作品タイトル不明
第1765話 のんびりとしたひと時
時は少し遡り、ライトとマキシがコテージを出ていった後。
レオニスもしばらくして外に出かけ、コテージにいるのはラウルとラーデ、未だに人ダメクッションで寝ているリンドブルムとメテオリタだけになった。
一気に静かになったコテージのリビングに、ラウルとラーデの声だけが響く。
『ラウル、今日は畑仕事をしないのか?』
「ああ、今はまだお客人がいるからな。まだ寝てはいるが、いつ起きても対応できるよう待機しておくのも執事の仕事さ」
『其方の貴重な時間を割いてもらってすまぬな』
「気にすんな。たまにはこうしてのんびりとした朝を過ごすのもいいもんだ」
ラウルはそう言うと、左手の五本の指から糸を作って撚り始めた。
天舞の羽衣の糸作りである。
リンドブルムとメテオリタが起きそうな気配は全くなく、ラウルが外の畑弄りをしても問題なさそうではある。
しかし、ラーデと客人をコテージに残して外に出ること自体が執事としては問題ありだとラウルは思う。
ならばここで羽衣のための糸を作りながら、ラーデとともに客人達が起きてくるのを待とう―――ラウルはそう考えたのだ。
『おお……其方が作る糸は、いつ見ても美しいな』
「お褒めに与り光栄だ」
『どれほど見ていても飽きぬ。我もここで、妻と子が起きるまでのんびりと過ごすとしよう』
「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ。……ま、たまにはこんな日があってもいいさ」
『うむ』
ラウルが生み出す美しい糸、そしてその優美な動きをラーデが絶賛する。
いつもは畑仕事に料理など、ラウルは起きている間は常に働き続けている。
といっても、どれもラウルが好き好んでやっていることだし、その順番もラウルが今したいことをやっているだけなので、ラウル自身には働き詰めという感覚など微塵もないのだが。
それでもたまにこうして客人が来れば、『執事としての仕事』を求められる時もある。
もともとラウルには執事の自覚などあまりないが、滅多に来ることのない客人が来たなら執事の出番だという感覚くらいは持っているのである。
「糸を作っている間に、ラーデの誕生日会の計画でも立てるか」
『うむ。先程言っていた『公国生誕祭』とは、どのようなものなのだ?』
「ああ、ラーデにはそこから説明しなきゃならんか。公国生誕祭ってのは、人族が用いる暦で言うところの一月十七日でな―――」
リンドブルムとメテオリタが人ダメクッションでスヤスヤと寝ている間、ラウルとラーデはリビング内で羽衣のための糸作りをしながら様々な話をしていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
『ふゎぁぁぁぁ……よく寝たぁぁぁぁ』
午前の十一時を過ぎ、もうそろそろ正午になりそうなところでリンドブルムが先に起きた。
リンドブルムが人ダメクッションの中でもそもそと動き出したかと思うと、のっそりと身体を起こして背伸びした。
そんなのんびりとしたリンドブルムに、ラーデが声をかけた。
『リンドブルム、おそよう』
『……あら、パパン、おはよう。……って、おそよー?』
『うむ、おそようだ。世の中はもう朝ではない、昼だぞ』
『……え、ウソーン、私、そんなに寝てた?』
ラーデの言葉に、リンドブルムが目を丸くしながら窓の外を見遣る。
確かに外はとても良い天気で、日光の差し方も朝日が昇る角度ではなく昼のそれに近い。
どこまでものんびりとした娘に、ラーデが苦笑いしながら話を続けた。
『メテオリタなど、其方の横でまだ寝ておるわ』
『……あら、ホント。ママンってば、寝坊助さんねぇ』
『ガラクシア星から帰ってきたばかりなのだから、如何にメテオリタといえどと疲れきっていても不思議はあるまい』
『それもそうね。てゆか、ママンの寝顔を見るなんて何百年ぶりかしら』
リンドブルムが横で寝ているメテオリタを見て、苦笑いしている。
寝坊助というならリンドブルムとて十分に当てはまるのだが、そこは棚上げしてスルーする気らしい。
しかし、このまま寝続けさせてやる訳にはいかない。
メテオリタを連れて不思議の森に帰るのだから、日が出ているうちに起きてもらわねばならない。
『ママン、そろそろ起きてー。私といっしょに不思議の森に帰るわよー』
『……(スヤァ)……』
『ママン、もうお昼になるわよ? 起きてってばー』
『……(スヤァ)……』
『ンもー、ママンってばー。そんなに疲れてたのかしら?』
リンドブルムがメテオリタに声をかけるも、まだ起きそうにない様子だ。
するとここで、ラーデがリンドブルムに声をかけた。
『ならばリンドブルムよ、今のうちにサマエルのところに行って声をかけておいた方がいいのではないか?』
『ンー、それもそうねー。南の天空島にママンを連れていくのも手間といえば手間だし。サミーをここに呼んだ方が早いわよね』
『そういうことだ』
ラーデの提案に、リンドブルムも頷きながら同意する。
そうと決まれば早い、とばかりにリンドブルムがすくっ!と立ち上がった。
『じゃあ、私は今からサミーを呼んでくるわね。パパンはママンといっしょにここで待っててね』
『うむ。その間に我がメテオリタを起こしておこう』
『お願いね。ラウル、私のパパンとママンをよろしく頼むわね』
「承知した」
リンドブルムの頼みに、ラウルは糸作りを一旦中止して快諾する。
時間的にもお昼ご飯の支度をしていい頃合いだし、もしかしたらその良い匂いでメテオリタの目も覚めるかもしれない。
リンドブルムが早速コテージから出ていき、ラウルも席を立ってお昼ご飯の準備を始めていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ラウルがコテージのキッチンでお昼ご飯の支度をしている間、ラーデはメテオリタの横で声をかけた。
『メテオリタよ、そろそろ起きぬか?』
『ンーーー……もうちょっとぉ……もうちょっとだけぇ……』
『仕方がないやつだ。あと五分だけだぞ?』
『……ふにゃぁ……』
蕩けそうな顔でもそもそしているメテオリタに、ラーデもそれ以上強く言わずに見守っている。
嫁さんを甘やかすラーデに、旦那に甘えるメテオリタ。
サイサクス世界最強の竜族達とはとても思えない、実に甘々な光景である。
しかし、時間的にもいい加減起きてもらわなければ困る。
上記のやり取りを三回繰り返した後、ラーデが実力行使に出た。
メテオリタの頭に生えている三本の角、その中央の額から生えている角をラーデがかぷっ☆と唇で軽く挟み食んだ。
額の角に起きた衝撃の感覚に、メテオリタが文字通り飛び起きた。
『うひゃぁッ!?』
『……メテオリタよ、起きたか?』
『え、え、何ナニ!? 今の、何!?』
『おそよう。もう昼だぞ』
『……ラー君だぁ……』
勢いよく飛び起きたメテオリタ。
キョロキョロと左右を見回していたが、横にいたラーデの顔を見て動きがピタッと止まった。
昨日ようやくラーデと再会できたことを思い出したのだ。
『今リンドブルムが、サマエルを呼びに外に出ている』
『サミーちゃん? サミーちゃんもここに来てくれるの?』
『ああ。だから我とともに、サマエルとリンドブルムを迎えようではないか』
『……うん!』
ラーデが差し出した小さな手を、メテオリタが花咲くような笑顔で手を出して握る。
そうしてラーデ達はコテージの玄関に向かい、外に出た。
リンドブルムがサマエルを連れてきたのは、それから五分後くらいのことだった。