軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第327話 天井知らずの情熱

「そうか、結局今日はゴロ寝三昧できなんだのか」

「うん……明日からラグーン学園始まると思うとね、今日やれることはやっといた方がいいと思ってさ」

「後回しにしないだけ偉いもんだ」

「だよなー。そのおかげで俺は今日ツェリザークの雪を大量に採れてありがたかったがな」

「ライト君もお疲れさまです」

この日の晩は、久しぶりにラグナロッツァの屋敷でラウルやマキシとともに晩御飯を食べていた。

明日からライトのラグナロッツァ学園の三月期が始まるのでその景気づけと、昨日からアイギスに仕事に行くようになったマキシの話も聞きたかったからだ。

「マキシ君もお疲れさま。アイギスでのお仕事はどう?」

「お仕事というか、すぐに人前に出たり物作りするのはまだ無理なので。お店や作業場のお掃除や道具の整頓などをしながら、カイさん達のお仕事を見学させてもらってます」

テーブルの上で木の実のサラダをポリポリと食べるフォルを、ゆっくりと優しく撫でながら語るマキシ。

マキシがこの屋敷に篭っている間はフォルといっしょにいることも多かったので、今ではすっかり仲良しだ。

「そっかー、いきなりお客さんを接客とか無理だよねー。鍛冶や裁縫だって、すぐに技術が身につく訳ないし」

「はい。まずはカイさんやセイさんがしてる仕事をじっくり見て学べ、と言われまして」

アイギスの顧客は貴族が多い。もちろん貴族ばかりでなく、裕福な商人だったり付与魔法付きのアクセサリー目当ての冒険者などの出入りもあるが、それでも割合で言えば貴族が圧倒的多数を占める。

そして、貴族相手の接客というのはなかなかに難しい。アイギス三姉妹は相手の身分で客を差別したりはしないが、それでも貴族相手となるとそれ相応の接客技術を要するのは確かだ。

そんな難易度の高い接客業務を、店に入ったばかりの新人に任せる訳にはいかない。いや、そもそもマキシの場合は人族ですらないのだが。

なので、これからマキシが学んでいくとしたら鍛冶や裁縫、宝石研磨などの制作方面になるだろう。

マキシ自身も綺麗な物を作りたいという希望があるし、それらのどれかひとつでも適性があれば良いのだが。こればかりはこの先の修行如何である。

「マキシ君もいつか立派な職人さんになれるといいね!」

「はい!ライト君の期待に応えられるように、僕も頑張ります!」

いつになくにこやかで希望に満ちた笑顔のマキシに、ライトはもちろんラウルやレオニスも安堵の笑みを浮かべていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「そういえばレオ兄ちゃん、ファング行きの話はギルドマスターさんにしてきたの?」

「ああ、ちゃんと今日話してきたぜ」

「どうだった?やっぱりアレとまとめていっしょにこなして来いって話?」

「当然。マスターパレンはああ見えて実に合理的な考えの人だからな」

マキシのアイギスお勤め話から、今度はファングの話に切り替わる。これもライトにとっては重要な話なので、ちゃんと聞いておかねばならない。

「そしたら、またラグナ教の人達と日程を合わせていくの?」

「ああ。あっちもまたファング支部にいた魔の者達全員を連れての大移動になるから、今度は余裕を持って二週間後の土曜日に行くことになった」

「そっか、馬車での移動は普通はかなり日数かかるもんね」

「そういうこった」

職人の街ファングはラグナロッツァから南東にかなり離れた場所にあり、馬車での移動は通常一週間ほどかかる。

前回のプロステス行きは急遽決まったことなので、ラグナ教側にも相当無理を強いた。だが、さすがに毎回それでは可哀想なので今回はもう少し日程に余裕を持たせてやろう、とマスターパレンとも話し合った結果、二週間後の土曜日となったのだ。

「あっ、そうだ、ラウル。ラウルもいっしょにぼく達とファングの街に行かない?レオ兄ちゃんがラグナ教でお仕事している間に、ぼくの護衛としていっしょについてきてほしいんだ」

「そりゃもちろん護衛が必要ならいくらでも行くが、ファングってのはどんな街なんだ?」

「ファングは一流の武具職人が集う街なんだ」

「んーーー、武具、ねぇ……他にも何か美味い名産品とか、いいもんあんのか?」

ライトが説明した『武具職人が集う街』というだけでは、ラウルにはいまいちピンとこないらしい。

いや、ラウルのことだからライトのお誘いや護衛の依頼を断ることなど絶対にないのだが、それでも武具以外にも何か美味しいものを求めるあたりが実にラウルらしい。

そんなラウルに、ライトが一撃必殺にして魅惑の殺し文句を言い放つ。

「包丁作りの名人がいるかも知れn」

「行く」

ライト渾身のアピールに、一も二もなく速攻で行く!と声を大にして返事をするラウル。その答えの素早さたるや、ライトが言い終わる前に即答したほどである。

「実はな、昨日ライトとペレ鍛冶屋に行った時に、帰り際にペレのおやっさんにオリハルコン包丁を作れるかどうか聞いてみたんだ」

「あ、そうなの?ペレさんは何て言ってたの?」

「作って作れんこともないが、わしの専門は剣だからお前さんの納得いくものが作れるかどうかは分からんぞ?と言われた」

そういえば、ペレ鍛冶屋さんのお店の中に飾られていた立派な剣。あれはじいちゃんが作ったんだ!って、イグニス君も言ってたっけな。鍛冶屋さんだから一通りのものは打てても、やはり一から作るとなると専門職の方が間違いない、てことなんだろうな。

ライトは内心でペレの言葉の意味を推察する。

「そうなんだねー。そしたら、職人の街のファングになら包丁専門の職人さんもいるかもしれないから、ラウルもいっしょに探しに行こ?」

「おう!再来週の土曜日だったか?その日は何が何でもライトの護衛としてファングについて行くぞ!」

両の拳をギリギリと握りしめ、その背には不動明王も斯くやあらん業火の如き火焔が燃え盛る。何やらラウルの料理人魂に、壮絶なまでに盛大な火がついたようだ。

おおお、これはどこぞの覇王どころじゃないな、覇王と拳王を足して五倍とか十倍は掛けた勢いだ。この姿はフェネぴょんとのフードバトル対決の時以来か。ラウルの料理に対する情熱は、本当にどこまでも天井知らずだね!

もはや料理のこととなると留まることを知らないラウルのお約束の反応に、ライトやレオニスはただただ感心するばかりだ。

自称軟弱者のラウルだが、ここ最近は大神樹ユグドラシアやその弟妹神樹ユグドラツィから加護や祝福を授けられ、かなり力を増している。

ライトが初めて訪れる知らない街を歩くには、最も頼もしい護衛として働いてくれるであろう。

ライトはラウルに護衛してもらいながらイグニスから預かる予定の手紙を彼の父親に手渡し、他にもいろんな職人のお店を見て回りたい。

ラウルはライトの護衛をしながら包丁職人を探し、もし包丁職人を見つけることができたら是非ともオリハルコン包丁の製作の相談をしたい。

まさに両者の利益が一致する、見事なWin-Win関係である。

「よし、じゃあ決まりだな。ファング行きの際には、ライトの護衛はラウルに任せる。よろしく頼むぞ」

「おう、任せとけ!」

「レオ兄ちゃんは午前中にラグナ教に行くの?」

「いや、今回は午前中にファングの街を歩いてから午後に調査することになった」

「そなの?プロステスの時とは違うんだね」

「ああ、プロステスはそれで失敗したからな……」

レオニスはその時のことを思い出しているのか、若干苦々しい顔をする。

レオニスの失敗とは、深紅のジャケット他完全武装で堂々と出歩いたことで身バレしたことを指している。その時の教訓からレオニスは、ラグナ教の調査関連時には深紅のジャケットを着ずに出向く!現地で着替える!と決心したほどだ。

だが、ラグナ教の調査に行く前にライトのワンド作成のためとして街の中をあちこち歩けば、必然的にレオニスの姿もまた目立ち『養い子のためのワンド作成のためにこの街を訪れたのだ』という名目が立つ。

その後に、ついでにラグナ教に立ち寄る体で行けばいいのだ。

「じゃあ、午前中は皆で職人さん巡りだね!少なくとも杖職人さんとイグニス君のお父さんが修行している斧職人さんと、あとは包丁職人さん探し!……そうすると、午後はぼく達何しようか?」

「そうだなー、ラウルといっしょに他の名品探しとかしててもいいんじゃないか?店先に売っているのは、何も武具ばかりでもなかろうし」

「よし、そしたらファングの美味い食い物探しでもするか!」

午後はレオニスがラグナ教調査に向かうため、ライトとラウルは時間が余ることになる。

その間何をしよう?という話になれば、ラウルが最も喜びそうなグルメ探しになるのは当然の流れか。

「そうだねー、そしたら帰りの待ち合わせは冒険者ギルドでいいかな?」

「それが一番間違いないな」

「じゃあ再来週の土曜日はそういう予定でよろしくね!」

「僕はアイギスのお仕事でついて行けませんが……皆さんお仕事に探し物にお届け物に、いろいろと頑張ってきてくださいね」

「もちろんマキシ君にもまたお土産買ってくるからね!」

「はい、楽しみにしてますね!」

マキシだけはファング行きについていけないのが残念だが、それも致し方ない。

お土産を必ず買うと約束して、まだ見ぬ職人の街ファングへのお出かけに期待感を募らせるライトだった。