軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第309話 失敗は成功の母

翌日の正月三が日三日目。

今日はラウルを中心に、市場の初売りに出かける日だ。

午前中はラウルとマキシの二人で回り、いつも買い物をする馴染みの店に寄ってはあれこれと食材を買い込んでいく。

「ラウルさん、いらっしゃい!」

「去年もたくさんお世話になったねぇ、今年もよろしくね!」

「オマケつけとくよ、今年もご贔屓にしとくれな!」

行く先々で大歓迎されるラウルとマキシ。買い物以外のオマケの品々も大量にもらい、とうとうラウルは空間魔法陣を使い始めた。

「あらっ、ラウルの兄さんも空間魔法陣を使えるようになったのかい!?」

「ああ、俺のご主人様から教えてもらったんだ」

「あー、ラウルの兄さんの勤めるお屋敷ってレオニスさんとこだもんねぇ」

「そゆこと。俺も結構な魔力持ちだから問題なく使えるって分かってな、おかげで随分と重宝してるぜ」

ラウルも市場の人達ともかなり親しくなってきたことで、空間魔法陣を使えることを隠すこともないと判断したのだろう。

常人には使いこなせない空間魔法陣だが、高魔力持ちであることを明かしつつ勤め先の雇い主の名を出すだけで大抵の人は納得してくれる。こんなところでもその名が役に立つ、レオニスの名は実に偉大である。

ラウルが市場で空間魔法陣使いであることをカミングアウトする度にその名を出していたので、今頃名前の主は盛大なくしゃみを連発していることだろう。

「オマケまでもらって、ありがとうございます!」

「マキシ君も、ラウルさんのお手伝いしてて偉いねぇ!ていうか、弟さんではないんだよね?」

「ああ、こいつは俺の幼馴染でな。ラグナロッツァに出てきたいって言うから、とりあえず俺のとこに来てご主人様の許可も得て住み込みで働かせてもらってるんだ」

「へー、そうなんだねぇ。二人とも見事な黒髪だから、最初は兄弟かと思ったけど。でも、顔とか仕草は全然似てないもんねぇ」

最近はラウルとともに市場についていくことも増えたマキシ。

最初の頃はラウルの弟?もしくは弟子入りした子か?などとよく尋ねられていたものだ。

本当はマキシの方が少しだけ年上で、兄弟とするならマキシが兄でラウルが弟になるところなのだが。見た目的には断然ラウルの方が大人なので、年齢に関しての誤解は解かないことにしている。

ちなみにマキシは120歳、ラウルは118歳である。その差2歳、彼らにとって二年などごくごく微小な誤差であり無いに等しい。

「僕の実家はラウルの実家の近所なんですけど、ものすごい田舎で。だからどうしてもラグナロッツァに行きたくて、幼馴染のラウルを頼って出てきたんです」

「そうかいそうかい、田舎から首都に移り住むなんて大変だったろうねぇ。ていうか、学校には通わないのかい?」

「えーと、文字の読み書きや算数くらいは田舎でも習ったので……ここでは学校には通わず、僕でもできる仕事を探そうと思ってるんです」

「ますます偉いねぇ、良い仕事が見つかるといいねぇ」

「はい、ありがとうございます!」

マキシの姿は現役中学生くらいにしか見えないので、学校に関してもよく問われる質問だ。

もちろんマキシは学校に通う気は全くない。そもそもマキシは八咫烏で、人化の術で人の姿をとっているだけである。学校なんて大人数が通うような場所で、何かの拍子に正体がバレるような事態だけは避けたいのだ。

ちなみに読み書きや算数に関しては、マキシのリハビリ静養中にラウルから本当に教わって習得している。書く方はまだまだだが、文字の読み方や簡単な四則演算ならもうマキシ一人でもできるようになった。

それもこれも、全てはこのラグナロッツァという大きな人里で生きていくための知恵として、懸命に勉強して励んだ成果である。

初めこそただただ親友ラウルに会いたさに八咫烏の里を飛び出してきたマキシだったが、こうして数多の人達と出会っていろんな経験を得る度に「ここに来て良かったなぁ」と、つくづく思う。

中身の正体こそ穢れ祓いに関わった者達以外の人には絶対に明かせないが、それでもなお八咫烏の里にいた頃に比べればマキシの心は晴れやかだ。

見るもの聞くもの感じるもの、マキシの心身に触れるもの全てが新鮮で驚きの日々が続く。

その驚きも、だんだんと慣れて日常に変わっていくことだろう。そうなった時こそ、マキシもラグナロッツァの住人入りだ。

あちこちの店で主に食材を購入しながら、市場の人達と交流を深めていくラウルとマキシ。

一通り買い出しを終えたころにはもう昼近かった。

「よし、ぼちぼち昼飯の時間だから屋敷に戻るか」

「うん、ライト君やレオニスさんも待ってるだろうからね!」

二人は市場からレオニス邸に戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「「「「いっただっきまーす」」」」

ライトとレオニス、ラウルとマキシ、そしてフォル。四人と一匹が揃って雑煮やお節料理を食べ始める。

今日は正月三が日の最終日。雑煮やお節料理を食べるのも今年はこれで最後だ。

「ぼく、ラウルのお節料理って今年初めて食べたけどさぁ。本当に全部美味しいねぇ」

「おう、こんな美味いもんならカタポレンの森に篭ってた頃にも作ってもらえば良かったな」

「全くだよねー。でもこれからは毎年食べられるね!」

ラウル特製お節料理を堪能しながら、ライトとレオニスがしみじみと会話する。

「おう、今までと違って今年は大人数分を作ったからな。まぁ作る量が増えただけで手間は変わらんから、さほど問題はないが……いや、今までと違う部分は他にもあるか」

「ン?何か特別なことでもしたの?」

「ああ、この雑煮や煮物の出汁はライトからもらった土産で作ったんだぞ」

「え?このお雑煮のお出汁??」

雑煮に入っていた蛇型の聖なる餅を、口に咥えながらみょいーーーんと伸ばして食べていたライト。

ラウルの謎の言葉に思わずその動きを止めて、手の中のお椀をじーっと見つめる。

はて、出汁になるようなお土産なんてあったっけ?何度か面白調味料を買って渡したから、その中のどれかかな?とライトはあれこれ考える。

「ほら、前にライトがツェリザーク土産で俺にくれたやつ」

「うんうん、ツェリザークの露天市場には面白調味料いくつかあったよねー」

「いや、そっちじゃない」

「え、そなの?」

「氷蟹エキス入りぬるシャリドリンクの方だ」

「グフッッッ!!」

ラウルの回答に、ライトは思わず口に咥えていた餅を噴いた。

「お、おい、ライト、大丈夫か!?」

「ゲフッ、ゴフッ……だ、大丈夫だけど……このお雑煮、あのぬるシャリドリンク入りなの!?」

「おう、そうだぞ。あれ、すんげーいい出汁だな!氷蟹のエキスがたっぷり入ってて、抜群の旨味調味料だぜ!」

そう、先日ライトとレオニスが素材集めのために出かけた、二度目のツェリザーク訪問。その時に、冒険者ギルドツェリザーク支部の売店で購入した『氷蟹エキス入りぬるシャリドリンク』が雑煮や煮物の出汁に使われているというではないか。

その驚きの事実に、ライトだけでなくレオニスも目を見開きながらびっくりしている。

「あ、あのぬるシャリドリンクが旨味調味料になる、だとぅ?」

「そりゃそうさ!氷蟹の出汁なんて贅沢品、このラグナロッツァですらそうそうお目にかかれないぜ?だから皆、心して味わえよ?」

「お、おう……」

得意気に語るラウルに、未だ戸惑いを隠せないレオニス。

ライトは彼らの横でまだ若干噎せながら、ぬるシャリドリンクを買ってきた日のことを思い出していた。

……

…………

………………

かつてライトがツェリザークにてぬるシャリドリンクを購入した日。

それを見たクレハやレオニスの微妙ーーーな表情がものすごく気になるものの、ラグナロッツァに戻って早速そのお味を確かめるべくグイッ!と飲み込んだライト。

だが、期待に反した味で一口目に飲んだドリンクが一瞬ライトの喉で止まる。そしてゲホゴホと噎せながら、ライトも実に微妙ーーーな顔つきになった。

「んぬーーー……これ、ドリンクというかジュース系じゃなくて、出汁味だよねぇ?」

「そりゃまぁ氷蟹エキスたっぷり!ってくらいだから、旨味は十分というか存分にあるけども……」

「ジュースのようにゴクゴク飲めるようなもんではない、なぁ……」

「つか、このぬるシャリドリンク、面白半分で10本も買っちゃったよ……どうすべ、コレ」

そう、確かにぬるシャリドリンクは間違いなく 旨い(・・) 。

だが、それはドリンクやジュースのように一気に飲み干せる 美味さではない(・・・・・・・) のだ。

『 旨い(・・) 』と『 美味い(・・・) 』の何気ない差がここまで如実に表れるとは、ライトも予想だにしなかった事態である。

「……そしたらこれ、全部ラウルにあげちゃおうかな」

「出汁としては旨いことに違いはないんだ、料理好きのラウルなら何かに活用してくれるっしょ」

「よし!ラウルへのお土産に変更!我ながら 頭(あッたま) いーい!」

ぬるシャリドリンクの微妙な味にへこたれることなく、その活用法を見い出した自分エラい!と自画自賛するライト。

そうと決まれば話は早い。素材集めの際に得た副産物である狗狼の肉、これとともにぬるシャリドリンクをラウルへの土産として渡せばいいだけだ。

これは決して 廃棄物(ゴミ) の押し付けではない。より上手に活用できるところに譲渡するという、いわばもったいない精神を昇華させたような高度なテクニックなのだ。

その日のうちに、ライトはレオニスの狗狼肉土産とともに全てのぬるシャリドリンクをラウルにツェリザーク土産として渡したのだった。

………………

…………

……

ああ、そういやそんなこともあったっけ……ここ最近すんげー忙しかったから、そんなんすっかり忘れてたよ……

ライトは回想を終えて現実に戻ってきた。

「ぃゃー、あのぬるシャリドリンクがこんな旨味たっぷりの雑煮や煮物の味付けに化けるとはなぁ……びっくりしたぜ」

「だろう?そもそもあのぬるシャリドリンク、ぬるぬる成分は少なめだからな。よく加熱して丁寧にアク取りすれば、シャリはもちろんぬめりもほぼ消えるし」

未だその衝撃が冷めやらぬレオニスに、ラウルがぬるシャリドリンクの出汁としての活用法を熱く語る。

どうやらライトの土産転用作戦はバッチリ成功だったようだ。これぞまさしく『失敗は成功の母』である。

「あのぬるシャリドリンクはな、ツェリザークの冒険者ギルド売店だけで売ってる限定品なんだぜ。味が微妙だから、ほぼ罰ゲーム用アイテムと化しているらしいが」

「何だとぅ!?お前ら、なんてとんでもない罰当たりなことを!」

「しかも売れ行きがあまり良くないもんだから、近々販売終了とか廃版間近とも囁かれていてだな……」

「何ッ!?」

ツェリザーク限定品である『氷蟹エキス入りぬるシャリドリンク』にまつわる話をレオニスが語る。

レオニスが聞いた噂では、ぬるシャリドリンクはどうも風前の灯にあるらしい。

そんな聞き捨てならない危機的状況を知ったラウル、椅子からガタン!と音を立てて勢いよく立ち上がる。

「ふざけんな!あんな素晴らしいものを廃版にするだと!?」

「貴重な食材である氷蟹のエキスを、ぬるぬるドリンク一本なんて手軽な値段で味わえるんだぞ!?これが如何に素晴らしく価値あることか、分からんのか!?この素晴らしさをお前ら人族は、誰一人として理解しちゃいねぇのか!?」

「こんな極上品、人気品薄になるならともかく不人気で販売終了とか絶対に認めん……そんな暴挙、俺は絶対許さんぞ!」

両の拳をギリギリと握りしめ、その背には不動明王も斯くやあらん業火の如き火焔が燃え盛る。ラウルが認めた極上旨味調味料の危機に、何やらラウルの料理人魂に壮絶なまでに盛大な火がついたようだ。

その火をつけたのは他ならぬレオニスなのだが、ラウルのあまりにも凄まじい剣幕と力説に他の面々は一様に怯える。

「レオニス!次にツェリザークに行った時―――いや、次になんて悠長なことは言ってられん!今すぐにでもツェリザークに行って、ぬるシャリドリンクをありったけ買い占めてきてくれ!」

「え、今すぐ?」

「おう、できれば今すぐにでも行ってほしいが、俺とてそんな無茶は言わん。明日か明後日、遅くとも今週中には買ってきてくれ!」

「え、今週中!?」

業火の熱冷めやらぬラウル、レオニスになかなかの無茶振りをするがラウル当人は無茶振りとは微塵も思っていないようだ。

「買い占め資金は俺の給金から差っ引いてくれていい。何なら買った金額の倍を取ってくれてもいい。だからレオニス、お前の手でぬるシャリドリンク絶滅の危機を救ってくれ!」

「お、おう……」

「でもって買い占める時には、ぬるシャリドリンクの素晴らしさも絶対に周囲に説くんだ!『これは料理に使えて、ものすごく有能な商品だ』ということを世間に広めて知らしめねばならん!」

「え、そんなことしたらお前の欲しい分買えなくなるかもよ?」

「それがどうした!廃版だの販売終了でこの世から消えてなくなるくらいなら、大人気商品になって定番化して品切れで買えない方が億倍マシだ!」

ラウルが認める調味料の絶滅を回避するために、その良さをツェリザークで広めてこい!という、さらなる無茶振りをかますラウル。

だが、ラウルが自分の給金を使わせてまで買い占め代行を依頼すること自体がかなりの異例だ。しかも自腹を切るだけでなく、買い占め価格の倍の金額を払ってもいい!とまで言い出すラウル。

その熱意が並々ならぬ本心と決意であることを、レオニスも十分に感じ取っていた。

「……しゃあねぇなぁ。分かったよ、ラウルのお望み通り今週中にぬるシャリドリンクを買い占めにツェリザーク行ってくるか」

「ご主人様、分かってくれたか!ありがとう、恩に着るぜ!」

「だってお前、料理のこととなると絶対に譲らんもんよ……」

「さすが俺の雇い主、俺様のことをよく分かってるな!」

ふぅ、と小さなため息をつきながらもラウルの望みを叶えると約束したレオニス。

レオニスからの承諾をもらい、ラウルも本当に嬉しそうにレオニスの肩に腕を回してがっしりと肩を組む。そのニカッとした実に晴れやかなラウルの笑顔は、傍で見ていたライトやマキシをも笑顔にさせる。

「ったく……お前を拾ってから何年付き合ってきてると思うよ?それくらいとっくに理解してらぁな」

「あの日カタポレンの森で、ズタボロになって拾われた甲斐があったってもんだぜ!今となってはあの赤闘鉤爪熊に感謝だ!」

ご機嫌に笑うラウルを見ながら、ズタボロにゃんこだったラウルがこんなに立派な料理人になるなんて……と、ホロリと涙ぐむライトだった。