作品タイトル不明
第1720話 ルディのおねだりとミーアの深い感謝
「ミーナ、だったか? 天使がこんな山奥に住んでるのは珍しいことだと思うんだが、生まれも育ちもこの山なのか?」
『はい!主様の深い愛情によって、私はミーアお姉様のもとに生まれました!』
「??? ……ルディも俺の知るドラゴンとは違って、どちらかと言うと青龍の系統のようだが……青龍という存在は知ってるか?」
『青龍……ああ、パパ様が孵化をお手伝いしたという神殿守護神、でしたっけ? パパ様は、本当に卵の孵化がお上手ですよね!』
「ン、そうだな……」
テーブルで和気藹々?と会話をするレオニスとミーナとルディ。
レオニスは草餅やら大福をもっしゃもっしゃと食べながら、ミーナの意味不明な答えにレオニスは首を傾げ、ルディの答えには若干思案顔になり考え込む。
いくら真剣に考え込んだところで、和菓子を頬張りながらでは全く緊張感に欠けているのだが。
一方でレオニスの横に座っているライトは、内心ではハラハラしっぱなしだ。
妙なところで勘の鋭いレオニスのこと、ミーナ達との会話の中で矛盾点やらおかしなところに気づいて追及でもされたらどうしよう……と気が気ではない。
するとここで、レオニスの視線がふとテーブルの上に座るレアに向けられた。
「その草木の精霊……レアはハドリーだよな?」
『はい。レアはハドリーという種族です』
「そうか。天空樹のエルちゃんの話だと、ハドリーは滅多に見られない珍しい種族だと聞いたが……ここにも一体いたんだな」
『お客さん……パパのお兄ちゃんは、ハドリーのことを知っているのですか?』
「ああ。エルちゃんってのは神樹の一番上のお姉ちゃんで、うちの近所にいる神樹の一番下の妹はツィちゃんっていうんだ。でな、ツィちゃんのところにもたくさんのハドリーがいて―――」
ハドリーのことを知っているというレオニスの話に、レアが目をキラキラと輝かせて話に聞き入っている。
その一方でレオニスは、凡そのことを察していた。
神樹のツィちゃんと旧教神殿跡地、どちらもライトが深く関わっている場所で両方にハドリーがいるというのは、決して偶然なんかではないだろう。
それに 黄金龍(ルディ) も『パパ様は卵の孵化が本当に上手』と言い切っていた。
これは、ライトが卵を孵化させる場面をルディも直接見たことがある、ということ。
おそらくはこのレアというハドリーも、ライトがこの旧教神殿跡地内であの茶色い卵をここで孵化させたに違いない―――
レオニスはルディとのたった数言の会話だけで、ここまで察していた。
しかしレオニスは、それを 噯気(おくび) にも出さずに気づかないフリをし続ける。
ライトが未だ語らない秘密を、今ここで無理矢理暴くつもりなど毛頭ないからだ。
この旧教神殿跡地内にいる者達は、全員ライトに好意的であり決して害になることなどない。それくらいのことは、実際に会話を交わしたレオニスにも十分に伝わっていた。
ならば彼らの秘密を無理にこじ開けるような真似はせず、自分も友好的な関係を築くべきだ、とレオニスは瞬時に判断していた。
するとここで、今度はレアがミーアに向かって問うた。
『ミーアお姉様、パパのお兄ちゃんというのは、レアにとってどういう存在になるのでしょう?』
『普通一般で言えば『伯父』に当たりますね。ただし、ライトさんとレオニスさんは血縁関係ではないと聞いていますが』
『では、『レオニス伯父様』と呼ぶべきですか?』
「何ッ!? お、おじ様だとぅ!? そそそそれはさすがに勘弁してくれぇ……」
レアとミーアの会話に、レオニスがガビーン!顔でショックを受けている。
レオニスだってライト同様、クロエからはパパと呼ばれて慕われているし、今更パパ呼ばわりくらいでは何とも思わない。
しかし、レアからのおじ様呼ばわりはさすがに精神的にくるものがあるらしい。
「ハドリーのおちびちゃんよ、頼むから俺のことは『レオニス君』とでも呼んでくれ。さすがに未婚の身で伯父様呼ばわりはキツい……」
『レオニス君、ですね。分かりました』
がっくりと項垂れながら懇願するレオニスに、レアが事も無げに応えている。
そんな二人の様子に、ミーナは『まぁ、レアったら羨ましい。そしたら私も『レオニス君』とお呼びしていいですか?』と言い、ルディも『では僕も『レオニス君』とお呼びしたいです!』と言っている。
そうしたミーナ達の願いに、レオニスは項垂れたままコクン、コクン、と頷き無言で承諾していて、これにはライトも笑いを堪えるしかなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうしてだんだんとレオニスとも打ち解けていくミーア達。
ルディがはたとした顔でレオニスに問うた。
『そういえば、レオニス君はパパ様と同じ冒険者なんですよね?』
「ああ。一応ライトの先輩ではある」
『金剛級という、最強の冒険者だともお聞きしていますが……』
「それも一応本当」
ルディのいくつかの質問に、レオニスが素直に答えている。
それは決してライトの話やレオニスのことを疑っているのではない。
ルディの目的は他にあった。
『でしたら!是非とも今日は、僕と遊んでくれませんか!?』
「ン? 何して遊ぶんだ?」
『空で追いかけっこ!』
「ブフッ」
目をキラキラさせながら、レオニスに追いかけっこをねだるルディ。
彼のおねだりに、ミーナも乗り出した。
『ああ、主様からいつも聞いております!『うちのレオ兄ちゃんはね、水神のアクアや青龍のバルトとよく追いかけっこで遊んでてね、負けるどころか勝つことの方が多いんだよ!』って!』
『野生の鷲獅子とも空中戦で追いかけっこして負け知らずだとか……』
『ライトさんの育ての親をなさるだけあって、ものすごくお強いのですねぇ』
レオニスのいる席側に身を乗り出すミーナに、レアやミーアまでもが追い打ちをかける。
もちろん皆それらの逸話を疑ってなどいない。
ライトの言葉は全て彼ら彼女らの中で真実なのだから。
そしてそれは、曇りなき笑顔が証明していた。
「ライト……お前、ここでどんだけ俺のこと話してんのよ?」
「ぃゃー、ここにいる皆は基本的にあまり遠出しないから……外の話をするだけで、すっごく喜んでくれるんだよね」
「ン……そうなのか」
一度はライトのことをギロリンチョ!と睨んだレオニス。
しかし、申し訳なさそうに苦笑いしつつ理由を語るライトの話に、レオニスの勢いが急速に薄れていった。
ライトは『あまり遠出しないから』と言葉を濁したが、実際のところは『遠出できない』のであろう。
旧教神殿跡地という場所柄や、エルフの巫女、力天使、黄金龍、ハドリーという種族的にも人目を引きまくる。
もし彼ら彼女らが遠出などして他者に目撃されようものなら、それだけで人里は大騒ぎになること請け合いだ。
そんなことになるくらいなら、ここから一歩も外に出ずひっそりと暮らした方が絶対にマシだろう―――
レオニスのそうした推測は、多少ズレていたが当たらずとも遠からず、といったところだった。
そしてレオニスは、己の中の気まずさを払拭すべくルディのおねだりを受け入れることにした。
「……よし、ルディ、じゃあ俺と追いかけっこするか」
『うん!レオニス君、よろしくね!』
『あ、ルディ、いいなー。私も混ざっていい?』
「何だ、天使の姉ちゃんも追いかけっこしたいのか?」
『はい!……って、私の名はミーナですぅー』
「ハハ、すまんすまん、ミーナな。よし、覚えたぞ」
ルディとの追いかけっこに乱入してきたミーナ。
レオニスから名前呼びではなく『天使の姉ちゃん』呼ばわりされたことに、頬をぷくーっ!と膨らませながら速攻で訂正をしている。
彼女にとって『ミーナ』という名は宝物にも等しいもの。
生みの親であるライトから賜り、その由来は敬愛する転職神殿専属巫女ミーアの名。
大事な人達との繋がりを示すものだけに、適当な扱いは絶対に許さないのである。
「じゃあ、まず誰が鬼をする?」
『ここはじゃんけんで決めましょう!』
「じゃんけん、だとぅ……ライト、お前、天使や龍にそんなこと教え込んでんの?」
「『『……(グッ!)……』』」
追いかけっこの鬼をじゃんけんで決める!というルディに、レオニスが呆れたような顔でライトを見遣る。
そんなレオニスに、ライトとミーナ、ルディが親指を立ててサムズアップ!で応えている。
人型のミーナはともかく、体格に比べて腕が短く手がとても小さいルディでもサムズアップして見せた。これならじゃんけんも問題なくできるであろう。
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
レオニスの掛け声に合わせ、三者が同時に手を出す。
レオニスがパー、ミーアがチョキ、ルディもチョキ。
人族 v.s 天使 v.s 東洋龍、サイサクス史上でも珍しい異種族対抗じゃんけん勝負はレオニスの一人負けとなった。
パーを出した右手の手首を左手で握りしめながら、悔しそうに俯き打ち震えるレオニス。
その前で、ミーナとルディが小躍りしながら勝利の舞を踊っている。
すると、レオニスがガバッ!と頭を上げた。
「よーし!そしたらすぐに始めるぞ!攻撃魔法の使用は一切禁止な!」
『『はーい♪』』
「俺が今から十数える!十になったら追いかけっこ開始だ!」
『『はーい♪』』
「十、九、八、七…………」
レオニスの追いかけっこスタート宣言に、ミーナとルディが速攻で空中に飛び出していった。
それと同時にレオニスが席から立ち、カウントダウンをしながらテーブルから歩いて離れていく。
秒数のカウントは正確で、早くも遅くもない。
こんなところでも勝負に公平を期すレオニスである。
「……三、二、一、ゼロ!」
カウントがゼロになった途端、レオニスがロケットダッシュで空に飛んでいった。
今日もやる気満々である。
そんな三人の様子を、ライト達はのんびりと見ていた。
『ミーナとルディの遊び相手をしてくださるなんて、レオニスさんはとても慈悲深い御方なのですねぇ』
「ぃゃー、そんな御大層なもんじゃないと思いますよ? レオ兄ちゃんは、追いかけっこでも勝負は勝負。例え遊びであろうとも、勝敗がかかったことには常に全力で挑む!という人ですから」
『それでもありがたいことです。あの子達が全力を出せる場面など、それこそ滅多にないのですから』
「まぁ、そうですね……」
レオニスを絶賛するミーアに、ライトが照れ臭そうに反論している。
しかしミーアの言うことも尤もで、ミーナやルディが全力で他者にぶつかれることなど滅多にない。
そうした貴重な経験をレオニスはさせてくれている、このことにミーアは深く感謝しているのだ。
鬼役のレオニスが、天使のミーナや黄金龍のルディを相手に猛烈な勢いで追いかけ続ける。
三者の熾烈な空中戦を、ライトとミーアとレアは地上でのんびりと観戦していた。