軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第285話 尋常ならざる気配

「オラシオン、大教皇、話がある」

「すまんが総主教はここで魔の者達の見張りを頼む」

未知なる邪気との闘いに腹を括ったレオニスは、ホロ総主教に魔の者達の監視を頼んだ後に二人を連れて一旦建物の外に出た。

外に出ると、レオニスは先程まで感じていた悪寒が霧散して消えたことを感じ取る。やはりこの教会堂の中に何かがあるようだ。

レオニスはそのことを、オラシオンとエンディに正直に打ち明けた。

「……先程レオニス卿の顔色が変わったのは、そのせいでしたか」

「ああ、とっさに隠してしまった、すまん。だが、この悪寒は考えようによっては逆に使えると思ってな」

「その悪寒が強まる方向には何かがある、ということですか?」

「そういうことだ」

オラシオンとエンディ、もとから二人とも聡明なだけにレオニスの言わんとすることをすぐに察した。

「確かにそれを辿れば、その先に何かを見つけられる可能性は高そうですが……」

「レオニス卿のお身体の方は大丈夫なのですか?」

「ええ、私もそれが心配です。同様の症状のライト君は、その場で倒れてしまった訳ですし……」

オラシオン達もレオニスの策の有効さを認めはしたが、同時にレオニスの身体のことも心配する。

もし万が一レオニスがライトのように倒れるような事態になったら、という懸念が真っ先に浮かぶのは当然のことである。

「大丈夫だ、俺もそこまで柔じゃないさ。だが、対策が取れるもんなら取っておきたい。オラシオン、何か防御に使えそうないい魔法はあるか?」

「そうですね……私如きでは大魔導師フェネセン師の足元にも及びませんが、一応光属性の上級浄化魔法でしたらかけられます」

「そうか、そりゃありがたい。そしたら、もしこの先俺の体調不良が酷くなったら浄化魔法をかけてくれ」

「分かりました」

万が一の体調悪化に備え、賢者であるオラシオンが使えるという上級浄化魔法を依頼するレオニス。

そして、そこから間を置かずにレオニスが驚くべき爆弾発言をした。

「あと、これは俺の感覚からくる推測なんだが……この邪気はおそらく俺の魔力を喰っている」

「何ですって!?」

「ああ、そこまで心配しなくていい。喰われているのは魔力だけで、魂まで削り取られるような感覚じゃない」

「ですが……魔力を削り取られること自体、かなりキツいのでは?本当に大丈夫なんですか!?」

「問題ない。俺の装備には自動回復魔法がいくつも付与してあるしな。それでも足りずにじわじわと擦り減っていくようなら、アークエーテルでもがぶ飲みすりゃ済む話だ」

何と、レオニスが感じている悪寒やその元凶であろう邪気は、レオニスの魔力を喰らっているというではないか。

レオニスは基本脳筋だが、【魔法剣闘士】というジョブ持ちであることからも分かる通り魔法にも長けている。

体内の魔力の増減や流れなどを捉えることもお手の物であり、これまで培ってきた経験から感覚的にそうした事柄が分かるのだろう。

「オラシオンもジョブは賢者だし、大教皇も大神官だったか?二人とも魔力は多い方だろう。今のところ魔力を喰われているのは俺だけのようだが、この先何が起きるか分からん。二人とも十二分に気をつけてくれ」

「「…………」」

レオニスからの注意喚起に、オラシオンとエンディは無言で頷く。

一通り話がまとまったところで、三人は再び教会堂に入っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

再び魔の者達を先頭に、教会堂の中を歩いていくレオニス達一行。

ここプロステスは商業都市というだけあって、アクシーディア公国の中でも指折り数えるうちに入る規模の都市だ。

それに比例してこのラグナ教プロステス支部も信徒が多く、教会堂の規模もかなり大きい。大手商会がこぞって寄進している、なんて話もちらほらあったようだ。

「ペテン商会なんて、胡散臭いヤツらしかいなかったよなー」

「だなー。何がいいことあんのか知らねぇけんど、えりぃと様達にへーこらしてるヤツ多かったなー」

「ここ閉まっちまったけど、あいつらどうしてんのかね?」

のんびり歩きながら、かつてここで見聞きしていたであろう四方山話を話す魔の者達。

「ま、それでもオレ達と違って一応人族であることには間違いなかったけどなー」

「だなぁ。んだけど、魔の者であるわしらに胡散臭いとか言われちゃお終いよな」

「違ぇねぇwww」

「「「うひゃはははは!」」」

魔の者達の会話を聞き、オラシオンが問いかけた。

「貴方方には人族とそうでない者、擬態した魔族の区別がつくのですか?」

「うん、何となく分かるよー。これっていう目に見える証拠はないんだけど、魔族特有のニオイっての?するんだよねー」

「そうそう、見た目は人族になってても互いにニオイだけは誤魔化せんのだ」

「トルドの爺さんは加齢臭もあるッしょ?」

「そうそう、人族に擬態して早数十年、磨きあげた熟練かつ芳醇なる魅惑の加齢臭がじゃな……って、違うわッ!」

「「「ダーッハッハッハッハ!」」」

魔の者達の、底抜けに明るい高笑いが教会堂に響き渡る。

そんな空気に反して、教会堂の奥に進むにつれレオニスの悪寒はじわじわと強まっていくのを感じていた。

だが、耐えられないほどの強烈なものではない。この程度ならまだ大丈夫、余裕だ。レオニスはそう考えながら、教会堂の中の空気を確かめるように歩を進めていく。

そして教会堂最奥、ラグナ教にとって最も重要な祭壇がある内陣前に辿り着く。

レオニスは慎重に様子を伺うが、内陣やら祭壇よりもその左側が気になって仕方がない。その左側には、よくよく見ると扉があることが分かる。ぱっと見ではすぐに分からないような、正面からでは見え難い位置にその扉はあった。

「おい、あの扉は何だ?あれは何かの部屋か?」

「あー、あれ?あれはねぇ、聖具室って呼ばれる部屋だねーぃ」

「聖具室?」

「そ、聖具室。えりぃと様の中でも一番のえりぃと、司祭様達が使う道具とか着る服なんかが保管されてんの」

前回の内部調査では検分しなかった場所だ。いや、正確に言えばオラシオンはそこに扉があることに気づいていた。

だが、鍵がかかっていてその場で開けられなかったのだ。

さらに言えば、その時はプロステスの次に港湾都市エンデアンも回らねばならなかったので、時間が押していたために後日調査ということで後回しにした、という事情があった。

「ここの扉は、私も前回来た時に発見してはいたのですが……鍵がかけられていて開けることができなかった場所です」

「あー、うん、そりゃ仕方ねぇね。んだってここ、開けられるのはえりぃとの司祭様だけだもん」

「そうなのか?お前達は一度も入ったことがないのか?」

「うん、オレら一度も入ったことないぜ。入るどころか、中を見ようとしただけでも怒鳴られちまうもん」

その聖具室と呼ばれる部屋は、悪魔幹部しか立ち入りが許されていない場所だったらしい。

そうなると、ますますその中には何かがある可能性が高い。

まずはオラシオンがドアノブに触れてみる。左右にガチャガチャと動かしていたが、やはり何らかの施錠がなされていて普通には開かないようだ。

次にエンディがドアノブに触れる。エンディも開けられなかった。

「大教皇、これは封印魔法のような何らかの魔法がかけられているのか?ラグナ教にはそういった秘伝的な技が伝えられていたりするのか?」

「いいえ、ラグナ教にはそのような秘伝は伝わっておりません。ドアノブを触った感じでもそのような気配は感じ取れませんでしたし」

「そうか。そうなると、魔族固有の魔法もしくは単に物理的に鍵がかかってるかのどっちかだな……皆、扉から少し離れててくれ」

レオニスがそういうと、他の者はそれに従い扉から離れて距離を置いた。

皆が離れたことを確認したレオニスは、勢いよく扉を蹴りつける。運良く一度の蹴りで扉は倒れ、見事に蹴破られた。

「よし、開いたぞ。どうやら普通に物理的な施錠だったようだな。だが……」

レオニスがその端正な顔を歪めながら、蹴破った扉の奥をじっと睨みつける。

「オラシオン、大教皇、総主教。あんた達はこの扉の奥から何か感じるか?」

「……ただならぬ空気は感じます」

「ええ、レオニス卿のように魔力を吸い取られるまではいきませんが、それでも何か得体の知れない空気が漏れ出てるのは分かります」

「私もお二方と同じです」

「そうか」

険しい顔つきで聞いてきたレオニスの問いに、オラシオン達はそれぞれ所感を述べた。

レオニスほどではないが、オラシオン達もこの扉の奥から漂ってくる尋常ならざる気配を感じ取っているようだ。

だが、レオニスが先程から感じている邪気は彼らの比ではなかった。

額に薄っすらと脂汗が滲み始めたレオニスが、オラシオンに向けて話しかけた。

「……オラシオン。すまんがさっき話した上級浄化魔法をかけてもらえるか」

「!!……分かりました」

レオニスの要請を受けたオラシオンは、すぐにレオニスのもとに駆け寄りその手を翳す。

オラシオンが小声で呟くと同時に、レオニスの身体が眩い光に包まれる。

その眩い光に身を委ねるレオニス。光が収まった頃、ふぅ、と小さなため息をついた。

「ありがとう、オラシオン。かなり身体が楽になった」

「どういたしまして。お役に立てたなら幸いです」

レオニスはオラシオンに礼を言いながら、空間魔法陣を開きアークエーテルの瓶を一本取り出す。そのまますかさず蓋を開け、天を仰ぐように一気に飲み干した後空き瓶を空間魔法陣に放り投げた。

口の端から垂れかけたアークエーテルの雫を、グイッ、と手の甲で拭うレオニス。

「よし。ここから先は俺とオラシオン、大教皇の三人で行くぞ。総主教は魔の者達とここで待っててくれ」

「承知いたしました」

「……さぁ、行くとするか」

気合いを十二分に入れたレオニスが、聖具室に向かって鋭い視線を放ちながら低い声で呟く。

その声を皮切りに、レオニス達三人は聖具室の中に入っていった。