軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1732話 時間潰しを兼ねた勉強

午前十時から始まる『冒険者のイロハ講座』の待ち時間に、総本部内の依頼掲示板を見に行ったライト達。

掲示板の前にもそこそこ人集りがあって、たくさんの冒険者達が仕事を探している様子が伺える。

「お、ラウルの兄ちゃんじゃねぇか、久しぶり!」

「今日はライトもいるのか、もしかして二人で仕事すんのか?」

「何ィ? ライトの友達だとぅ?」

顔馴染みの強面冒険者達が、ラウルやライトを目敏く見つけて続々と群がってきた。

仲間達の気安い声かけに、ラウルは「おう、久しぶり」、ライトは「今日は仕事じゃなくて、友達といっしょに『冒険者のイロハ講座』を受けに来たんですー」等々和やかに会話をしている。

しかし、冒険者登録してまだ日も浅いジョゼにとってはたまったものではない。

ニヨニヨとした胡散臭い笑顔の強面冒険者に、幾重にも取り囲まれたジョゼ。

その顔がみるみる青褪めていき、涙目になりつつ「ヒィィィィ……」と声にならない声でビクビクしていた。

そんなジョゼに、気の良い強面冒険者達はライト達と同様の態度で接した。

「おう、坊っちゃん。ライトの友達で、もう冒険者登録してんのか?」

「は、はい……」

「そんなら俺らとも友達だな!」

「へ???」

「坊っちゃん、名前は何てぇんだ?」

「ジョ、ジョゼ、ですぅ……」

「そうかそうか、ジョゼか!俺達とも仲良くしてくれよな!」

「は、はいぃぃぃぃ……」

強面冒険者達が、ジョゼの頭に手を置いたり肩を組んだりしながら親睦を図り始めた。

もちろん強面冒険者達に、悪意など微塵もない。本当にジョゼと仲良くなりたいだけだ。

ただし彼らの顔面圧迫偏差値があまりにも高過ぎて、その善意や心根の優しさが全く伝わらないのが玉に瑕なのだが。

若く新しい仲間と存分に触れ合えて満足したのか、冒険者達が次第にばらけていく。

ある者は依頼掲示板の依頼書を取って窓口に向かい、ある者は遅れて来たパーティーの仲間と合流し、ある者は遅い朝食を摂るべく直営食堂に入っていった。

ようやく解放されたジョゼ、はぁぁぁぁ……と大きなため息をついた。

「こ、怖かったぁーーー……」

「ジョゼ君、お疲れさま。でも、ああ見えて皆良い人達ばかりだから。今から先輩達と仲良くなっておくと、いろんなことを教えてもらえてすっごく助かるよ!」

「そ、そうなんだね……てゆか、ライト君もさっきの人達と仲良いの?」

「うん。もともとレオ兄ちゃんとも親しい人達だしね」

「そっか……僕もライト君のように、先輩達に可愛がってもらえるようにならないとね!」

「そうそう!その意気だよ!」

一気に気が抜けていたジョゼだったが、ライトのアドバイスを聞いて奮起する。

この先ジョゼが本当に冒険者としてやっていくかどうかは全く未定だし、ジョゼ自身もまだ決めかねている。

しかし、ここで培った人脈や鍛えた対人スキルは他の道に進んでもきっと役立つはずだ。

継ぐべき領地も家業もないジョゼにとって、冒険者の道はかなり魅力的かつ重要な就活先なのである。

「さて、そしたら掲示板にある依頼を見てみよっか」

「うん!」

ライトの誘いにジョゼが破顔しつつ頷く。

そうして三人は、目の前にある巨大な掲示板の前で依頼書の吟味を始めていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「ジョゼ君の魔力測定は、地属性と風属性が出たんだっけ?」

「うん。水晶玉を触ったら、緑色と茶色になったんだ。緑色は風属性で、茶色は地属性だって教わったよ」

「そっかー。風魔法と土魔法は攻撃や防御に使えるし、戦闘じゃなくても生活の中で便利に使えるからいいよねー」

「だよねー。それは僕もキャンプの教官から聞いてたから、結構嬉しかったんだよねー」

掲示板の依頼書を眺めながらジョゼの持つ素質、魔力測定の結果の話などをしている。

自分が持つ魔力の傾向を知ることは冒険者の第一歩。それによって受けられる依頼と受けにくい依頼が分かるし、絶対に欠かせない検査の一つである。

「てゆか、ジョゼ君はまだジョブ適性判断はやってないんだよね?」

「うん……冒険者登録は早いうちにした方がいいと思ってすぐにしたけど、ジョブ適性判断はラグーン学園を卒業してからでも問題ないしね」

「そっか、それもそうだよね」

俯きがちに語るジョゼに、ライトもそれ以上追及はしなかった。

将来の進路を決めるなら、ジョブ適性判断は欠かせない。

しかしジョゼは、昨年十一月にラグナ神殿で起きた謎の爆破事件に巻き込まれた被害者の一人。

あの事件はハリエットの兄、ウィルフレッドのジョブ適性判断を見学したことが起因していた。

それだけに、ジョゼも十歳の誕生日後すぐにジョブ適性判断を行う気にはなれなかったようだ。

そうしたジョゼの複雑な心境を思い遣りつつも、ライトは努めて明るく振る舞う。

「そしたらさ、この依頼なんか将来的に受けられるようになるかもね」

「ン? どれどれ? ……あー、確かにいいかもー」

「でしょでしょ?」

「でもこれ、勤務地がラグナロッツァじゃなくてビナーなのがなー……」

ライトが一枚の依頼書を指差し、それをジョゼが目を通して頷いている。

その依頼書は『薬草園と牧草地の管理』というもので、栽培可能な薬草を育てたり牧草地に生える草を刈る人を募集していた。

草刈りなら風魔法を使うのが定番だし、薬草園なら土壌管理など土魔法がかなり使えそうではある。

ただしその勤務地が『ビナー』になっているのが、ジョゼにとってはネックらしい。

ジョゼはいつも自分の家のことを『万年平子爵』と称しているが、それでも一応ジョゼがリール家の継嗣。

跡取り息子がラグナロッツァを離れるのは、父母がいい顔をしないだろう。

他にも『ラグナロッツァ外壁補修』『ラグナロッツァ近郊でビッグワームが掘った穴を埋める仕事』などを見ていくライト達。

世の中には本当に様々な仕事があるんだ、ということを実感していく。

一方でラウルも様々な依頼書を見ていた。

「ほーん、下水道壁面清掃、報酬金額が前より上がってるな」

「そうなの? 報酬いくらになってる?」

「東西南北の区域、どれでも一ヶ所丸ごとやって1800G」

「やッす!前はいくらだったっけ?」

「最初は1000G、ポイズンスライム事件以降に値上がりして1500G」

「それからまだ300Gしか上がってないんだ……ホント、ケチなお役所なんだね……」

それは、かつてラウルが酷い目に遭った下水道壁面清掃の依頼書。

当時に比べたら800Gの増額となっているようだが、相変わらず改善意識の低さに呆れる他ない。

今はまだレオニスの無償定期点検(事件後から三年間、年四回のラグナロッツァ全下水道管内の無償定期点検)の保証期間内だが、それが切れた時に一体どうする気なのだろうか。

他にも『求む!乙女の雫(属性の種類問わず)』も貼られているが、こちらの金額は何と5000万Gに値上がりしていた。

後でクレナに聞いた話では『とある貴族のせいで、今後の鑑競祭りでの乙女の雫出品が絶望的になったという噂が流れたんですぅー』『それを知った依頼主達が慌てて、それこそ競うように挙って報酬額を引き上げていったんですよねー』ということらしい。

そこら辺の裏事情を知るライトとラウルは、頬を引き攣らせながら笑うしかない。

そうしてライト達が依頼掲示板の前で過ごしていると、クレナが声をかけてきた。

その手には、新しく貼り付けると思しき依頼書数枚がある。

「皆さん、すごく熱心に掲示板を見ていらっしゃいますねぇー。仕事熱心なのはいいことですぅー」

「あ、クレナさん。新しい依頼書が追加されるんですか?」

「はい、商隊の護衛二件と薬草採取が三件、他に迷子の老犬探しと街路樹の入れ替え依頼が一件づつ入りまして」

「なかなか忙しいんですねぇ」

「ええ、なかなか忙しいんですぅー」

ライトと会話をしながら、新しい依頼書を手早く掲示板に貼り付けていくクレナ。

テキパキと仕事をこなす姿は実に美しく、何でもできるスーパーウルトラファンタスティックパーフェクトレディー!であることを再認識させてくれる。

「……あ、そういえばライト君達は『冒険者のイロハ講座』を受講なさるんですよね? そろそろ大会議室に向かってもいい頃合いですよー」

「え? ……あ、ホントだ、もう十五分前だ」

クレナの助言に、ライトが驚きながら大広間にある時計を見遣る。

時刻は九時四十五分を指していて、講座の開催場所である大会議室が開放される五分前になっていた。

「ジョゼ君、ラウル、そろそろ移動しよっか」

「うん!」

「おう」

ライトの呼びかけに、ジョゼとラウルが快諾する。

そうして三人は、大広間から二階にある大会議室に移動していった。