軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第275話 ミサキの新たな目標

翌朝、木漏れ日の朝日を受けながら自室で起きたマキシ。

翼を上に上げ、ンーーーッ、と思いっきり背伸びする。

半年ぶりくらいに生まれ故郷の八咫烏の里で寝泊まりし、昨日の疲れもあって昨晩はぐっすりと寝てしまっていた。

帰郷直後は濃くて重たく思えたこのカタポレンの森の空気も、朝の空気の清々しさは格別に思えるから不思議だ。

家族の皆とも会えたし、家出の件も許してもらえて、これからも人里で過ごすことの許可も無事いただけたし。

胸の 閊(つか) えは一通り下ろせた。

父様や母様、兄様姉様達との距離はまだちょっとだけ感じるけど……それも何回か里帰りするうちに、だんだんと縮めていけるだろう。

ライト君の言う通りに里帰りして、本当に良かった。

ラグナロッツァに帰ったら、僕も皆のために何ができるか考えなくちゃ!

そんなことを考えながら、マキシは大神樹ユグドラシアの樹上から降りてライト達のいるテントに向かう。

「ライト君、ラウル、おはようございまーす!」

「……って……ミサキ!?」

「え、ちょ、待、何でミサキがここにッ!?」

マキシが起きてから真っ先に向かった、ライト達のテントの中で目にしたものは―――ライトとラウルとミサキが川の字になって、ぐーすかと寝ている図だった。

しかも皆寝相が悪く、最初は綺麗な川の字だったであろう列がいつの間にか「ノヽ⌒」という、文字以前の記号のような有り様になっている。

「……ねぇちょっと、ラウル!これ、どういうこと!?」

「ミサキも!何でライト君達のテントの中にいるの!?」

「皆でいっしょにテントで寝てたなんて、ずるいーーー!」

「僕だけ仲間外れ!?ヒドいーーー!!うわーーーん!!」

マキシが半ベソになりながらキーキー騒いでいると、ライト達もようやく起き出した。

「んぁ……マキシ君、おはよー……早起きだねぇ」

「ライト君!もう朝です!全然早起きじゃないです!」

「……ぉー、マキシか、はよー……ふぁぁぁぁ……」

「ラウル!いいから早くこの状況を説明して!」

「んにゃむにゃ……ドーナツ美味ちぃ……」

「ミサキは相変わらず寝起き悪いねッ!」

マキシが起きた順に挨拶しながら皆の身体をブンブンと前後に大きく揺するも、全員まだ寝ぼけ眼でスッキリとした目覚めからは程遠い。よほど夜更かししたのだろう。

とりあえず三者の中ではラウルが一番早くに覚醒し、ぼちぼちと理由を説明していく。

「……ぁー、昨晩お前の妹の方から俺達のテントの中に入ってきたんだぞ」

「マキシも俺達も今日帰っちゃうから、今のうちにたくさんお話聞きたいって言ってな……ンぁーーー」

「……お前の暮らしぶりや人里のこと、土産に出した綺麗なものや美味しいもののこと」

「そりゃもうたくさん知りたいことがあり過ぎて、それこそ一晩じゃ足りない!ってくらいに嬉しそうに聞き入ってたぞ」

「……ああ、ちなみにライトは早々に寝ちまってな。その後は俺がずっとこの子の話し相手してたんだ……ふぁぁ」

背伸びやあくび混じりのラウルの解説に、マキシは何も言えなくなってしまう。

歩く好奇心と言っても差し支えないこの妹のことは、マキシもよく知っている。

彼女の性格を考えれば、ライト達の寝るテントに押しかけても何ら不思議じゃないどころか自明の理なのである。

「そ、そうだったの……ミサキが迷惑かけちゃったようで、ごめんね……」

「まぁ意図的にお前を仲間外れにした訳じゃないから、そんなに怒るな。お前はこれからも俺達といっしょに暮らせるが、この子はそうじゃないからな」

「!!……うん……」

「だから、この子やライトが起きても怒るなよ」

話の最中にまた再び寝てしまった、大の字のミサキや大の字+ヘソ出し状態のライト。一羽と一人の布団を掛け直しながら、マキシを諭すラウル。

その言動はまるで皆のお兄ちゃんそのものだ。

「うん……ありがとう、ラウル」

「いいってことよ。それよりマキシ、朝食はどうする?ここの八咫烏達は朝食を食う習慣はあるのか?」

「ううん、僕達八咫烏は魔力さえ満たされていれば食事は不要だから……」

「だよな。お前は俺らといっしょに人里で暮らしているし、人里にはカタポレンの森のように魔力に満ちた空気はないからあっちでは何かしら食事を摂る必要もあるが」

そう、マキシが言ったように実はこのカタポレンの森に住まう八咫烏達には基本的に食事は不要である。

彼らの生きる糧、その主軸は魔力そのものであり、このカタポレンの森の濃密な魔力を含む空気を吸うだけで十分に生命活動は維持できるのだ。

「うん。でも、ライト君やラウルは今から朝食食べるよね?」

「そりゃもちろん」

「そしたらいつものように、僕もいっしょに食べていい?」

「おう、いいぞ」

ラウルはテントから出て、陽当たりの良いところにテーブルと椅子を設える。

そしてテーブルの上にトーストや果物など、朝食向けの料理やおしぼりなどを人数分出していく。

一通り用意が終わった頃に、マキシとともにライトとミサキがテントからもそもそと出てきた。ライト達もようやく目が覚めてきたようだ。

「ラウル、おはよーぅ。朝ごはんの支度、ありがとうねー」

「おう、おはようさん。さすがに昨日は疲れたろ、おしぼりで顔拭きな」

「ラウルちゃん、おはよーぅ。昨夜はいつ寝ちゃったか覚えてないやぁ、ごめんねぇ」

「おはよう。ミサキちゃんも俺達といっしょに朝ごはん食べるか?」

「え、いいの?うん、ワタシも仲間に入れてくれるなら皆といっしょに食べたい!」

ラウルからの嬉しいお誘いに、一も二もなく喜んで受けるミサキ。

「よし、そしたらミサキちゃんは椅子に座れるか?」

「イス?イスって、なぁに?」

「おお、そうか、そこからか……」

そう、椅子だのテーブルだのは基本的に人型の種族が用いる家具類であって、霊鳥である八咫烏他神獣系の種族には無縁のものである。

これまで一歩も里の外に出たことのないミサキには、それらの知識が一切ないのは致し方ない。

当然ラウルもそれはすぐに分かったので、ミサキが座る分の椅子のところに行き、テーブルから引いてやる。

「ミサキちゃん、この面に座ってごらん。ほれ、隣の椅子にいるマキシを手本にするといい」

「えっと、マキシ兄ちゃんみたいに座ればいいのね?ンキョッ!と」

ラウルが椅子の座面をポンポン、と軽く叩き、ここにおいでと手で示す。

ミサキの椅子の横には既にマキシが座っており、兄の姿を手本に椅子にピョイ、と乗っかるミサキ。

ミサキの120年の人生ならぬ八咫烏生で初めての、椅子という家具に座った瞬間である。

ようやく皆揃ったところで、皆で手を合わせて

「「「いっただっきまーす」」」

という合図とともに、朝食を食べる。

ミサキだけは周囲をキョロキョロと見回して、皆の作法を確認しながらの行動だ。だが、それでも手を合わせる場面ではマキシの真似をして両翼の先端をちょこんと合わせたりしている。

皆に合わせて行動しようと頑張るミサキは真剣そのもので、愛らしさの中にも懸命に努力する姿が何ともいじらしい。

「んーーー!この朝ごはん?も美味しーい!」

「昨日のお土産も美味しかったけど、ラウルちゃんって本当に美味しいものを作る天才なのね!」

「ワタシもラウルちゃんのように、美味しいものを作れるようになりたいな!」

「……ねぇ、マキシ兄ちゃん、ラウルちゃん。ワタシにもできるかな?」

昨日のお土産ディナーに引き続き、朝ごはんも大絶賛しまくりのミサキ。その感動が高じてか、ついには自分も料理してみたい、できるかな?と問うてきた。

その問いかけは真剣さを帯びており、マキシ達も真剣に答えるためしばし考える。

そして先に口を開いたのは、ラウルの方だった。

「でも、ミサキちゃん達八咫烏にはこんな食事は要らないだろう?」

「うん。ワタシ達はこの里にいれば、それだけで何もしなくても生きていけるよ」

「だったらわざわざ食べ物を作る必要なんてないんじゃないか?」

「それはそうなんだけどね?でも……昨日のお土産で食べた時、美味しいだけじゃなくてすっごくワクワクしたの!」

そう、ミサキ達はただ生きていくだけなら何も食事を摂る必要はない。魔力たっぷりのカタポレンの空気を吸うだけでいいのだ。そうした者達にとっては、食事を作る手間や食べるための時間はむしろ無駄なものにしか思えないだろう。

割と否定的な意味合いを含んだラウルの問いかけは、そうした面をズバリと突いていた。

だが、そんな否定的な空気など一切気にせず興奮気味に返事を返すミサキ。

「美味しいものを食べると、すっごくワクワクして、楽しくて、嬉しくて……これってね、魔力を取り込むために呼吸しているだけでは絶対に感じることのなかった気持ちなの」

「この、初めて感じた気持ちが何なのかは、ワタシにもまだよく分からないんだけど……」

「これがマキシ兄ちゃんの言っていた、ワタシ達八咫烏の知らないもの、素晴らしいもの、なのよね?」

「素晴らしいものだから、ワクワクしたり楽しくなったりするのよね?」

ミサキは自分が感じたものが何なのか、なかなか上手く言葉に表せないようだ。

だが、昨日マキシが言っていたことを引き合いにしてマキシに問うた。

「マキシ兄ちゃんは、これからもワタシ達にお外の素晴らしいものをもっともっと教えてくれるんでしょう?」

「でもね、マキシ兄ちゃんからのお土産をただ待っているだけじゃなくて、自分からどんどん知りたいの!」

予想以上にミサキが意欲的なことに、ラウルは内心で感心する。

八咫烏にとって食事は無駄なこと、そんなのは必要ないんじゃないか?と敢えてミサキに問うたのは、何も意地悪で言ったのではない。それは紛うことなき事実である。

だが、呼吸で事足りるというのは単なる生命維持活動の範疇であって、そこに喜怒哀楽などの感情面での彩りは一切ない。

無味無臭の生命維持活動に彩りを添え、より豊かな生き方をしようと思ったら無駄と思えることや遠回りも必要なのだ。

そしてラウルの問いかけは、ミサキの意欲を見事に引き出した。

『最低限生きられればいい』

この考えから脱却しなければ、美味しい料理を作ることなど到底できない。ましてや己の生き方に色鮮やかさを加えることなど、夢のまた夢なのだ。

「自分からどんどん知りたいって思うのは、とても良いことだな」

「本当?そしたらラウルちゃん、ワタシに作り方を教えてくれる?」

「んー、それにはいくつか条件があるな」

「何ナニ、条件ってなぁに?」

ラウルがミサキのお願いを承諾するためには、いくつか条件があるという。

その条件を真剣に聞き入るミサキ。

「まずは、人化の術を覚えること。俺達の住む人里に来るには、まず八咫烏であることを隠し通すのが大前提だ。それに、そもそもその八咫烏の姿のままで料理するのはさすがに無理だ」

「人化の術ね、うん、頑張って覚える!」

「次に、親父さんやお袋さん、家族の皆に人里に出かける許可をちゃんと得ること。マキシみたいに家出で来られたら敵わん、今度こそ俺ら親父さん達やシアちゃんに殺されかねん」

「父様や母様にユグちゃんの許可ね、うん、ちゃんと得る!」

条件付けの引き合いに出されたマキシ、小さくなりながら「ごめんなさい……」と超小声で呟いている。

「あとは……家主のレオニスの許可かな。これはまぁ大丈夫、うちのご主人様なら許してくれるだろ。むしろ可愛い女の子の居候は大歓迎かもな」

「家主さんの許可ね、うん、ワタシもお願いしにいく!」

マキシの居候だって快く許してくれているレオニスのことだ、同じ八咫烏のミサキ一羽が増えたところで「おう、いいぞ」の一言で済ませてしまうだろう。

だが、ラウルよ。『可愛い女の子の居候大歓迎』とは非常に人聞きの悪い言い種であることに気づくべきである。そこだけ聞いたら、レオニスは完全に怪しい人物になってしまうではないか。

「……ま、人化の術と家族の許可。この二つを満たせたら、いつ来てもいいぞ」

「分かった!ワタシもマキシ兄ちゃんのように、いつかラウルちゃんやライトちゃんのいる人里にお出かけできるように頑張る!マキシ兄ちゃんも楽しみに待っててね!」

「うん、ミサキならきっとできるよ。兄ちゃんもミサキに負けないように向こうで頑張るからね」

「うん!!」

マキシだけでなくミサキまで外の世界に出るとか、ウルスが聞いたら泡吹いて卒倒するかもしれない。

だがもう既に、ミサキの瞳は外の世界への憧れでキラキラと輝いていた。