軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1691話 ラウルの糸作りとたくさんの長所

火の女王の報復回避のために、レオニスが必死にあちこち飛び回っていた頃。

ラウルはフラムに新たにプレゼントするための天舞の羽衣作りに勤しんでいた。

それは自他ともに認める最優先事項。

毎朝の野菜または果物の収穫以外、例えば実りを終えた苗の緑肥処理や次の作物に向けての土作り及び苗作り、肥料化するための殻焼き処理はもちろんのこと、普段から欠かさない料理の下拵えやスイーツのストック作り等々、後でもできることは本当に全て後回しにして天舞の羽衣作りに励んでいた。

あの料理馬鹿のラウルが、料理を長時間しないでいられるなんてことあるの!? と、ライトやレオニスが心底驚愕し、マキシに「ラウル、本当に大丈夫なの!?」と心配されるほどの事態である。

しかしそれは、如何にラウルがフラムとの約束を重視しているかということの証でもあった。

プーリア族が誇る、唯一無二と言ってもいい特産品、天舞の羽衣。

羽衣作りの第一歩は、糸作りから始まる。

ラウルが左手の五本の指先から、魔力をまとった糸を出す。

この糸はラウルや人族の髪の毛よりも細く、太さで言えば半分以下の極細さだ。

だが、ツェリザークの雪にも負けないくらいに真っ白な糸はとても眩く、美しい煌めきを放っている。

左手の指から生まれた五本の糸を、右手人差し指をくるくると回しながら一本の糸に撚る。

ラウルの目の前で宙に舞う五本の糸が、右手のゆったりとした回転に合わせて次第に一本に集まって紡がれていく。

その様は何とも不思議で、思わず見入ってしまう。

実際にコテージのリビングで糸作りに励む様を見ていたライトやラーデも、その摩訶不思議で美しい光景にうっとりと見入っていた。

「うわぁ……ラウルが作る糸って、すっごく綺麗だねー……」

「お褒めに与り光栄だ」

『うむ……このように美しい糸を見るのは、我が竜生においても初めてのことやも知れぬ』

「度重なるお褒めの言葉、誠に光栄だ」

ライトとラーデ、それぞれが目をキラキラと輝かせてラウルが生み出す糸を大絶賛している。

ラウルが天舞の羽衣作りをしている作業を見るのは、二人ともこれが初めてのことだ。

ひたすら糸を作り続けるラウルに、ライトが素朴な疑問を口にした。

「プーリアの妖精さんは、全員この糸を作れるの?」

「ああ、プーリアなら誰でも作れる。ただし、上手い下手や腕の差なんかはどうしても出るがな」

「ラウルは羽衣作り、あまり得意じゃないんだっけ?」

「得意じゃないどころか、下から数えた方が圧倒的に早いくらいに下手くそだったよ」

「そうなんだぁ……」

「ああ。この糸作り一つ取っても、皆は俺より素早く大量に作ってた。糸を作った後の羽衣織りだって、俺は他のプーリアの何倍も時間をかけなきゃ仕上げられなかったしな」

ライトと会話しながらも、するすると糸作りを続けるラウル。

ラウルがプーリアの里にいた頃の思い出で、良かったとか楽しかった記憶などほとんどない。

それでも、糸作りをしていた時の思い出はいくつかある。

母マリーの幹に背を凭れながら一生懸命に糸を撚っていた、とある夏の日のことをラウルは思い出していた。

あの日も母さんは、糸を思うように上手く撚ることができなくてべそをかく俺を、一生懸命励ましてくれたっけ……

初めて織り上げた、リボンにもならないような細っこい紐を母さんに贈った時、それはもう母さんはすっごく喜んでくれてたな……

もっともっと上手に羽衣を作れるようになって、母さんに大きな襟巻をプレゼントしたかったのに……それが叶う前に、母さんは天寿を全うして逝ってしまった。

それ以降、俺は羽衣作りなんて全くしなくなって……

くッそー、こんなことになるなら、もっと真面目に羽衣作りに励んで慣れておくべきだった!

これからは料理だけでなく、羽衣作りもちゃんと修行していこう……

そんなことをラウルがつらつらと考えていると、ライトがラウルを励ますように声をかけた。

「でも!ラウルはこうしてちゃんと、すっごく綺麗な糸を作れてるじゃん!ぼくに言わせたら、それだけでも十分にすごいことだよ!」

「……そうか?」

「うん!だってぼくなんて、本当に普通の人族だもん。指先からこんな綺麗な糸を生み出すことなんて、絶対にできないし!」

キッ!とした顔で、大真面目にラウルを讃えるライト。

確かに普通の人族は、ラウルのように指先から糸を生み出すことなど不可能だ。

ただしそれは他のことにも言えることであり、普通の人族は空を飛んだりマグマの中を泳いだり、果ては水中で呼吸や会話などできないものなのだが。

レオニス同様、もはや人外の域にあるライトが懸命に『ぼくは普通の人族!』と強調する様子に、ラウルは笑いを堪えきれずに思わず噴き出した。

「……ププッ」

「え"ッ!? ラウル、何でそこで笑うのッ!?」

『……ププッ』

「え"ッ!? 何でラーデまでそこで笑うのッ!?」

ラウルに笑われたライトがガビーン!顔で抗議するも、ラウルにつられてラーデまで笑い出したではないか。

ラーデの追い打ちまで受けたライト、頬をぷくーっ!と膨らませてむくれている。

本気で怒るライトに、ラウルとラーデが慌てて言い募る。

「ハハハ、いや、すまんすまん。俺の小さなご主人様は、いつも何でも知っていて何でもできる超人だと思ってたんだがな? そんな万能なご主人様にも、できないことがあるんだなぁ、と思ってさ」

『うむ。ライト、其方は十歳になったばかりの子供。人族の子供と呼ぶにはあまりに不釣り合いな聡明さで、この我ですらも幾度となく驚かされておるぞ?』

「え"ッ!? そそそそれは、あの、そのぅ……」

ラウルやラーデの言い分に、今度はライトが一転して口篭る。

ライトの場合、見た目こそ十歳の子供だが、中身は前世分を足すと立派なアラフォーでレオニスより年上なのだ。

勇者候補生という特殊な立場こそラウル達にも知られたが、サイサクス世界とは別世界で生きた記憶があることまではまだ明かしていない。

さすがに今ここでそれがバレる訳にはいかないので、何とか必死に誤魔化すことにした。

「ぬーーーん……ぼ、ぼくに言わせたら、ラウルこそ万能執事だからね? だってラウルは料理がすっごく上手で、主食でもデザートでも何でも美味しいものをたくさん作れるし」

「それに、ほら、ラウルは木から生まれた妖精なのに火を使えるよね。雷だって、料理のために怖いのを一生懸命に堪えて、遂には克服したりしてさ……ホント、すごいよね!まさにド根性ってヤツ!?」

「他にも、美味しいお野菜や果物をたくさん作ってるし、温室を作るために世界初の妖精族出身の冒険者になっちゃったし。冒険者になってからは、氷蟹や砂漠蟹、ジャイアントホタテの殻処理でたくさん稼ぐようになったし……」

ラウルの長所を指折り数えながら、次々と挙げていくライト。

最初のうちこそ話題逸らしのために長所を挙げていたが、そのうち本当にラウルのスゴい!と思えるところを真剣かつ一生懸命に羅列するようになっていった。

そして最後に、ライトがパッ!と顔を上げてラウルの顔を見た。

「あッ、あとはほら、ラウルってツィちゃん達神樹の皆にすっごく好かれてるよね!天空島のドライアドさん達にもモテてるし、ヨンマルシェ市場に行けばどのお店でも大歓迎されるし。オーガの里では料理の先生としてすっごく尊敬されてて、特に氷の女王様からは熱烈に愛されてるでしょ? ……ラウルってば、超モテモテじゃん!」

「ぉ、ぉぅ……たくさんのお褒めの言葉、誠に光栄だ」

「……ン? ラウル、どしたの?」

「ぃゃ……ここまで過剰に褒められたことがないんでな……ちと照れ臭いというか、何と言うか……」

ライトがパッ!と見上げたラウルの顔は、照れ臭さで赤面していた。

確かにここまで壮絶に褒めちぎられたことは、ラウルの人生ならぬ妖精生の中でも初めてのことかもしれない。

右手で口元を押さえながら、視線を斜め上に外すラウルの何と初々しいことよ。

自分を褒めちぎるライトのワクテカ顔、そのあまりの眩しさにこれ以上直視することができなかったとみえる。

そしてライトとラウルのやり取りを見ていたラーデまで、うんうん、と頷いている。

『確かにライトの言う通りだ。ラウルほど有能な妖精は、この世に二人とおらんだろうな』

「だよねー!ラーデもそう思うよねー!」

『うむ。我も常日頃からラウルには世話になりっぱなしだからな。いつかこの恩に報いたいと思っておる』

「ラーデって、そういうところが真面目だよねー。でも、恩を返すなんて考えなくてもいいんだよ? ぼく達だって、こうしてラーデといっしょに暮らしていけるだけで楽しいんだからさ。ね、ラウル?」

「……ああ。小さなご主人様の言う通りだ」

ライトとラーデの和やかなやり取りに、ラウルの赤面も次第に収まり柔らかな笑顔になっている。

そしてふと我に返ったラウルが、己の指の先に絡まっていた糸を見遣る。

ライト達と会話をしているうちに、いつの間にかラウルの手が止まってしまっていたようだ。

「……おっと、糸作りが止まっちまってたな」

「あ、ごめんね、ラウルのお仕事の邪魔しちゃって」

「気にすんな。俺もそろそろ休憩しようかと思ってたところだ。適度に休憩しないと、糸作りのために必要な魔力が足りなくなっちまうからな」

「そっか、じゃあおやつタイムにしよっか♪」

「そうしよう」

糸作りを一旦中断して、休憩することにしたライト達。

ラウルはそれまで作り上げた糸を全て空間魔法陣に手早く仕舞い、すくっ、と立ち上がった。

「ライト、今日のおやつは何がいい?」

「えーっとねぇ……アップルパイ!」

「了解。ラーデは何がいい?」

『うーむ……桃のコンポートを頼む』

「了解。じゃ、キッチンの方に行くか」

「はーい!」『うむ』

ラウルに続き、ライトとラーデも立ち上がった。

そしてコテージ内のキッチンに向かって歩くラウルの後ろを、ライト達も嬉しそうにいそいそとついていくのであった。