作品タイトル不明
第1721話 空中追いかけっこの勝負の行方と心からの礼
レオニスとルディ、そしてミーナも混じった転職神殿上空での空中追いかけっこ。
最初の鬼はレオニスだったが、開始後すぐにルディが捕まってしまった。
その後はレオニスの巧みな誘導により、鬼はずっとルディとミーナの往復となっていた。
『レオニス君は、空を飛ぶのがとてもお上手なんですね。あんなに上手に飛べて、羨ましいなぁ』
「ぁー……レオ兄ちゃんはシュマルリの竜族と仲良しで、よく模擬戦とかしてるからね。目覚めの湖やコルルカ高原なんかでも、水神や鷲獅子相手にいっつも追いかけっこしては結局勝っちゃうし」
『まぁ、それでしたら空の飛び方も自然と上達するというものですね。ライトさんもその特訓方法を取り入れるのですか?』
「うーーーん……レオ兄ちゃんのやり方を真似ていたら、ぼくの命がいくつあっても足りない気がする……」
空中でビュンビュン飛び回る三者を、お菓子や飲み物片手にのんびりと眺めるライト達。
ハドリーのレアは飛ぶにしてもふよふよとした飛び方で、間違ってもレオニス達のように高高度の空を飛ぶことはできない。
そのため、レオニスや兄姉の勇姿が眩しくも羨ましいらしい。
そしてミーアはミーアで、如何に勇者候補生を強く鍛えられるかを考えているかような発言をしている。
しかし、まだ冒険者登録したばかりのライトにレオニスを見習えというのは、あまりにも無謀かつ残酷というもの。
如何にライトが既に人外ブラザーズの弟とはいえ、十歳のうちから人外ブラザーズ兄と同等の扱いをしたらさすがに可哀想である。
ライト達がそうしてのんびりと話をしているうちに、ミーナがヘロヘロになってテーブルに戻ってきた。
ヨロヨロのヘロヘロになりながら舞い降りてきて、自分の座席に着いたかと思うとテーブルに突っ伏した。
『ぅぅぅ……もう、ダメぇぇぇぇ……』
『あらまぁ、ミーナ、おかえりなさい』
『ミーナお姉様、おかえりなさーい』
「ミーナ、お疲れさまー。レオ兄ちゃんには勝てなかった?」
『はいー……さすがは、主様の……育ての、親御様、ですぅー……』
草臥れきったミーナを、ライト達が労う。
レオニス達が空中追いかけっこを始めたのが約三十分前。
三十分も全力で飛び回っていたら、そりゃ疲れるだろうとライト達も思う。
というか、レオニス相手によくぞ三十分も保ったものだとすらライトは思う。
しかしミーナ自身はそうは思っていないようだ。
『ぁーーー……ルディに、負けて、レオニス君にも、負けて……こんなんじゃ、全ッ然、ダメですぅー……明日から、体力、作りに、励まなければ……』
「うん、まぁね、体力作りをするのはいいことだよね」
『ミーナ、無理しない程度にお願いしますね?』
『はいぃぃぃ……』
『ミーナお姉様、いっぱい頑張りました。いい子、いい子』
『レア、ありがとうねぇ……』
己の力量不足を痛感したミーナ、基礎体力作りに励む決意をする。
そんなミーナをライトは肯定し、ミーアは心配そうに釘を刺し、レアは小さな手でミーナの頭を撫でている。
何故レアがミーナの頭を撫でているかというと、実はハドリーは治癒魔法に相当する特技を持っているのだ。
と言っても極大魔法のような強力なものではなく、人族が使う魔法で言えば初級以上中級未満程度のものなのだが。
そしてミーナの脱落から三十分後、今度はルディがテーブルの方に降りてきた。
どうやらルディもギブアップのようだ。
『ぅぅぅ……もう、ダメぇぇぇぇ……』
『あらまぁ、ルディ、おかえりなさい』
『ルディ兄様、おかえりなさーい』
「ルディ、お疲れさまー。ルディでもやっぱりレオ兄ちゃんには勝てなかった?」
『はいー……さすがは、パパ様の……育ての、親御様、ですぅー……』
ミーナに続き、ルディまでもが脱落するとは。
そしてルディがテーブルに戻ってきてから程なくして、レオニスが降りてきた。
「ただいまー」
「レオ兄ちゃんもおかえりー。今日もレオ兄ちゃんの勝ちだねー」
「おう!天使だろうと龍だろうと、追いかけっこなら誰にも負けんぞ!」
勝利の祝杯よろしく、腰に手を当てながらエクスポーションをぐい飲みするレオニス。
相変わらず誰に対しても負けず嫌いである。
しかし、レオニスは単なる負けず嫌いではない。
エクスポーションを飲み干した後、レオニスはミーナとルディに手を翳して回復魔法をかけ始めた。
「ミーナもルディもお疲れさん」
『レオニス君、本当にタフですねぇ……』
『僕も、レオニス君のことはパパ様からよく聞いていましたが……こんなにすごい人だとは、想像以上でした』
レオニスの回復魔法に、それまでヘロヘロだったミーナとルディが次第に元気を取り戻していく。
それを見たミーアとレアが、驚嘆しながらレオニスに話しかけた。
『まぁまぁ、うちの子達の方から無理を言って遊んでいただきましたのに……回復魔法まで施していただけて、ありがとうございます』
「いや、何、気にすんな。俺も楽しかったし」
『レオニス君、今度はレアとも遊んでください!』
「おう、いいぞ。何して遊ぶ?」
礼を言うミーアと自分とも遊んで!と言うレアに、レオニスが微笑みながら応える。
そしてライトはライトで、レオニスのことを本当にすごい人だ、と内心で思う。
追いかけっこ一つで転職神殿組の全員とあっという間に仲良くなってしまうのだから。
相手の土俵に立ち、懐に飛び込んでぶつかっていって最後には打ち解ける―――レオニスだからこそ成せる業に、ライトもまた惚れ惚れとしていた。
「レオ兄ちゃんも、お疲れさま!おかわりのエクスポ要る?」
「お、ライト、気が利くじゃないか。せっかくだからいただこうか」
「はい、どうぞ!」
「おう、ありがとうな」
ライトが両手に持ち差し出したエクスポーションを、レオニスが嬉しそうに受け取ってすぐに開封し飲み始めた。
そうしてあっという間に二本目のエクスポーションを飲み干したレオニス。
ぷはーっ!と一息つきながら、皆に話しかけた。
「あんだけ飛び回ったら、少し腹が減ってきたな。ちょいと早めの昼飯を摘んでもいいか?」
「うん、いいよー。ミーナやルディもお腹減ってるだろうし」
『はいー……お腹ぺこぺこですぅー』
『僕もお腹ぺこぺこですぅー』
『レアも何だかお腹ぺこぺこな気がしますぅー』
『まぁまぁ、この子達ったら……』
腹減りな弟妹達に、長姉のミーアが困ったような顔をしている。
空中追いかけっこで散々体力を消耗したミーナやルディはともかく、地上でずっとのんびり過ごしていたレアまで腹ぺこ気分とは一体どういうことだろう。
何でもかんでも姉や兄の真似をしたいお年頃なのかもしれない。
そんなやり取りをしている間にも、レオニスが空間魔法陣を開いておにぎりやハンバーガーを出していき、ライトは全員分のおしぼりや飲み物を出している。
あっという間に早めの昼食の準備ができていき、準備万端整ってから皆で美味しいお昼ご飯を食べていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
お昼ご飯を食べた後は、ミーナの案内でレオニスが改めて旧教神殿跡地周辺の散策に出かけたり、ルディやレアの宝物を披露したり、楽しいひと時を過ごした。
その間ライトは、いつヴァレリアが現れるか気が気ではなかったが、午後の三時を過ぎても結局現れることはなかった。
「……さて、だいぶ長居させてもらったが、そろそろ帰るか」
「うん。ミーアさん、ミーナ、ルディ、レア、今日はいっぱいもてなしてくれて本当にありがとう!」
『まぁ、主様、もう帰ってしまわれるのですか?』
『もっともっと遊びたかったです……』
『レアもですぅ……』
『皆、わがままを言ってはいけませんよ。今日だってたくさん遊んでいただいたでしょう?』
『『『……はい……』』』
別れを惜しむミーナ達をミーアが窘めるも、その口調は然程強くない。
ミーアは過去に散々勇者候補生と接した経験があるが、ミーナ達三人が完全な部外者と接するのはこれが初めてのこと。
普段はライトかヴァレリアしか来ないこの場所で、それ以外の者が訪ねてくることなどまずあり得ない。
だからこそ、使い魔達にとって今日のレオニスの訪問がとても物珍しくて楽しかったことを、ミーアもきちんと理解していた。
『レオニスさん、もしご迷惑でなければまた遊びにいらしてください。大したおもてなしもできませんが、いつでも歓迎いたしますので』
「ありがとう。俺もそれなりに忙しいから、そんなに頻繁に遊びに来ることはできんと思うが……また立ち寄らせてもらおう。……ああ、それともう一つ。最後になっちまってすまんが、改めて あの時(・・・) の礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
『……どういたしまして。私達の使命は、勇者候補生のお役に立つことですから』
改めてミーアに向けて頭を下げて礼を言うレオニス。
ミーナやルディ、レアは何のことか分かっておらず、きょとんとした顔をしているが、ミーアには何のことかすぐに分かった。
それは、ラグナロッツァのビースリー勃発未遂事件の時。
コヨルシャウキとともに異空間に渡り、行方不明となったライトを取り戻す手段などレオニスには欠片もなかった。
そんな絶望に満ちていた時に、偶然立ち寄ったのがここ旧教神殿跡地。
ここでのヴァレリアとミーアとの邂逅は、レオニスにとってまさしく唯一無二の一縷の望みとなった。
レオニスはミーアに対して、その時の礼を言っているのだ。
深々と頭を下げるレオニスに、ミーアが穏やかな笑みとともに嬉しそうに応える。
ここでミーアはライトの名を出さず、『勇者候補生』とだけ言及した。
これはNPCであるミーアにとっての真実であり、決して曲げられない使命。
ミーアが尽くすのはライトだけではない。ライトを含む全ての勇者候補生が対象となっているからだ。
そうしたミーアの言葉に、レオニスがこれ以上追及することはない。
その意味合いが全く気にならないと言えば嘘になるが、それでもその真実を追及するのは今ではない。
ライトが自分の口から説明するまで待つ。そう決めたのは、他ならぬレオニス自身なのだから。
ニッコリと微笑むミーアの言葉に、レオニスも頭を上げて小さく微笑みながら頷く。
そんな二人の会話の真意など、キニシナイ!とばかりにミーナ達が大喜びで参入してきた。
『また主様といっしょにお越しくださいませ!』
『次も追いかけっこしましょうね!』
『再びお会いできる日を、心から楽しみにしてますー』
レオニスに向かってズズイッ!と迫るミーナ達に、レオニスも「おう、また来るぞ」「次も俺が勝つからな?」「俺も楽しみにしてるよ」等々、丁寧に答えている。
「じゃ、またな!」
『『『さようならー!』』』
別れの挨拶を済ませたライトとレオニスは、来た時と同じ道を駆け下りていった。