軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1769話 クレールの苦悩

その後ライト達は、ラグナロッツァの屋敷で楽しく過ごした。

まずは晩御飯。

食卓の上にずらりと並ぶ豪勢なメニューに、クレールが目を丸くして驚いている。

「おおお……ジャイアントホタテのマリネにローストパイア、エヴィパのひつまぶしまで……ラグナ宮殿の晩餐会に勝るとも劣らない、とても豪華な食事ですね!」

「ンーーーッ!ラウルの作るご飯は相変わらず美味しーい♪」

「お褒めに与り光栄だ」

「シャルから常々『ラウルの作るご飯はすっごく美味しいのよ!』と聞いていましたが、これ程とは……正直なところ、私個人としてはラグナ宮殿で出る食事より美味しいと思います」

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ」

ラウルの料理を大絶賛するクレール、そしてその横でほっぺたを押さえながら美味しそうに食べるシャーリィ。

二人の美女から料理の腕前を褒め称えられて、ラウルも満足そうに頷いている。

豪華な晩御飯を心ゆくまで堪能したら、客間に移動してデザートタイムを兼ねての歓談。

食後のコーヒーやプチシュークリームなどのデザート片手に、様々な話に花が咲いた。

今日は初めてのお客様もいるので、何しろ話題に事欠かない。

ライトのラグーン学園での生活、レオニスの冒険憚、ラウルの作物談義にマキシの物作り修行の話にシャーリィ達の旅の一座の話等々、本当に話が尽きることなく続く。

中でもシャーリィが興味を示したのは、ラウルの冒険者としての活躍ぶり。

ラウルが時折こなしに出かける殻処理依頼にまつわる話、特にライトの「ラウルはいろんな街で『殻処理貴公子』って呼ばれていて、救世主とまで言われるくらいすっごくモテるんですよ!」という話を聞いて、シャーリィが大爆笑していた。

「アッハハハハ!何その『殻処理貴公子』って面白おかしい二つ名は!? ラウル、貴方、いつの間にそんなことになってたのー?」

「お前な、他人事だと思って笑うけど、どの街でも大量の殻処理は深刻な問題だったんだぞ? さっきお前が食ったツェリザークの氷蟹やエンデアンのジャイアントホタテ、ネツァクの砂漠蟹、それら全部バカデカい殻が出るんだからよ」

「まぁねぇ、確かにそれはそうよねぇ……それをラウルが解決してあげているのね。ラウルってば、偉いわね!」

「分かってくれりゃいい。……ま、救世主ってのはさすがに大袈裟だがな」

最初はラウルの面白二つ名を笑っていたシャーリィ。

だが、ラウルの苦言を素直に受け入れて一転、大絶賛した。

今日の晩御飯のメニューの中には、魚介類や甲殻類がふんだんに使われていた。

それらの美味しい料理の裏には殻などの不可食部分があって、その処理には結構な手間がかかることはシャーリィにも容易に想像できた。

「……ま、俺の場合空間魔法陣を使って殻を引き取ってるだけだし、その殻だって畑の肥料にしてるから一石二鳥のボロ儲けなんだけどな」

「え、そなの? そしたら将来私が冒険者になったら、アイテムバッグを使って殻処理依頼でボロ儲けできるってこと?」

「いや、普通のアイテムバッグだと厳しいはずだ。そうだよな、ご主人様よ?」

「ああ、やってできんこともなかろうが、普通のアイテムバッグは容量が少ないからな。あれらのデカい殻を入れて持ち運ぶには、事前に細かく砕くとかしなきゃならんだろうな」

「ぁー、そっかぁ、残念ー」

ラウルの『一石二鳥でボロ儲け』という言葉に、シャーリィの目がキラーン☆と光る。

しかし、一般的に流通し始めているアイテムバッグには容量制限がある。

それはアイテムバッグの開発者であるレオニスとフェネセンが話し合って、100リットル程度と決められた。

その容量では、せいぜいジャイアントホタテの殻一枚分程度しか入らないだろう。

しかもそれは予め細かく砕くなどして、極力コンパクトにしてアイテムバッグの中に収まりきるよう下処理をしなければならない。

とてもじゃないが、ラウルのように大きな氷蟹や砂漠蟹の殻をそのまま丸ごと収納は不可能だし、何よりそんなめんどくさい力仕事をシャーリィがするか?と問われれば、答えは『否!』『そんなん無理!』なのである。

ラウルの指摘とレオニスの答えに、がっくりと肩を落とし残念がるシャーリィ。

だが、シャーリィはこの程度のことではめげない。

パッ!と顔を上げたかと思うと、にこやかな笑顔でラウルに話しかけた。

「……じゃあ、私もラウルのように空間魔法陣を覚えればいいってことよね?」

「ン? そりゃまあ、俺だって使えるくらいだからシャーリィにだって使えるだろうが……」

「ヤッター♪ そしたらここに泊まっている間に、空間魔法陣を教えてね♪」

「……分かった」

ニコニコ笑顔でラウルにおねだりするシャーリィに、ラウルがはぁ……と軽くため息をつきながら承諾する。

サイサクス世界の空間魔法陣は、魔力が少ない者には扱えない。

だが、ラウルと同じくプーリア族の妖精であるシャーリィならば、魔力問題は易々とクリアできるだろう。

渋々といった顔で空間魔法陣のレクチャーを引き受けたラウルに、シャーリィが「ラウル、ありがとーぅ!大好きー♪」とラウルの首っ玉に抱きついて喜びを表す。

絶世の美姫に抱きつかれたら、普通の男ならイチコロになるところだがラウルに限ってはその心配はない。

やれやれ、困ったやつだ……くらいにしかラウルは思っていな い。

また、そんなラウルだからこそシャーリィも素で接することができるのだろう。

「ところでシャーリィ、そろそろ風呂にした方がいいんじゃねぇか?」

「……あ、そうねぇ、もう十時を回っているものね。そしたら団長もいっしょにお風呂をいただいていく?」

「え"ッ!? いやいや、私は遠慮しとくよ。私までシャルといっしょにお泊まりする訳じゃないし、今からラグナ宮殿に戻らなきゃならないからね」

「ぁー、そっかぁー、お風呂上がりで外を歩いて風邪を引いちゃ困るものね」

「そういうこと。三日後には大事なパレードを控えているからね、今風邪を引く訳にはいかないのよ」

「そうよねぇ」

シャーリィがクレールもお風呂に誘ったが、固辞されてしまった。

クレールの言い分は全て正しいので、フラれたシャーリィも納得である。

「じゃ、マキシ君、いっしょにお風呂に行きましょ!」

「はーい」

「ライト君もいっしょに行く?」

「ぃ、ぃぇ、ぼくは遠慮しときます……」

「えー、何よぅー、ライト君ってば今年もつれないわねぇ。大きなご主人様は如何?」

「ン、俺も遠慮しとくわ」

「大きなご主人様も相変わらず紳士ね!」

去年もマキシは八咫烏としてシャーリィとともに風呂に入ったので、特に否定することなく素直に誘いに応じた。

そしてライトとレオニスもまた、昨年同様に風呂の誘いを断っていた。

シャーリィがライト達にフラれた格好だが、何故か当のシャーリィは嬉しそうに微笑んでいる。

というか、中学生程度にしか見えないマキシをお伴に入浴するなど、一般的にはショタコン疑惑を持たれても不思議はないところなのだが。

シャーリィは一般常識に囚われない自由奔放な性格であることをクレールもよく知っているので、『あー、シャーリィは今日もフリーダムよねー』程度にしか思っていなかったりする。

「シャル、ゆっくりお風呂に浸かって温まっていらっしゃい。三日後のパレードに向けて、長旅で凝り固まった身体を解しておくのもシャルの仕事よ」

「はぁーい。ラウル、お風呂への案内よろしくね♪」

「はいよー。シャーリィ、お前、パジャマや着替えは持ってきたか?」

「もっちろん!今年はちゃーんと用意してきたわよー」

「そっか、そりゃ良かった」

マキシと手を繋いでいそいそと風呂に向かうシャーリィ。

客人を風呂に案内すべく、シャーリィの横をラウルが並び歩く。

和やかな雑談を交わしながら客間を出ていくシャーリィの後ろ姿を、クレールが目を細めて見守っている。

そうしてシャーリィ達が退室して、客間に残ったのはライトとレオニスとクレールの三人だけになった。

賑やかだった客間が、人数が半減したことで一転して静かになる。

しばしの静寂の後、口を開いたのはクレールだった。

「……レオニスさん、お聞きしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

「ン? 何だ?」

「シャルが冒険者になりたい、と言っていることについてです」

「ああ、その話か。もちろん当人から聞いている」

「そうですか……」

意を決したように話を切り出したクレールに、レオニスは冷静なまま頷いた。

レオニスの反応を見たクレールは、なおもレオニスに質問を続ける。

「現役の冒険者であるレオニスさんの目から見て、シャルは冒険者に向いていると思われますか?」

「ンー……正直俺はシャルのことをまだよく知らんから、何とも言えん。去年ここにシャルが寝泊まりしたのだって、たったの三日だけだし。その間俺は冒険者ギルドの総本部に詰めていたから、祭りに付き合ってやることもできなんだからな」

「そうですか……でしたら」

何かを言いたげなクレールに、レオニスがそれを遮るように口を開いた。

「ただ、ラウルに言わせれば『攻撃魔法や身体強化魔法を覚えれば、十分やっていけるだろう』みたいなことは言っていた。幼馴染のラウルがそう言うなら、その見立ては間違いないだろうよ」

「………………」

レオニスの見立てに、クレールが黙り込んだ。

この微妙な空気に、ライトが居た堪れずにクレールに話しかけた。

「あのー……クレールさんは、シャルさんが冒険者になることに反対なんですか?」

「……そうですね、反対か賛成かと問われれば『反対』寄りですね。諸手を上げて大賛成はできません」

「それは、『暁紅の明星』としてはシャルさんが抜けてしまうと困るから、ですか?」

「ハハハ、これはまた痛いところを突きますねぇ」

不躾とも思えるライトのド直球の質問に、クレールが苦笑いしている。

「もちろんそれだって全くないとは言いませんよ? 『暁紅の明星』にとってシャルは不世出のスターですし、私達がここまでやってこれたのもひとえにシャルのおかげ、と言っても過言ではありませんし」

「ですが……それ以上にシャルのことが心配なんです。彼女自身踊り子が天職だと常々言っていて、いつだってシャルは舞を舞うことを心から楽しんでいて……他のことなんて考えられない!って言っていたのに……そんな彼女が、これまでと全く畑違いの冒険者になってもやっていけるのか……心配でならないんです」

目を伏せながら心情を吐露するクレール。

眉間に皺を寄せている苦悶の表情から、その思いはきっと本物なのだろう。

そんなクレールの率直な言葉に、ライトは何と答えていいものやら分からない。

クレールの苦悩はなおも続いた。