軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第253話 解体依頼

「あっ、クレハさん!お久しぶりです!」

「お久しぶりです。またツェリザークに来ていただけて嬉しいです。今日は観光ですか?」

クレアの妹にして一族の八番目の八女、クレハ。冒険者ギルドツェリザーク支部の受付嬢である。

ワンピースやベレー帽などのラベンダー一色の服装はもちろんのこと、顔立ちや背丈や声色までほぼクレアの完コピクローン状態でライトにはさっぱり区別がつかない。

今爽やかに挨拶したのだって、実は『ツェリザーク=受付嬢クレハ』という公式に則って判断しただけであって、決してちゃんと見分けがついているからではない。

「もちろん観光もしていきますけど、今日はレオ兄ちゃんといっしょに狗狼狩りに来たんです」

「あら、そうだったんですか。ではレオニスさんとごいっしょなのですね」

「はい、今受付で狩ってきた狗狼の解体依頼を出してるところです。クレハさんは休憩ですか?」

「今日は遅番なので、今から勤務なんです。勤務前の小休憩というところですね」

一族長姉のクレアもディーノ村で勤務していたが、妹のクレハも遅番での勤務だという。

姉妹して働き者のクレハ達に、ライトは尊敬の念を抱く。

「日曜日なのに、遅番でのお仕事お疲れさまです」

「いえいえ、これも受付嬢の仕事ですから。でも、そんなふうに言っていただけると私もとても嬉しいです」

ライトからの労いの言葉に、クレハはにっこりと微笑んだ。

そんな話をしているうちに二人とも売店での会計を終えて、受付窓口のある広間の方に移動する。

「ライト君は売店で何をお買いになったんですか?」

「えーと、ツェリザーク限定の氷蟹エキス入りぬるシャリドリンク?てやつです」

「…………フフッ」

「!?!?」

ライトの答えを聞いたクレハが、スーン……とした顔になりながら謎の笑みを浮かべる。

クレハのその何とも言えぬ表情に、ライトは焦る。

「えッ、ちょ、待、クレハさん、このドリンクに何かあるんですか!?」

「いえいえ、ライト君がツェリザーク名物を存分に楽しんでくれれば幸いです。…………フフッ」

「イヤーーー!クレハさん、教えてぇぇぇぇ!」

ライトがクレハのラベンダーカラーのワンピースを掴み、前後にブンブンと振りながら真実を吐くよう迫る。

だがクレハは涼しい顔で謎の笑みを浮かべたまま、無言を貫く。

そうこうしているうちに、ライト達のもとにレオニスがやってきた。

「……お前ら、すげー楽しそうだね?何してんの?」

「あッ、レオ兄ちゃん!クレハさんが!このドリンクのこと!教えてくれないの!」

「どれのことだ?」

「これ!!」

ライトはレオニスに向けて、ババーン!と氷蟹エキス入りぬるシャリドリンクを突き出した。

それを見たレオニスも、瞬時にクレハ同様のスーン……とした顔になりながら謎の笑みを浮かべる。

「…………フフッ」

「ああッ!レオ兄ちゃんまで!!」

「「…………フフッ」」

「うわぁぁぁぁん!教えてよーーー!!」

「……ま、家帰って一本飲んでみりゃ分かるさ」

クレハとレオニス、二人して謎の笑みを浮かべ続けるのだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

狗狼の解体依頼を出し終えた後、二人は遅めの昼食を摂ってから再び冒険者ギルドツェリザーク支部の解体所に向かう。

かなり広めの解体所の中には、レオニスが出したと思われる狗狼の解体後の素材が山積みになっていた。

「おっ、レオニスさん。ちょうど今計算が上がってきたところだぜ」

「おお、もう出来上がったか。どれ……うん、完璧な仕事だな。さすが解体のジョブ持ちだ、早い上に仕上がりも一流とは凄腕だな」

「おう、解体なら任せてくれや!」

ライト達がギルドを出て昼食を摂ってから戻るまでに、小一時間程度しか経過していない。

なのに、100体以上は出したであろう狗狼の解体を完璧に済ませてしまっていた。

大きな解体用の作業机の上には、整然と分類された狗狼の各素材が山と積まれている。

レオニスとの会話からすると、解体担当は解体というジョブを持っていて、こんなに短時間で大量の魔物を素早く綺麗に捌けるのはそのジョブがあってこそ成せる技のようだ。

ざっと見ではあるが、レオニスの目から見ても完璧な仕上がりだと評されるその腕は、間違いなく解体のエキスパートにしてスペシャリストなのだろう。

ライトは基本的にジョブシステムには否定的だが、レオニス達のやり取りを見るにジョブシステムの中にも超一流と呼べるものもあるんだ……と密かに考えていた。

「今回の解体依頼は狗狼142体、素材の買い取りは骨を半数、で間違いないか?」

「ああ、それで頼む」

「骨以外の他の部分、毛皮や肉や牙は売らないのか?」

「ああ。牙は俺の目当てで、毛皮や肉はそれを欲しがる知り合いがいるんでな」

「そうか、じゃあまた次があったら頼むぜ!」

解体依頼で綺麗に分けてもらった牙などの素材を、レオニスは手際良く空間魔法陣に収納していく。

持ち帰り分を全部収納した後、解体担当からレオニスに解体依頼書が返却された。

解体依頼書には依頼内容が記入されていて、どんな魔物を何体解体したか、どの部位をいくつ買い取りしてもらうか等のデータが詳細に記載される。

それらのデータに間違いがなければ、再び窓口にて提出して収支の差額を受け取るもしくは支払うという仕組みだ。

解体料金は魔物の大きさによって変動し、買い取り価格も需要や稀少性により異なる。

また、解体して得られた素材は全て依頼者が自由にできる。

自分が欲しい素材だけ持ち帰り、他の素材は全部買い取りに回して利益を得ることもできるし、解体料金を支払って全部持ち帰ることも可能だ。

もちろん何も持ち帰らずに、売れるものはその場で全部売って売却益を得ることだってできる。ドラゴン等の大物を狩れれば一攫千金も夢ではない。

自由をこよなく愛する冒険者達の気質に合った、実にフレキシブルな制度なのだ。

ちなみに今回レオニスが出した狗狼の解体は一体につき800Gで、狗狼の骨の買い取り価格は狗狼一体分につき850Gである。

狗狼142体の解体に11万3600Gの支払い、その半数71体分の骨6万350Gが売却益になるなので、全部合わせて5万3250Gを冒険者ギルドに支払う計算である。

解体依頼書を持って再び窓口に行くと、そこにはクレハが受付嬢として座っていた。

「よう、クレハ。さっきぶりだな。解体依頼の精算を頼む」

「あら、レオニスさん。さっきぶりですね。解体依頼精算ですね、分かりました」

レオニスがクレハは書類を渡すと、クレハはその書類に一通り目を通していく。

依頼内容や解体担当のサインの有無、計算に間違いがないかなどを確認していき、それら全てに問題がないことを認めてギルド印を捺した。

「依頼内容に問題ないことを確認しましたので、差額の5万3250Gのお支払いになります。レオニスさんの口座から引いておきましょうか?」

「ああ、それで頼む」

「分かりました。ではそのように手続きいたしますね」

テキパキと仕事を進めていくクレハ。やはりクレアと同じく仕事ができる有能な女子である。

「この後はディーノ村にお帰りになりますか?」

「いや、今からまたちょいと寄るところがあるんでな、帰りはもう少し後になる」

「そうですか。私は本日遅番ですので、いつでもお声かけくださいね」

「ああ、そうさせてもらうよ」

狗狼の解体依頼を無事終えたレオニスは、ライトとともに冒険者ギルドを後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

本日第二の目的である、ルティエンス商会に向かうライトとレオニス。

冒険者ギルドと同じ大通りにあり、前回お土産を買いに行ったライトが場所を覚えていたのでライトの案内で歩いていく。

急ぐ用事でもないため、二人してのんびりと歩く道すがらライトはふとあることを思い出し、レオニスに問うた。

「ねぇ、レオ兄ちゃん。クレハさんの見分け方はあるの?」

そう、ライトは未だにクレア十二姉妹の区別の方法が分からない。

顔を合わす頻度がそれなりに高いディーノ村のクレアとラグナロッツァのクレナですら、未だに見分けがつかないのだ。

もちろんツェリザークのクレハも例外ではなく、ライトの目には三人とも全て同じに見えて仕方がない。

もし彼女達が入れ替わって他の姉妹の名を名乗ったら、ライトは絶対に気づくことなく完璧に騙される自信すらある。

「ん?クレハの見分け方か?もちろんあるぞ」

「あ、やっぱりあるんだ。クレアさんやクレナさんと、どこがどう違うの?」

それを聞いたところで、果たして理解できるかどうかも怪しいが。それでも一応聞くだけ聞いてみよう!と思うライト。

そんなライトの決意?を知ってか知らずか、レオニスは惜しげもなくその秘訣を明かす。

「クレハはな、他の姉妹より眉尻が3mm高いんだ」

「……眉、尻?……3mm?」

レオニスからさらりと明かされた秘訣は、ライトにとっては途轍もなく難易度の高いものであった。

ライトは軽い絶望を噛みしめつつ、心の中でつらつらと思う。

ええええ……3mmってあーた、そんな米粒くらいの微妙な差なんて見てすぐ分かるもんなの?それ多分ガン見しても分からんやつじゃね?

クレアさんの見分け方の、耳の形?大きさ?それだって、あれから何度見ても違いが全ッ然分かんねーし……

つーかレオ兄、何でそんなの瞬時に判別できるのよ?何、もしかして【クレア姉妹判別検定一級】とか資格持ってんの?

ああ、俺もう一生クレアさん達姉妹の区別つかんかもしれん……

ダメ元でレオニスに判別方法を聞いてみたライトだったが、やはり何をどう逆立ちしてもダメなものはダメなようだ。

ライトはもう自力でクレア姉妹の判別方法を理解することをほぼほぼ諦めるのだった。