作品タイトル不明
第1762話 メテオリタの里帰りの恐るべき真の理由
「「「『いッただッきまーーーす!』」」」
コテージのダイニングで晩御飯を食べ始めたライト達。
メテオリタは竜の姿のままで、リンドブルムは人化した姿で椅子に座っている。
そして今回も人族の食事に不慣れな客人が二名いるので、リンドブルムやメテオリタにも食べやすいように、という配慮のもと様々なご馳走がテーブルの上に並べられていた。
唐揚げ、フライドポテト、タコ焼き、ピザ、ハンバーガー等々、箸やフォークなどを使わずとも食べられるメニューにライト達は舌鼓を打つ。
もちろんその中にはラーデとリンドブルムも含まれていて、特にラーデなど慣れた手つきで好きなものを自分の小皿に取っている。
そんなラーデを見ながら、メテオリタはどうしていいか分からず戸惑っている。
するとラーデが、ご馳走を乗せた自分の小皿をメテオリタの前に差し出した。
『ほら、メテオリタも食べてみよ。どれも美味しいぞ』
『……ラー君は、これが好きなの?』
『うむ。そもそも我らには食事など必要ないが、それでもこうして親しい者達とともに摂る食事というのは実に良いものだ』
『………………』
目の前に差し出された、山盛りに積まれた唐揚げやタコ焼き。
メテオリタもまた高位の竜族で、人間と直接交流を持ったことなど全くない。
故に唐揚げやタコ焼きなども一度も食べたことがなく、それがどんなものなのかもさっぱり分からない。
しかし、愛するラーデが勧める品とあっては俄然興味が湧いてくる。
メテオリタの横に座っているリンドブルムも、母に向かって気軽に声をかけた。
『そうよー、ママン。行き先を間違えたとは言え、せっかくここに来たのだから。今のパパンが普段見聞きしたり食べたりしているものを、ママンもその身で体験するといいと思うわ』
『…………そうね』
娘の言葉にメテオリタも小さく頷く。
もしメテオリタが不思議の森に正しく帰還していたら、今日ここでラーデに会うことはなかっただろう。
というか、愛するラーデが邪竜の島から解放されていたこと自体、メテオリタは全く知らなかったのだが。
リンドブルムが言うように、今のラーデをより深く知るためには彼と同じ生活を 準(なぞら) えるのが理に適っていることはメテオリタにも理解できる。
メテオリタはおそるおそる小皿に顔を近づけて、意を決したように一気にパクッ!とご馳走の山に齧りついた。
『……(もぐもぐ)……美味しい!』
『我が言った通りであろう?』
『うん!ラー君の言うことは、いつだって正しいものね!』
ラウル特製唐揚げやタコ焼きの美味しさを知ったメテオリタ。
堰を切ったようにパクパクと食べ始めた。
素直なメテオリタを、ラーデが微笑みながら愛おしそうに見つめている。
そしてそんなラーデ夫妻を、ライト達も嬉しそうに微笑みながら見つめていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
美味しい晩御飯を存分に食べた後、ライト達はリビングで食後のデザートや飲み物を飲みながら話をすることにした。
ラーデに会いたい一心でここに来たメテオリタに、ラーデが救出された経緯などをきちんと話すためだ。
リビングの中央でラーデとメテオリタが向かい合って座り、その横に娘のリンドブルムが座る。さらにその周りをライト達が囲むようにして見守る。
ちなみにリビングにいつも置いてある『人をダメにするクッション』は誰も使っていない。
こんなものに埋もれたら最後、以後まともに会話をし続ける自信など誰も持っていないからである。
『メテオリタも知っての通り、我は何者かの奸計に嵌り天空島に囚われた。歪んだ時空の中に囚われて、それから幾星霜経ったかも分からぬまま我は消滅の危機にあった……それを救い出してくれたのは、ここにいるレオニス、ラウル、ライトだ』
『また、その三人の他にもたくさんの者達が尽力してくれた。光の女王、闇の女王、雷の女王、彼女達の神殿守護神達、シュマルリの竜族達……人族の竜騎士団なる者達も我のために駆けつけてきてくれたという』
『我はそうしたたくさんの者達の、勇気ある行動と善意によりこうして再び地上に戻ることができたのだ』
『だが、我は思っていた以上に衰弱していてな……天空に留まったままでは力が取り戻せぬ故、魔力に満ちたこの森で療養をしておるのだ』
ラーデが静かに語るこれまでの軌跡を、メテオリタも静かに聞き入っている。
そうして一通り聞いた後、メテオリタが徐に口を開いた。
『そうだったのね……できることなら、私の手でラー君を救いたかった……そのために、ガラクシア星くんだりまで修行しに行ったのに。ラー君が無事戻ってこれたのは嬉しいけど、私の修行は無駄足になっちゃったわね……』
『え? ママン、里帰りしてたんじゃなかったの?』
『里帰りっていうか、ラー君をあの島から救い出すための修行に出ていたのよ』
しょんぼりとしながら語るメテオリタに、リンドブルムが目を丸くして驚いている。
メテオリタが言うには『私が全力を出したら、あの島どころかこの星そのものまで粉々に壊しちゃうもの。だから私は、隕石を降らせるにしてももっと弱いものにする必要があったの。言ってみれば、弱くなるための修行をしに里帰りしていたのよ』とのこと。
本来なら修行とは強くなるためのもののはずだが、メテオリタに限っては当て嵌まらない。
むしろその逆で、彼女は強過ぎる力を抑えなければならなかった。
その理由は、彼女の名『メテオリタ』の持つ意味を考えれば自ずと分かる。
『メテオリタが 一度(ひとたび) 真の憤怒に至れば、空から無数の隕石が降り注ぎ全てを滅ぼす』
もしこれが現実のものとなったら、邪竜の島などひとたまりもなく墜落するだろう。
それどころか、他の天空島まで巻き添えを食らってしまう。
しかも肝心の救出対象であるラーデもろとも滅ぼしてしまっては、それこそ本末転倒である。
また、メテオリタに言わせればこのサイサクス大陸がある星は『とても小さな星』らしい。
メテオリタが降らせる憤りの隕石の雨、その威力に耐えられずに星ごと壊滅させられたら洒落にならない。
それらの問題を解決するために、メテオリタは『弱くなる修行』、つまりは自分が無意識のうちに放つ強大な力を弱めるために里帰りしていたのだ。
メテオリタが語る斜め上の話に、リンドブルムが脱力したように口を開いた。
『ファフ兄は『母上は里帰りした』としか言ってなかったから、てっきりそうだと思ってたんだけど……違ったのね』
『うん……これでも一生懸命に頑張ったのよ? 向こうで一年ほど修行して、何とか力を制御できるようになったから急いで帰ってきたのに……』
『ママンはママンなりに、パパンのことを思って行動してたのね……でもね、ママン。九百年もお留守にするのは、さすがにちょーっと長すぎない?』
『え? 九百年? どゆこと?』
娘の苦言に、今度はメテオリタが目を丸くして驚いている。
メテオリタにとって今回の里帰りは、体感的に二年程度しか経っていないようだ。
しかし実際には、メテオリタが修行のための里帰りをしてから九百年の歳月が経っていた。
これは、異界とサイサクス世界の時間差問題と同じである。
『ウソーン……こっちでは九百年が経っちゃってるの?』
『そうよー。ママンにはその自覚がなかったの?』
『うん……あ、でも、そういえば……昔、この星に来る前にいた星でも似たようなことがあった、気がするー……』
『それ、どれくらい前の話?』
『ママがもうちょっと若い頃だから……二千歳くらいだったかしら?』
『今から八千年以上は前の話なのね……ママンと話していると、時間の感覚が狂っちゃいそうだわぁ』
何ともスケールが大き過ぎる母娘の話に、ライト達が戦慄しながら小声で話をしている。
「ちょっと出かけたつもりが九百年も経ってたとか、すげー話だな……」
「うん……メテオリタさんの故郷のガラクシア星? 一度行ってみたいなー、とか思ってたけど、絶対に無理そうだね……」
「だな……とんぼ返りで日帰り旅行にしたとしても、こっちの世界で数百年は経ってそうだわ」
「そんな長い年月が経ってたら、サイサクスにいる家族や友達なんて皆死んじゃってて、残っているのはシアちゃんやツィちゃん達のような神樹くらいですよね……」
ゴニョゴニョと会話するライト達。
ライト達は皆好奇心旺盛だし、冒険者たるもの未知の世界に挑んでこそ!と思ってはいる。
だがそれでも、さすがにガラクシア星に行くのは絶対に無理だと思い至ったようだ。
そう、いくら何でもリアル浦島太郎にはなりたくないのである。
するとここで、全てを知ったメテオリタがラーデに向かって頭を下げた。
『ラー君、肝心な時に傍にいてあげられなくて、本当にごめんなさい……これじゃ、ラー君のお嫁さん失格よね……』
頭を下げるメテオリタの目がじわりと滲む。
ラーデの力になりたくて帰郷し、弱体化するための修行をしてきたというのに。
その成果を発揮する場を既に失っていたのだから、メテオリタが落胆するのも無理はなかった。
涙ぐむメテオリタに、ラーデが優しい声で語りかける。
『メテオリタよ、そんなに落ち込むことなどない。今ここで、こうして其方と会えただけでも我は嬉しいのだから』
『ラー君……私のことを嫌いにならないどころか、許してくれるの?』
『嫌いになどならないし、許すも許さないもない。其方には罪など一切ないのだから』
『ラー君……ありがとう……大好きぃぃぃぃ……』
メテオリタを詰問したりすることなく、快く赦すラーデ。
その心の広さに、感極まったメテオリタがポロポロと涙を流している。
しっかり者の年下夫に、おっちょこちょいの姉さん女房のラーデ達。
体格だってメテオリタの方がラーデの倍以上大きいが、デコボコだからこそぴったりと嵌ってお似合いとも言えよう。
お互いを思い遣る夫婦の姿に、娘のリンドブルムだけでなくライト達も感銘を受けながら静かに見守っていた。