軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第341話 驚天動地の出来事

それからレオニスは三時間ほどツェリザーク近郊で雪を採取し続けただろうか。

昼飯の時間をかなり過ぎたが、そろそろツェリザークに戻るとするか。さすがにラウルももう休憩してる頃だろうしな―――

そんなことを考えながら、ツェリザークの北側城壁門を潜るレオニス。

本日三度目の冒険者ギルドツェリザーク支部を訪れる。

さて、ラウルはどうしてる?まさかまだ酒場食堂にいるんじゃなかろうな?

そう思いつつ酒場食堂側を見ると、今度はその横の売店の方が何やら騒がしい。

何だ?と思いつつレオニスが覗いて見ると、売店の中に謎の大行列ができているではないか。

そう、それはラウルが酒場食堂で散々散々褒めて喧伝しまくった『氷蟹エキス入りぬるシャリドリンク』を買い求める冒険者達だった。

「何ッだ、こりゃ……」

あまりの大盛況ぶりに、しばし呆然と立ち尽くすレオニス。

するとそこに、背後からレオニスの肩をポン、と叩く者がいた。

我に返ったレオニスが思わずバッ、と振り向くと、そこには満面の笑みのラウルがいた。

「よう、ご主人様。帰りが遅いから心配したぞ?」

「俺の帰りが遅いって、お前ね……お前が酒場食堂でずーっと試食会とかあら汁作りで忙しそうにしてて、一向に出てこなかったせいだろうがよ……」

「…………ああ、そうか。それもそうだな、すまんかった!」

ラウルの自分を棚上げした言い種に、レオニスが心底呆れたように言い返す。

ラウルも言われてみれば思い当たる節しかないことに気づき、素直に謝る。だがその謝罪も満面の笑みのままで、あまり反省はしていなさそうだ。

ペカーッ!と輝かんばかりのラウルの笑顔は『俺はやりきったぞ!』という充実感に満ち満ちている。

「……ま、お前の目的が果たせなら何よりだ」

「おう、ご主人様のおかげで今日はとても充実した一日になったぜ!」

「そうかそうか、んじゃそろそろラグナロッツァ戻るぞ。……あ、その前にぬるシャリドリンクはどうした?買えるだけ買い占めたのか?」

「ああ、それなんだがな。俺がぬるシャリあら汁を振る舞った後に、売店で残りを買い占めるつもりだったんだが……売り切れそうな勢いだからやめといた。俺以外の人々にもぬるシャリドリンクの素晴らしさを実感してもらわなきゃならんからな」

ラウルの話では何と、ぬるシャリドリンクが完売しそうな勢いで飛ぶように売れているというではないか。確かに先程見かけた売店の盛況っぷりを見るに、完売御礼になるのも時間の問題だろう。

ぬるシャリドリンクの長きに渡る不人気不遇時代を知るレオニスからしたら、まさしく驚天動地の出来事である。

「アレが売り切れるだと!?そりゃまたすげーな!」

「だろう?俺がわざわざ買い占めなくても、もう立派な人気商品なんだぜ」

「良かったなぁ、ラウル。今日一日頑張った甲斐があったな!」

「おう!これもご主人様が今日ツェリザークに連れてきてくれたおかげだ!ありがとうな!」

ラウルの使命である『ぬるシャリドリンク布教活動』が見事に実を結んだことを知り、レオニスも我がことのように喜んだ。

「じゃあぬるシャリドリンクの購入は、また次回だな」

「ああ、俺以外の愛好家が増えて品薄になるだろうがな」

「それでも廃版なるよりはマシなんだろ?」

「まぁな」

以前ラウルは『廃版で消えてなくなるくらいなら、人気商品化して品切れで買えない方が億倍マシだ!』と叫んでいた。

それも一日で達成してしまうとは、レオニスはもちろんのことラウル自身ですら予想だにしていなかっただろう。

「さ、満足したならラグナロッツァに帰ろうぜ」

「ああ、俺も今日は存分に働いたしな!……だが……」

「ン?どうした?」

「なぁ、ご主人様よ。俺、なーんか大事なことを忘れてるような気がするんだよなぁ……はて、何だっけ?」

「気のせいじゃね?さ、とっとと帰るぞー」

「んー?……んーーー……ま、いっか」

何か大事なことを忘れているような気がする、というラウル。喉元まで出かかっているようだが、どうにも思い出せないようだ。

しかしレオニスは、ラウルが今何を忘れているかを実は理解している。何を隠そう、今日のラウルは雪の採取をほとんどしていないのだ。

北側城壁門を出た後しばらく歩き、さぁここら辺から雪の採取をするぞー!という段になって、邪龍の残穢騒動が起きてしまった。

その後冒険者ギルドに戻ってからのラウルは『ぬるシャリドリンク伝道師』としての使命を全うすることに没頭していて、雪の採取のことは頭からすっぽりと抜け落ちてしまったらしい。

でもまぁレオニスとしては、ここで改めて雪の採取のことを指摘してやるつもりはなかった。

レオニスはもう存分に採取してきたし、ラウルはラウルで先日ライトの護衛としてツェリザークに出かけた時に結構な量の雪を既に採ってきているはずだ。

何なら後日また改めて、ラウルとともにツェリザークに来てもいい。ツェリザークの冬は長く、雪などまたこれからいくらでも降り積もるのだから。

「ラグナロッツァの屋敷に戻ったら、遅い昼食の用意を頼むぞ」

「おう、ご主人様にも俺様特製ぬるシャリ雑煮とぬるシャリあら汁出してやるぞー」

「俺の昼飯までそれになるのかよ……まぁ聖なる餅は体力回復効果抜群だからいいけどよ」

「そうそう、これもご主人様の身体のためを思ってのメニューなんだからな?」

「ホントかぁー?」

「ホントホント!さ、ラグナロッツァの我が家へ帰還しようぜ!」

「ったく……調子のいいやつめwww」

終始ご機嫌のラウルに、半目でジロリンチョ、と疑惑の目を向けるもそれ以上追及する気にもなれないレオニス。

むしろラウルが明るく言い放った『ラグナロッツァの我が家』という言葉に微笑みすら溢れていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その頃ライトは、スレイド書肆にてグライフと古代の伝説や神話談義を交わしていた。

「水神にまつわる話、ですか?確か、神話や伝説の生き物などの書籍はここら辺にあったはずですが……」

「あっ、あのっ!本を探したり見せてもらわなくていいです!グライフの知っている範囲で、話を聞かせてもらえるだけで構いませんので」

「おや、それだけでいいんですか?」

「はい。だって、今日は本を購入する予定はないし……」

該当書籍を探そうとするグライフを、慌てて止めるライト。

そう、今日は本を購入するつもりは全くないのだ。

この世界の書籍はものすごく高価な品だ。物にもよるが、一冊五桁万Gなんて値段もザラにある。

そんな高価な品を、立ち読みするが如くタダで覗き見する訳にはいかない。そんなことをしていたら、グライフにとっては完全に商売上がったりである。

そんなライトの気遣いを、グライフも十分に理解しているのだろう。小さく微笑みながら、ライトに語りかける。

「ライト、本当に貴方という人は……あのレオニスの養い子とは到底思えない思慮深さですねぇ」

「えっ、そ、そんな……」

「いや、レオニスの養い子だからこそ、そうならざるを得なかったんですかね?」

「レ、レオ兄ちゃんにだって、良いところはたくさんあります!」

グライフがなかなかに辛辣なことを言う。だが、そんなことを言われればレオニスが大好きなライトも黙ってはいられない。

少しだけむくれながら反論するライトに対し、グライフが笑いながら言う。

「ええ、もちろん私もレオニスの良いところはたくさん知っていますよ」

「豪放磊落にして大胆不敵。その腕っぷしの強さだけでなく、 今の(・・) 明るく快活な人柄は多くの者を惹き付けてやみません」

「そんなレオニスと、思慮深く慎重で気配りのできるライト。貴方方が組めば、きっと史上最強の無敵コンビとなるでしょうね」

レオニスとライト、二人が組めば最強無敵になれる。それはライトのみならずレオニスにとっても叶えたい夢だ。

元聖銀級冒険者にして黄金級に復帰したグライフが太鼓判を押すからには、それは十分に実現可能な未来なのだ。

グライフのその忌憚の無い、心からの言葉はライトの心に大きな希望をもたらした。

「……はい、そうなれるように僕も頑張ります!」

「ええ。そしてたまに私にもお誘いの声をかけてくれると、なおありがたいのですが」

「もちろんです!皆で冒険行きましょうね!」

その後ライトは、本を片手に持ったグライフから様々な神話や伝説話を聞かせてもらったのだった。