軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第307話 挨拶回りとお年賀の手土産

元旦翌日、三が日の二日目。

明日の三日目にはラウルが市場の初売りに行くというので、それより先に各所に挨拶回りをすることにしたライトとレオニス。お昼にラウル特製お節料理を食べてから、午後にのんびりと訪問するべく二人で出かける。

「えーと、まずは総本部のクレナさんとこに行って挨拶して、そこから転移門でディーノ村のクレアさんとこに行こうか」

「カイ姉達のとこにも今日行くのか?」

「ううん、それは明日。ほら、明日はラウルとマキシ君が市場の初売りに行くって言ってたでしょ?それに合わせて皆でいっしょにアイギスに顔出ししようと思って」

「ああ、マキシはアクセ作る側になりたいとか言ってたもんな」

「そゆこと」

冒険者ギルド総本部に向かう道すがら、のんびりと会話しつつ歩いていくライトとレオニス。

「そういえばレオ兄ちゃん、総本部のギルドマスターにも新年の挨拶した方がいいんじゃないの?」

「ん?ああ、マスターパレンか?マスターパレンなら三が日の間は不在らしいから、三が日明けてから行くわ」

「そうなの?どこか静養にでも出かけてるの?」

「いや、【Love the Palen】の初売りの手伝いするんだそうだ」

レオニスが昨年の暮れに聞いた話では、売り上げが右肩上がりの【Love the Palen】の売り子その他手伝いをする予定らしい。

【Love the Palen】は創業三年目でまだ新しいスイーツ店だが、その斬新なアイディアと奇抜なセンスに満ち満ちた品揃えで既に多くのファンを獲得しているらしい。

もちろんお味の方も抜群に美味しいとの評判で、新たなラグナロッツァ名物になりつつあるのだとか。

「【Love the Palen】はマスターパレンの息子が経営してて、商品開発なんかにも結構関わっているんだと。だから、冒険者ギルドの仕事の合間にマスターパレンも手伝っているらしい」

「それに、ギルドマスターがラグナロッツァを離れる訳にはいかんが【Love the Palen】はラグナロッツァにある店舗だから問題ないんだろう」

「まぁ正月三が日の間くらいは冒険者ギルドもそこそこ暇だしな。ちゃんと首都に居ながらにして息子の店も手伝える、まさしく一石二鳥ってやつだ」

レオニスの分かりやすい解説に、ライトもなるほどと納得する。

「じゃあ、今から【Love the Palen】にお年賀のお菓子を買いに行けばいいね!」

「ン?手土産ならラウルのスイートポテトを持ってきてあるだろ?」

「ぃゃぃゃ、それはいつでもどこでも誰にでも渡せるでしょ?それよりも、今【Love the Palen】に行けばギルドマスターに会えて新年のご挨拶もできるじゃん?」

「そりゃそうだが……」

「でもって、ギルドマスターの息子さんのお店でお買い物すれば、レオ兄ちゃんの評価とか印象も良くなるでしょ?まぁレオ兄ちゃんはもう金剛級冒険者としての実績がたくさんあるし、今更そんなこと気にしなくてもいいかもだけど。ま、社会人としてのお付き合い?いわゆる処世術ってやつだよね!」

ライトがにこやかな笑顔とともに処世術を語る。その完璧にも等しい処世術指南に、レオニスは目を丸くしながら驚く。

「処世術……ライト、お前一体どこでそんな小難しい言葉覚えてくんの?」

「そりゃもちろん、ラグーン学園の図書室の本だよ!ぼく、学園での昼休みはずーっと図書室で本読んでるからね!」

「そ、そうなのか……ラグーン学園の図書室には処世術の本なんてものもあるのか……学園の図書室ってのは本当にすげーんだな……」

レオニスがおそるおそる質問するも、ライトはシレッとラグーン学園の図書室のせいにする。

実際は中身の年齢が前世分と合わせてアラフォー近いせいなのだが、そんなことはおくびにも出さないライト。

知識の宝庫であり叡智の集う図書室は、今やライトにとって立派な隠れ蓑である。

「さ、じゃあ【Love the Palen】にお買い物行こーぅ!」

「お、おう」

レオニスは意気揚々と意気込むライトに手を引かれながら、マスターパレンがいるであろう【Love the Palen】に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おおお、こりゃまたすげーな」

「うん、すっごいね……」

【Love the Palen】に到着したライトとレオニス。店の前に並ぶ人々の長蛇の列に、思わず目を見張り感嘆の声を上げる。

とりあえずライト達も並ぶことにするが、30人は並んでいそうだ。その客層は老若男女問わずで、幅広い層から絶大な支持を得ていることが伺える。

そして列の最後尾に行くと、やけに体格の良い神主姿の男性が【Love the Palen・最後尾】と書かれた手持ち看板を笏代わりに持ちながら客を案内している。

「レオ兄ちゃん、あれが列の一番後ろっぽいけど……何で神主さんがいるんだろ?」

「ん?どれどれ……ああ、ありゃマスターパレンだ」

「マスターパレン?……えッ、あの人がギルドマスターなのッ!?」

何とその謎の神主の正体は、冒険者ギルド総本部マスターだという。ライトは初めて見るマスターパレンの姿に、心底度肝を抜かれる。

レオニスは日頃からマスターパレンのことをよく知っているから、どんな格好をしていても驚きもしない。だが、普通の人間は アレ(・・) が冒険者ギルドの最高責任者だとは到底思わないだろう。

だがしかし、神主の装束であるゆったりとした狩衣や袴でも隠しきれない筋骨隆々の体躯は、やはり冒険者特有のそれであることを十二分に知らしめている。

まだまだ人が並びそうな勢いに、兎にも角にも列の最後尾につくライトとレオニス。

レオニスの姿に気づいたパレンが、「ヨッ!」とばかりに片手を挙げてレオニスに挨拶をする。

「よう、マスターパレン。三が日も働いててご苦労さん」

「やぁ、レオニス君!君も我が【Love the Palen】の初売りに来てくれるとはな、嬉しいぞ!」

「おう、お年賀の手土産を買いに来たんだが。それにしても、すんげー大繁盛してるんだな」

「おかげさまでな、私も正月休み返上でこうして手伝いに駆り出されているって訳さ。ハッハッハッハ!……おや、お連れの子は?」

レオニスもパレンに向けて挨拶し、軽く雑談を交わす。

そしてレオニスの後ろにいたライトの存在に、パレンが気づいてレオニスに問うた。

「ああ、この子はグラン兄の子でライト、俺の養い子だ」

「おお、そうか、この子がグラン君の忘れ形見か……」

パレンがその糸目をさらに細め、とても優しい眼差しでライトを見つめながら感慨深げに呟く。パレンもグランのことをよく知っているのだろう。

しかし【Love the Palen】の行列に人がまだまだ並び増えそうなので、パレンは慌てて仕事に戻る。

「おっと、私は仕事中だった。新年の挨拶はまた後日改めて行うとしよう。ライト君ともまたちゃんと話をしたいから、また今度冒険者ギルドで会おう。二人とも、いつでも執務室にきてくれたまえ!」

「おう、マスターパレンも仕事頑張ってな」

挨拶するレオニスの後ろで、ライトもパレンに向かってペコリと頭を下げた。

それを見たパレンは、満足そうな笑顔を浮かべる。

そして真っ白な狩衣よりもさらに白い歯を輝かせながら、爽やかな笑顔で再び片手をシュタッ!と華麗に挙げて【Love the Palen】の手持ち看板とともに颯爽と駆け出していくパレン。

そのあまりにも眩しく光り輝く全ての華麗な動作に、ライト達の周辺にいる客達は皆うっとりとしている。皆マスターパレンの熱烈なファンなのだろうか?

パレンという衝撃的な超特大の嵐が過ぎ去り、ライトとレオニスは行列に並び続けながら話をする。

「何と言うか、ギルドマスターってなかなかに強烈な人なんだねぇ……」

「おう、見た目はアレだが中身は一応きちんと仕事をこなすし、経歴も実績も立派な辣腕マスターだぞ」

「でもさぁ、何でそんな立派な人が神主の格好してんの?コスプレ?」

「そ、コスプレ。マスターパレンはその日によって、いろんなファッションを楽しむ人なんだ。今日の格好は神社の初詣ってことで、神主になりきってんじゃねぇかな?」

「ああ、そういうこと……お正月=初詣、でお正月に相応しい衣装で接客してるんだね……」

「多分な。でも今日はあれでもまだマシっつーか、かなり真っ当な格好の方だぞ?普段の冒険者ギルドでの執務室勤めなら、おそらくっつか間違いなく巫女服着てるわ」

「みみみ巫女服……」

正月という季節に合わせた神主のコスプレでもなかなかにアレだというのに、それでもまだマシだというレオニス。その言葉に、ライトは呆然とする他ない。

しかもレオニスが言うには、これがギルド勤めなら神主ではなく巫女服を着ているだろうと断言する。

何を馬鹿なことを……と嘲ることなかれ。レオニスの推測に基づく断言は実際正しい。

パレンとしては、本当は今日は巫女服で手伝うつもりだったのだ。だが、実の息子他店の従業員全員に

「ぃゃー、ここで巫女服着るのはもったいないなぁ」

「せっかくなら冒険者ギルドで仕事する時に着た方がいいんじゃないかなぁ?」

「その方がよりたくさんの人に見てもらえると思いますよ!」

等々持ち上げられて、急遽神主装束に変更したのだ。

もっとも、彼らの本音は

「お願いだから、初売りの間だけは勘弁してくれぇ」

「巫女服着るならギルドマスターの時に好きなだけ着てください!」

なのだが。

パレンの尊厳を傷つけないように、持ち上げたり宥めすかしたりして彼らなりに気を遣っているのだ。

これらの裏話はライト達は知る由もないが、レオニスが如何にパレンの趣味嗜好を熟知しているかが分かるというものだ。

そして【Love the Palen】の長い行列に並ぶ間、巫女服を着たパレンが頭の中にこびりついて離れないライトだった。