軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1692話 ダリオの末路・その一

精霊拉致未遂の実行犯を派遣したフェデリコが、闇の女王と光の女王から直々に制裁を受けて闇ギルド『何でも屋さん』の悪事が全て露見した日。

証拠能力十分な物的証拠を押さえたラグナ大公は、その日のうちにダリオ・サンチェスを再逮捕した。

夕暮れ時の貴族街で、ラグナロッツァの邸宅から警備隊本部に連行されるダリオは「不当逮捕だ!」「離せ!私を誰だと思っている!」「貴様ら、私の無実が確定したら真っ先に報復してやるからな!」等々、人目も憚らずにあらん限りの罵詈雑言を吐き続けていた。

そしてダリオが逮捕された翌日の早朝。

まだ外は暗く、東の空がうっすらと白くなってきたような時間帯に、ダリオの独房をひっそりと訪れた者がいた。

地下三階にある独房に続く石の階段を、何者かが下りてくる。

コツ、コツ……という無機質な足音はしばらく響き、やがて辿り着いたダリオの独房の前でピタリ、と止まった。

この時のダリオは興奮状態で一睡もしておらず、ダリオは硬いベッドに腰掛けたまま檻の前で立つ来訪者を見上げ睨みつけた。

「……おや、これはこれは……こんな時間に誰かと思いきや。大公閣下自らのお出ましですか」

ダリオが薄ら笑いを浮かべながら、吐き捨てるように言葉を投げつけた相手はラグナ大公その人であった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナ大公は屈強な護衛三人と宮廷魔導師一人を伴っていて、計五人でダリオの独房を訪ねていた。

五人とも黒いローブを羽織り、フードを深く被って顔が見えないようにしている。

護衛のうち二人は独房施設の出入口を見張り、誰も立ち入らないよう監視。

残りの護衛一人と宮廷魔導師は、ラグナ大公を守るようにして左右一人づつ立っていた。

ラグナ大公が深く被っていたフードを頭の後ろに外し、ベッドに腰掛けたまま動こうともしないダリオを険しい眼差しで真っ直ぐに見つめた。

「「………………」」

ラグナ大公とダリオ、両者とも無言のまま互いをじっと見続けている。

そうしてしばしの沈黙の後、先に口を開いたのはダリオの方だった。

「大公閣下御自ら、私の釈放に立ち会ってくださるとは。何とも光栄なことですな」

「……よく言うぜ。そんな殊勝なこと、微塵も思っていねぇくせに」

「おやぁ? サイサクス大陸一の強国、アクシーディア公国の国家元首とは思えない口調ですな? 国家元首たるものがそのような下賤な言葉遣いをしていては、この国の未来は今以上に暗いものとなってしまいますぞ?」

下卑た笑みを浮かべながら、ラグナ大公を腐すダリオ。

本来ならダリオは、独房の中にあってもラグナ大公に対して臣下の礼を尽くさねばならない。

玉座の間での謁見のようにラグナ大公の前で跪き、頭を垂れて恭順を示す。それがアクシーディア公国の貴族として当然の礼儀だ。

なのに、身体が不自由な訳でもないのにその場から一歩も動かないというのは、ラグナ大公への不敬以外の何物でもない。

もはやラグナ大公への憎悪を微塵も隠そうともしないあたり、何ともダリオらしい不遜さである。

しかし、今日のラグナ大公はいつもと違っていた。

ダリオの不遜かつ煽るような態度に怒るでもなく、同じような嫌味で返すこともなく、ただただダリオをじっと見下ろしている。

ラグナ大公の鮮やかな青緑色の瞳に見下され続けることに、ダリオは耐えきれなかったのだろう。

業を煮やしたように、一気にがなり立てた。

「ヴェントゥス!私を見下すのはやめろ!」

「無実の私に濡れ衣を着せ、罪に陥れることができて満足か!? その成果を高みの見物しに来たとでもいうのか!? このような冤罪を国家元首自らが画策するとは、全く以て世も末というものだ!」

「確かに私は無許可の転移門を所有していた……しかし!それはあくまで個人的な利便性のためであって、国家反逆罪に該当するようなものではないことは先日の調査で証明済みであろう!」

「ヴェントゥス!今からでも遅くはない!罪を問えもせぬような微罪を用いてまで、私を無理矢理陥れようと謀るのはやめろ!そしてヴェントゥス、己の過ちを認めて潔く大公の座を退け!私を陥れようとしたのだから、大公を辞するのが筋というものだ!」

自信満々な顔で、大声で捲し立てるダリオ。

自分が罪に問われることなどない、と確信しているのだろう。

しかもそのついでにラグナ大公の退任要求までするとは、何とも図々しいことこの上ない。

そんなふてぶてしいダリオに、ラグナ大公がようやく口を開いた。

「……言いたいことは、それだけか?」

「…………何だと?」

「だから。それがお前の遺言か?と俺は尋ねているんだ」

「遺言、だと? ……ヴェントゥス、貴様、言うに事欠いて遺言とは何様のつもりだ!」

心底呆れた口調のラグナ大公の言葉に、ダリオはますます激昂する一方だ。

しかもダリオは先程からラグナ大公のことを本名で呼んでいる。

このことに、ラグナ大公は真っ先に不快感を表した。

「つーか、ダリオ。お前に俺の名、ヴェントゥスと呼ぶことを許した覚えはないんだがな?」

「そんなことはどうでもいい!」

「どうでも良かねぇよ。お前こそ一体何様だ。俺はアクシーディア公国の国家元首。紛うことなき現ラグナ大公様だぞ?」

「この期に及んでふざけるな!!」

鼻で笑うかのようなラグナ大公の物言いに、怒り心頭のダリオがベッドからガバッ!と立ち上がり、柵の向こうにいるラグナ大公に掴みかかろうとした。

しかしラグナ大公はダリオの腕をヒョイ、と器用に避けて、それと入れ替わりに護衛の一人が柵の外に伸びてきたダリオの腕を手刀で叩き落とした。

「ぐわッ!」

腕を叩き落とされるとは思っていなかったダリオ、その場に蹲りながら叩かれた右腕を左手で押さえている。

往生際の悪いダリオに、ラグナ大公が本題を切り出した。

「ダリオ……はとこの 誼(よしみ) だ、俺が引導を渡してやる」

「………………」

「ラグナロッツァに巣食う闇ギルドの一つ、『何でも屋さん』から全ての犯罪記録が押収された。その中にはもちろん、お前が奴等に依頼した精霊拉致に関する資料も含まれている」

「ッ!?!?!?」

ラグナ大公の話に、ダリオの顔が驚愕に染まる。

ダリオは今日の夕暮れ時に捕縛されて、取り調べは明日からということになり連行直後に独房に入れられた。

そのため、闇ギルドが摘発されて証拠が押さえられたことなどダリオは全く知らなかったのだ。

しかし、ダリオが驚いたのはほんの数瞬だけ。

しばらくしてダリオは再び不敵な笑みを浮かべ、小馬鹿にしたような口調で反論し始めた。

「……だから何だと言うのです? この国、いや、サイサクス大陸に存在する全ての国で、精霊に関する法律など何一つ存在しない。精霊を捕まえようが奴隷にしようが、それを罰することなど誰にもできないのだ!」

「それは違う。ダリオ、お前は大きな思い違いをしている」

「…………何?」

「精霊に危害を加えた者を罰することができる者がいる」

「……???」

声高に無実を叫ぶダリオに対し、ラグナ大公は冷静に彼の過ちを指摘した。

しかし、ダリオ当人にはラグナ大公が何を言っているのかさっぱり分からない。

何なら『お前、頭がおかしくなったのか?』とでも言いたげな、実に怪訝そうな顔でラグナ大公を見ている。

察しの悪いダリオにその意図を知らしめるべく、ラグナ大公が動いた。

ラグナ大公の左側に控えていた宮廷魔導師を見遣り、顔をクイッ、と動かして合図を出した。

主君からの合図を受けた宮廷魔導師が、ローブの中で杖とともに仕舞っていた右手を外に出して呪文を唱えた。

「火球」

宮廷魔導師の前に、バスケットボールほどの大きさの火球が出現した。

この時点でラグナ大公は数歩後ろに下がっていたが、彼の左側にいたもう一人の護衛が火球に向かって話しかけた。

「火の女王、来てくれ」

フードに隠れて見えない、金髪碧眼の護衛の凛とした声が独房の地下室に響いた。

その瞬間、呼び声に応じて火球が瞬時にブワッ!と大きく膨れ上がった。

そしてその火球は、みるみるうちに人の形を成していく。

ラグナロッツァにおける火の女王の二度目の顕現だった。