

「これからも、イグニスの良き友達でいてやってくれたら嬉しい。是非ともイグニスと仲良くしてやってくれ、よろしく頼む」

スヴァロがライトに向かって深々と頭を下げる。

スヴァロも鍛冶師である前に、たった一人の息子イグニスの父親なのだ。父親として子を思う姿は、真摯の一言に尽きる。

そんなスヴァロに、ライトは慌てて声をかける。

「も、もちろんです!イグニス君はぼくの大事な友達です!」

「ありがとう。イグニスも良い友達を持てて、親としても嬉しいよ」

「スヴァロさんも修行頑張ってくださいね!」

「ああ。イグニスの手紙でますますやる気が出てきたよ」

ライトから受け取ったイグニスからの手紙を、大事そうに眺めるスヴァロ。

「じゃあ、ぼく達はこれから他の工房に行きますんで。夕方くらいにまたこちらに来ます」

「ああ、それまでにイグニスへの返事の手紙を用意しとくよ」

「よろしくお願いしますね!」

イグニスからの手紙を無事スヴァロに渡したライト達は、戦斧ガラルド工房を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さ、次は杖職人のところか」

「お、いよいよライトのワンド作りのところに行くのか」

「うん!ようやくツィちゃんからもらった枝が活かせるよー!」

レオニスがクレヤからもらった地図を頼りに、杖職人ユリウスの工房に向かうライト達。

こじんまりとした街並みをゆったりと歩きながら、街の様子を眺める。

職人の街というだけあって、何軒か置きに何らかの武器や防具の工房が立ち並ぶ。そしてその細かさたるや、種類の豊富さに驚くばかりだ。

メジャーな剣ひとつとっても、長剣、短剣、刀などがあり、それぞれの専門工房がある。他にも槍や弓、投擲系などとにかく様々な種類があるようだ。

そして武器だけではなく、防具の工房も存在する。防具の場合は工房によって扱う素材が違うようだ。

ざっと見ただけでも、革製、絹製、青銅製、鉄製、銀製、白金製、ミスリル製などがある。さすがにヒヒイロカネ製はなさそうだが、もっと探せばオリハルコン製やアダマンタイト製などもあるかもしれない。

そうこうしているうちに、レオニスが足を止めた。

どうやらお目当ての場所、杖職人ユリウスの工房に着いたようだ。

「ここだな。『至高の杖ユリウスの館』……何か名前からしてすげーな」

「うん、建物も何か立派というか、すごいねー……」

周囲の工房に比べて一際大きな建物だ。その上建物の外観もなかなかに華美で、かなり凝った装飾が随所に施されている。

腕の良い職人というと、先程の戦斧ガラルド工房のように『無駄に飾らず素朴で質素』なイメージがあるが、どうもこの杖職人に限ってはそれは当てはまらないらしい。

とはいえ、冒険者仲間の情報では『特に魔法使い達はこぞってファングのユリウスの杖を欲しがる』らしいので、杖職人としての腕は間違いないはずだ。

この大きくて豪奢な建物も、商売として成功を収めているからこそ建てることができたのだろう。

しばし建物の前で立ち尽くしていた三人だったが、ここでポケーッと突っ立っていてもしょうがない。

何はともあれ、三人は気を取り直してその豪奢な扉を開き中に入っていった。