作品タイトル不明
第1718話 今年最後の大掃除とお墓参り
レオニスがラグナロッツァ第一刑務所でクレイグと面会した翌日。
ライトとレオニス、二人で転職神殿を訪れるために朝から出かけていた。
まずはディーノ村にある借家、ライトの父母の家に行く。
ここでまた今年最後の掃除や家の手入れ、草むしりなどをしていく。
「はぁー、あと三日で今年も終わりだなんて……ホンット、一年が過ぎるのってあっという間だよねー」
「全くだ。特に今年はライトの冒険者登録があったりして、いろいろと忙しい一年だったなー」
「ぼくも早く一人前の冒険者になりたいな!」
「それもいいが、今はラグーン学園での勉強と友達作りに励めよ。そういうのは、今しかできないことなんだから」
「うん!」
二人で家の窓を全部開けて空気を入れ替えたり、若干溜まっている埃をライトが掃いて塵取りでまとめたり、若干傷んできた屋根をレオニスがベニヤ板などで修復したり。
二人して思い入れのある家の手入れに勤しむ。
最後は家の鍵をかけてから草むしり。
といっても、この冬の時期にはあまり草も生えていないのだが。
何故この寒い時期にまで丁寧に草むしりするかというと。ひとえに三日後に迫る大晦日のため。
そう、この借家周辺にも聖なる餅が降ることが分かったため、少しでも綺麗な状態で餅拾いができるように今から環境を整えておくのである。
「こーんな山の麓の無人の借家にも等しく餅を降らせてくれるなんてさ、本当にありがたいよねー」
「ホントにな。カガー・ミ・モッチ様々だよなー」
「今度カガー・ミ・モッチ様にお礼をしたいなー。でも、大晦日の日に餅を降らせるカガー・ミ・モッチ様を見ちゃいけないんでしょ? どうやってお礼をすればいいんだろ?」
「そうだなぁ……庭にお礼の焼き海苔でも置いとくか?」
「磯辺焼きもいいけど、お汁粉や黒蜜きなこも外せないよねー」
借家周辺の草むしりをしながら、のんびりと会話をするライトとレオニス。
餅の精霊へのお礼に、磯辺焼きの材料である焼き海苔やら黒蜜きなこをお供え代わりに庭に置くというのは、果たして如何なものか。
というか、ライトはカガー・ミ・モッチがBCOの臨時討伐モンスターだったことを知っているはずなのだが。
いつの間にかカガー・ミ・モッチのことを『美味しいお餅をたくさんくれる、すっごく良い精霊様!』と捉えるようになっている。
過去世に囚われ続けることなく、このサイサクス世界でのルールに馴染んでいるのはきっと良いことなのだろう。
「……さて、これくらいでいいか」
「うん。そしたら次は、父さんと母さんのお墓参りに行こうか」
父母の家の手入れをし終えたライトとレオニス。
家の裏にある山を二人して駆け登っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
裏山を登り始めてから程無くして、グランとレミの墓標がある場所に辿り着いたライトとレオニス。
空気こそ冬の凛とした冷たさに包まれているが、長閑なディーノ村を一望できるこの場所ではラグナロッツァという大都会の喧騒を忘れることができる。
ライトがアイテムリュックを漁り、レオニスが空間魔法陣を開く。
ライトはクッキーやアップルパイを供え、レオニスはちょっと上等なウィスキーをコップに入れて墓標の前に置いた。
「ライト、知ってるか? グラン兄はな、酒を飲めることは飲めるけどあんまり強くなくてな。レミ姉の方がザルだったんだ」
「えー、そなの!? そしたらぼくはどっちだろう、ほとんど飲めないか大酒飲みの二択?」
「どっちだろうなぁ。……ま、酒なんて無理に飲まなくたっていいがな」
「だよねー。ぼくはぬるぬるドリンクとラウルの美味しいスイーツがあればいいや!」
ウィスキーを供えたことをきっかけに、レオニスがグランとレミの思い出話をしてくれた。
グランとレミの思い出話など、ここ最近はあまりしてなかったように思う。
それは懐かしくもあり切なくもあるのだが、それ以上に彼らの思い出話を語るとレオニスの黒歴史まで発掘される確率が高いせいか。
しかし、彼らの墓標を前にするとどうしたって思い出話に花が咲くというものだ。
ラグナロッツァの孤児院の引っ越しが無事済んだこととか、そこで今でもシスターマイラが元気に子供達を叱り飛ばしていること、アイギス三姉妹とともにティファレトの温泉旅行に出かけたこと等々、父母に縁のある人達の今の様子を一通り語って聞かせた。
「……父さん、母さん、また来るね」
「グラン兄、レミ姉、これからもライトのことを見守ってやってくれよ」
「レオ兄ちゃんのことも見守っててね!」
グランとレミのお墓参りを無事済ませた二人は、そこからさらに山の上に登っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
道なき道を登っていくと、旧教神殿跡地が見えてきた。
ライトにとっては毎度お馴染みの転職神殿だが、レオニスは旧教神殿跡地に近づくにつれて顔が少しづつ険しくなっていく。どうやら緊張しているようだ。
そうして山の中の開けた場所に出たライトとレオニス。
そこにはいつもと変わらない、柱の根元と広間らしき床と祭壇の残骸だけが残る、破壊され尽くした無惨な神殿跡があった。
ライト達が入った神殿跡敷地内の向こう側には、テーブルに着いているミーアとミーナ、ルディとレアがいるのが見える。
ここでライトは、横にいるレオニスの顔をチラッ、と見た。
埒内の者であるレオニスには、本来ならこの転職神殿内では動くことが許されない。
いや、正確に言えば『転職神殿の専属巫女であるミーアが現れている間は、埒内の者は完全に時間が止まりミーアを認識できない』はずなのだ。
しかし、レオニスは先日ここでミーアとヴァレリアが話している場面に出食わした。
それだけでなく、ミーアの声を聞きヴァレリアともかなり会話を交わしたらしい。
これはライトにとっても驚くべきことだが、生憎ライト自身はその場面を実際に目の当たりにした訳ではない。
だから、今日レオニスをここに連れてくることで、本当にレオニスが転職神殿内で時間停止することなく動けるのかどうかを確かめたかったのだ。
ライトがチラッ、と横目で見遣ったレオニスは、目を丸くして固まっているように見える。
あれ、こりゃまた時間停止してる?とライトが思ったのも束の間、レオニスが右手で前を指差しながら声を振り絞るように呟いた。
「な、なぁ、ライト……あれは一体、何なんだ?」
レオニスが震える手で指差した先には―――
『ご主人様ー!おはようございますぅー!』
『パパ様ー!おはようございまーす!』
満面の笑みでライトのもとに怒涛の勢いで駆け寄るミーナとルディがいた。