軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第217話 取り戻した日常

「んーーーッ……さすがに今日は疲れたな……」

「そうだねぇ……まさかあんなことが起きるとは思わなかったもんねぇ」

ラグナロッツァの屋敷の食堂のテーブルに着き、思いっきり背伸びをするレオニス。その向かいにはライトが座っている。

オーガの里の危機を救った二人、カタポレンの家に帰宅する頃にはもう晩御飯タイム。

そこから晩御飯の支度をする気力などなく、二人してラグナロッツァの屋敷で今日はもうラウルにお任せ!という流れである。

「おう、ご主人様達、できたぞー」

「フォルちゃん用のサラダもありますよー」

ラウルとマキシが食事の用意をしてくれている。

二人もちょうど晩御飯を食べるところだったので、四人と一匹の賑やかな食卓になった。

「「「「いっただっきまーす」」」」

食前の挨拶とともに、それぞれが食事を摂り始める。

「んー、美味しい!ラウルの食事食べるの久しぶり!」

「お前はいつも学園終わってからラウルのおやつ食べてるだろ?」

「おやつと食事は別物でしょ?ていうか、それ言ったらレオ兄ちゃんだってラウルのおやつ食べてるじゃん」

「まぁな!」

ライトとレオニスの和やかな会話が交わされる。

つい先程まで、オーガの里で世界の命運を賭けた戦いが繰り広げられていたとは到底思えない平和なひと時だ。

「で、レオ兄ちゃん、これからどうするの?さすがにギルドには報告するんでしょ?」

「あー、只今絶賛考え中」

「ん?どうした、何かあったのか?」

ライト達の会話に疑問を投げかけたラウルに、二人は今日オーガの里で起きた出来事を話して聞かせた。

事件はひとまず解決したし、この二人が外でベラベラと喋り回るリスクもないだろうという信頼もあって話したのだ。もちろん話す前に、このことは一切他言無用と念押しはしたが。

「うへぇ、カタポレンの森でそんなことが起きてたのか……無事に解決できてよかったな」

「うん……屍鬼化の呪い、僕も話だけは聞いたことあるけど……そんな恐ろしいこと、本当に起きるものなんだね……」

ライト達からオーガの里襲撃事件の顛末を聞き、ラウルとマキシは驚愕していた。

「しっかし、エリクシルなんてとんでもない代物を持ち帰ってきてたとは、すげーなフォル」

「フォルちゃんも大手柄ですね!」

そこで早速手放しでフォルを褒めそやすあたり、さすがフォル教信者第一号第二号である。

「なぁ、ライト。俺達にもそのエリクシル、見せてもらえるか?どんなものか見てみたいんだ」

「うん、僕も見てみたいです!」

100歳を超える妖精族のラウルや八咫烏族のマキシでも、エリクシルは一度も見たことがないという。オーガ族の長老であるニルですら、今日まで一度も実物を目にしたことはなかったのだからそれも当然のことか。

「うん、いいよー。レオ兄ちゃん、出してくれる?」

「おう、エリクシルな」

レオニスが空間魔法陣を開き、エリクシルを取り出す。

これからしばらくの間、レオニスはオーガの里の経過観察をしなければならない。そのため、もし万が一再び異変が起きていた時のことを想定してエリクシルはレオニスが預かり持つことになったのだ。

そして時間が停止する空間魔法陣内での保存は劣化防止になるので、エリクシルの鮮度保持にも繋がるという利点もある。

レオニスの手でテーブルの上に置かれた、ピンポン玉大の小さな丸型の小瓶。

まるで香水瓶のような丸く可愛らしい形に、虹色に煌めく液体。見るからに神秘的なアイテムに、ラウルとマキシは釘付けになる。

しかもオーガの里で一度開封したため、何とも甘く芳しい香りが仄かに漂ってくる。

「……うッわ、何だこのものすげぇ神気……」

「うん、僕でも分かるくらいにとんでもなく強い力を感じる……」

「こりゃ間違いなくエリクシルだわ、こんな桁違いの神気を放つ回復剤なんてエリクシル以外にあり得ん」

「だね……本物のエリクシルなんて僕初めて見たよ。こんなすごい物だとは……」

ラウルとマキシ、目の前に置かれたエリクシルを全身全霊全力でガン見している。

彼らもニル同様に、エリクシルの神気を感じ取れるようだ。

「さ、いいか、もう仕舞うぞ」

「おう、ありがとう。良い物見せてもらったわ」

「ありがとうございます!この香りを嗅ぐだけでも力が漲ってきます!」

エリクシルの鮮度維持のために、レオニスが早々に空間魔法陣に仕舞う。

ラウルとマキシは満足そうな顔つきでレオニスに礼を言った。

「またこれを使わなきゃならんような事が起きなきゃいいんだがな」

「そうだよね……今のところエリクシルはこれひとつしかないもんね」

レオニスとライトが少しだけ憂鬱そうな顔になる。

他の回復剤ではカバーしきれない、伝説の神薬エリクシルを使わねばならないような事態。そんなことが起きた時点で世界規模の危機なのだから。

「よし、そしたらまたフォルに拾ってきてもらうか!」

「えー、フォルが何を拾ってくるかなんて分からないよ?そもそも注文できるもんでもないし」

「そっかー?一応ここでお願いしてみてもいいんじゃないか?ほら、ニル爺さんも言ってたろ?言うだきゃタダってさ」

「そりゃ確かに、言うだきゃタダだけどさぁ……」

レオニスが何とも呑気なことを言っている。

そりゃライトだって、できるものならそうしたい。フォルに拾ってきてくれるものをリクエストして叶えてもらえるものならば、いくらでもリクエストするところだ。

例えば職業転生の際にレベルリセットせずに済む『王者の覚醒』とか、一定時間SPを消費しない『魔法の砂時計』とか、課金通貨が入ったCPボックス等々。欲しい激レアアイテムなどいくらでも挙げられる。

もっとも、課金通貨を入手したところで果たしてこの世界で使えるかどうかはまた別問題なのだが。

そんなことを悶々と考えながら、ライトはフォルに向かって話しかける。

「ねぇ、フォル。このエリクシル、またどこかで見つけたら拾ってきてくれる?」

「フィ?」

「うん、できたらでいいからね。そんな簡単に見つかるものじゃないだろうし」

「キュイイィィ」

ライトの言っていることが伝わっているかどうかは定かではないが、小首を傾げてにこやかに返事をするフォル。

そんなフォルの愛らしい姿に、フォル以外の四人全員が無言のまま両手で顔を覆い打ち震えながら仰け反っている。

今にもその場で萌死しそうなこの四人、何とチョロいことか。

今日、カタポレンの森の片隅で人知れず世界を救った二人の英雄の晩餐は、楽しくも賑やかなものとなった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

翌日の月曜日。

ライトはいつも通りラグーン学園に通い、レオニスは冒険者としての仕事に就く。

レオニスはまず真っ先にオーガの里に向かった。昨日の今日で何か起きていないかを確認するためだ。

緊急事態なら24時間いつでも連絡しろとは言ってあるし、昨夜もそのような連絡は来なかった。だが、己の目でオーガの里の様子を見ておくにこしたことはない。

木々に生い茂る葉の朝露が煌めく中、レオニスはオーガの里に到着した。

まだ朝も早いうちのせいか、外に出ている者は一人もいない。

静寂な空気に包まれたオーガの里。昨日の騒動が嘘のようだ。

だが、禍々しい空気など一片もなく澄み切った朝の清涼な空気は、この里が穏やかな平和に満ちていることの証であった。

レオニスはひとまずラキの家に向かう。

到着し、無遠慮に中に入っていくレオニス。

「おーい、ラキー。いるかー?」

挨拶がてら声をかけながら奥に進んでいくと、朝食を食べている真っ最中のラキ一家がいた。

「おう、レオニス。おはよう、朝っぱらから早いお越しだな」

「あらまぁ、レオニスさん!おはようございます!昨日は主人がお世話になりました!」

「あっ、レオちゃん!おはよう!」

「レオたん、おあよー」

「ぉぁー」

朝早くのアポ無し突撃にも拘わらず、レオニスを快く迎えるラキ一家。

一家の大黒柱にして族長のラキと、その妻リーネ。長女のルゥに長男のレン、そして生まれたばかりの次男のロイ。

家族全員揃っての朝の食卓。彼らの日常に平和が戻ってきたことの証。

「一家揃って団欒中のところを、朝っぱらから邪魔してすまんな。だが皆、元気そうで何よりだ」

「ええ、本当に……おかげさまで、私達は大切な人を失わずに済みました」

昨日の襲撃事件のことを思い出してか、レオニスに感謝するリーネの声音が微かに震える。

「いや何、気にするな。俺は俺の友を救いに来ただけだ」

「それよりラキ、あれから里の者達に何か異変は起きていないか?」

親友の妻に面と向かって感謝されるのが照れ臭いのか、レオニスが早々にラキに向かって里の様子や経過を尋ねる。

「今のところ異変らしきものは起きてはいないな。何かあれば真っ先に俺のところに報告するように周知してあるし」

「つーか、昨晩なんかお前達が帰った後ジジイどもを中心に宴が開かれたくらいだしな……」

「ジジイどもェ……」

小さなため息をつきながら語るラキに、少しだけピキッと苛つくレオニス。

ラキや若い者そっちのけで、浮かれまくってどんちゃん騒ぎしまくる年寄りオーガ達の姿が目に浮かぶようだ。

無駄に元気が有り余る年寄りが多いのは、どこの世界も同じようなものか。

「でもまぁな、ジジイどもが浮かれるのも分からんでもないんだ。あんな大事件が起きて一人の死者も出なかったんだからな」

「……まぁな。それこそ奇跡に近いわな」

「だろう?だから俺も宴を許可したんだ。この里に起きた奇跡、オーガ族全員の命が守られたことへの感謝の祈りを込めての祝杯をな」

「そうか。それもそうだな」

穏やかな笑みを浮かべながら語るラキに、レオニスもまた微笑む。

「ま、宴をする元気があるなら一安心だな。だが、まだ油断するなよ。少しでも屍鬼化の呪いの疑いが出たら、目覚めの湖にいるウィカチャを通してすぐに俺を呼べ」

「ああ、分かっている」

「ニル爺さんの話では、屍鬼化の呪いは遅くとも五日で完了するそうだ。逆に言えば、五日の間何事もなく過ぎれば屍鬼化の呪いの危機は完全に回避したことになる。今日を含めて五日間は厳戒体制を継続してくれ」

「承知した。すまんな、レオニス。お前にもまだまだ厄介をかける」

「気にすんな。カタポレンの森の警邏こそ俺の仕事だ」

軽く握った拳をぐっと前に突き出すレオニス。

その意図をラキは瞬時に酌み取り、レオニスの拳の倍以上はある大きな拳をコツン、と突き合わせる。

互いの無事を無言で祝う、男同士の深い友情がそこにはあった。