軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1606話 警戒すべき者の名

ライト達のウィサリア草原での薬草採取は、その後も順調に進んでいった。

様々な薬草や毒草に直に触れ、ライトの興味は尽きることを知らない。

一方で、薬草はともかく毒草に対しても全く臆することなく平気で接するライトに、モルガーナ達龍虎双星の女子メンバーが感心している。

「ライト君、毒草に触っても全然平気なのね。とても冒険者登録したばかりの新人初心者とは思えないわ!」

「うんうん。私なんて、初めて毒草を採った時なんか「イヤー!汁に触っちゃった!毒に侵されたらどーしよー!」って大騒ぎしちゃったもん」

「ぃゃー、ぼくは今でもカタポレンの森の家に住んでるので……森の中だけに、植物系の魔物がうようよいるんですよね。だからかな、普通の動かない植物なんて可愛いもんだよね!とか思っちゃうんですよねー。……って、油断しちゃダメだってレオ兄ちゃんにもいつも言われてるんで、毒消しや麻痺用の回復剤なんかも常に持ち歩くようにはしてます!」

「……ぁー、うん、そうだね……植物ってのは普通は動かないものだもんねー……」

ライトの予想外の答えに、龍虎双星の女子達が軽く引いている。

明らかな殺意を以って毎回ライトを攻撃してくるデッドリーソーンローズなどに比べたら、魔物ではない普通の植物など可愛らしいものだろう。

その上万が一の不測の事態に備えて、解毒剤や麻痺回復剤まで持ち歩くというではないか。

今だってライトは分厚い軍手をしていて、顔にはマスク代わりのバンダナを鼻から下全部を覆って花粉や毒素に対する防御策を完璧に施している。

ライトの壮絶なまでの用意周到さには、モルガーナ達も舌を巻く他ない。

「クルトさん達は、あれから階級は上がったんですか?」

「うん、今は全員黒鉄級になったよ。僕とモルガーナは、そろそろ白銀級に上がりたいところなんだけど……白銀以上になると、なかなか上がらなくなって苦戦中さ」

「そうそう。黒鉄までならね、誰でも比較的サクサクと上がれるんだけどさ。それより上は途端に上がり難くなるのよねー」

「だからなのか、万年黒鉄級の冒険者がかなりいるんだってよ」

「私達は、せめて引退までに黄金級くらいにはなりたいね!って話をいっつもしてるのよー」

久しぶりに再会した龍虎双星のメンバー達の現状を、興味深そうに聞き入るライト。

彼らがラグナロッツァにいた頃は、クルトとモルガーナが黒鉄級、ガロンとヴァハが青銅級、ネヴァンは石級だった。

それが今では全員が黒鉄級に上がったという。

そこだけ聞いていたら、皆すごく頑張って出世したんだな!と思うところなのだが。実はそう簡単な話ではないらしい。

冒険者階級は紙から始まり木、石、青銅、黒鉄、白銀、黄金、白金、聖銀と続き、最高峰は金剛級となる。

クルト達の話によると、黒鉄級までは皆とんとん拍子に上がることができるという。

しかしそこから先が大変で、白銀級になれないまま冒険者を引退する者も多いらしい。

実際ラウルがその良い例で、彼も冒険者になってまだ日が浅いが黒鉄級になるまで然程日数はかからなかった。

また、ライトもよく知る『天翔るビコルヌ』のバッカニア達も、バッカニアが先日ようやく黄金級に上がり、スパイキーとヨーキャは黒鉄級から白銀級に昇格したばかり。

クルト達より五歳以上は年上のバッカニア達だってそうなのだから、まだ年若い龍虎双星の面々が黒鉄級で足踏み状態になるのも当たり前なのである。

一方でフェリックスは、ライト達のいる場所から少し離れたところでレオニスと雑談をしながら薬草採取をしていた。

……

…………

………………

【雑談・その一】

「そういやレオニス、聞いたか? パトリックのやつのところに、子供が生まれたらしいぞ。何でも嫁に似た可愛い女の子で? 一生嫁には出さん!とか、今から息巻いているってよ」

「へー、そうなんか。そしたら今度、何か祝いの品でも持っていってやらなきゃな。……って、パトリックのやつ、今はどこにいるんだ? いや、それ以前にいつ結婚したんだ?」

「俺もヨアンから話に聞いただけで、完全に又聞きなんだが……今から一年ほど前に、やつの生まれ故郷のエンデアンで偶然再会した幼馴染みとくっついたんだとさ。あんな物騒な街、絶対に帰らん!とか言ってたのに、一体どういう風の吹き回しなんだかな?」

「ぁー……今のエンデアンは、昔よりだいぶ安全になってるはずだぞ」

「え、嘘、マジ?」

「マジマジ。フェリックスも今度エンデアンに行ってみ? 郊外の岬で面白ぇもんが見れるかもしれんぞ」

【雑談・その二】

「こないだラグナロッツァの総本部で、お前を名指しで探しているという貴族風の女がいたらしいが……フェリックス、お前、一体何をしたの?」

「えーとな……だいぶ大昔の話なんだが、ホドからファングに行く貴族の団体さんを乗せた馬車の護衛をしたことがあってな……そん時の依頼主だった後家さんに、一時期しつこく付きまとわれていてな。多分その後家さんだと思う」

「ぁー……だからお前、ラグナロッツァを離れてビナーで薬草採取に勤しんでいるのか……」

「そゆこと……モテる男ってのは、何かと辛ぇもんだよなぁ」

「言ってろ。言うだけならタダだ」

「タダ酒、タダ飯、タダ券、タダほど素晴らしいもんはねぇよな!」

「タダ働きでもか?」

「それは絶対に嫌だ」

【雑談・その三】

「ああ、そうだ、今年の夏に行われる予定だったティファレト遺跡の再調査、冬にずれ込みそうなんだってな」

「え、マジ? てゆか、ティファレト遺跡の再調査案件が出てんの?」

「マジマジ。今年の黄金週間にティファレトに旅行に出かけたんだが、そん時にティファレト支部の依頼掲示板で見たから間違いない。でもって、八月に入る直前にティファレト支部に確認したら、遺跡の再調査団の編成や予算確保にかなり手間取ってるらしい」

「冬ってーと、冒険者の募集開始は十月頃か?」

「多分なー。俺もティファレト遺跡の再調査は参加するつもりだから、募集が始まったらフェリックスにも連絡しようか?」

「そりゃありがたい、是非とも頼む!薬草採取もいいが、遺跡の再調査なんてそうそうお目にかかれねぇ案件だからな。ティファレトのクレネちゃんに会いに行くついでに、遺跡の再調査もちゃちゃっとやってやるぜ!」

「お前、そこは順番が逆じゃね?」

………………

…………

……

こんな調子で知己の消息や自身の現状、あるいは冒険者という仕事関連のネタなど、レオニスとフェリックスの雑談は尽きない。

事の大小に拘わらず、こうした情報交換は冒険者稼業をしていく上で欠かせない仕事の一つなのだ。

するとここで、フェリックスが立ち上がって軽く背伸びをしながらクルト達のいる方に声をかけた。

「おーい、そろそろ三時になるから一旦休憩にするぞー。さっき昼飯食ったところに集合なー」

「「「はーい!」」」

フェリックスの呼びかけに、ライトやモルガーナがすぐに応じる。

九月に入ったとはいえ、まだまだ夏の暑さは続く。

熱中症予防対策として、こまめな休憩や水分補給は必須だ。

昼食時に設営したビーチパラソルは、休憩のためにそのままにしてある。

皆日陰に入り、レオニスが空間魔法陣から出した水筒の水を皆で飲む。

昼食時には各自用意していたお茶や水を飲んでいたので、レオニスから飲み物を振る舞われるのはこれが初めてのことだ。

「何このお水、すっごく美味しい!」

「ああ、これはツェリザークの氷の洞窟の近くで採取した雪が解けた水だからな。良質な魔力が含まれていて、夏バテ防止にもなるんだ」

「えーッ!? ツェリザークの雪解け水!? そんな貴重なもの、生まれて初めて飲みました!」

「おお……確かに魔力や体力が回復する感覚がありますね……」

「さっきのお昼ご飯の時の、冷房代わりの氷槍にも驚きましたが……レオニスさん達は、本当に氷の女王と親しい間柄なんですねぇ」

「ツェリザークかぁ……俺達はまだツェリザークに行ったことはないけど、いつか氷の洞窟に行ってみたいな!」

レオニスからもらって飲んだ、一見何の変哲もない水。

その美味しさと驚きの正体に、クルト達が感激している。

そして話の流れで氷の洞窟が出てきたことに、フェリックスがはたとした顔になりレオニスに話しかけた。

「ああ、氷の洞窟と言えば……今年の夏に入ってから少なくとも三回、洞窟入りしたパーティーが全滅したらしいな?」

「何? 全滅? 撤退じゃなくてか?」

「そ、全滅。撤退する間もなく全員やられたってよ」

「そっか、そりゃ災難だったな、としか言いようがないな……遺品回収もしなきゃならんだろうに」

フェリックスからもたらされた情報に、レオニスの顔が苦痛に歪む。

冒険者が探索の途中に命を落とすことは、よくあることとまでは言わないが、それでもたまに耳にする話だ。

それは自身の力を過信しての慢心だったり、あるいは敵対する魔物の実力を見誤ったり、想定外の魔物に出食わしたり等々、様々な要因で起こる悲劇。

そして冒険者という稼業は、基本的に全て自己責任。

危険な仕事を選んで赴くのは自身の選択であり、パーティーという集団であってもそれは変わらない。

選択の結果、命を落とすことがあっても周囲は悼むとともに諦念にも駆られるものなのだ。

しかし、今回のケースは少し毛色が違うらしい。

レオニスが見知らぬ者達の氷の洞窟での死を悼む傍で、フェリックスが険しい顔で呟く。

「いや、それがな? 全滅したパーティーの遺品回収依頼は出てねぇんだと。しかも三つとも全部な」

「??? 何でだ?」

「理由は簡単。そいつらは正規の冒険者じゃなくて、どこぞの私兵か貴族に雇われた傭兵の集まりだからだよ。そもそもその全滅した三つのパーティーも、冒険者ギルド経由で依頼されたもんじゃなくて、貴族が単独で雇っただけらしいからな」

「ぁー、そういうことか……ったく、冒険の知識も無い素人集団に無茶させやがる」

「全くだ。後腐れが無さ過ぎてムカつく話だぜ」

フェリックスの話に、それまで心痛で歪んでいたレオニスの顔が今度は怒りに染まる。

氷の洞窟は、レオニス達冒険者にとっても容易に攻略できる場所ではない。

レオニスはライトやラウルのおかげで簡単に出入りできているが、本来なら危険度が高くてそう易々と入っていける場所ではないのだ。

それなのに、私兵や傭兵に大した知識も持たせずに氷の洞窟を攻略させようとした者がいる、ということだ。

それはまるっきり使い捨ての駒扱いも同然で、レオニスが憤慨するのも当然である。

人の命を何だと思っているのか―――レオニスは内心で猛烈な怒りに震える。

「つーか、そんな無茶振りする貴族の正体、フェリックスは分かってんのか? もし知ってるなら教えてくれ、俺も絶対に近寄らんようにするから」

「あーっと、何つー名前だったかな……確か、サンチェスとか言ったか?」

「サンチェス、だと? ……分かった、ありがとうよ。いいか、フェリックス、お前も絶対にそのサンチェスってやつには関わるなよ」

「もちろんだ。私兵や傭兵とはいえ、最初の失敗で懲りずに三回もパーティーを全滅させるような奴だ、絶対にろくなもんじゃねぇぜ」

「全くだ」

一層顔を険しくしたレオニスの忠告に、フェリックスもしたり顔で頷いている。

そのサンチェスという貴族の名前に、レオニスは聞き覚えがあった。

それは、今年の黄金週間最終日に参加した鑑競祭りでのこと。

全てのオークションを終えた後のウォーベック伯爵家での晩餐で、アレクシスやクラウスの口からその名が出ていたのだ。

『最後の方、光の雫で競り負けたサンチェス卿なんて鬼の形相で帰っていったもんな……』

『レオニス君、当分の間は身辺に気をつけたまえよ。ああなったサンチェス卿は、手段を選ばず君達に接触してくるぞ』

その時にアレクシス達から受けた数々の忠告の言葉が、レオニスの頭の中でまざまざと蘇る。

実は今年の黄金週間以降も、レオニスに対する乙女の雫の採取の個人指名依頼が殺到していた。

もちろんレオニスがそれらを相手にすることはなかったし、一ヶ月も経てばそんな無駄な指名依頼は自然と激減していった。

しかし、それでも未だにしつこく打診してくる依頼主がいた。

それこそがダリオ・サンチェスである。

そんな要注意人物であるサンチェスが、氷の洞窟攻略を目指して私兵を派遣したり傭兵を雇うということは、おそらく自力で氷の乙女の雫を入手するつもりなのだろう。

欲しいものを自分の力で手に入れる、その努力をするのはいいことだが、生兵法でゴリ押しするのはいただけない。

レオニスへのゴリ押しだけでなく、そうした無体を他者に働くサンチェス。

フェリックスの情報を聞いて、レオニスの中でサンチェスへの警戒度は最大級にまで上昇した。

こりゃ絶対に関わっちゃならん奴だ、例え冒険者ギルド経由での接触であっても信用できん。後でラウルにも言っとかなきゃな……

レオニスは内心でそう考えながら、ライトや龍虎双星の面々にも伝えるべく話しかける。

「ライト、クルト達、今のフェリックスの話の通りだ。お前達も、サンチェスという名の奴らには絶対に近づくなよ」

「うん、分かった!」

「サンチェス、ですね。依頼を受ける際には、必ず依頼主の名前を何度も確認するようにします」

「貴族が依頼主の依頼って、何気に怖いというか罠や落とし穴があるって話もたまに聞くもんね……」

「触らぬ貴族に祟りなし……」

レオニスの忠告に、ライト達も真剣な眼差しで頷いている。

冒険者ギルドに出されている依頼というのは、それこそ千差万別だ。

もちろんあからさまに怪しい依頼は、冒険者ギルド側でもある程度事前に弾いてはいる。だがそれでも、怪しい依頼全てを完全に排除できる訳ではない。

何らかの意図を以って偽装工作をされた場合、偽装が発覚するのはだいぶ後になってからになることが多い。

そうした悪質な罠にかからないようにするためには、依頼を受ける冒険者側にも真偽を見抜く目やセンスが必要なのだ。

せっかくの休憩が何とも微妙な空気になってしまった。

それを払拭するべく動いたのは、フェリックスだった。

「ちぃと嫌な話になっちまったな。もう一働きしたら、ぼちぼちビナーに戻るとするか」

「そうだな。これだけ薬草や毒草を採れば、結構な稼ぎになるだろ」

「おう、レオニスのおかげで十日分以上の稼ぎにはなりそうだ!レオニス様々、ありがとうな!」

「どういたしまして。フェリックス達の役に立てたなら幸いだ」

「そしたらさ、レオニスよ。十日に一度はビナーに来て、俺達といっしょに薬草採取で稼がないか?」

「断る。俺もそれなりに忙しいんでな」

レオニスを再び勧誘するも、素気無く断られてフェリックスがむくれる。

「ちぇッ、つれないヤツだ。そんなんじゃ一生女にモテんぞ?」

「モテなくて結構だ。つーか、お前と十日に一回薬草採取に励んだところで、急に女にモテるようになる訳ねぇだろう」

「何を言う、少なくとも俺にモテるじゃねぇか!」

「フェリックス、お前、女じゃねぇだろうよ……お前一人にモテたところで、ちっとも嬉しくねぇわ」

金剛級冒険者と聖銀級冒険者の、なかなかに不毛な会話が続く。

冒険者、特に男の冒険者達にとって異性にモテる or モテない問題は、思った以上に重大なものらしい。

不毛ではあるが漫才のような軽快な掛け合いに、周りで聞いているライト達も笑いを堪えるのに必死だった。