軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1608話 ジョシュアとの話し合い

その後レオニス達はラウル特製巨大野菜を山ほど差し入れし、氷の洞窟を後にした。

氷の女王は玄武を抱っこしながら洞窟入口まで見送ってくれたが、それでもいつものような朗らかさはなく、終始沈んだ表情のままだった。

氷の洞窟からツェリザークの街に向かう道中で、レオニスとラウルはやるせない気持ちでとぼとぼと歩く。

「氷の女王、人族嫌いに戻っていなかったのは良かったが……元気もなかったな」

「ああ……氷の精霊を守るためとはいえ、人族のパーティーを殲滅させたのはやっぱりショックだったんだろう」

「だよな……一番弱っちい下級の氷の精霊を鷲掴みにして、袋に詰め込むなんざ許せん。鬼畜の所業だ!」

悲しげに経緯を語った氷の女王の気持ちを思うと、全滅させられたという傭兵集団への怒りが湧く。

そしてここで、ラウルがふと思った素朴な疑問を口にした。

「ていうか、なんでそいつらは氷の精霊を拉致しようとしてたんだ?」

「これは俺の推測でしかないが……おそらく奴等は、乙女の雫を狙ってるんじゃないかと思う」

「【氷の乙女の雫】か? そんなもん、下級の精霊を拐ったところで取れるもんじゃねぇだろう」

「普通はそう考える。しかし、欲に目が眩んだ連中ってのは無駄に行動力があるからな。最悪、氷の精霊を人質にして氷の女王を脅迫して、言うことを聞かせようとした可能性もある」

「………………」

レオニスの推察に、ラウルが端正な顔を歪めながら絶句する。

確かにレオニスの推察は妥当なもので、下級の精霊からは絶対に取れない乙女の雫を人質という卑怯な方法を用いて、氷の女王から無理矢理奪い取ろうとした可能性は大いにあり得る。

「人族の醜態、不始末は人族の手でつけなきゃならん。……って、ラウル、お前は人族じゃなくて妖精だから、俺の都合に巻き込む訳にはいかんがな」

「問題ない。俺は種族こそ妖精族だが、今はラグナロッツァという人里に身を置いているからな。それに……」

人族が犯した罪を暴き雪ぐ―――それは同じ人族であるレオニスが担うべき責務。

しかし、そうしたレオニスの都合や思惑に妖精族のラウルまで巻き込むのは不本意だし筋違いだ、ともレオニスは思う。

だからラウルにもそう告げたのだが、当のラウルは目を伏せながら己の意思をレオニスに伝える。

「氷の洞窟の平穏を乱す奴は、人族であろうとなかろうと……魔族や邪神の類いであっても絶対に許さん。だからご主人様よ、この件について遠慮は要らん。どこまででも付き合わせてもらうぞ」

「おお、そうか。そりゃ頼もしい。よろしく頼むぞ」

「おう、任せとけ」

ラウルの決意を知ったレオニスが、ニカッ!と笑いながらラウルに向けて右の拳を突き出す。

ラウルもそれに応じ、左の拳を突き出してレオニスの拳にコツン、と軽くぶつけた。

「さて、そしたら次はジョシュアんところに行くぞ」

「領主邸に直行するのか?」

「ああ。ジョシュアからは、いつ何時訪問してくれて構わない、というお墨付きをいただいているからな。特に今回は氷の洞窟での事件だ、ジョシュアもさぞお冠だろうよ」

「だろうな。あの領主、氷の洞窟の主達のことを崇敬してるもんな」

「そゆこと」

次に行くべき目的地を定めたレオニス。

今のところレオニス達は、フェリックスと氷の女王から情報を得ただけで、情報量としては全く足りていない。

ここはジョシュアが領主を務めるツェリザーク側とも連携を取らなければならない。

二人はツェリザークの街に戻り、その足ですぐにジョシュアがいる領主邸に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ツェリザーク領主邸に到着したレオニスとラウル。

二人とも領主邸に入ったことがあり、顔パスで通ることができた。

これは、深紅のロングジャケットがトレードマークのレオニスはもとより、ラウル自身も『氷蟹の殻問題をいつも解決してくれる、偉大なる殻処理貴公子様』として、ツェリザーク内では非常にありがたがられて崇敬を集めているためである。

さすがに銅像建立は阻止したが、一時は本気でラウルの偉業を讃える銅像を建てようとした街だ。

見目麗しいラウルの顔立ちもあって、もはやツェリザークではラウルのことを知らない者などいないくらいの有名人となっていた。

領主邸に入り、執務室に通されたレオニスとラウル。

執務室の中に入ると、そこには書類の山に埋もれかけているジョシュア・スペンサーがいた。

「おお、ラウル君にレオニス君!ようこそ来てくれた!」

「相変わらず忙しそうだな」

「まぁな。ツェリザークはもうすぐ冬になるからな。世間一般は秋を楽しむ季節でも、この街ではもう既に冬支度をせねばならん時期なのだよ」

「ホンット、ツェリザークって街は大変だよなぁ……」

時折顔を上げながら、右手は書類にサイン、左手は書類の移動をシュババババ!と行うジョシュア。

その器用さと素早さは、目を見張るものがある。

ジョシュアは書類を流れ作業の如く整理しながら、執事に向かって「おーい!お客人にお茶を出してくれたまえ!」と声をかけたり、レオニス達にも「せっかく来てくれたのに、待たせて申し訳ない。すぐに終わらせるから、そちらでお茶でも飲みながら待っててくれ」と話しかけたりしている。

なかなかに気遣いができる領主である。

そうして十分ほど待っただろうか。

ようやく書類整理に一区切りついたジョシュア、席を立ちレオニス達が待つ応接ソファのもとに来た。

右手で自分の左肩を揉みながら、首を軽く左右に振って凝りを解すジョシュア。

改めてレオニス達に挨拶をし始めた。

「ラウル君、レオニス君、久しぶりだね。訪ねてきてくれて嬉しいよ」

「事前連絡も無しに押しかけてすまんな。事は緊急を要するのでな」

「……氷の洞窟での件か?」

「ああ。俺は昨日、知り合いの冒険者から氷の洞窟の事件の話を聞いて、それを確かめるべく今日ここに来たんだが……氷の洞窟で起こったことなんだから、あんた達ツェリザーク側もある程度把握してるよな?」

「もちろんだとも」

早々に話を切り出すレオニスに、ジョシュアも深刻そうな顔で応じる。

「レオニス君は、その知り合いの冒険者からどのように聞いている?」

「とある貴族が雇った、私兵だか傭兵のパーティーが氷の洞窟に入って全滅した、と聞いた。しかもそれが三回にも及んで、冒険者ギルド経由の依頼じゃないから全滅したパーティーの遺体回収も全く行われん、ともな」

「我々が掴んだ情報と、概ね合っているな」

互いが持つ情報を照らし合わせるレオニスとジョシュア。

しかし、レオニスが持つ情報はこれだけではない。

レオニスはさらに話を続けた。

「でもって、俺達はここに来る前に氷の洞窟にも立ち寄ってきた」

「何ッ!? 氷の女王や玄武様にもお会いしてきたのか!?」

「ああ」

「お二方の様子はどうだった!? 此度の件で、激怒してはおられなかったか!?」

「怒ってはいなかったが……見るからに落ち込んでいて、いつもの元気がなかったよ」

「……何と……」

二人がが氷の洞窟に立ち寄ったと聞き、ジョシュアがソファから立ち上がり身を乗り出してレオニスに氷の女王達の反応を尋ねる。

ジョシュアとしても、氷の洞窟の主達の様子が余程気がかりだったのだろう。

そしてレオニスから聞いた、氷の女王が落ち込んでいるという話に、それまでものすごい勢いだったジョシュアがぽすん……と力無くソファに座り込んだ。

その後レオニスは、氷の女王から聞いた経緯をジョシュアに話して聞かせていった。

どこぞの貴族が雇った傭兵パーティーは、氷の精霊を標的にしていたこと。小さくて抵抗力も少ない下級の氷の精霊を手で鷲掴みにし、袋に押し込んで拉致しようとしていたこと。

その惨い仕打ちを見た氷の女王が激怒し、傭兵パーティーを氷槍で貫いた上で氷漬けにして殲滅したこと。

しかし、人族に対する嫌悪はそこまでではなかったこと。むしろジョシュアの日頃からの献身の甲斐あって、ジョシュア他気の良い人族達には感謝していること、等々。

それらをジョシュアは無言で聞いていたが、次第にその顔が険しくなっていく。

悔しげな表情で歯を食いしばり、最後の方では堪えきれずに眦にうっすらと涙を浮かべていた。

「氷の洞窟の主達には、本当に申し訳ない……か弱い氷の精霊を付け狙うなど、言語道断だ!そのような悪逆無道な輩など、地獄に堕ちることすら生温いわ!」

「まぁな、俺も自業自得だとは思うがな……とりあえず、その殲滅されたというパーティーがいつ頃氷の洞窟に入ったのか、分かってたら教えてくれるか?」

「あ、ああ、確か手元に報告書が来ていたな。少し待っててくれ」

レオニスの要請に、それまで憤慨していたジョシュアが慌てて執務机に戻る。

机の引き出しに仕舞ってあった書類をガサゴソと漁り、該当書類を持って再びソファに座り書類に目を落とす。

「最初に殲滅されたパーティーを発見したのが、今年の五月十五日。二回目に同様の事件が起きたのが、七月二十日。そして直近の三回目は八月の二十五日、となっている」

「死亡者の身元は判明しているのか?」

「それが、未だに判明していないのだ。一応似顔絵や身体的特徴は書き留めておいてあるので、それらの情報を冒険者ギルドや魔術師ギルドなどにも貼り出して、情報提供を求めているのだがな。未だに梨の礫だ」

「そっか……傭兵ってのは俺達冒険者と違って、所属組織を持たない者も多いからな」

殲滅の憂き目に遭った者達の身元が未だに判明していないことに、ジョシュアだけでなくレオニスとラウルの顔も曇る。

レオニスが呟いたように、サイサクス世界における傭兵稼業をメインとして生きる者達というのは、集団に属さずに単独行動を好む者が多い。

それ故、何か事が起きた場合に身元が分からないことも多い。

そしてそうした者達は、後ろ暗い目的を持つ者達の格好の駒となっていた。

「とりあえず、似顔絵なんかの情報を俺達にもくれ。間違いなく見覚えのない奴等ばかりだろうが、情報ってのはどこでどう役立つか分からんからな」

「承知した。各所に配布した似顔絵他、全ての書類をここに持ってこさせよう」

「手間をかけさせてすまんな」

「何のこれしき。君達も、氷の洞窟の主達のために動いてくれるのだろう? ならば我らも君達への助力は惜しまない。他にも必要なものがあったら、遠慮なくいつでも言ってくれ。できる限り力添えをしよう」

「ありがとう、よろしく頼む」

一切の迷いなく宣言するジョシュアに、レオニスが頭を下げて礼を言う。

ツェリザークの領主たるジョシュアの協力があれば、これ程心強いことはないだろう。

「あとは……そいつらの雇い主と言われている貴族のことは、ジョシュアは分かるか? 俺は知り合いの冒険者からは、サンチェスという貴族だと聞いているが」

「サンチェス卿か……私も噂には聞いたことがある程度でな、首都在住の貴族ということくらいしか知らんのだ。ただ、私の二人の兄がラグナロッツァで官僚をしているので、現在兄上達に情報収集を頼んでいるところだ」

「そっか、そしたら俺も知り合いの伝手を使って調べてみるわ」

「是非ともそうしてくれ」

今回の事件の黒幕について話し合うレオニスとジョシュア。

ジョシュアの話によると、サンチェスはラグナロッツァ在住の貴族だという。

ならば調べようはそれなりにある。

「じゃ、俺は早速ラグナロッツァに帰って調べてくるわ」

「おお、もう帰るのか。大したもてなしもできずにすまんな」

「いや、気にしないでくれ。あんたもこれから冬支度で忙しいだろうしな」

「お気遣い、痛み入る。レオニス君達の方でも何か分かったら、是非とも私にも連絡をくれるとありがたい」

「分かった、そん時はラウルにでも伝言を託しとく。ラウルも氷蟹の殻処理依頼を引き受けに、これからもちょくちょくツェリザークを訪れるだろうからな」

帰る支度を始めたレオニスに、ジョシュアもソファから立ち上がって握手を求める。

二人が握手を交わす横で、ラウルが「おう、氷蟹の殻処理なら俺に任せとけ」と頼もしい言葉を口にしながら頷いている。

そうして二人はツェリザーク領主邸を出て、ラグナロッツァに帰っていった。