軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第252話 黄泉路の池

「レオ兄ちゃん、シーナさん、見て!アルの毛並み、ツヤッツヤになったでしょ!」

「ワォン♪」

「おお、本当にツヤッツヤだな!」

『綺麗に整えてもらって良かったですねぇ、アル』

鼻息も荒くドヤ顔で報告するライトに、これまた嬉しそうにライトに追随するアル。

子供達の上機嫌な様子に、保護者達も笑顔で褒める。

「これでまたカイさん達への素敵なお土産になりそう!アル、シーナさん、ありがとうございます!」

『どういたしまして。もし良ければ、私達にたくさんの土産をくれたクレアにもその毛で何か作ってやってくださいね』

「分かりました!きっとクレアさんも、シーナさんの言葉を伝えたら失神するくらい喜んでくれると思います!」

『……ん?失、神……?』

「あー、クレアなら間違いなく失神するな」

『…………』

シーナはライト達の言葉を『何を言ってるのかさっぱり分からない』といった顔をしながら聞いている。

だが、おそらくライトとレオニスの予想は正しいだろう。

いつもはクー太ちゃん命!なクレアだが、銀碧狼にはドラゴンには持ち得ない『もふもふ』という超強力かつ抗い難い魅力がある。故にクレアは、クー太とは違うベクトルでアル達親子にメロメロなのだ。

クレアがライト達に託したあの巨大な風呂敷入りの山盛り肉まんボールがその何よりの証拠であり、クレアからアル達親子に対する親愛の情の表れでもある。

『……ま、まぁ、とにかくですね。クレアという人の子にも、私達が礼を言っていた、とお伝えください』

「はい!またアルとシーナさんに会いに来ますね!アル、またいっしょに遊ぼうね!」

「ワォン!」

ライトは何度も振り返っては、ずっと見送り続けるアルとシーナに手を振りつつ別れていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ところでさぁ、レオ兄ちゃん」

「ん?どうした?」

「ここら辺に、ウィカが来れそうな水場ってある?」

アル達親子と別れた後、ライトがレオニスに問うた。

基本的に雪と氷に閉ざされたツェリザーク周辺だが、もし凍っていない水場があれば水の精霊ウィカチャに頼んでいつでもここに来れるかも!とライトは考えたのだ。

ライトからの問いに、レオニスはしばし考える。

「んー……確かツェリザークの東側城壁を出て少ししたところに『黄泉路の池』と呼ばれる秘湯があったはずだが」

「秘湯ってことは、人族でも入れる温泉?」

「そう、天然の温泉。魔物達はその湯には絶対に入らないし、ツェリザークの城壁からかなり近いところにあるから人族でも行こうと思えば行けるんだ。ただし、一応魔物対策としてそれなりに護衛はつけなきゃならんがな」

レオニスの話では何と、ツェリザークの東側に天然温泉があるのだという。しかも人族でも入れるということは、人体に有害な毒性などもない有用性のある温泉なのだろう。

だがそれにしても『黄泉路の池』とは、何とも物騒な名である。

「でも、温泉なのにどうしてそんな名前なの?」

「動物や魔物達が間違ってその池に落ちるとな、夏場以外はほぼ死ぬんだ。何しろこのツェリザークはほぼ年中低温気候だろ?池に落ちてずぶ濡れになった状態で、池から上がってみ?数歩歩いただけですぐに凍りついちまう」

「……あ、そういうことね……」

レオニスから語られる池の名の由来を聞き、得心するライト。

人間ならば湯上り後すぐにタオルで拭って服を着るなどできるが、野に生きる動物類はそうはいかない。特にこの厳寒期のツェリザーク近辺では、湯上り後すぐに凍ってしまうというのも当然の話だ。

人間にとっては害のない温泉でも、動物や魔物にとっては死出の旅の片道切符を握らされる。『黄泉路の池』という名はこのことからついたようだ。

「その黄泉路の池?に行ってもいい?」

「おう、いいぞ。東側だからこっちだ」

ライトのお願いに快諾するレオニス。

しばらく歩いていくと、ツェリザークの城壁が見えてきた。

その城壁伝いに東側に進んでいくと、東側城門に辿り着く。

城塞都市と名乗るだけあって、その城壁や城門はとても立派で堅牢そうだ。

そこからさらに東側に歩いていくと、ゴツゴツとした岩場が見えてきた。何やら如何にも天然の秘湯感が漂ってくる。

「レオ兄ちゃん、あそこら辺がそうなの?」

「ああ、あの岩の向こうに黄泉路の池があるはずだ」

近づいていくにつれ、立ち昇る湯けむりが鮮明に見えてくる。

岩の向こうには、レオニスが言った通りに温泉が湧き出ていた。

この極寒の地にあってなお湯けむりを立ち昇らせるほどの湯温を保つとは、かなり驚異的である。

「うわぁ、本当に温泉だ!」

「さすがに今日は誰もいないな」

大きな岩に囲まれた温泉は、思っていた以上に結構な広さだ。現代日本で言うなら、標準的な学校の教室ひとつ分はあるだろうか。

もしこの温泉がツェリザークではなく、他のもっと過ごしやすい地域にあったならば一大保養地として大きな街を形成していたかもしれない。

ライトは湯温を確かめるべく自分の手でお湯を触ってみたかったが、一番低い岩からでも湯面に届きそうにない。

もどかしくもあったが、全く人の手が入っていない未整備の地だけに致し方ない。

「とりあえずウィカを呼んでみるね」

ライトはそう言うと目を閉じ、心の中で『ウィカ、ぼくの声が聞こえたら来て』とウィカに呼びかける。

すると、さほど間を置かずに目の前の湯面からポコ、ポコ、と空気の泡が一つ二つ浮いてきて、その後黒い影が飛び出してきた。

「うなぁぁぁぁん♪」

ライトの呼びかけに応じて、黒猫姿のウィカチャが黄泉路の池から出てきた。ライトの思惑通り、使い魔召喚成功である。

「ウィカ、久しぶり!元気にしてた?」

「うにゃあ♪」

「おお、ウィカチャの呼び寄せ成功か。良かったな、ライト!」

「うん!」

久しぶりに会えたライトに頬ずりするウィカチャに、レオニスもライトの召喚成功を喜ぶ。

「ウィカ、ここはね、ツェリザークの近くにある『黄泉路の池』という名前の池なんだって」

「うなぁん?」

「この場所、覚えてくれる?ウィカが覚えてくれたら、いつでもここに来れるようになるんだ」

「うにゃっ」

ウィカチャは目を細めて笑顔でライトの問いに応える。

この様子なら、ちゃんと覚えてくれそうだ。

そう、ウィカチャは人の言葉をきちんと解せるとても賢い子なのだ。

「次は春とか夏に来たいね!」

「そうだな、今のこの真冬の時期以外ならいつ来ても温泉を楽しめると思うぞ」

「そしたら夏休みに来るのがいいかなー、今から楽しみ!」

今から早速夏休みのレジャー計画を立てるライトだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ウィカチャの呼び出しに成功したライト達は、ウィカチャには一旦目覚めの湖に帰ってもらってからツェリザークに戻ることにした。

本当ならウィカチャとともに目覚めの湖に移動しても良かったのだが、ツェリザークに戻らなければならない理由が二つあった。

まず一つ目は、ディーノ村からツェリザークまでの移動で転移門を使用して来たため、帰りも転移門を使用しなければクレア達から怪しまれかねないこと。

そしてもう一つは、ここツェリザークに強化素材を格安で交換してくれるというルティエンス商会があるからだ。

オーガの里の結界運用に必要な、ナヌス族の作る【加護の勾玉】。その作成に必要な霊薬、大珠奇魂。

この大珠奇魂は、人族が武器防具を強化するための強化素材でもある。

鍛冶屋でも1個5万Gで買うことはできるが、この大珠奇魂の必要個数は60個。総額300万Gはさすがに大金過ぎるので素材から集めることにした、という経緯がある。

大珠奇魂の交換に必要な素材は五種類。その採取にはオーガが二種類、レオニスが三種類を受け持ち、その全てが今レオニスの空間魔法陣の中に収納されている。

「ルティエンス商会?に行く前に、まずは冒険者ギルドの解体所に寄ってかなきゃならん。さっき狩ったばかりの狗狼の呪牙を取り出さなきゃならんからな」

「じゃあ、解体依頼出してる間に何かご飯食べに行く?」

「そうだな、そうするか」

レオニス自身も魔物を解体することはできるが、今回は狩った狗狼の数が100体以上ととにかく多い。冒険者ギルドで解体依頼を出すことも可能なので、今回はそちらを利用することにしたのだ。

冒険者ギルドツェリザーク支部に入り、解体依頼を出すため窓口に並ぶレオニス。

レオニスが解体依頼の手続きをしている間、ライトはツェリザーク支部の売店をのんびりと見ていた。

ラグナロッツァの総本部売店ほどの規模ではないが、それでもなかなかに個性的な品々が並んでいる。

「おお、ここにもぬるぬるドリンク売ってるんだ。……何ナニ、『ツェリザーク限定!氷蟹エキス入りぬるシャリドリンク』、だとぅ?」

「『ぬるぬるとシャリシャリ、夢の共演がここに実現!』『氷蟹の旨味がたまらない!病みつきなること間違いナッシング!』『全てが抜群の相性にして奇跡の味!この唯一無二の奇跡を味わえるのは、ここツェリザークの限定品のみ!』……よし、10本買っとくか」

魅惑の売り文句『地域限定品』という言葉に抗えないライト、キャッチーなコピーライトにも乗せられて速攻で10本購入を決意する。

買い物カゴに10本入れて会計に並んでいると、後ろから声をかけられた。

「……ライト君?」

自身の名前を呼ばれたことに振り返ると、そこにはクレアの妹であるクレハがいた。