作品タイトル不明
第1761話 レオニスとリンドブルムの取引
レオニスとラウルがコテージで晩御飯の支度をしている間、ラーデとリンドブルムはリビングにある『人をダメにするクッション』をメテオリタに見せて解説していた。
『ママン、これはね、人族が生み出したものすごい叡智の一つなのよー』
『…………これが? 叡智???』
『うむ。これは間違いなく人族が作り出した傑作の一つだな。このクッションに 一度(ひとたび) 身を沈めたら、如何なる者も―――例え全知全能の神であろうとも、抗うことなどできぬであろうな』
『?????』
クッションの両脇に陣取り、メテオリタにこれでもか!というくらいにその良さを力説するラーデとリンドブルム。
メテオリタは、クッションが何であるかくらいは一応理解できているようだが、何故夫と娘がそこまで強く推してくるのかがイマイチ分かっていないようだ。
リンドブルムは、ラーデ同様に『人をダメにするクッション』をとても気に入っており、レオニスにこれと同じものを作って譲ってほしい!と頼み込んだ。
そのおかげで、現在リンドブルムの自室扱いとなっている【修験者の間】にもこのクッションを大小各五個計十個をそれぞれ離れた場所に置いていて、その日の気分で寝転ぶ場所を決めているらしい。
大きなクッションでは普段の竜形態、小さなクッションは人化した姿で寝転ぶのが心地良くてお気に入りなのだそうだ。
そしてそれらクッション十個は、全てレオニスが手配していた。
……
…………
………………
『ねぇ、レオニス!このクッションというもの、私も欲しいわ!』
「ン? 何だ、そんなに気に入ったのか?」
『ええ、是非とも私の部屋にもたくさん置きたいの。十個くらい作ってくれる?』
「何ッ、十個だとぅ!? そんなに同じもんをあの一室に置いてどうすんだ!?」
『色と柄、大きさの違うのを部屋のあちこちに置きたーい♪』
「マジかよ……」
それは、かつてリンドブルムがサマエルとともにカタポレンの森を視察しに宿泊した時のこと。
リンドブルムは『人をダメにするクッション』をすっかり気に入り、レオニスにクッションをちょうだい!とおねだりしていた。
しかも一個や二個ではない、十個も欲しいと言うではないか。
ニコニコ笑顔で無茶を言うリンドブルムに、レオニスの目が点になりかけた。
しかし、このおねだりをレオニスが拒否することなどない。
大きさや数量はだいぶおかしいが、品物を作ること自体は然程難しいことではないからだ。
相手はラーデの娘だし、このくらいのことなら叶えてやれんこともないからな……と考えたレオニス。
翌日からクッション作りの手配を始めた。
クッションに使用する布地と加工は、レオニスがオーガ族に取引を持ちかけた。
超特大クッションを作るための諸々(大きな生地の調達、生地作りや裁縫作業に必要な広い作成場所の確保、そのための労力等々)。
これらを鑑みると、人族のレオニス達がちまちまと作るよりも巨躯を誇るオーガ族にオーダーを出すのが最善!という訳だ。
織機は織女がいるイヴリン宅で見せてもらい(イヴリン母が織女)、織機の全体図と構造のポイントを写し書きしてオーガの里で新たに五つ作った。もちろん大きさはオーガ族用だ。
本格的な織機五つを作るついでに、子供が遊びながら織れるミニサイズも五つ作った。
これがとにかく大好評で、オーガのご婦人方は率先して生地作りに励み、子供達もリボン作りで楽しそうに生地作りを学んでいるという。
さらには族長ラキまでもが「この布地を我が里の特産品にして、次回の行商にも持たせよう!」と大張り切りしていた。
そうして出来上がった、たくさんのクッション。
その代金は、リンドブルムの鱗との交換とした。
リンドブルムは人族が使う金銭など無縁だし、何かと交換して人里ですぐに換金できそうなものといったら鱗が一番最適だからである。
【修験者の間】でクッションの件で話し合いをしていたレオニスとリンドブルム。
レオニスがふと地面を見ると、地を這う蔦の隙間やその下に鱗らしきものが大量に落ちていることに気づいた。
「……おお、よく見りゃ床のあちこちに砕けた鱗がたくさんあるな。これ、全部リンドブルムの鱗か?」
『そうよー。ここには基本私しかいないし』
「そりゃそっか。じゃあ状態が良さそうなのを選んで、一つもらっていっていいか?」
『いいわよー。てゆか、好きなだけ持っていってもいいわよ? 私の身体から自然に抜け落ちた鱗なんて、ぶっちゃけゴミと変わんないし』
「そりゃありがたい。少しでも綺麗な状態のものを選ばせてもらうとしよう」
クッションと鱗の物々交換が成立した。
リンドブルムは鱗をゴミと言うが、決して侮ることはできない。
彼女はただの竜族ではない。竜の祖メシェ・イラーデの第二子にして長姉。そんじょそこらのドラゴンとは格が違う。
当然その鱗はとても貴重なものであり、普通なら手に入れることなどまず絶対に不可能な極上の逸品なのである。
『……あ、そういやこないだあっちの方で、鱗が何枚か抜けたばかりだわ。あっちの方に行けば、新しめの鱗が落ちてると思うわよー』
「なら、そっちで探してみるか」
こんな会話をしつつ、報酬としてもらう鱗を探すレオニス。
至るところで落ちている鱗は、最大のもので畳一枚分を優に上回る。
色は赤紫色なのだが、少々くすんでいて艶がない。何故かというと、その鱗はリンドブルムの身体から自然に剥げ落ちたものだからだ。
しかし、試しにレオニスの手のひらサイズの鱗を拾ってタオルで拭いてみると、くすみが少し取れて輝きが増した。
この程度の汚れなら、もっとちゃんと磨けばすぐに綺麗になるだろう。
そうしてレオニスは、これはと思う鱗を五枚選んで拾い持ち帰った。
どれも鱗の形が完全に残っている、最良の状態の品だ。
そしてそれらを、レオニスはまず魔術師ギルドに持ち込んだ。
ドラゴンの鱗は、魔導具の材料としても広く使われているからだ。
そうしたレオニスの読み通り、魔術師ギルドが大歓迎で高値買取してもらえた。
特にピースが大喜びして、その場で 師匠(フェネセン) 直伝の『クネクネの舞』を披露するほど狂喜乱舞していたくらいだ。
そのお値段、何と一枚につき500万G。日本円にして5000万円である。
一枚5000万円というと破格の値段に思えるが、大きさと重量(約1kg)から言えば実は格安の部類に入る。
下位ドラゴンの尻尾ですら1kgあたり1000Gの買取価格がついているのだ、リンドブルムの鱗ならその5000倍くらいして当然なのである。
リンドブルムはお気に入りのクッションが手に入って大満足。
クッション作りに貢献したオーガ族は、新たな技術の獲得と特産品が生まれて万々歳。
魔術師ギルドは超貴重な竜の鱗が入手できて大歓喜。
レオニスも皆の役に立てた上に、金銭的にも大幅に余剰が出て大儲け。
こうして全者Win-Winの取引により、リンドブルムの部屋である【修験者の間】にはカラフルでポップな色合いの『人をダメにするクッション』がそこかしこに置かれるようになった。
………………
…………
……
如何に『人をダメにするクッション』が優れた品であるかを、熱く語るリンドブルム。
訝しげに首を傾げるメテオリタに、リンドブルムはなおも熱弁を振るう。
『とにかくね、ママンも一度あのクッションに身を委ねてみるといいわ。そうすれば、私の言っていることが分かるようになるから』
『いや、リンドブルムよ、それは晩御飯を摂った後にすべきだろう。今アレを体験してしまったら、晩御飯を食べられなくなってしまう』
『あ、それもそうね。じゃあ続きは晩御飯の後でしましょうか!』
『……貴方達は一体何を言っているの?』
メテオリタにクッション体験をさせようとするリンドブルムを、ラーデが引き止めた。
確かにラーデの言う通りで、今彼らの近くでレオニスとラウルが晩御飯の支度をしてくれているのに、今ここでメテオリタが『人をダメにするクッション』に陥落してしまったら晩御飯が食べられなくなってしまう。
それはさすがにマズいので、晩御飯を食べた後にしよう!となった。
そんな話をしているうちに、マキシを呼びに行っていたライトが帰ってきた。
「ただいまー。マキシ君とフォルを連れてきたよー」
「ただいまでーす」
「フィィィィ」
「「『おかえりー』」」
任務遂行したライトと仕事から帰ってきたマキシを、レオニス達が快く出迎える。
この頃にはレオニスとラウルの準備も整い、もう晩御飯が食べられる状態になっていた。
「ラーデ、晩御飯の支度ができたぞー。皆でこっちに来ーい」
『うむ。メテオリタ、リンドブルム、我らも行こうぞ』
『『はーい♪』』
ラウルの呼びかけに、ラーデが応えてリンドブルム達に声をかける。
キッチンカウンターに向かってふよふよと飛んでいくラーデの後を、リンドブルムとメテオリタがいそいそとついていく。
そこにライトとマキシ、フォルも合流し、皆で晩御飯を食べていった。