軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第225話 来ない待ち人

翌日の朝。

ライトはいつもの通学時間よりも早くにラグナロッツァの屋敷に向かい、ラウルを呼び出した。

「ラウル、おはよーう」

「……おはよう。今日は早いお越しだな、小さなご主人様」

「うん、今日はラウルに朝イチで伝えなきゃならないことがあってね」

ライトは昨晩、レオニスからラウルに伝えといてくれと言われたことを話して聞かせた。

「ペレ鍛冶屋で『タイシュクシミタマ』って名前の強化素材を1個買えばいいんだな、了解」

「……で、明日フェネセンがカタポレンの家の方に来るのか。これも了解、またフェネセンに食い尽くされない程度に食材用意しとくわ」

心なしかラウルの目と背後がゴウゴウと燃え盛っている、ような気がする。

そんなラウルに、ライトがおそるおそる話しかける。

「……あのね、ラウル?またフードバトルする必要はないからね?」

「……フッ、そんな心配はいらん。俺とてあんな激しい闘いは当分したくねぇからな」

「ならいいけど……」

「でもまぁフェネセンが大食らいなことに変わりはないからな。毎回毎度満腹感までは与えてやれずとも、気持ちだけでもあいつが大満足できるような極上スイーツでも用意しといてやるさ」

一瞬だけ遠い目をした後、ニカッと笑いながら言うラウル。

ラウルの頼もしくも思いやりのある言葉を聞き、ライトもニッコリと笑う。

「そうだね!じゃあラウル、ペレ鍛冶屋での買い出しとフェネぴょん用のとびっきりのスイーツの用意、よろしくね!」

「ああ、任せとけ」

いつものように門扉のところまでラウルに見送られながら、ライトはラグーン学園に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日。レオニスはラウルに頼んで購入してもらった大珠奇魂をナヌスの里に持っていって、長であるヴィヒトに見せていた。

レオニスは相変わらず結界に弾かれるので、結界の境目で衛士のエディに長を呼んでもらって結界の外での会談である。

「これが人族の街で入手できる、大珠奇魂という名の強化素材だ。どうだろう、ナヌス達の作る【加護の勾玉】の役に立ちそうか?」

レオニスが問うと、ヴィヒトはレオニスの手の上にあるその瓶をしばし無言のまま眺める。

深い蒼色の液体が入った、人の目から見て中程度の大きさの瓶。この液体こそ、ペレ鍛冶屋で5万Gで購入した大珠奇魂である。

「ふむ……見た目は我等が用いる大珠奇魂とかなり似ているように思う……いや、それどころかこちらの品の方が我等のものよりはるかに強い気を放っているとさえ感じる……だが……」

「実際に使用してみないことには断言できぬ」

「レオニス殿、これを用いて【加護の勾玉】を作ってみようと思う。ついては二日ほど日をいただけるだろうか?」

レオニスの問いに対し、ヴィヒトが真剣な眼差しで答えた。

「もちろんだ。もしダメだった場合でも遠慮なく言ってくれ。その時にはナヌス族の方法で作るために、皆で素材集めすればいいことだ」

「承知した。では早速今から里の者達とやってみることにする」

「ああ、頼んだ。また二日後に結果を聞きに来るよ」

レオニスはそう言うと、ヴィヒトに大珠奇魂を渡してナヌスの里を後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そしてそのまた翌日。

今日はフェネセンがカタポレンの家に来ると言っていた日だ。

一刻も早くフェネセンに会いたくて、ライトはいつも以上にダッシュで帰宅する。

「たっだいまー!」

ライトが大きな声でただいまの挨拶をするが、カタポレンの家の中にはまだ誰もいなかった。

「あれー、まだフェネぴょん来てないのかぁ。そしたら今のうちに学園の宿題やっちゃおうっと」

普段宿題の類いはラグナロッツァの屋敷で済ませてからカタポレンの家に帰宅するのだが、今日は宿題そっちのけで直帰したのだ。

もちろん宿題をサボる訳にはいかないので、通学用鞄とともにカタポレンに持ち帰ってきてはいるのだが。

そんな訳で、フェネセンやレオニスの帰宅を待ちがてら自室で宿題をすることにしたライト。

その宿題も手早く終えて、教材類を鞄に再び仕舞った頃にレオニスが帰ってきた。

「ただいまー」

「レオ兄ちゃん、おかえりー!」

「おう、ライトもおかえり。……まだフェネセンは来てないのか?」

「うん、ぼくもちょっと前に帰ってきたんだけど誰もいなかったんだ」

「そうか。んじゃ俺も先に風呂いってさっぱりしてくるかな」

「いってらっしゃーい」

レオニスもフェネセンの到着を待ちがてら、外の埃や汗を流すべく風呂に向かう。

ライトはその間に一度ラグナロッツァの屋敷に戻り、通学用鞄をいつもの位置に置いてからラウルに今晩の食事の用意を頼んでおく。

フェネセンがカタポレンの家に着いたら、まずはおかえりの歓迎とともに皆でラグナロッツァの屋敷で再会を祝しながら食事をするのだ。

もちろんラウルもライトの提案に快諾した。

さぁ、後はフェネセンの到着を待つばかりだ。

だが、待てど暮らせど今日の主人公であるフェネセンは一向に姿を現さない。

いつものフェネセンならば、カタポレンの家のライトの部屋にある転移門に唐突に現れて

「ぃゃーン、お待たせー!稀代の天才大魔導師フェネぴょんのお出ましだよッ☆」

「かっちょいいヒーローは遅れて登場するもんだからねッ☆」

とか言いつつテヘペロ顔でドヤるはずなのだが。

そして、そんなテヘペロ顔でドヤるフェネセンの顔を見て苛ついたレオニスに『ズンドコズギャゴゴゴ……』という素敵素晴らしい効果音付き威圧で怒られては「ヒョエッ」と小さく飛び上がるのが、いつものお約束の流れのはずなのに―――

結局その日、フェネセンがカタポレンの家に姿を現すことはなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「フェネぴょん、一体どうしたんだろう……」

こちらに来る、と通信用魔導具を介して約束した日から、三日が経過した。

だが、それでもまだフェネセンはライト達のもとに来ていなかった。

俯きながらフェネセンの行方を案ずるライトに、レオニスも若干心配そうな顔で口を開く。

「んー……あいつが真剣に交わした約束を違えるはずはないんだがな……」

「ましてや廃都の魔城の四帝【愚帝】が関わることと知らせた以上、普段のように適当な態度でやり過ごすなんてのも絶対にあり得んし」

「あれから何度も通信用魔導具での連絡を試みてはいるんだが、一向に反応が返ってこないんだ……」

全く予想だにしていなかった展開に、ライトもレオニスもかなり困惑しているようだ。

「レオ兄ちゃん、その通信用魔導具の魔力?が届かないところにいるって可能性はない?」

「んー……可能性という不確かな事象に対して絶対なんて言い切れるものは存在しないが……それでもフェネセンの魔力量やあいつの持つ資質からいうと、その可能性は限りなくゼロに近いな」

「そうなんだ……だったらフェネぴょんは一体どこにいるんだろう……」

ライトの問いに対して返ってきたレオニスの答えに、ライトはますます意気消沈する。

それとは逆に、今の問答で何かに気づいたかのようにしばし考え込むレオニス。

「……ん?レオ兄ちゃん、どうしたの?」

「……いや、今の話でふと思い出したんだ。あいつでも魔力が届かない場所があることを」

「……それって、まさか」

ライトもレオニスの言葉を聞いて、あることを思い出したようだ。

それは、ライトが初めてフェネセンと出会った日。

稀代の天才大魔導師と呼ばれたフェネセンが、懺悔の告白のように明かした過去の悔恨。

「もしかして、8年前のように異空間に閉じ込められているかもしれないってこと?」

「………………分からん」

ライトの問いかけに、険しい顔をしながら長い沈黙の後に一言だけぽつりと洩らすレオニス。

ふぅ、と小さくため息をついた後気を紛らわすように話す。

「あいつに連絡した時、もともとそこにはあと一週間いるつもりだと言ってたからな」

「もうしばらく……そうだな、あと一週間くらいは様子を見るか」

「もしその一週間を過ぎても来なかった場合―――」

俯きながら話し続けるレオニスに、ライトは固唾を呑んで次の言葉を待つ。

「それでも俺達には待つことしかできん」

「……そんなっ!フェネぴょんを探し出す方法とか、魔法とか魔術でも何でもいいから、何か手立てはないの!?」

「ない」

「……そんな……そんなことって……」

ライトの悲痛な訴えに、レオニスは無情にもたった一言返すだけだった。

立ち上がって抗議したライトは、力無くソファの上にぽすん、と座り込む他なかった。

「もしあいつでもすぐに破れんような魔術でどこかに閉じ込められたとしたら、俺含めて他の人間が束になってかかったところでどうこうできる訳がない」

「ましてやそこがこの世界から隔絶された異空間ともなれば、こちら側からはもはや手出しのしようがない」

「手出しどころか、フェネセンがいる異空間がどこにあってどこに通じる箇所があるかすら分からんのだから」

「だが―――」

レオニスは、ライトだけでなく自分にもまた言い聞かせるかのように力強く言う。

「8年前の廃都の魔城の奴等の罠ですら、膨大な時間と労力をかけて正面から食い破って出てきたんだ」

「今度だって、もし同じような目に遭っていたとしても」

「フェネセンのやつなら必ず蹴散らして突破するさ。何年かかろうともな。フェネセンとはそういうやつだ」

「だから―――心配はいらない。俺達はフェネセンを信じて帰還を待てばいい。それに―――」

レオニスはしばし無言になり、意を決したかのように 空(くう) を見上げながら呟いた。

「あいつは殺しにかかってもハイソウデスカと簡単にやられてくれるようなタマじゃねぇからな」

「【稀代の天才大魔導師】の肩書は伊達じゃねぇよ」

レオニスの言葉にライトは半分程度は納得しながらも、それでもフェネセンの身が心配でならなかった。