作品タイトル不明
第1701話 ライト達のプレゼント選び・その二
その後もライト達はルティエンス商会で楽しい買い物を続け、一通りクリスマスプレゼントを選び終えて会計した。
ハリエットが購入したのは、父と母と兄にチラミバードの羽根ペン、同級生三人に綺麗なリボン、仲良しの侍女や執事長等ウォーベック家の使用人や専属騎士達へのプレゼントも購入していた。
ちなみにライトへのプレゼントだけは、ライトに見られないようにこっそりと選んで、多数ある使用人達用のプレゼントの中に紛れ込ませておいた。
プレゼントする前に本人に見られてネタバレなど興醒めもいいところなので、ハリエットのそうした気遣いは実に正しい。
ハリエットの買い物の合計金額は3500G。
その内訳は、羽根ペンが一本200G×3、綺麗なリボン一つ150G×3、使用人や騎士達へのプレゼントが一個80~100Gで計十五個、締めて3500Gである。
そして買い物の合計金額をロレンツォから聞いたハリエットが、目を丸くして驚いている。
「まぁ、素敵なプレゼントをたくさん買いましたのに……本当に3500Gだけでよろしいのですか?」
「もちろんです。これは当店でつけている正規価格ですから、何の問題もございません」
「でも……全部のプレゼントに、とても綺麗で可愛いラッピングもしていただきましたし……」
ロレンツォが提示した価格に、ハリエットが戸惑いつつ値段の確認をしている。
ハリエットに言わせれば『この羽根ペン、もしラグナロッツァで売っていたら絶対に1000Gは下らない』『このリボンだって、本当なら一本500G以上の値段がついていてもおかしくない』とのこと。
実はそのリボン、ロレンツォが言うにはツェリザークの特産品である凍砕蟲の糸で作られていて、しかも魔法付与も可能な最高品質だという。
それら全て合わせても、たったの3500Gで買えるなんて!あまりにもお買い得過ぎて信じられない!ということらしい。
そんなハリエットに、ロレンツォがにこやかな笑顔で応える。
「ご心配には及びません。当店のラッピングは、もともと無料サービスで行っているものでございますから」
「……ありがとうございます。今日ここで買ったクリスマスプレゼントは、絶対に皆に喜んでもらえると思います」
「お嬢様のような、素晴らしいレディーから過分なお言葉をいただけましたこと……このロレンツォにとって、一生の宝物にごさまいます」
改めて礼を言うハリエットに、ロレンツォもまた深々と頭を下げて礼を尽くす。
子供相手に何とまぁ大袈裟な、と思うことなかれ。
そもそもこの店に、ライト以外の子供が客として来ることなどまずあり得ないのだから。
しかもそれがハリエットのような可愛らしい女の子で、その上伯爵令嬢とくればロレンツォが感激しまくるのも当然なのである。
「ロレンツォさん、私、これから大事な人にプレゼントを買う時には必ずこのお店で買うことにします」
「おお、何と光栄なことか!今後とも当店をご贔屓の程、何卒よろしくお願い申しあげます」
「こちらこそ!よろしくお願いいたしますね!」
ハリエットが自分の財布から大銀貨二枚を取り出し、ロレンツォに手渡す。
会計後にハリエットがルティエンス商会をプレゼント御用達店に指名したことに、ロレンツォが殊の外大喜びしている。
普段は閑古鳥パラダイスのルティエンス商会だが、伯爵令嬢の御用達店ともなれば今後一気に繁盛するかもしれない。
ルティエンス商会及びロレンツォには、BCOの交換所という裏の顔と秘密の役割がある。
しかしそれはそれとして、表の商売だって繁盛するに越したことはない。
そうした二人の和やかな交流をライトとサヴェリオが微笑みつつ見守る中、空気を読まない妖精がここに一人。
「さ、そしたら次は俺の会計を頼む」
「はい。ラウルさんのお買い上げは、こちらの魔剣タイラント五本でよろしいですか?」
「ああ、それで頼む。というか、この魔剣は特に呪われてはいないよな? 何か注意事項とかあったら聞いておきたいんだが」
会計前に、魔剣タイラントの呪いの有無を問うラウル。
確かに魔剣と呼ばれるような代物には、呪いなどのマイナス効果はつきものだ。
ラウルの尤もな懸念に、ロレンツォが魔剣タイラントの実物を手に取りながら説明し始めた。
「こちらの魔剣に呪い等のデバフは一切かかっておりませんので、ご安心ください。ただ、魔剣という特性上普通の鍛冶屋での砥ぎ直しはできません。もし刃毀れができましたら、当店が推奨する砥石で砥いでください」
「承知した。そしたらその推奨の砥石も出してくれ。これといっしょに買っておきたい」
「砥石はサービスでおつけいたしましょう」
「え、いいのか?」
「ええ、魔剣タイラントを五本も買っていただくのですから、お礼のオマケと思っていただければ幸いです」
「ありがとう!」
魔剣タイラント用の砥石をオマケでつける、というロレンツォの心遣いに、ラウルが笑顔になる。
確かに魔剣を一気に五本も買っていく客など、ラウルくらいのものだろう。
ただしラウルはこの魔剣タイラントを剣として使うのではなく、オーガ族用の包丁として進呈しようとしているのだが。
魔剣タイラントのお値段は、一本5000G。五本で25000Gのお買い物だ。
魔剣が一本5000Gで買えちゃうの? 日本円にして5万円って、正直安過ぎない?と思うところなのだが。
魔剣タイラントは、BCOではレイドボスの討伐報酬で得られるドロップ品だった。つまりは無料で得られるアイテムである。
そのため武器としての性能は正直あまり高くなく、5000Gは適正価格の範疇だ。
いや、むしろ5万円の包丁と考えれば一気に高級感が増すので、プラマイゼロのオールオーケー!である。
その後ライトも自身が選んだプレゼントの購入を済ませた。
ハリエット同様に複数の品を買い、合計3800Gのお買い物となった。
プレゼントの数で言えばハリエットの方が断然多いのだが、ライトの場合プレゼントする相手がレオニスやラウル等何かと特殊なので、贈るものも特殊かつ厳選した結果である。
ライトはハリエットの手前アイテムリュックが使えないので、ラウルにプレゼントを預けて空間魔法陣に入れてもらう。
ハリエットはハリエットで、買った品々を護衛騎士のサヴェリオに荷物として渡していた。
この時ハリエットが「こういう時、アイテムバッグが欲しい!と心底思いますわ」と何気なく口にしていた。
とっくにアイテムリュックを持っているライトだが、まだ皆には秘密なので「そ、そうだね、アハハ……」と言葉を濁す他ない。
「さて、皆お目当ての買い物ができたことだし。店を出て、どこかで昼飯を食いに行くとするか」
「うん!ロレンツォさん、今日もいろいろとお世話になり、本当にありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ皆様方にたくさんの品をご購入いただき、誠にありがとうございます」
退店前に挨拶をするライトに、ロレンツォも微笑みながら応える。
そしてハリエットもロレンツォに話しかけた。
「ライトさんのおかげで、こんなにも素晴らしいお店に出会えましたこと、本当に嬉しく思います。ロレンツォさん、またお会いできる日を楽しみにしております」
「私は、今日ほどこの店を経営してきて良かったと思ったことはございません。お嬢様のご来店、心よりお待ち申しあげております」
ハリエットの言葉に、ロレンツォがボウ・アンド・スクレープでお辞儀をする。
その洗練された優雅な仕草は、とても一介の商店の店主とは思えない程美しい動きだった。
買い物を済ませて店を出るライト達を、ロレンツォが店の外まで出て扉の前でずっと見送っていた。
こうしてライトとハリエットのクリスマスプレゼント選びは、無事完了したのだった。