軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1714話 新たな宝物とそれぞれの絆

アレクシスの詫びの品、熱晶石が無事炎の洞窟の主達のお気に召したところで、今度はラウルが動き出した。

「さて、そしたら俺も今日ここに来た一番の理由を果たさんとな」

ラウルはそう言いながら空間魔法陣を開いた。

そうして取り出したのは、フラムにプレゼントする天舞の羽衣だった。

ラウルが作った羽衣は、幅15cm、長さ1メートルという大作。

色は絹のような白さで、艶やかな光沢が満ち溢れている。

例えばこれを、綺麗な女性―――クレア十二姉妹やアイギス三姉妹なんかが肩や背中にかけて両腕に垂らすようにして身にまとったら、本当に天女が舞い降りたかのように見えるだろう。

ラウルが席を立ち、フラムが座る席の後ろに移動した。

そしてこの極上の羽衣を、フラムの首にそっとかけた。

「フラム、待たせたな。約束していた新しい羽衣だ」

『ッ!!……ラウル君、僕との約束をちゃんと覚えててくれたんだね……』

「もちろんだとも。俺がフラムとの約束を忘れる訳ないだろう?」

『うん……うん……ありがとうね……』

先日の事件でフラムが失くしてしまった大事な宝物。

レオニスからのプレゼントは転移門だったし、アクセサリー類だったライトやマキシのプレゼントも肝心のルビーや【炎の乙女の雫】は無事だったので修復も然程難しくはなかった。

唯一ほぼ全焼してしまったのが、ラウルが贈った天舞の羽衣のリボン。

それを再びラウルに贈ってもらえたこと、そしてそれ以上にラウルが約束を守ってくれたことがフラムは嬉しかった。

感激の涙をポロポロと流すフラム。

しかし、プレゼントはこれだけでは終わらない。

ラウルが羽衣の下の手の中に持っていた、もう一つの付属品を使い始めた。

ラウルは天舞の羽衣をフラムの細い首に二回、ゆったりと巻きつけてからスカーフ留めを用いて留めた。

前回のプレゼントはリボンに近いものだったので、尾に結んでいた。

だが今回は、本物の羽衣と見紛う程の大作。尾に結ぶだけでは長過ぎて常時地面に引き摺ってしまう。

そのため新しい羽衣は、首に巻きつけるスカーフとして使うことにしたのだ。

『この、キラキラした綺麗なのはナぁニ?』

「これはスカーフ留めと言ってな、アイギス……ああ、アイギスってのはマキシが勤めている仕事先で、こうしたアクセサリー類を作れる超一流の店のことなんだがな。そこで売っていたものを買ってきたんだ」

初めて見るスカーフ留めを、フラムが物珍しそうに見ている。

それは『スカーフリング』と呼ばれるアクセサリーで、指輪のようなリング状になっていてその中にスカーフを通すというもの。

リング自体は金でできていて、一際目立つ大きなオレンジ色の宝石が装飾に使われている。

それを見ていた炎の女王が、嘆息しながらラウルに問うた。

『おお……何と美しい石だろう……ラウル、それは何という名の石なのだ?』

「えーと、確かメイさんの話では『マンダリンガーネット』とか言ってたな。マキシ、そうだよな?」

「うん!カイさんが外国の宝石商から買い付けた超一級品だよ!」

「そうそう、この世に二つとない極上の宝石だと言ってたな」

『マンダリンガーネットか……優美にして絢爛さに満ち溢れておる。しかもこの世に二つとない品とは、炎の洞窟の神殿守護神であるフラム様が身につけるに相応しい。まさにフラム様のためにあるような品だな!』

スカーフリングについている宝石、マンダリンガーネットを炎の女王が大絶賛している。

マンダリンガーネットとはその名の通りガーネットの一種で、赤みがかった濃いオレンジ色はまるで燃え盛る炎そのもの。炎の女王がべた褒めするのも当然だ。

そしてラウルもそう思ったからこそ、迷うことなくこのスカーフリングを購入したのだ。

ちなみにこのスカーフリング、お値段何と30万G。

日本円にして300万円、ラウルの仕事で言うと『ジャイアントホタテの殻処理三万枚分相当』というびっくり仰天のお値段である。

しかしこれはあくまでもアイギス店内での希望小売価格であり、ラウルが買うとなれば話は別。

原価よりもかなり安い10万Gという値段で売ってくれた。

カイ曰く「ラウルさんには、特にセイがいつもお世話になっているし」「これからも、レオちゃんのことをよろしくね」とのこと。

ラウルもラウルでこの厚意に甘えるあたり、実にちゃっかりとした妖精である。

そして後日その話、マンダリンガーネットのお値段を聞いたレオニスが「……幻の鉱山で採った宝石の中に、濃いオレンジ色のガーネットがあるか見てみるか」と呟き、ライトもライトで『幻の鉱山でガーネットって採れたっけ? 次に幻の鉱山に行った時に探してみよっと!』と思っていたりする。

ラウルがふんわりと巻きつけた天舞の羽衣が、フラムの首でふわり、と優雅に揺れる。

するとここで、フラムが不思議そうな顔で呟く。

『この羽衣を巻いてもらってから、身体の中ですっごく力が湧いてくるんだけど……何でだろ? ラウル君、何か特別な魔法でも付けたの?』

「さすがフラム、気づいたか。この羽衣には、風の女王とバルトの加護をつけてもらったんだ」

『そうなの!? ……道理で僕の力が強くなった訳だね』

フラムの問いかけに、ラウルが小さく微笑みながら答える。

実は今日の午前中、ライトがラグーン学園で二学期終了の終業式に行っている間に、ラウルは辻風神殿に出かけていた。

何故かと言えば、火や炎と相性が良い風属性の加護を羽衣に付与してもらうためだった。

フラムに贈る新たな宝物、その仕上げにまさにうってつけと言えよう。

もちろん風の女王や青龍ゼスがこの願いを断る訳がない。

ラウルの頼みを聞いた風の女王は『 任(まッか) せてー!』と言い、ゼスも『フラム君の力になれるなら、喜んで付けさせてもらうよ』と快諾してくれた。

辻風神殿の二人も炎の洞窟襲撃事件に関わっていたので、その後炎の女王やフラムがどうしているか非常に気がかりだったのだ。

こうしてラウルの作った天舞の羽衣は、前回のものよりも格段にパワーアップして完成したのである。

そしてラウルは、さらに新しい羽衣の解説をし続けた。

「いや、ホントはもうちょい幅広のものを作りたかったんだがな? そうすると、羽衣の完成が一ヶ月二ヶ月どころか半年以上は先延ばしになりそうなんでな……羽衣と言うにはかなり細めのものなんだが、今はこれで勘弁してくれ」

羽衣の出来に若干不服なのか、申し訳なさそうに謝るラウル。

ラウルに言わせれば、プーリアならこれよりもっと大きな羽衣を作れて当然なのだろう。

そしてそれが当たり前でない己の不甲斐なさが悔しかった。

そんなラウルに、フラムが涙目になりながら猛烈に反論した。

『勘弁だなんて、そんな!こんなに大きくて素敵な羽衣はないよ!それにこれは、ラウル君が僕のために作ってくれたんだもの……どんな形だって関係ない!誰が何と言おうと、僕はこの羽衣が一番いい!』

「……フラムは優しいな。そう言ってもらえると俺も嬉しいよ」

フラムが後ろを振り向き、ガバッ!とラウルに抱きつく。

喜びと感激のあまり抱きついてきたフラムに、ラウルは子供をあやすようにフラムの背中をぽん、ぽん、と優しく叩きながら、しっかりと抱きとめている。

そしてそんな二人のやり取りを、炎の女王は感激の涙をホロホロと流しながら見ていて、ライト達もまた温かい眼差しで見守っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

そうして楽しくも賑やかなお茶会を一頻り過ごし、帰る時間となった。

いつものライト達なら、修復して新しく作り直した転移門でカタポレンの家に移動するので、もう少し滞在できるのだが。今日はアレクシスも同行しているので、普通にプロステスに戻らなければならない。

帰路のための時間も、それなりに長めに確保しておかなければならないのだ。

普段は最奥の間の入口で別れるのだが、今日は名残惜しいのか炎の女王とフラムも洞窟の入口まで見送りに出てくれた。

そのおかげで、洞窟内の帰り道は魔物除けの呪符要らずで歩くことができた。

また、洞窟の中を歩く間アレクシスが今後の熱晶石のお届けの期間だとか誰を派遣するだとか、炎の洞窟の主達と盛んに会話をしていた。

アレクシス自身も頻繁に炎の洞窟を訪ねてこれる身ではないので、一分一秒でも長く彼らと過ごせるのは嬉しかったようだ。

そうして楽しい時間はあっという間に過ぎていき、炎の洞窟の入口に辿り着いたライト達。

まずレオニスが炎の洞窟の主達に声をかけた。

「ここまで見送ってもらってありがとうな」

『どういたしまして。今日はとても有意義な時間であった。特にラウル、フラム様への贈り物は実に素晴らしいものであった。妾からも礼を言う、本当にありがとう』

「こちらこそ、どういたしましてだ。新しい羽衣をフラムにも喜んでもらえて良かったよ」

『ラウル君、本当にありがとうね!ライト君もレオニス君も、そしてマキシ君も……またいつでも遊びに来てね!僕達、ずっと待ってるから!』

「うん!フラムも炎の女王様も元気になって本当に良かった!」

「フラム君、今度は僕の父様や母様、兄様に姉様に妹も連れて遊びに行きますね!」

別れを惜しむフラムにライトとマキシは嬉しそうに答え、レオニスもまた静かに微笑みながら頷いている。

そして最後に、フラムがアレクシスに声をかけた。

『アレクシス君、君の誠意は十分に僕達に伝わったよ。レオニス君達以外で信用できる人族は、君が初めてだ』

「おお、何というありがたきお言葉……フラム様と炎の女王様の安寧を守るため、矮小の身なれどこれからも全力を尽くす所存です」

『そしたら僕からも、アレクシス君に加護をあげるね。……炎の女王ちゃん、いいよね?』

『もちろんですとも。この者が妾達に牙を剥くことなど、まず以ってなさそうですし。今後もフラム様のために働くのであれば、フラム様の加護を得るに相応しいでしょう』

『だよね!』

炎の女王の承諾を得たフラム。

嬉しそうな笑顔で振り向き、その大きな炎の翼でアレクシスの身体を一薙ぎした。

ふわりとした炎や火の粉がアレクシスの身体を包み込む。

その炎や火の粉は、十秒くらいかけてアレクシスの身体の中に入り込んでいった。

『はい、これで僕の加護がアレクシス君にもついたよ。アレクシス君はこの先一生、火傷を負うことはないからね』

「偉大なる炎帝、フラム様……本当に、本当にありがとうございます……このご恩は一生忘れませぬ……」

フラムの加護を得たアレクシスが、感激のあまり膝から崩れ落ちている。

普段はプロステスを治める領主として、決して他者に弱味など見せないアレクシスだが、炎の洞窟の主達の前ではただの一人の人間になってしまうようだ。

こうしてお互いにたくさんのものを得て、帰路に就くライト達。特にアレクシスにとっては、炎の洞窟の主達との絆を得られたことが最大の収穫にして喜びだっただろう。

何度も後ろを振り返っては、大きく手を振るアレクシス。名残惜しさは人一倍強いようだ。

そうして少しづつ小さくなっていくアレクシス達の背中を、炎の女王とフラムはずっと見送っていた。