軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1704話 アイテム作りの悲喜こもごも

時はだいぶ遡り、十月がもうすぐ終わろうとしている頃。

念願の身代わりの実レシピを完成させたライトは、早速身代わりの実作りに着手していた。

まず、閃光草の根10個と濃縮マキシマスポーション10個、熱晶石10個と銀色のべたべた10個を混ぜ合わせて、生産職スキル【遠心分離】にかけて有効成分を抽出する。

この時、閃光草の根も細かく擂り潰しておくことも忘れない。

有効成分が取り出せたら、エネルギードリンク10本分と混ぜ合わせて咆哮樹の実を浸して24時間以上待つ。

エネルギードリンク10本分は2.5リットルに相当するので、ライトがいつも水を汲むためのバケツに入れて実行する。

実を浸して24時間経過したものに、今度は神威鋼1個と金1個を【金属錬成】で混ぜ合わせて液状にしたものを、魔法の刷毛を用いて咆哮樹の実に均等に塗る。

この神威鋼液は無臭なので、手狭なカタポレンの家の部屋でもこっそり行えるのがありがたい。

もしこれが刺激臭の強いものだったら、絶対に自宅ではできない。レオニスやラウルからクレームが来るからだ。

神威鋼の液体を塗った咆哮樹の実を、日当たりの良い場所で24時間以上天日干しする。

これから冬に向かう季節、日照時間が短くなっていくのが頭痛の種ではあるが、こればかりは如何にライトであってもどうしようもない。

今はエクストラクエストクリアが最優先だから秋冬でも強行するが、身代わりの実のストックをたくさん作る時にはできるだけ夏に作業しよう……とライトは心に強く誓う。

一般的に秋分の日は約12時間の日照時間があり、冬至の日は10時間弱とされている。

天日干しで24時間以上ということは、丸一日ずっと日に当てたとしても少なくとも二日半は日光に当てなくてはならない。

ライトはこの時、カタポレンの家のライトの部屋の窓に天日干しの場所に決めた。

万が一雨が降り出しても、咆哮樹の実が濡れないようにするためである。

また、ライトの部屋が南向きであっても丸一日ずっと日が当たり続ける訳ではない。

これを考慮すると十一月は最低でも三日、冬至の日前後では五日近くは部屋干しを続けておかなければならない計算になる。

その上この神威鋼液の塗布と天日干し作業を、一個につき五回も繰り返して行わなければならない。

なかなかしんどいことだが、これもレアアイテムである身代わりの実を自作するためだと思えば辛抱できる。

そうして慣れないながらも、身代わりの実を作り始めてから十八日目のこと。

ついに手作りの身代わりの実が完成した。

ラグーン学園から帰宅したライト、屋敷の自室で制服から私服に着替えてすぐにカタポレンの家に戻る。

そしてカタポレンの家の部屋の窓に干しておいた、五回目の天日干しを終えた咆哮樹の実をそっと手に取った。

ドキドキしながら咆哮樹の実を軽く左右に振ると、シャラン、シャラン……と鈴のような音が鳴った。

ちなみにこの咆哮樹の実、それまでは左右に振ろうが手元が滑って床に落っことそうが、コトリ、という音一つすら鳴らなかった。

それが、五回目の神威鋼液の塗布と天日干しを経たことで、ようやく澄んだ鈴の音のような音が鳴るようになるのである。

ライトは目を閉じながら、耳元で咆哮樹の実を軽く振り続ける。

その音はとても控えめで小さな音だが、神社や歌舞伎などで聞くような霊験灼かさを感じる。

シャラン、シャラン、という音を五回ほど聞いたところで手を止めて、咆哮樹の実から身代わりの実となった品をそっと机の上に置いた。

そしてライトはすぐさまマイページを開き、アイテム欄に実を入れた。

するとアイテム欄の一番上に、新しい項目が増えた。

その項目名はもちろん『身代わりの実』である。

アイテム欄の中に『身代わりの実 1個』という文字の出現を確認したライト。

思わずその場で歓喜の絶叫を上げた。

「……ヤッターーー!!身代わりの実、完成でーーーッす!!」

両手を真上に上げて、身代わりの実の完成を全身全霊で喜ぶライト。

確かに身代わりの実はとても貴重なものだが、まさかここまで壮絶に手間暇かけなければならないとは思っていなかった。

「くーーーッ……ここまでくるのに、すんげー長かった……これ一個作るのに半月以上かかるとか、ホンットめんどくさかった……」

「でも……これで本当に身代わりの実を自分で作ることができるって分かったし。そしたらエクストラクエストのクリアに必要な分だけでなく、できるだけたくさん作っておくべきだよな!何てったって、この実を持っていれば即死攻撃を回避できるんだから!」

最初こそ身代わりの実の作成過程を思い出してぐったりしていたライトだったが、すぐにやる気を取り戻した。

身代わりの実の有用性『一回だけ即死攻撃を回避できる』という効果を思えば、ライトが俄然やる気を出すのも当然である。

「よーし、そしたらまずはエクストラクエストの十個分、残り九個を続けて作るぞー!」

エクストラクエストクリアだけでなく、身代わりの実の量産に意気込むライトだった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

初めて身代わりの実の作成成功の翌日から、ライトは再び身代わりの実の作成に取りかかった。

ちなみに初めての身代わりの実は、記念品としてライトの手元に置いてある。

さすがに大っぴらに身に着けるのは憚られるので、今はまだマイページのアイテム欄に仕舞っている。

というのも、ラウルやマキシはともかく現役冒険者であるレオニスは身代わりの実がどういう品かを知っているからだ。

もしアイテムリュックや通学鞄に身代わりの実を着けているところを見られたら、レオニスに速攻で「え、ちょ、おま、ライト君? それ、身代わりの実だよね?」「何でそんな途轍もなく貴重なもんを持ってんの?」と詰め寄られること必至である。

しかし、いずれは『またフォルが拾ってきてくれた!』という体でレオニス達にカミングアウトするつもりだ。

そうすれば、レオニスやラウルにも身代わりの実を持たせてあげられるようになる。

それが単なる夢ではなく現実となるよう、ライトは日々身代わりの実の作成に勤しんでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

最初の一回目は様子見兼手探りということで、ライトは慎重に慎重を期して一個だけ作っていた。

しかし、それが無事成功した今、残りの九個までご丁寧に一個づつ作る必要はない。

そんなことをしていたら、九個分を作り上げるのに百五十日以上、冬の日の短さを考えたら半年近くかかってしまう。

かと言って、一気に九個分を作るというのも場所を取り過ぎたり道具や手順などをどこかで間違えそうで怖い。

なので、失敗のリスクを極力抑えつつ効率化を図るため、三個を三回作ることにした。

これなら約二十日を三回、二ヶ月で済む勘定だ。

あと三回、身代わりの実の作成を進めればエクストラクエストのクリアとなる。

このことに、ライトの頬は自然と緩みほくそ笑む。

「クックック……ここまで来たら、二ヶ月なんてあっという間だぜ!」

「エクストラクエストめ、待ってろよ!今ある1ページ目をクリアして、二ヶ月後には2ページ目を拝んでやるからなーーー!」

月日の経過感覚が若干麻痺してきたライト、アヒャヒャヒャヒャ!という謎の哄笑とともに気勢を上げる。

このクエストイベントを開始してから、早くも丸二年が経過した。

クエストイベント自体は10ページ分全て完遂したが、イベントのアンコールとも呼ぶべきエクストラクエストの出現により真の完遂には至っていない。

ライトの心境としては『こちとら二年もクエストイベントやってんだ!ここでエクストラクエストの1ページ目クリアが二ヶ月延びたところで、どうってことない。そんなん誤差の範疇だぜ!』といったところである。

そうしてライトは二回目の身代わりの実作りを開始した。

しかしここで、思わぬ事態が起きた。

それは、ラーデの末子サマエルの襲来。

長兄ファフニールの子が孵化したという報せを、父であるラーデに届けに来たのだ。

その後サマエルはカタポレンの家のコテージで三日間泊まり、その間ライトもラーデやサマエル達とともにコテージで過ごした。

さらにはサマエルのお泊まり会直後にファフニールのもとを訪ねるなど、ライトが私事に時間を割く余裕など全くない日が続いた。

サマエルのお泊まり会、二度目の不思議の森訪問、ラーデの初孫冥龍王ヨトゥンガルズとの対面といった、濃密かつ怒涛のスケジュールをこなしたライト。

日常生活に戻ってから、さて、身代わりの実作りを再開するか!と再びカタポレンの家の自室にある机に向かうも、何だかおかしなことになっていた。

机の引き出しに仕舞っておいた咆哮樹の実が、カピカピに干からびていてところどころ黒ずんでいたのだ。

「え"ッ!? 何で!? どうして!?」

一回目の身代わりの実作成の時には起きなかった異変に、ライトは文字通り慌てふためく。

実はサマエル襲来の前日、ライトは身代わりの実の一回目の天日干しを終えたところだった。

本当ならその後すぐに二回目の神威鋼液の塗布をするつもりだったのだが、そこに折悪しくサマエルが襲来してきた。

その後サマエルのお泊まり会がとんとん拍子に決まり、さらにはラーデの初孫に会うために不思議の森への訪問も確定。

となれば、その間身代わりの実作りをしている暇などなくなるのは明白だった。

そのためライトは、作りかけの咆哮樹の実を咄嗟に手近にあった箱に放り込み、神威鋼液入りのコップとともに勉強机の引き出しに仕舞った。

そしてその後三日以上、ライトは咆哮樹の実が放り込まれた勉強机の引き出しを一度も開けなかった。

そうして放置され続けた結果、机の引き出しに仕舞っていた咆哮樹の実は乾燥してどす黒く変色してしまったのである。

ライトは慌ててルティエンス商会に飛び込んだ。

BCO由来のアイテムのことならヴァレリアに訊くのが一番だが、ヴァレリアはそう簡単に会える人ではない。

そう、ヴァレリアの次にBCO由来のアイテムの相談ができる人物といえば、ルティエンス商会のロレンツォなのである。

夕暮れ時に店の裏口から飛び込んできたライトに、ロレンツォがちょっぴり驚きながらも声をかけた。

「おや、ライトさん、いらっしゃい。こんな夕方にお越しとは、珍しいですねぇ」

「ロレンツォさん!この実を見てほしいんですけど!」

訪問の挨拶もすっ飛ばして箱を見せるライトに、ロレンツォが内心でびっくりしている。

いつも礼儀正しいライトがこうも慌てふためくとは、何か一大事が起きたに違いない。

瞬時にそう判断したロレンツォ、ろくに挨拶もしないライトを咎めることなく箱の中の咆哮樹の実を見つめた。

そしてすぐに咆哮樹の実を手に取り、いろんな角度で繁繁と見つめ続けるロレンツォ。

しばらくしてから、ロレンツォが徐に口を開いた。

「ライトさん、こちらの品を奥の方で調べてまいりますので、少々お時間をいただけますか?」

「もちろんです!……あ、でも、あと二時間くらいで晩御飯の時間になるから、それまでには戻ってきてくれると嬉しいんですが」

「フフフ、そんなに時間はかかりませんよ。こちらの時間で五分もかかりませんからご安心ください」

「分かりました、よろしくお願いします!」

泡を食ったような顔から一転、時間を気にして戸惑ったりロレンツォの言葉に安堵して破顔したり。

今日のライトは百面相で多忙を極めているようだ。

その後ロレンツォが店の奥に引っ込み、本当に五分後に戻ってきた。

その間ライトはそわそわしながら店の中の品を眺めていたが、気もそぞろで宛もなくうろうろとしていた。

「ライトさん、お待たせいたしました」

「大丈夫です!……で、どうでしたか? 何か分かりましたか?」

「はい。こちらの品は『身代わりの実のなり損ない』となっておりました」

「な、なり損ない……」

ロレンツォが告げた結果に、ライトが愕然とする。

BCOでは身代わりの実と名のつくアイテムは一つだけで、『身代わりの実のなり損ない』なんてBCOフリークのライトですら見たことも聞いたこともない。

「ライトさん、試しにこちらの品をマイページに入れてみてください」

「は、はい……」

ロレンツォから手渡しで返されたそれを、ライトが受け取りすぐさまマイページのアイテム欄に入れた。

するとそれは本当に『身代わりの実のなり損ない』という新しい項目となってアイテム欄内に出現したではないか。

あまりの大惨事に、ライトの膝がその場で崩れ落ちた。

「な、何で……どうしてこんなことに……」

「一つ考えられますのは、アイテムの作成を始めてから長期間中断しませんでしたか?」

「は、はい……確かに急用ができて、四日ほどアイテム作りを中断しました……」

「そうでしたか。ならば原因はそれで間違いございませんでしょう。エネルギードリンクなどもそうですが、開封後に適切な取り扱いをしませんと効果がどんどん減少していきますし」

「ええええ……嘘でしょー……」

ロレンツォの解説に、ライトが呻くように脱力している。

ロレンツォ曰く、それは『消費期限とか賞味期限のようなもの』だという。

確かにこのサイサクス世界でも、ジュースなどの飲み物を飲みかけにしてそのまま放ったらかしにすれば、どんどん傷んでいくものだ。

しかし、まさかそれがBCOアイテムにまで及ぶとは。想定外もいいところである。

そして『なり損ない』となってしまったアイテムは、その後何をどうしようとも使い物にならないという。

リアルでも失敗したものをリカバリーするのは大変なことだが、BCOアイテムの場合リカバリーは完全に不可能となるらしい。

ライトのもったいない精神を以ってしてもリユースできないとは、実に残酷な話である。

今回の場合、作りかけのアイテムをライトはどう取り扱うべきだったのか。

それは『作りかけのアイテムを、全てマイページもしくはアイテムリュックに一旦仕舞う』が正解であった。

そうしておけば、咆哮樹の実やエネルギードリンクを用いた浸潤液の時間は完全停止し、腐敗や傷みが進行することもなかった。

一回目の身代わりの実作りの時には、毎回慎重かつこまめに道具類をマイページやアイテムリュックに仕舞っていたというのに。

サマエル襲来の時だけは、思いがけない想定外の事態に慌ててそこら辺に仕舞い込んでしまった。

このほんの些細なミスが、後にこうして致命的なミスにまで発展してしまったのである。

本当に魂が半分抜けかけたようにがっくりと項垂れるライトに、ロレンツォがそっと肩に手を置きながら声をかける。

「ライトさんが落胆するお気持ちは、よく分かります。ですが……『失敗は成功の母』とも言います。この失敗を糧とし、二度と同じことを繰り返さなければ良いのです」

「……そうですよね……失敗したのは三個分だけだからまだマシというか、十分取り返しがつきますし…………ぁ」

ロレンツォの懸命の慰めに、一度は立ち直りかけたライト。

だがその直後、ライトはふと思い出した。

三個分の損失を埋めるには、様々な材料を新たに用意しなければならないことに気づいたのだ。

「ぐおおおおッ、また咆哮樹の実の採取からしなきゃなんねぇぇぇぇ!」

「……いや、それ以前にまた濃縮マキシマスポーションと濃縮ギャラクシーエーテルを作らなきゃなんねぇぇぇぇ!」

「あッ、それ言ったら神威鋼もだ!まーた【呪われた聖廟】にも行かなきゃなんねぇぇぇぇ!」

「うわああああぁぁぁぁん!」

ほんの少しの油断により、再び大量の素材集めをしなければならなくなったことに気づいたライト。

両手で頭を抱えながら天を仰ぎ絶叫していた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

その後のライトは、土日の休日の度に転職神殿に出向いては、その近くに棲息する咆哮樹狩りに猛烈に勤しんだ。

もちろんその他の材料も、身代わり実三個分を一から集め直さなければならないのだが。身代わりの実の主原料が咆哮樹の実だけに、咆哮樹狩りに最も力が入るのも当然の流れである。

大中小構わず咆哮樹の枝を狩りまくるライト。

こうなったら、もはや大きさなど関係ない!とばかりに物理必中攻撃の【手裏剣】を乱舞しては柴刈に励む。

アヒャヒャヒャヒャ!という狂気に満ちた哄笑が山中に木霊し、咆哮樹達が震え上がりひたすら逃げ続けたのは言うまでもない。