軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第276話 マキシの新たな旅立ち

朝食を食べ終えたライト達は片付けを済ませ、ミサキの案内で八咫烏の里の中を軽く見て回った。

本当はもっとガッツリ観光したいところなのだが、まだマキシへの風当たりが強いこともありそこまで大手を振って出歩けないのが実情だ。

だが、でもまぁせっかくここまで来たのだから、ちょっとくらいは見て回っても許されるでしょう!というライトの希望的願望に加え、ミサキも

「ライトちゃん達もせっかくだから、ちょっとだけ里の中を見て歩く? 良ければワタシが案内するよ!」と言ってくれたのだ。

そのありがたい申し出を、ライトは素直に受けることにした。

まずはライト達がテントを張った場所から真反対側の、ユグドラシア以外の樹々があるエリア。

大神樹ユグドラシアほどの大きさではないが、ここの樹々も相当の高さがある。その高さはライトが首を真上に見上げてもその頂きが見えない程だ。

そんな高い樹々の間に、幾重にも絡まった太い蔓草が何本も伸びて繋がっている。その形状は、大小様々なU字状態で垂れ下がっていた。

「ここはね、子鳥達の遊び場なの。蔓草に乗ってゆらゆら揺れたり、蔓草の上をどこまで落ちずに歩けるか競争したりするのよ」

ミサキの解説に、ライトは頭の中でブランコや綱渡りを思い浮かべる。そしてその想像は正しい。

ここはいわゆるアスレチック場のような遊び場である。

そこから程なくしたところに、今度は大きな砂場が見えてきた。

今度はマキシが懐かしそうに解説する。

「ここは八咫烏達が砂浴びする場所です。僕達八咫烏はモクヨーク池で水浴びもするけど、砂浴びするのも大好きなんです」

「ああ、そんなに遠い昔のことでもないのに、何だか懐かしいなぁ……」

久しぶりに目にする砂場を前に、マキシがそわそわしだした。

「ライト君、ラウル、すみませんけど少しだけお時間いただいてもいいですか? 久しぶりにちょっとだけ砂浴びしていきたいんです」

「ん? もちろんいいよ!」

「おう、好きなだけ砂浴びしてこい。あっちには砂浴びできる場所なんてねぇからな」

普段あまり頼み事を口にしないマキシが、珍しくお願いしてきた。

お願いされた側のライト達は、もちろん快諾する。

そう、ラウルの言う通りラグナロッツァで八咫烏が砂浴びできるような場所などある訳がない。故に、今のうちに存分に堪能するように、という心遣いである。

ライト達の快諾を得て、嬉しそうに砂にダイブして思う存分砂浴びするマキシ。

そのマキシの横で、ミサキもちゃっかり砂浴びしている。

しばらく砂浴びした後、丁寧に砂を払ってライト達のもとに戻ってきたマキシとミサキ。

「はぁー。久しぶりの砂浴び、気持ち良かったー!」

「ワタシもマキシ兄ちゃんといっしょに砂浴びしちゃった!」

「おう、二羽とも存分に楽しめたようで何よりだ」

「うん、マキシ君もミサキちゃんも良かったね!」

ご機嫌な二羽を見て、ライトとラウルもほっこりしている。

すると、ミサキが次に見る場所はどうするかを話しだした。

「あと、皆に見せてあげられそうなのは、訓練用の闘技場とモクヨーク池くらいしかないけど……」

「闘技場はもう他の誰かが訓練に入ってると思うから、行かない方がいいと思う。また何を言われるか分かんないし……」

「となると、残るのはモクヨーク池なんだけど……」

「マキシ兄ちゃん、行く……?」

ミサキが躊躇いがちにマキシに問うた。

モクヨーク池―――そこはマキシにとって、スケルトン達に拐われた因縁の地であることは里の者なら誰もが知っている。

だが、周知の事実ではあっても昨日改めて当時の襲撃事件の真相を知ったばかりだ。

ミサキがマキシに気を遣うのも無理はなかった。

「……うん、僕なら大丈夫」

「里を出る前だって、何度も水浴びしていた場所だし」

「それに……とっても綺麗な池だから、ライト君やラウルにも是非見ていってもらいたいんだ」

穏やかな声音だが、しっかりとした強さも感じられる。

マキシの決断を受けて、ライト達はモクヨーク池に向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「うわぁ……本当に綺麗な池だねぇ」

「ああ、こりゃ想像以上に美しい池だな……」

ミサキ達に案内されたモクヨーク池を目の当たりにして、心の底から感嘆の声をあげるライトとラウル。

面積はさほど大きくないが、空の青色がそのまま湖水に溶けだしたかのような綺麗な水色の湖面が見る者の目を惹きつける。

その一方で、マキシとミサキは無言でモクヨーク池をじっと見つめ続けている。

『あの日、スケルトン達の襲撃がなければ―――』

『もし拐われたのが自分ではなく、ミサキだったら―――』

『ほんの少し、運命の歯車がずれていたならば―――』

二羽の胸には様々な思いが去来する。

だが、来なかったifの未来に思いを馳せていても何にもならない。

今日を限りに、覆せない過去に囚われるのはやめよう。

その覆せない過去があってこそ、今があるのだから。

マキシは思いを新たにして、ミサキの方を向いた。

「……さ、そろそろシアちゃんのところに戻ろうか」

「……うん、ユグちゃん……じゃなくて、シアちゃんももうそろそろ起きてるだろうしね」

マキシのスッキリした顔を見て、ライトとラウルは心の中で安堵しながらユグドラシアのもとに戻っていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「マキシ君のお父さん、お母さん、お兄さんにお姉さん、一日泊めていただきありがとうございました」

「いやいや、こちらこそ客人に対して何のもてなしもできず本当に申し訳ない」

「本当にね。次にマキシが帰ってくる時には、もっとちゃんとしたおもてなしができるようにならなくちゃ」

一宿の恩に礼を述べ頭を下げるライトに、ウルスやアラエルも申し訳なさそうに言葉を返す。

ウルスとアラエルの後ろには、マキシの兄弟姉妹全員が揃っている。

家族全員で、マキシの新たな旅立ちを見送ろう―――彼らのそんな気持ちが伝わってきた。

「本当なら、マキシ共々客人方にももっとゆっくりしていってもらいたかったが……まずは我等の方から変わらねばなるまい」

「ええ、本当にその通りです。我等八咫烏族も、これからは異種族と積極的に交流を進めていかねばなりません」

「フギン兄様、ムニン姉様……」

初対面でのおっかない空気はどこへやら。長兄フギンと長姉ムニンが神妙な顔つきで自らを戒め、異種族との交流を進めていくことを誓う。

そんな二羽の語る変化への決意、その意志が込められた様子をマキシは感無量の面持ちで見つめる。

「ていうか、治安部隊の奴等も全員鍛え直しだわ」

「全くです。里に入ってきたのがマキシだと分からないだけでなく、全員速攻で返り討ちにされるとか。もう話にもなりませんよ」

「治安部隊を名乗るのも烏滸がましいよねー。根性と教養、両方鍛え直さないと」

「トリス姉様、ケリオン兄様、レイヴン兄様、お手柔らかにお願いしますね……」

それぞれ里の警備を任されている次姉トリス、次兄ケリオン、三兄レイヴンが怒り心頭に発する様子を、治安部隊を返り討ちにしてしまったマキシが苦笑しながら宥める。

「マキシ兄ちゃん……次はいつ帰ってきてくれる?」

「んー、それはまだ分からないな」

「でも、絶対にまた帰ってきてくれるんだよね?」

「それはもちろん。父様にもそう約束したしね」

「ワタシとも約束してね?」

「ああ、約束するよ。そして兄ちゃんは絶対に約束は守るから」

「うん!!」

寂しそうな末妹ミサキの問いかけに、穏やかな微笑みとともにミサキの頭を優しく撫でながら答えていくマキシ。

また帰ってくるという約束をミサキとも交わし、約束をしてもらえたことでミサキの表情はどんどん明るくなっていく。

「マキシ兄ちゃんが帰ってくるまでに、ワタシも人化の術覚えられるように頑張る!」

「……?」

「でもって、いつか必ずマキシ兄ちゃんのいる人里、ライトちゃんやラウルちゃんのおうちに遊びに行くからね!」

「!?!?」

「だから、マキシ兄ちゃんも向こうで頑張ってね!そして、家主のレオニスちゃんにも『可愛い女の子の居候一羽分追加、よろしくお願いします!』って先に一言お伝えしといてね!」

「!!!!」

双子の兄との別れの寂しさを振り切るべく、ミサキはいつも以上に努めて明るく振る舞う。

だがその振る舞いに付随する数々の衝撃発言に、父ウルスを筆頭にマキシ以外の家族全員が度肝を抜かれまくっていた。

特に父ウルスは半ば白目を剥きかけていて、今にも卒倒しそうだ。

「……ま、ミサキなら致し方ないか」

「そうね、ミサキだもんねぇ」

「ミサキも言い出したら聞かないし」

「こうと決めたら絶対に曲げないもんねー」

他の兄弟姉妹は、口々に「ミサキならしゃあない」といった感じの言葉を洩らす。このミサキという末妹の普段の言動や評価が、改めて十二分に察せられる。

そんな中、ふいにどこからか優しい響きの声音が聞こえてきた。

『マキシ、もう旅立つのですね―――』

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その優しい声の主、ユグドラシア。

マキシ達の眼前に聳える、はるか悠久の数千年を生きてきた偉大なる大神樹。

神々しいだけでなく、何もかも分け隔てなく包み込む温かさと優しさは、全ての八咫烏が敬愛してやまない唯一無二の存在。

敬愛対象を前に、マキシははっきりとした声で断言する。

「……はい。僕はまた人里の都、ラグナロッツァに帰ります」

「僕の居るべき場所は、ラウルやライト君のいるところ以外にありませんから」

マキシはそう言うと、人化の術を使い人の姿になる。

黒髪に深紫の瞳、薄桃色の肌に深紫の爪、少し華奢な身体つきでライトとラウルの中間くらいの背丈。

その姿は、普段ラグナロッツァにいる時のマキシだった。

『そうですか。マキシの人里での暮らしに幾多の幸あるよう、遠いこの地で私も願っておりますからね』

「シアちゃん……ありがとうございます」

『そしてライト、貴方の家の近くにいるという我が弟妹、ツィにもよろしく伝えてくださいね』

「はい!シアちゃんの言葉、必ずツィ様にお伝えします!」

『ツィちゃん』

「えッ、ツィ様までツィちゃん確定?」

『妖精ラウル、くれぐれもマキシのことをしっかりと見守ってやってくださいね。頼みましたよ』

「おう、任せとけ。シアちゃんの頼みとあらば、いつも以上に頑張るぜ」

ユグドラシアに幸多かれとエールを送られたマキシは感激し、弟妹のユグドラツィへの伝言を承ったライトは最後までユグドラシアに弟妹の呼び方でダメ出しを食らう。

そして最後の方で、ユグドラシアからマキシのことをくれぐれも頼まれたラウル。

実は先程のミサキの数々の衝撃発言他、マキシが家族の皆と言葉を交わしている最中にユグドラシアのもとに近寄り、その幹に向かって

「なぁなぁ、シアちゃん。俺にも【大神樹の加護】、くれない?」

「マキシやライトを帰り道でしっかり守るために欲しいんだ」

「ほら、もともと俺ってか弱い軟弱妖精だからさ? あんま強くねぇんだ」

「マキシ達にあげてたやつほど強くなくていいから、ちょこっとだけシアちゃんの加護ください。頼む、この通り!」

……などと小声で囁き、密かにおねだりをしていたのだ。

どさくさに紛れて何とまあ、呆れるほどに大胆な行動を取るツワモノである。

そして、そんな大胆なおねだりに『ん?いいですよ』と軽く引き受けてしまう大神樹の方も大概だが。

結果、ラウルは密かにライト達と同等の【大神樹の加護】をちゃっかり得ていた。

ユグドラシアの根元に立ったまま「ぃよッしゃー!」と小さくガッツポーズを取るラウルに、マキシの横にいたライトはそれを見て「ラウル、何してんだろ??」と不思議そうな目で眺めていた。

「では、もうそろそろ行きますね。父様、母様、兄様、姉様、そしてミサキ、シアちゃん……皆もどうぞ、これからもお元気で」

「皆さん、ありがとうございました。またマキシ君といっしょに遊びに来ますね!シアちゃんも、またね!」

ウルス達族長一族と大神樹ユグドラシアに見送られながら、ライト達は八咫烏の里を後にした。