作品タイトル不明
第1672話 ライト達のお見舞いとフラムの新たな願い
炎の洞窟で大事件が起きた怒涛の日の翌日の夕方。
ラウルの予想通り、ライトが炎の洞窟を訪ねた。しかもライトだけでなく、マキシといっしょにである。
ライトはラグーン学園が終わってからすっ飛んで帰宅し、マキシも午後に半休を取って二人で炎の女王とフラムを見舞いに訪ねた。
いや、本当なら週末の土日になってから見舞いに行くべきなのだろう。
しかし、炎の女王とフラムの危機を聞いたら居ても立ってもいられないし、四日も五日も待つなんて絶対にできやしない。
平日だろうが何だろうが、何が何でも明日中に炎の女王様とフラムのお見舞いに行く!というライト達の強い決意は、もはや誰にも変えられなかった。
転移門を使って三人で炎の洞窟最奥の間に移動して早々、ライトとマキシが炎の洞窟の主達のもとにすっ飛んでいった。
「炎の女王様ーーー!フラムーーー!二人とも無事で良かったーーー!」
「フラム君ーーー!本当にどこにも怪我はありませんか!? 炎の女王様もご無事そうで良かったですーーー!」
「「うわーーーーーん!!」」
炎の女王の両手を握りしめながら無事を喜ぶライトに、一目散でフラムの胸にバフッ!と飛び込み抱きつくマキシ。
出会って早々、二人しておいおいと号泣する姿に炎の女王もフラムも『ぁ、ぁぁ……そ、そんなに泣くでない……』『ホ、ホントに大丈夫だから、ね? ね?』とタジタジになりながらライト達を慰めていた。
とりあえず炎の洞窟の主達の無事をその目で見て、一安心したライト達。
次第に落ち着きを取り戻していった。
「あの……すっごく騒いじゃってごめんなさい。昨日レオ兄ちゃん達から、炎の洞窟で大事件が起きたって話を聞いて……もう居ても立ってもいられなくて……」
「僕もごめんなさい……炎の女王様もフラム君も、すっごくお疲れでしょうに……」
涙でぐしょぐしょになった顔を、ラウルが無言で差し出したタオルでゴシゴシと上下に拭いながら謝罪するライトとマキシ。
日頃から涙もろいライトはともかく、マキシまでこんなに取り乱すとは意外だ。
しかしマキシは八咫烏であり、朱雀であるフラムのことをこの上なく崇敬している。
それだけに、今回フラムが炎の女王とともに酷い目に遭って大暴走したことを聞き、マキシもとても心を痛めていた。
ライトが翌日に炎の洞窟に見舞いに行くと聞き、マキシもそれについていくべくアイギスで当日朝イチに午後の半日休暇申請を出した。
マキシが休みを取りたい理由を聞いて、三姉妹は快く送り出してくれた。本当にありがたいことである。
その他にもライトとマキシは見舞いの品を用意したり、とある理由で魔術師ギルドに立ち寄ったりと忙しく動き回っていた。
そのため、炎の洞窟の訪問が昼過ぎになったのである。
そうして騒がしい再会から一転、しょんぼりとしながら謝るライトとマキシに炎の女王が嫋かな笑みを浮かべる。
『何の、気にするな。汝達はそれだけ妾達の身を案じてくれたのであろう?』
『そうだよ、ライト君もマキシ君もそんなに謝らなくてもいいよ!こうしてボク達に会いに来てくれただけで、すっごく嬉しいんだから!……それに……謝らなきゃいけないのは、ボクの方だよ……』
ライト達のフォローをしていたはずのフラムが、今度は目に見えて萎れていく。
その原因は、フラムが誕生日プレゼントにもらったアクセサリーやリボンを壊してしまったからだというのは明白だった。
長い首をへの字に曲げてがっくりと項垂れるフラム。そのつぶらな瞳にはもう涙がじんわりと滲んでいた。
「大丈夫だよ、フラム!だってぼく達が今日ここに急いで来たのは、お見舞いだけじゃなくてフラムのアクセサリーを直すためでもあるんだもん!」
「そうですよ、フラム君!僕だって、アクセサリーを直すための道具を一式持ってきましたから!アクセサリーの修復なら、どーんと任せてください!」
『ぅぅぅ……ライト君もマキシ君も、ありがとう……』
涙ぐむフラムを全力で励ますライトとマキシ。
二人の力強い言葉に、フラムの涙は一瞬にして悲しみから歓喜に変わっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後ライトとマキシはすぐにフラムのアクセサリーの修復に取りかかった。
ライトが煤けた金属部分を一生懸命磨いている間に、マキシが新しいリボンをいくつも取り出してフラムに見せていた。
「フラム君、新しいリボンは何色がいいですか? 前にプレゼントした赤のリボンも持ってきていますけど、他の色もたくさん用意してきたんですよー」
『うわぁ……どれもすっごく綺麗で迷っちゃうなぁ……』
マキシが空間魔法陣から取り出した、色とりどりのリボン。
赤に青に緑に黒、白や黄色、橙や紫や桃色、果ては金色に銀色まである。
たくさんのカラフルなリボンを前に、フラムは目移りするばかりでどれを選ぶかなかなか決められないようだ。
そんなフラムに、マキシが助け船を出す。
「フラム君、一つに決められない感じですか?」
『うん、どれも全部素敵な色だからさ……前のと同じ赤は絶対に欲しいし、でもキラキラに光る金色もカッコいいし、紫も気になるし……』
「じゃあ、その三色を全部使っちゃいましょうか!」
『え"ッ!? そんなことができるの!?』
「もちろんですとも!」
フラムが挙げた好きな色三色を全て使おう!と言うマキシに、フラムが目を丸くしながら問い返している。
早速マキシが三本のリボンを抜き取り、他の色のリボンを空間魔法陣に仕舞い込む。
そして三本のリボンを全て鋏で二つに分けて、計六本のリボンにした。
「これを、こうしてですね…………」
マキシは三色のリボンの端をワニカンで一つにまとめて、ヒョイヒョイ、と三つ編みに編み込んでいく。
編み終わりを切り揃えてから別のワニカンで留めれば、三色のリボンの三つ編みブレードの出来上がり。
これと同じものをもう一本作り、台座付きのルビーの両端につければ『三色三つ編みのチョーカー』の完成だ。
「はい、出来上がりました!」
『うわぁ……すごいね……マキシ君、物作りの神様みたい……』
「え"ッ!? 僕なんてまだまだヒヨッコですよ!?」
マキシの腕前をべた褒めするフラムに、当のマキシは泡を食ったように否定している。
実際マキシの師匠であるアイギス三姉妹、特に長姉のカイが生み出すドレスや装備品類はどれも完璧な品で、それを毎日間近に見ているマキシからすれば自分の腕などまだまだ未熟だ。
しかし、フラムの目にはチョーカーをパパッと作り上げてしまうマキシこそが物作りの神に思えた。
「ささ、フラム君、作り直したチョーカーを着けましょう。前と同じく左足首でいいですか?」
『うん!』
照れ隠しなのか、慌てたようにフラムにチョーカーの着用を促すマキシ。
フラムも嬉しそうに左足を前に出した。
マキシの手によって、新しく生まれ変わった三色のチョーカーがフラムの左足首に着けられた。
新たな宝物を得たフラムが、己の左足首に輝くルビーを嬉しそうに眺めている。
『うわぁ……このルビー、またボクに力を与えてくれているんだね!でも……もしかしたらまた昨日のように、何かの拍子にボクの炎で燃やしちゃうかも……』
「フラム君、安心してください。新しいリボンにも全て耐火耐熱魔法を付与してもらってありますから」
『そうなの? でも……前のリボンだって、耐火耐熱魔法を付けてあったんだよね? それでも燃えちゃった……』
「フフフ、それも心配ありません。何故なら今回のリボンに耐火耐熱魔法を付与してくれたのは、魔術師ギルドマスターのピースさんだからです!」
『魔術師、ギルド、マスター……?』
自信満々に大丈夫!と言い切るドヤ顔のマキシに、フラムが不思議そうな顔をしている。
ピースはかつてこの炎の洞窟で、神殿守護神の卵からフラムが孵化した場面に立ち会っている。
だが、それ以降ピースはこの炎の洞窟に一度も再訪していない。
というか、どれほどピースが「また炎の洞窟に遊びに行きたい!」「火の女王ちゃんやフラム君に会いたーい!」と思っていても、彼自身多忙過ぎてなかなか実現できないというのが実情なのだが。
そのため、フラムがピースという名前を聞いてもそれが何者なのか、すぐには分からなかった。
しかし、炎の女王はピースのことをちゃんと覚えていた。
『おお、それはかつて妾と火の姉様を救いし大魔術師だな?』
「はい、そうです。実は今日ここに来る前に、魔術師ギルドに行ってギルドマスターのピースさんに事情をお話ししてリボンに耐火耐熱の魔法付与をしてもらったんです」
『それは素晴らしい!彼の大魔術師が施す魔法ならば、その威力もさぞ強力に違いない。フラム様、ようございましたな!』
『うん!』
炎の女王の太鼓判に、フラムが破顔しつつ頷く。
ここまで聞けば、ピースが何者であるかをフラムも理解していた。
というのも、炎の女王は日頃からフラムに恩人達のことを話して聞かせていたからだ。
『フラム様ご降臨の折には、三人の人族が立ち会っておりました』
『一人はレオニス、一人はライト。この二人はフラム様も何度もお会いしているから分かりますね。そしてこの二人以外にもう一人、ピース・ネザンという者がおりました』
『その者は、かつて悍ましい穢れに侵されて死の淵に立たされていた妾を『呪符』という大いなる御業にて救ってくれました』
『それだけではございません。火の姉様が住まう火の聖地、エリトナ山に積み重なった無数の不浄の骸をも見事排除したのです』
『妾達火の姉妹、そしてフラム様も、あの三人の人族に多大な恩があるのです』
それは炎の女王が何度も何度もフラムに聞かせてきた、事実に基づく思い出話。
それを聞く度に、フラムは『そのピースっていう人にも、いつか会いたいなぁ』と思っていた。
そして今日、新しい宝物のためにピースが再び一肌脱いでくれたと言うではないか。
この嬉しい事実に、フラムが目を輝かせながら呟いた。
『ボクもそのピースっていう人に会いたいなぁ。ねぇ、マキシ君、どうしたらぼくもその人に会えるかな?』
「えーと、ピースさんはすっごく忙しい人だから、なかなか自由にお出かけできないらしいんですよね……」
『そうなんだぁ……』
ピースの現状を正直に伝えるマキシの言葉に、フラムが一瞬だけしょんぼりする。
だがマキシの話には続きがあった。
「あッ、でもでも、がっかりしないでください!僕もさっきライト君から聞いたんですけど、ピースさんも『小生も炎の洞窟に行きたーい!てゆか、絶対に行くー!』って言ってたそうですから!」
『ホント!?』
「うん、そうですよね、ライト君?」
「うんうん、マキシ君の言う通りだよ!」
マキシに話を振られたライトが大きく頷きながら肯定する。
ライトとマキシの力強い言葉に、フラムがパッ!と顔を上げて喜んだ。
ピースが炎の洞窟に絶対に行く!と言っていたというマキシの話は、嘘偽りない本当の話だ。
というのも、ライトはラグーン学園帰宅後すぐにレオニスとともに、魔術師ギルド総本部に出かけていた。
その時のことを、ライトはフラムと炎の女王に聞かせていった。