軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第36話 大反省会

「レオ兄ちゃん、そこにお座んなさい」

ライトの指示で、ベッドの上で正座させられたレオニス。

背筋をピンと伸ばして、若干緊張、でも大半は未だに何故怒られそうなのか絶対に分かっていない。

そんな呑気な表情でちょこなんと座るレオニスを、とても7歳児とは思えない眼力で睨むライト。

「……レオ兄ちゃんの使う、空間魔法陣」

「ん?あれがどうかしたか?」

「……あのね?ぼくはあれが、実はすごーく特殊な魔法で、普通の人には使えない代物なんだってこと、全然知らなかったよ?」

「あッ、はい……」

「ラグナロッツァの八百屋のお兄さんが、レオ兄ちゃんの空間魔法陣を見て羨ましがるまでは、空間魔法とか収納魔法ってどこの誰でも普通に使えるもんだと思ってたの!」

「はい……」

最初は伸びていたレオニスの背筋が、どんどん前方に曲がっていく。

ライトの言っていることが、紛れもない正論であることを理解しているようで、急速に申し訳なさそうな顔つきにもなっていく。

「なのに、そうじゃないし!おまけに、特殊な能力だから、成人するまで隠しとけって!でないと悪い人に目をつけられるから、危ないからって!どゆことッ!?」

「はいぃ……」

「そんな、ぼく自身の身の危険や命に関わるようなこと、もっと早くに教えてくれなきゃダメでしょうッ!!」

「はいぃぃ……」

「そりゃ、ぼくは空間魔法陣、まだ教えてもらってないけど!それでも!特殊だから、人前で使わない方がいい、なんていう根本中の根本的な、根幹の基礎知識くらい事前に教えておいてくれてもいいんじゃないの!?」

「はい、ごもっともでございます……」

だんだんヒートアップしていくライトに対し、どんどんとその立派な体躯を縮めていくレオニス。

見ている方が可哀想になるくらい小さくなっていくが、こればかりはレオニスの怠慢であり失態なので、ライトに鬼怒りされても致し方ない。

「あと!街の武器屋や防具屋も、レオ兄ちゃんには全然必要ないって!ぼく、そんなの全然知らなかったよ!」

「え、それもダメなの?」

「レオ兄ちゃんの大剣、あれは特殊で特別なものなんだって、教えてくれたっていいじゃない!」

「そ、そうなのか?」

レオニスは、戸惑いながらライトにおそるおそる聞いた。

「ぼくだって、一日でも早く立派な冒険者になりたいんだ!」

「レオ兄ちゃんは、ぼくの一番尊敬する人であり、冒険者としても最も高いところにいる、目標としている人なんだ!」

「なのに、レオ兄ちゃんの持ってる武器のことひとつ知らなかったんだ。そんな寂しいことって、ある!?」

ライトがだんだんと涙目になり、苦痛に歪んだ顔になっていく。

そんな苦痛に満ちていくライトの顔を、レオニスは悲しそうな表情で黙って見つめている。

「レオ兄ちゃんの持ってる物や知ってることを全部、全部ぼくに寄越せって言ってる訳じゃない。でも、ぼくだってレオ兄ちゃんのように、強くなりたいんだ!」

「なのに、レオ兄ちゃんはそういうこと、全然教えてくれないじゃないか!ぼくがまだ、小さな子供だから?ぼくにはまだ、強くなる資格はないの?冒険者になる資格は、ないっていうの!?」

最後の方は、涙をポロポロと流しながら叫ぶライト。

冒険者として知っておきたかったことを、今まで全くといっていいほど教えてもらえていなかった、そのことがよほど悔しかったのだろう。

自分はまだレオニスに信用してもらえていない、だから教えてもらえないんだ。ライトはそんな疑心暗鬼にも苛まれかけていた。

思いの丈を一気に吐き出したライトは、涙をポロポロ流し続けながらしばらく黙り込んだ。

小さな身体から迸る慟哭。

その悲痛なまでの叫びを、レオニスは沈痛な面持ちで黙って聞いていた。

二人の間に、重苦しい空気と静寂が横たわる。

アルは今までに見たこともないその異様な空気に、戸惑いながらもライトの横に身体を寄せて頬を伝う涙をそっと舐めとった。

「ううぅ……ごめんね、アル……」

アルの銀碧色のもふもふふさふさ毛皮に、ライトは顔を埋めて蹲る。

「…………すまん、ライト」

レオニスの静かな声が、重苦しい沈黙を破る。

「お前がまだ子供だからダメだとか、蔑ろにしたつもりなどこれっぽっちもなかったんだが……」

「そうだな、今までお前にちゃんと話してこなかった、俺が悪いよな……」

「俺、孤児院育ちで学もなくて、頭も良くないし……そういう、気の利くような立ち回りも、ホンット苦手で全くできなくて……」

普段は底抜けに明るく闊達なレオニスの姿はそこにはなく、ライト同様に苦痛に歪んだ顔になっていく。

「お前が本当に望むことや、必要としていることも、気づいてやることができなくて……」

「俺だって、もういい歳した大人だってのに……心底自分が嫌になる」

「こんな俺のことを、ライトは目標としている人だって、一番尊敬する人だって、言ってくれてるのに……俺、何でこんなに、できないんだろう……」

「本当に……ごめんな……ごめんな……」

最後の方は、今にも消え入りそうな声で謝るレオニス。

その悲しそうな声音に、ライトの心は更に悲しくなった。

「ううぅ……うわあぁぁぁん!」

ライトはこれまでにないくらい、大声をあげて号泣した。

こんなに号泣したのは、レオニスがライトの元に訪ねて来て前世の記憶が甦った時以来か。

「これからは、お前の将来を見据えてもっと考えて、一人前の扱いもする。知りたいことは何でも教えるし、もし教えられないことであってもきちんとその理由を説明する」

「……ひっく……ほんとう、に?」

「ああ。俺の冒険者としての名誉にかけて誓う。神に誓ってもいい。それでも足りないなら、俺の生命をかけてもいい」

「……そんなの、かけなくていいよ。レオ兄ちゃんには、ずっとずっと、長生きしてもらうんだから」

「……そうだな。俺が教えてやれることを全部ライトに伝えるには、それこそ何年何十年とかかるもんな」

「うん……」

魂の叫びを伴った号泣から、少しづつではあるがようやく落ち着いてきたライト。

だんだんと泣き止んでいくライトに向けて、レオニスは静かな声で語り続ける。

「ただ、俺はこの通り、言われなきゃ分からんダメな男だ。誰かにはっきりと言われて、盛大に叱られて、それでようやく理解するような、鈍感で能無しなんだ」

「……ダメ男じゃないし、能無しでもないけど、レオ兄ちゃんが鈍感なのは否定しないよ」

「……重ね重ねすまん。だから、お前の方からも、知りたいことや教えてほしいことがあったら、遠慮なく言ってくれ」

「……聞いたら、教えてくれるの?」

「ああ、教えても大丈夫なことは全て教える。教えちゃいけない、教えられないようなことは……なるべくそのダメな理由を、ちゃんとお前にも言って納得してもらう」

「……約束、だよ?」

「ああ、男と男の約束だ」

以前にもあった、レオニスがライトに怒られた時のように。小さな拳と大きな拳が、一直線になってコツンとぶつけられる。

コツンとぶつけたライトの小さな拳。その拳を大きな拳が包み込み、ライトの身体をそっとレオニスの胸元に引き寄せ抱きしめた。

大きな胸板に包まれて安堵したのか、ライトはまた少しぐすぐすと涙ぐみながら、一日の疲れによりすぐに微睡みに落ちていった。