軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1781話 空のデート

薬師ギルド主催の『薬草育成セミナー』を無事受講し終えて、薬師ギルド総本部の建物から出たライト達。

四人はラウル達との待ち合わせ場所である中央の大広場に向かった。

「ライト君、薬師ギルドのマスターさんと知り合いだったんだねー」

「うん、二年くらい前にレオ兄ちゃんといっしょに薬師ギルド総本部に行ったことがあるんだ。その時に対応してくれたのがロイドさんだったんだよね。当時は副ギルドマスターだったけど、今はギルドマスターに昇格したみたいだね」

「お兄さんが冒険者だから、薬師ギルドにも出入りしてるってこと?」

「そうそう、そんなところ」

「いいなー、僕もそういう太いパイプを持ちたいよ。冒険者になった時にいろいろと便利そうだし」

大広場に向かう道すがらの雑談で、先程の薬草育成セミナーでライトが薬師ギルドマスターと懇意だったことを知ったイヴリン達が感嘆している。

特にジョゼなどは、もうすっかり将来は冒険者になるのが決まっているかのような口ぶりだ。

そんな話をしているうちに、大広場の入口に辿り着いた。

そこにはラウルとマキシ、そして薬草育成セミナーには参加していなかったハリエットが待っていた。

ハリエットの少し後ろには二人の見知らぬ大人が控えていて、姿形からするにそれはハリエットの護衛であろう。

待ち合わせ場所に先に到着していたラウル達を見て、ライト達が急いで駆け出す。

「ラウル、マキシ君!お待たせ!ハリエットさんもこんにちは!」

「おう、おかえりー」

「皆さん、こんにちは。薬師ギルドでのセミナーは如何でしたか?」

「うん、とってもためになったよ!」

「良かったら、後でセミナーのお話を聞かせてくださいね」

「うん!」

ライトがラウル達を待たせてしまったことを詫びるも、ニコニコ笑顔で迎えてくれた。

ハリエットは由緒正しい伯爵令嬢なので、さすがに薬草育成セミナーへの参加の許可は下りなかった。

ハリエットは非常に残念がっていたが、体面を重んじるのが貴族であることは彼女も理解していてセミナーの参加を断念していた。

そしてライトがハリエットと仲良く言葉を交わす一方で、イヴリン達もラウルとマキシに挨拶した。

「「「ラウルさん、マキシさん、こんにちは!」」」

「イヴリンちゃん、リリィちゃん、ジョゼ君、こんにちは!」

「皆、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

子供達の溌剌とした挨拶に、ラウルとマキシも嬉しそうに微笑む。

するとここで、イヴリン達が周囲をキョロキョロと見回した。

「……あれ? 今日はあの綺麗なお姉さんはいないんですか?」

「さっきは皆といっしょにいた、よね???」

「ああ、シャーリィ……いや、シャルはちょっと用事があってな。今回はここには来ていないんだ」

「そうなんですかー、残念……」

シャーリィがこの場にいないことを残念がるイヴリン達。

特にジョゼが一番残念そうだ。

そんなイヴリン達に、マキシが務めて明るい声で話しかけた。

「さ、皆揃ったことですし、そろそろ席取りに行きましょう!」

「うん、そうだね!皆、行こっか!」

「「「はーい!」」」

マキシの呼びかけに、すっかり気を取り直したイヴリン達。

今回のスライムショーは野外型で、これまでのテント型とは違って広々とした舞台と多数の席が用意されているのが遠目にも分かる。

ライト達はチケット売り場に向かって駆け出していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから程なくして、スライム達のファッション&アクションショーが始まった。

集まった観客達の大歓声に迎えられて、舞台袖からスライム達がどんどん出てくる。

しかし、何だかスライム達の様子がおかしい。

終始そわそわしながらあちこちをキョロキョロと見回しているのだ。

しかもそれは一匹二匹だけでなく、全てのスライム達が同じようにそわそわしていた。

だが、完全に舞台の中央に立ってからはそれら不審な動きはなくなった。

スライム達の勇姿をキラキラとした眼差しで見つめる多くの子供達、その眩しい視線に自身の役目を思い出したのだろう。

どのスライム達も一瞬だけはたとした顔になり、その次の瞬間からキリッ!とした勇ましい表情になった。

そこからは例年通り、いや、例年維持に素晴らしいショーが繰り広げられていった。

めくるめく楽しいショーに、ライト達子供はもちろんのこと大人達までもが魅了されていく。

そんな熱気溢れるスライムショーを、別の場所から観ている者達がいた。

それは舞台のはるか上空。

ラーデとラーデを抱っこしたシャーリィの二人が、スライムショーが繰り広げられる舞台をずっと見下ろしていた。

…………

………………

……………………

今回ラーデとともに公国生誕祭にお出かけするに当たり、大問題が浮上した。

それは、皆が楽しみにしていたスライムショーに関してである。

ライトとラウル、マキシの三人で、ラグナロッツァの屋敷で公国生誕祭のスケジュールを確認し合っていた時のこと。

それまで大盛り上がりだったのだが、ラウルがはたとした顔で呟いたのがきっかけだった。

「……なぁ、ライト。そういや今ふと思い出したんだが」

「ン? 何ナニ?」

「スライムって確か、竜を本能的に怖がる生き物って話だったよな?」

「うん。それがどうかし…………あ"ーーーッ!!!!!」

ラウルが繰り出した素朴な疑問に、最初こそきょとんとした顔だったライトが途中から絶叫に変わった。

絶叫しながら頭を抱えて天を仰ぐライト。

そう、二人ともラーデの存在を思い出したのだ。

スライムが竜を怖がる生き物だというのはサイサクス世界の常識で、ライト達がいつも世話になっているスライム飼育場でもその法則に則り多数の竜人族が雇用されている。

そしてライト達は半ば忘れかけていたが、ラーデは皇竜メシェ・イラーデという竜の始祖。

竜そのものではない竜人族ですらスライム達は怖がるというのに、竜の祖であるラーデがスライムショーに近づいたらどうなるか―――スライム達がパニックに陥って大惨事になることは容易に想像できた。

「ええええ、どーーーしよ……ラーデが竜の王様だってこと、すっかり忘れてたよ……」

「安心しろ、俺もだ」

「え、何ナニ、二人とも、どうしたの?」

事情がよく飲み込めていないマキシに、ライトとラウルがスライムの習性を話して聞かせた。

「確かにそれはマズいですね……」

「だよねぇ……ショーの観客席にラーデがいたら、絶対にスライムが怯えまくるよね?」

「だろうなぁ……」

「レオニスさんが用意してくれたあの指輪で、ラーデ君の姿が完全に隠れて見えなくてもダメなのかな?」

「そこまでは分からない……スライム飼育場のスライムは、ぼく達のことを怖がる様子はなかったけど……」

「だな。だがそれは、ラーデが直接飼育場に行っていないからなだけかもしれん」

「そうだね……」

天を仰いだ後、一転して頭を抱えたままテーブルに突っ伏したライト。

ラーデとの共同生活が如何に日々平穏続きだったからといっても、ラーデの素性を忘れかけていたのは痛過ぎる。

特に今回のスライムショー観覧に至っては、致命的な組み合わせだ。

「う"ーーー……ラーデにもスライムショーを見せてあげたかったのに……」

「しかし、もしスライム達がパニックになったら、ショーそのものが中止になるかもしれんな」

「そうだよねぇ……スライム達が怯えて動けなくなったり、恐怖のあまり混乱して逃げ出したりしたらショーどころの話じゃなくなるよね……」

「「「……はぁぁぁぁ……」」」

突如浮上した大問題に、三人とも大きなため息をつく。

ラーデを公国生誕祭に連れていくのは、彼に人族の習慣や生態を見て知ってもらいたいがためだ。

『百聞は一見に如かず』と言うように、直接その目で見て触れるのが何より一番良いからだ。

しかも公国生誕祭は年に一度の大きな祭り。せっかくなら日常生活以外の、こうした非日常的なイベントも味わわせてあげたい!と考えての企画だった。

だが、スライムショーが中断されるような危惧が発生するとなると話は変わる。

特にスライムショーは、ライトだけでなくイヴリン、リリィ、ジョゼ、ハリエットもとても楽しみにしているイベント。

自分達だけでなく級友達も毎年楽しみにしているイベントで、イベントそのものが台無しになるような事態だけは何としても避けたかった。

しかめっ面でうんうん唸るライト。

するとここで、マキシが一つ提案をした。

「……そしたらスライムショーの間は、僕がラーデ君を預かりますよ。そしてラーデ君といっしょに、大広場近くの露店巡りでもしてきます」

「え? でも、マキシ君だってスライムショー大好きでしょ?」

「そうだぞ、マキシ。ラーデを連れて離脱するなら俺がやってやるから、お前はライト達といっしょにスライムショーを楽しめばいい」

マキシの我が身を挺した提案に、ライトはびっくりした顔をし、ラウルもすぐさま反論した。

しかしマキシは小さく微笑みながら、二人の心遣いをやんわりと拒否した。

「ううん、いいんだ。というか、ラウルはライト君を守る役目があるでしょ? 特にスライムショーのような、たくさんの人で混雑する場所で護衛が護衛対象から離れちゃダメでしょ」

「うぐッ、そ、それは確かにそうなんだが……」

「その点僕なら大丈夫。もし万が一何か起きても、ラーデ君を連れて空に逃げるから!」

「ぐぬぬぬぬ」

マキシの正論に、ラウルはぐうの音も出ない。

皆が楽しみにしているスライムショーを台無しにさせないためには、スライムと絶対的に相性の悪いラーデを会場から遠ざけるのが一番だ。

そのためには誰かが犠牲にならなければならない。そしてその犠牲を誰が負うかを考えた時、消去法でいくと最も適任なのはマキシであるのは間違いなかった。

「僕は前回の公国生誕祭で思う存分楽しんだし、きっとこれからだってこのラグナロッツァでたくさんの楽しい出来事があるもの」

「でも……ラーデ君はそうはいかない。いつもはカタポレンの森にいて、ラグナロッツァに出かけるだけでもとても神経を使わなきゃいけない」

「だからこそ、ラーデ君には公国生誕祭を目一杯楽しんでもらいたいんだ。そのためなら、僕はいくらでも協力するよ」

「……マキシ君……」

「………………」

マキシの言葉にライトは感激し、ラウルも反論できず黙り込んだ。

ラーデに公国生誕祭を楽しんでもらいたい、その思いは二人とも同じだったからだ。

「マキシ君、ありがとう。そしたら今度、また別のスライムショーにいっしょに行こうね!」

「はい。楽しみにしてますね」

「マキシの分の土産もたくさん買ってくるからな」

「うん!それも楽しみにしてるから、よろしくね!」

こうしてライト達は、スライムショー中断の危機を未然に防ぐことに成功したのだった。

……………………

………………

…………

そして公国生誕祭初日の今日。

前日にレオニス邸を訪れて合流したシャーリィとともに、ライト達は公国生誕祭に繰り出した。

薬草育成セミナーでライトが不在の間に、ラウルがラーデとシャーリィにそれらの事情を軽く説明した。

『ふむ、スライムは我ら竜を怖がる生き物なのか。それは知らなんだ』

「そりゃあねぇ……竜族相手なんて、スライムでなくとも大抵の生き物は怖がると思うわぁ」

「シャーリィ、お前は全然怖がってねぇじゃねぇか」

「ン? だって私はスライムじゃないし? 貴方と同じプーリア族よ?」

「そりゃそうだが……」

「それに、ラーデ君は紳士だもの♪ こんなに可愛らしくて紳士なラーデ君を怖がるなんてあり得なーい♪」

ラウルがシャーリィにツッコミを入れるも、きょとん顔のシャーリィの天然返しに敢えなく撃沈している。

そしてシャーリィはシャーリィで、抱っこしていたラーデに思いっきり頬ずりしている。

シャーリィとラーデは今朝初めて顔を合わせたばかりだが、シャーリィの方はラーデのことをとても気に入ったようだ。

シャーリィの豊満な胸の中で、彼女の愛情溢れる頬ずりでもみくちゃにされるラーデ。

それでも文句を言わずに受け入れるあたり、ラーデは真の紳士である。

するとここで、シャーリィがラーデへの頬ずりを止めてマキシに話しかけた。

「ねぇ、マキシ君。そしたらラーデ君を預かるお役目は、私が代わるわ」

「えッ!? シャルさんに押し付ける訳には……」

「いーのいーの、気にしないで。私の方も、ラーデ君といっしょにいる方が楽しいから♪」

シャーリィの提案に戸惑うマキシに、当のシャーリィは終始ニコニコ笑顔で応えている。

確かにシャーリィがラーデのお守役を引き受けてくれれば、マキシもライト達とともにスライムショーを観ることができる。

そしてこの二人の話し合いに、ラウルも加わってきた。

「……そしたら皆で早めに大広場に行くぞ」

「何ならここで別れとく?」

「いや、シャルとラーデにも大広場に来てもらう」

「それ、大丈夫?」

ラウルの呼びかけに、マキシとシャーリィが不安そうな顔をしている。

しかしラウルには腹案があった。

「シャーリィにはラーデを連れてスライムショーの会場のはるか上空を飛んでもらう。誰も感知できないような上空なら、スライム達が怖がる心配も減るだろ。それと同時に、ラーデとシャーリィもスライムショーを上空から眺められるしな」

「「『ッ!!!!!』」」

ラウルの妙案に、他の三人の目が大きく開かれる。

それは、スライムショー中断の危機回避とラーデがスライムショーを観ることが許される、唯一の方法だった。

「ラウル、貴方、天才ね!」

「お褒めに与り光栄だ」

「うん!ラウルの案、すっごくいいね!今日のラウルはいつにも増して冴えてるね!」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ」

破顔しながら口々に褒め称えるマキシとシャーリィに、ラウルは事も無げに受け答えしている。

さすがは万能執事、災い転じて福となす機転にも恵まれているようだ。

「ただ、ある程度っつーかかなり高いところまで飛ばなきゃならんぞ。シャーリィ、できるか?」

「あらヤダ、誰に物申してるの? 私特製の羽衣があれば、雲の上までだって飛んで行けるからね?」

「さいですか……俺の作る羽衣じゃ、そこまで高く飛べんわ」

心配するラウルを他所に、シャーリィが自信満々に答える。

さすがは万能執事の幼馴染、彼女が生み出す天舞の羽衣はラウルが作る羽衣以上に超高性能らしい。

自信たっぷりに答えるシャーリィに、ラウルも早々に白旗を揚げるしかないようだ。

「じゃ、私は先にラーデ君といっしょに上を飛んでるわね!」

「おう、ラーデのことをよろしく頼んだ」

「任せてー♪」

「ショーが終わる直前に、大広場入口に降りて来いよー」

「はーい♪」

ご機嫌な様子でシャーリィがふわり、と宙に浮き、すーっと上空に向かって飛んでいった。

その頃大広場では野外舞台の最終チェックが行われていて、スライム達は舞台裏に控えていた。

ラーデを抱っこしたシャーリィがショーの舞台上空に現れた時、スライム達は一斉にそわそわしだした。

後にこの時のことを語った興行関係者によると、スライム達がぷるんぷるんの身体をふるふると震わせて周囲をキョロキョロと見回す様は、何らかの異変を感じ取っているようだったという。

しかしそれもほんの数旬のことで、スライム達の挙動不審はすぐに収まった。

シャーリィがかなり高い位置に飛んだことで、ラーデが無意識のうちに発するオーラを感じ取れなくなったためだ。

そうしてスライムショーは無事開催され、大盛況のうちに終了を迎えた。

舞台前でショーを観ていたライト達はもちろん大満足だったし、上空でひっそりと観ていたラーデも大満足だった。

『シャル、我のせいで其方にまで不便を強いてすまなかった』

「ううん、そんなこと気にしないで? 私だって、ここでラーデ君といっしょにショーを楽しめたもの。てゆか、ラーデ君の方こそ、初めてのスライムショーは楽しめた?」

『無論だとも。スライムがあのように自由自在に動けるとは、まさに驚天動地だ』

「ホントホント!あのスライム達、下手したら私の後輩よりも踊りが上手だったわ!」

誰もいない上空で、スライムショーの感想交換に盛り上がるラーデとシャーリィ。

二者とも大いに満足したところで、シャーリィが下を見ながら呟いた。

「……あ、ラウル達が売店のテントに入っていったわね」

『うむ。あのテントには何があるのだ?』

「あれは売店といって、ショーで活躍したスライム達のグッズなんかを売っているの。ラウル達はあそこでお土産を買うのよ」

『そうなのか。人里というのは我の知らぬことに満ち溢れていて、見ていて飽きることがないな』

大勢の観客が退場する中、売店に入っていくライト達をシャーリィが捉えてラーデも見ている。

ラーデが着けている【秘匿の指輪】とシャーリィ必須の『非モテお守り』のおかげで、地上からラーデ達の姿が見えることはない。

しかしラーデもシャーリィも視力は良いので、はるか上空からでも地上の様子はよく見えていた。

「そしたら、あと十分くらいしたら下に降りましょうか」

『そうだな。それまでにはスライム達も舞台からさらに遠くに移動するであろうしな』

「それまでラーデ君、私とお空のデートを楽しんでくださる?」

『世界一の舞姫と同席できるは、我が生涯でも屈指の誉れぞ』

「ウフフ、ラーデ君ってば本当にお上手な真摯ね!」

シャーリィの言葉を皮切りに、ラーデとの間で軽妙なやり取りが交わされる。

晴れ渡る青空のもと、シャーリィとラーデの仲がさらに深まった瞬間だった。