軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第192話 在りし日の思い出

「……という訳で。神殿との話し合い?はもうちょっと先になるから日程が決まったらまた連絡するって、理事長先生が言ってたよ」

「………………」

その日の放課後に、ラグーン学園での理事長室でオラシオンと話し合ったことをレオニスにも伝える。

その伝えられた側であるレオニスは、何故か口を思いっきりへの字に曲げてしかめっ面をしている。

「さてはまた神殿の奴等が何かゴネやがったんだろ」

Σギクッ!

「でなきゃ普通に今度の土日のどちらかに応じるはずだしな」

Σギクギクッ!

「奴等からの書簡、あるんだろ?ここに出して見せてみ」

Σヒョエエェェッ!

いつもは空気読まないキニシナイ!大魔神なのに、こんな時ばかり洞察力の鋭いレオニスにライトはずっと内心ビクビクさせられている。

「あー、えっとね、それはね、理事長先生に預けてあるから!今ここにはないんだ!」

「……何でそんな大事なもんを俺に見せずにオラシオンに預けてんだ」

「…………」

「いくらオラシオンがラグーン学園の理事長だからといって、お前の保護者は俺だぞ?」

「…………」

「正式な保護者である俺にも見せられないような代物なのか?」

「……だって……」

紛うことなき正論をぶつけてくるレオニスに、ライトは俯きながら申し訳なさそうに口を開く。

「あんな手紙読んだら、レオ兄ちゃん絶対に怒り狂って神殿に乗り込むと思ったから……」

「あんな手紙、か……やっぱり碌なこと書いてねぇんだな?よし、神殿を更地にしに行くぞ」

「わーっ!待って待ってレオ兄ちゃん待ってー!」

腕まくりをしながら今にも部屋を飛び出してどこかに行こうとするレオニスを、必死の形相でライトが止める。

「そうなったら困るから、手紙は理事長先生に預けてきたの!」

「だってレオ兄ちゃんなら、本当に神殿を更地にできちゃうじゃん!」

「そんなことしたらレオ兄ちゃん、お尋ね者になってこの国にいられなくなっちゃう!」

「ていうか、この国どころか世界中に指名手配されてどこにもいられなくなっちゃうよー!」

「お尋ね者……指名手配……お前、また妙に小難しいことを……一体どこでそんな言葉覚えてくんの?」

涙目になりながらレオニスの身体にしがみつき、必死に訴えるライト。

その懸命な姿に、レオニスも少しづつ冷静になってきたようだ。

「んー……そりゃまぁ確かに少しばかりお尋ね者にはなるかもしれんが……」

「そんなのダメ!!」

ライトが一際大きな声を上げてレオニスの言を否定する。

その声の大きさと勢いに、レオニスもビクッ!と少しだけ驚く。

「レオ兄ちゃんがぼくのせいで犯罪者になるなんて、絶対にダメ!」

「いや、別にお前のせいなんかじゃ……」

「だって!ぼくが神殿訪問で倒れちゃったから、こんなことになっちゃってるんだ!」

「……それは……」

「あの時ぼくが倒れていなければ、神殿に呼びつけられることなんてなかった!」

「…………」

今回の件に関して、ライトが少なからず自責の念を抱いていることに気づいたレオニスは、言葉を継げなくなっていた。

「レオ兄ちゃんがぼくのために怒ってくれてるのは分かるし、その気持ちも嬉しいけど」

「ぼくのせいでレオ兄ちゃんが責められるようなことになったら、ぼく絶対に死ぬほど後悔する!」

「だから!神殿に乗り込んで暴れるのだけは、絶対にダメ!」

「レオ兄ちゃんは、ぼくの一番の目標なの!ずっとずっと、世界一格好良いヒーローでいてほしいの!」

眦に涙を浮かべながら、必死でレオニスを押し留めようとするライト。

その姿を見たレオニスの脳裏に浮かんだのは、在りし日のグランとレミの姿だった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その時も、孤児院全体を巻き込んだ何らかの詐欺事件が起き、それが原因でグランが怒り狂いどこかに乗り込もうと鼻息も荒く意気込んでいた。

そんなグランに、レミが必死にグランの身体にしがみついて止めようとしている。

鬼気迫る二人の姿を、他の大勢の子供達とともにハラハラとしながらレオニスは見ていた。

『レミ、何で止めるんだ!奴等はレミや孤児院のことを陰で馬鹿にしながら、騙して金を巻き上げようとしたんだぞ!』

『でも、そうなってない!最終的には院長先生も気づいて被害は出なかったでしょ!』

『だからって、あんな悪い奴等放っておいたらまた誰かが騙されて酷い目に遭うじゃないか!』

『それを捕まえるのは、警護隊の仕事!少なくともグランの仕事じゃない!』

『……それは……そうだが……』

『それに、今グランがあの人達を叩きのめしたら、グランの方がもっと悪い人ってことになっちゃう!私はそんなの絶対に嫌!!』

『…………』

『グランは私のヒーローなの!悪い人達のせいでグランまで悪者にされるなんて、そんなの絶対に許さない!!』

そんなやり取りの末に、レミの必死の説得が功を奏してグランは落ち着きを取り戻し、拳を収めることで事態は収束した。

あの時のレミの姿と、今自分を止めようと必死にしがみつくライトの姿が重なってみえる。

奇しくも母レミと同じく『ヒーロー』という言葉を口にしたライト。あの日のライトの母は、同じ言葉でライトの父を諌めていた。

そうだ、あの時の自分もレミ姉と同じ気持ちだった。

自分達のために怒るグラン兄は、いつだって強くて頼もしい皆のヒーローだった。だが、それ故にグランが悪者扱いされるのだけは我慢がならなかった。

だから、グラン兄には飛び出して行ってほしくなかった。悪い奴等を力で捻じ伏せたら、今度はグラン兄がそいつらより悪者扱いされてしまうことが皆分かっていたから。

今の自分は、あの時のグラン兄と同じことをしようとしていて―――

ライトには、レミ姉やあの時の俺と同じ思いをさせているのか―――

そう考えたら、レオニスはもうすっかり毒気が抜けてしまった。

力が抜けきったようにその場にしゃがみ込み、項垂れながらライトの両肩に手を置いた。

「……すまん、ライト」

「危うくお前を悲しませるようなことをするところだった」

「止めてくれてありがとうな、ライト」

ようやく大人しくなったレオニスの様子に、ライトは心の底から安堵した。

「ううん……元はと言えば、ぼくのせいだから……ごめんね、レオ兄ちゃん」

「ライトが謝ることはない、悪いのは頭に血が上った俺なんだから」

その落ち着いた口調からは、レオニスが本当に反省していることが十分に感じ取れる。

ライトももう安心だとばかりに、眦に滲んだ涙を手でぐしぐしと拭い取り頬を膨らませる。

「んもー、ホントだよ!レオ兄ちゃん、いつもはもっとのんびりしてて優しいのに、ぼくに何かあったりすると途端に慌てん坊さんになるんだもん!」

「うぐっ、そ、それは……」

「そこに大嫌いな神殿が絡むと、もう本当に最悪の事態になるということが今回嫌というほどよーく分かったよ!」

「……すみません」

「これから神殿の人と話し合いする時がきても、絶対にすぐに怒り出さないでよね!ちゃんとした話し合いにならなくなっちゃう」

「そ、それは……」

「…………」

目を泳がせつつ、すぐには首肯しないレオニスにライトがギロリンチョ、と睨みつけながら視線をぶつける。

「……約束できないなら、付き添いは理事長先生だけにしてもらいます」

「!!!!!」

ライトの宣言に、数多の落雷に撃たれたかのように衝撃を受けるレオニス。

そのまま固まり続けるレオニスが少しだけ哀れに思えてきたライトは、ふぅ、と小さなため息をひとつつきながら口を開く。

「……まぁ、それは冗談というか言葉の綾というか、レオ兄ちゃんにもちゃんと同席はしてもらいますけど」

「……そ、そうか……良かった……」

ライトに完全拒否された訳ではないことを知り、それまで完全に止まっていた息を吹き返して安堵の表情を浮かべるレオニス。

「でも、本当に暴走だけはしないでね?レオ兄ちゃんが暴走したら洒落なんないし」

「はい、頑張ります……」

「レオ兄ちゃん、頑張ってね!」

8歳児に諭される25歳児、これではどちらが子供でどちらが大人なのか分からない。

だが、どちらもお互いがお互いを思い遣っているだけなのだ。

とびっきりの笑顔のライトが発した励ましの言葉が、レミがグランに言葉をかけた時の風景と再び重なる。

久しぶりに垣間見たグランとレミとの思い出に、懐かしさとともにライトが本当に二人の子供なんだということを思い知り、どことなく嬉しく思うレオニスだった。