軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1673話 ピースとの打ち合わせと彼の決意

時は少し遡り、ライト達が炎の洞窟に見舞いに出かけた日の午後三時過ぎ。

ライトはレオニスとともに、魔術師ギルドを訪れていた。

というのも、レオニスが昨日炎の洞窟で起きた事件のことをピースにも話して相談する、と聞いてライトがレオニスに頼み込んだのだ。

「レオ兄ちゃん、ぼくも魔術師ギルドについていきたい!」

「ン? 何でだ?」

「ぼくとマキシ君とラウルの三人で、今日炎の洞窟にお見舞いに行くでしょ? そのお見舞いといっしょに、フラムへのプレゼントを直してあげたいんだ。だから、新しいアクセサリーの材料のリボンとかに付ける付与魔法を、ピィちゃんにお願いしたいの」

「あー、なるほどね……分かった、そしたらいっしょに行こうか」

「うん!ありがとう、レオ兄ちゃん!」

ライト達の同行理由を聞いたレオニスが納得している。

フラムが失くしてしまった宝物、ライト達が誕生日プレゼントにあげたものを直してあげる———これはフラムを元気づけるために欠かせない喫緊の課題だ。

そしてその修復には、燃えやすい素材でできているリボンへの耐火耐熱魔法の付与が欠かせないのは当然のことである。

しかし、前回のプレゼントに付与したレオニスの耐火耐熱魔法ではフラムの豪火に耐えきれなかった。

ならば今回は、それ以上の効果を持つ付与魔法を施さなければならない。

それが今すぐにできる人間といえば、魔術師ギルドマスターであるピース以外にいないのは明白だった。

ちなみにこの時のマキシは、アイギスに休暇申請を出すためライト達とは別行動していた。

マキシはアイギスに出勤する前に、ライトにリボンを託した。

それらのリボンに、是非ともピースに耐火耐熱の魔法付与を施してもらいたい!という訳である。

そうして魔術師ギルドに向かった二人は、レオニスの顔パスでギルドマスター執務室に通された。

執務室の中では、相変わらずピースが書類の檻に囚われていた。

「よう、ピース、邪魔するぞ」

「ああッ!その麗しの声は!愛しのレオちん!」

「ピース、お前ね、思いっきり誤解を招くような呼び方はヤメロっての」

「うぃうぃ、ちょーっと待っててねー……この十枚の書類をちゃちゃっと片付けてからそっち行くからー!」

「へいへい、ここで座って待ってるわ」

レオニスの声を聞いただけで、それが誰だかすぐに分かったピースの声がウッキウキに弾んでいる。

それは『この檻から堂々と抜け出すチャーンス☆』というピースの思惑が透け透けの丸見えで、来訪者であるレオニスはさながら彼専属の救世主といったところか。

しかし、いくら親友枠のピースでも『愛しのレオちん』はいただけない。これではあらぬ腐疑惑をかけられてしまうではないか。

とはいえここはピース専用のギルドマスター執務室。

レオニスやライト、マキシ以外に聞いている者などいないので、適当にあしらって終わりである。

しばらく待っていると、ピースが出てきてライト達の向かいのソファにぽすん、と座った。

「はぁー、毎回毎度お待たせしてごめんねぇ。てゆか、ライっちも来てたんだねぃ!おひさー♪」

「ピィちゃん、お久しぶりです!」

「あ、そういえばライっちもとうとう冒険者になったんだよね? おめでとう♪」

「ありがとう!」

レオニスだけでなく、ライトも来ていたことに気づいたピース。首を左右にコキコキと振って凝りを解しつつ、ライトにも挨拶と冒険者登録への祝福をしてくれた。

相変わらず軽いノリの挨拶だが、別に悪い気はしない。

むしろ堅苦しい挨拶や威圧感たっぷりに話しかけられるよりは、余程マシで親しみやすいとさえ思える。

「レオちん、今日はどしたの? 魔宝石と呪符の物々交換は、こないだしたばっかだけど」

「それがな、実は昨日炎の洞窟で大事件が起きた」

「え"ッ!? 炎の洞窟で!? 何ナニ、それ、どゆこと!?」

早速昨日の炎の洞窟での事件に触れたレオニス。

それまで軽い調子だったピースが途端に真剣な顔つきになり、ソファから立ち上がってものすごい勢いで食いついた。

炎の洞窟には、ピースのことを手放しで褒めてくれる炎の女王がいる。

大好きな炎の女王が住まう洞窟で大事件が起きたと聞けば、ピースにとってもそれは一大事であり、決して笑って済ませられるような他人事ではないのだ。

その後レオニスは、ピースに昨日の事件のことを詳しく聞かせていった。

ピースは眉間に深い皺を作りながら、ずっと無言で聞き入っていた。

「―――話は分かった。こっちの方でもその四人について詳しく調べておくよ」

「ありがとう、そうしてもらえると助かる」

「ていうか、四人のうちの一人、カミラ。そいつには心当たりがある。十年くらい前に、あまりに素行が悪過ぎて魔術師ギルドを永久追放された女だ」

「そうか。他の三人も似たり寄ったりなんだろうな」

「多分ね」

険しい顔で話し合うレオニスとピース。

炎の洞窟の侵入者四人組のうちの一人、カミラはやはり魔術師ギルドに所属していた時期があったようだ。

「で、だ。俺達はこの事件を起こした本当の犯人、黒幕を何としても一ヶ月以内に捕まえて裁きにかけなきゃならん。でないと火の女王を納得させることなんて到底できやしねぇ」

「だよねー……火の女王の意思一つでガンヅェラの寝起きがコントロールできるなんて、ホンット洒落なんないよ」

「ああ……ガンヅェラの角が治りきっていないからって安心はできん。あの様子だと、本当にガンヅェラを叩き起こしかねん勢いだったからな。……まぁ、妹分である炎の女王が人族の欲望のせいで死にかけたんだ、火の女王が怒り狂う気持ちもよく分かるんだが」

「確かにねー……でも、次の満月の日までに捕まえるって、正直すんげー厳しいと思うけど……」

「それでもやらなきゃならん」

「「……はぁーーー……」」

今の思わしくない状況に、レオニスとピースが二人して大きなため息をつく。

敵は現ラグナ大公のはとこで、先々代ラグナ大公の血筋を持つ有力貴族。

彼が犯した過ちを白日の下に晒し、罪を問うことが如何に難しいか―――ピースだけでなくレオニスも承知していた。

しかし、如何に無理難題であってもやらなければならない。

やる前から無理だと決めつけるなど愚の骨頂である。

「とりあえず、ダリオ・サンチェスのことは小生の方でも調べておくよ。小生自身は貴族社会のことにあんま詳しくないけどね、うちの実家の誰かに聞けば少しくらいは分かるっしょ」

「すまんな、そっちの方も頼むわ。俺は俺で明後日ラグナ大公に謁見することになってるから、その時に何とかできんか直訴するつもりではいるがな」

「え? レオちんがラグナ宮殿に登城すんの? 珍しいこともあるもんだねぇ?」

レオニスの登城話を聞いたピースが、目を丸くして驚いている。

レオニスの貴族嫌いはピースもよく知るところであり、そんな彼が王侯貴族の本丸であるラグナ宮殿に出向くなど滅多にあることではないのである。

「おう、今回の事件でプロステスの領主がすんげー怒り心頭でな。同じく氷の洞窟での事件で連携を取っているツェリザーク領主と二人で、ラグナ大公に謁見することになってるんだと。そこに俺も同行してくれって頼まれたんだ」

「そりゃまた大変だねぇ……まぁでもね、炎の洞窟での事件を解決したレオちんだからこそ、ラグナ大公に直接物申せるってのはあるかもね」

レオニスのラグナ宮殿登城の理由を聞き、ピースが納得したように頷いている。

そうして一通り話し合ったところで、ふとレオニスがライトに声をかけた。

「ライト、俺はまだもうちょいピースと込み入った話をしなきゃならんが……お前はそろそろ屋敷に帰ってラウル達と炎の洞窟に行かなきゃならんだろ?」

「あ、うん、そうだね。その前にピィちゃんに一つお願いがあるんだけど……いいかな?」

「ン? 小生にお願い? 何ナニー?」

レオニスに話を振られて、今日の魔術師ギルド訪問のもう一つの目的を伝え始めた。

今年の夏に一歳の誕生日を迎えたフラムにリボン付きアクセサリーなどのプレゼントをあげたこと、そのプレゼントが昨日の大事件によって燃えてダメになってしまったこと、それをフラムがとても悲しんでいること等々。

それらを悲しげな顔で語るライトに、ピースも真剣な面持ちで聞き入っていた。

「だから今日、ぼくはラウルとマキシ君といっしょに炎の洞窟にお見舞いに行くんですけど……フラムが失くしてしまった宝物のアクセサリーもいっしょに直してくるつもりなんです」

「うんうん……ライっちもマキシーも、ホントに良い子だねぇ……」

「それでですね、今朝マキシ君からアクセサリーを直すためのリボンを預かってきてまして……このリボンに、ピィちゃんの耐火耐熱魔法を付与してほしいんです!」

「うぃうぃ、そゆことなら小生に任せたまえ!フラム君が放つ炎にも負けない、超頑丈な魔法付与を施してあげようジャマイカ!」

「よろしくお願いします!」

ライトのお願いを、ピースが即時快諾した。

炎の洞窟の主達は、ピースにとっても大事な仲間であり友達。

そんな彼ら彼女らを守るための魔法付与ならば、いくらでも請け負う!というピース。その気概は実に頼もしい。

ライトがアイテムリュックから色とりどりのリボンを取り出し、ピースに手渡した。

それを受け取ったピースが「ちょいと別室でやってくるから、ライっち達はここでしばらく待っててねー」と言いつつ、ピューッ!と執務室を退室していった。

この執務室には付与のための道具が置いてないからか、はたまたギルドマスターが直々に施す付与魔法は特別にして門外不出で他者に見せられないのか、理由は定かではない。

そうして十分ほど経過した頃、ピースが戻ってきた。

その手には、先程とは明らかに輝き方が違うリボンが握りしめられていた。

「ライっち、お待たせー!さっき預かったリボン全部に、超スペシャルな付与魔法をてんこ盛り盛りにつけてきたよー♪」

「ピィちゃん、ありがとう!……って、てんこ盛り盛りって、耐火耐熱魔法以外にもつけてくれたの?」

「うん!耐火耐熱にー、耐水耐氷にー、物理と魔法攻撃のダメージ軽減にー、毒無効にー、あとは呪詛無効くらい?」

「ぉぉぅ……たくさんつけてくれたんだね……」

「うん!だってこれは、フラム君を守るための新しいアクセサリーになるんでしょ? ならモリモリの山盛りにつけなくっちゃね☆」

ライトの予想をはるかに上回る防御付与に、思わずライトの頬が引き攣っている。

しかし、フラムのためにこれだけの付与をつけてくれたことは本当にありがたいことだ。

ライトはピースから返されたリボンをアイテムリュックに仕舞い、改めて礼を言った。

「ピィちゃん、本当にありがとうございます。このお礼は、何でお返しすればいいですか? ぼくやマキシ君が用意できるものなら何でも言ってください」

「お返し? ンなもん必要ナッシングよー!…………あ、でも、一つだけお願いしたいことがあるかもー」

「ピィちゃんのお願いって、何でしょう?」

魔法付与の謝礼に何を望むか、というライトの問いかけに、ピースはそんなもの不要だという。

レオニスのように身内相手ならば、謝礼など本当に不要かもしれない。

だが、ピースは現役の魔術師ギルド総本部マスターであり、当代最高峰の魔術師。

そんな彼に各種強化魔法を付与してもらっておいて、タダで済む訳がない。

そう、本来なら莫大な報酬を支払わなければならないのだ。

そしてピースがライトに頼みたいことがあると言う。

「今日ライっちは、炎の女王ちゃんとフラム君に会うんでしょ? そしたらね、そのついでに伝言してほしいんだ。『小生も近いうちに皆のお見舞いに行くから待っててね!』って」

「ピィちゃん、近いうちにお休みが取れるんですか?」

「お休みじゃなくて、お仕事で行くつもり。今回の事件の現場検証って名目でね!」

ライトの素朴な疑問に、ピースがパチッ☆とウィンクしながら答える。

魔術師ギルド総本部マスターであるピースは、なかなか休暇が取れない。それはライトも重々承知している。

しかし、今回ばかりは話が変わる。

事件の現場検証という大義名分を掲げれば、休暇など取らずに公務として堂々と動ける、という訳だ。

ピースの悪戯っぽいウィンクでライトも早々にそれを察した。

「分かりました!炎の女王様とフラムに、ピィちゃんも炎の洞窟を訪ねる予定だって伝えておきますね!」

「よろぴくね!てゆか、小生も前々からずーっと炎の洞窟に行きたかったし!……ぃゃ、もちろん事件の現場検証だって本当にするけれど。絶対に絶対に、近々お見舞いに行くからねー!」

フンスフンス!と鼻息も荒く炎の洞窟再訪を決意するピース。

実際のところ、ピースによる炎の洞窟最奥の間の現場検証は必要だろう。

侵入者の遺体や持ち物など物的証拠は何一つ残っていないが、目に見えない魔力の残滓を捉えられる可能性は大いにある。

そしてそれは、当代随一の魔術師であるピースにこそ最適な任務と言えよう。

マキシに託されたリボンの魔法付与を無事済ませ、ピースからの伝言も預ったライト。

ソファから立ち上がり、改めてピースに頭を下げた。

「ピィちゃん、お忙しい中をぼくとマキシ君、そしてフラムのために時間を割いてくれて本当にありがとうございました」

「ぃゃぃゃ、何のこれしき。事件で傷ついたフラム君のためでもあるし、何よりピィちゃんとライっちの仲ジャマイカ!」

「そう言ってもらえると、ぼくも嬉しいです!フラムと炎の女王様にも、ピィちゃんがくれた心遣いと伝言をちゃんと伝えておきますね!」

「うんうん、ライっちも気をつけてお出かけしてきてねーぃ♪」

ライトはアイテムリュックを背負い、何度も頭を下げながらギルドマスター執務室を退室していった。

そんな子供らしからぬ礼儀正しいライトを、ピースは右手をひらひらと振りながらニコニコ笑顔で見送っていた。