軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1609話 黒幕の手がかりを求めて

冒険者ギルドの転移門を使い、ツェリザークからラグナロッツァに戻ったレオニスとラウル。

一階奥の事務室から表の大広間の受付に移動した。

移動の途中、ラウルがレオニスに問いかける。

「ご主人様よ、これからどうするんだ?」

「まずマスターパレンに会って話を聞く」

「??? どうしてマスターパレンに会う必要があるんだ?」

「マスターパレンはな、ああ見えて子爵家の次男坊なんだ」

「え"ッ!? マジで!?」

「マジマジ」

あまりに衝撃的な初耳情報に、ラウルがガビーン!顔で驚愕している。

パレンの生家であるタイン家は、アクシーディア公国の近衛騎士隊にも合気道や護身術を教えている名家だ。

しかもそれは一代二代の話ではなく、アクシーディア公国の建国直後から何代にも渡って続く正真正銘の由緒正しい名家。

この長年の功績により、タイン家には子爵の位を子々孫々まで継いでいける権利がラグナ大公から正式に与えられているのだ。

そして、このタイン家はラグナロッツァを拠点としている。

とはいえ、純然とした貴族ではなくその本質はタイン流合気道の宗家。

さすがにガッチガチでコッテコテの貴族の付き合いなどはあまりないだろうが、それでもここラグナロッツァの貴族の事情には多少なりとも精通しているだろう。

故にまずはパレンに話を聞こう、とレオニスは考えたのだ。

受付にいるクレナにレオニスが話しかけた。

「よう、クレナ」

「あらー、レオニスさんにラウルさん、ツェリザークに出かけたんじゃなかったでしたっけ?」

「向こうの用事が早くに済んだはいいんだがな、今度はマスターパレンと話をする必要があってな。今日はマスターパレンはいるか?」

「はい、午後三時からお出かけの予定ですが、その前ならお会いできますよ」

「執務室にいるよな?」

「ええ、今日も山盛りの書類に埋もれておられるはずですぅー」

「ありがとうな。書類仕事に差し支えない程度に邪魔させてもらうわ」

受付でパレンの滞在を確認したレオニス。

クレナに礼を言いつつ、パレンがいるギルドマスター執務室に向かった。

執務室の扉を二回ノックしてから、ラウルとともに入室するレオニス。

執務机の上には、相変わらず 堆(うずたか) く積まれた書類の山があった。

ちなみに執務机の後ろには大きな窓があって、外の明るい光が差し込んでいるというのに、それに負けないくらいに強い別の光が輝いている。

その光源は、言わずもがなパレンの頭部である。

「よう、マスターパレン。相変わらずクッソ忙しそうだな」

「おお、その声はレオニス君か!久しぶりだな!もう少しでこの書類が片付くから、お茶でも飲みながら待っててくれ」

「ああ、今日はラウルもいっしょにきてるから、二人で待たせてもらうわ」

「すまんな。シーマ君!レオニス君とラウル君に、お茶とお茶菓子を出してくれたまえ!」

「承知いたしました」

書類の山の向こうで仕事に励むパレンが、ちょうど給湯室にいた第一秘書のシーマに声をかけて、来訪者をもてなすよう指示を出す。

パレンの指示を受けたシーマがすぐに動き、三人分のお茶とお茶菓子を持ってきて応接ソファにそれぞれ置いた。

本日のお茶は冷たい麦茶、お茶菓子は水羊羹。九月に入ったとはいえ、まだまだ夏の暑さが残る時期には嬉しいもてなしである。

レオニス達は先程まで涼しいツェリザークにいたので、ラグナロッツァの暑さを改めて感じる。

シーマに出された冷たい麦茶を、二人してグビグビと飲んでいる。

グラスの半分くらいを一気に飲んだ後、ラウルが改めてパレンの執務机を見ながら呟く。

「つーか、あの量の書類仕事って、そんなすぐに終わるもんなんか?」

「普通は終わらんな。俺だったら一週間、いや、半月はかかりそうだ」

「だよな……」

ラウルが驚愕しているのは、パレンを取り囲む書類の量。

ラウルがギルドマスター執務室に入るのはこれが初めてのことてはないが、それでもいつ見てもとんでもない量の書類に囲まれているパレンやピースを見る度に『俺には絶対に無理だ……』と思う。

そしてそれは、レオニスも完全に同じだったりする。

「だがな、マスターパレンにかかればこの書類の山もちょちょいのちょいー、よ」

「そ、そうなんか……マスターパレンって本当にすげーんだな」

「ああ。見た目はムキムキマッチョの脳筋にしか見えんだろ? だが、マスターパレンは違う。あの人はああ見えて知性もすんげー高くてな。『文武両道』という言葉はマスターパレンのためのもんだ、と俺は思うね」

「やはり冒険者の頂点に立つ人間というのは、とんでもない才能が要るんだな」

「そういうこった」

パレンの能力を大絶賛するレオニスに、ラウルも同意することしきりだ。

そんな会話で盛り上がっている間にも、パレンの目の前にあった山盛りの書類は見る見る間に減っていき、パレンの顔がレオニス達にも見えるようになった。

そしてパレンが、ふぅ……と一息ついた後、徐に椅子から立ち上がりレオニス達が座るソファの前に座った。

「いやいや、待たせてすまなかったな」

「こんなん待つうちにも入らんって」

「そうだとも。ほんの十分程度であの山を片付けるとか、マスターパレンは本当にすごいな!」

「うむ、ラウル君にまで褒められるとは光栄の極みだ」

疲れた様子など一切見せることなく、ニカッ!と真っ白い歯を見せながら笑うパレン。

その笑顔は、突き抜けるような真夏の鮮やかな空と白い雲を思わせる爽やかさだ。

ペカーッ☆と輝くパレンの眩しい笑顔に、二人は尊敬の念を禁じ得ない。

そして、今日のマスターパレンのコスプレは甚平。

普通の甚平をコスプレと称して良いものがどうかは定かではないが、彼が着る衣装は全て特別製なのは間違いない。

生地もしじら織りという甚平向きの特別な織物で、地の色は薄紫色で縦糸が濃いめの紫色というグラデーションが美しい逸品だ。

その上筋骨隆々な恵体が羽織る甚平は、ラフさの中にもキリリとした凛々しさを感じさせる。

おお、今日のマスターパレンは甚平か。

九月に入ったとはいえ、まだまだ夏と変わらん暑さが続くもんな。

薄紫色の生地に、胸元には冒険者ギルドの紋章の刺繍か。シンプルな作りの中にも凝ったワンポイントがあって、実にお洒落だ。

基本的に甚平ってのは、ゆったりとした作りになるはずなんだが。マスターパレンが着ると、どうしてもパッツンパッツンになるのは仕方がないんだろうな。

つーか、甚平特有の少し 開(はだ) けた胸元がまた色気を感じさせるなぁ……今この姿でマスターパレンが外に出たら、間違いなく大量のファンに囲まれるぞ……

甚平一つで世の老若男女を悩殺できるのなんて、世界広しと言えどマスターパレンだけだな!

パレンの甚平姿を見たレオニスの脳内で、超絶前向きな絶賛レビューが果てしなく湧き出ている。

そんなことなど知る由もないパレン。早速レオニス達に問うた。

「して、本日の用向きは何だね? レオニス君一人だけでなく、ラウル君まで連れているということはそれなりに重大な用件なのだろう?」

「さすがはマスターパレンだ。その通り、緊急を要する案件があってな。マスターパレンの知識を借りたい」

「ほう、私の知識、とな? 私で分かることであれば、何でも答えようじゃないか」

「実は、今ツェリザークで起こっている事件があってな―――」

それまでのポジティブレビューと違い、打って変わって真剣な眼差しのレオニスがツェリザークの事件のことをパレンに伝える。

レオニスが話す不穏な事件の内容を、パレンもまた真剣な面持ちで聞き入っていた。