軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1585話 冒険者のイロハ講座の始まり

朝の九時半に、冒険者ギルドディーノ出張所に到着したライトとレオニス。

転移門のある事務室から広間に行くと、そこにはいつものように受付窓口にクレアがいた。

「クレアさん、おはようございます!」

「よ、クレア。おはよう」

「まぁ、ライト君にレオニスさん、おはようございますぅ。お二人ともお早いお越しですねぇ」

ライトとレオニスが来たのを見たクレア、受付窓口の席を立ちパタパタと小走りで駆け寄り二人を出迎える。

このディーノ出張所は、相変わらず人っ子一人いない閑古鳥パラダイスだが、そんな中で常に凛とした姿勢で窓口で待機するクレアは受付嬢の鑑の中の鑑である。

「ライトが少しでも早くクレアのところに行きたいって言ってな。そりゃもう今日から始まるイロハ講座をすんげー楽しみにしてたんだ」

「レオ兄ちゃんの言う通りです。ぼく、冒険者登録したら受けられるクレアさんの講座がすっごく楽しみだったんです!」

「うふふ、ライト君ってば嬉しいことを言ってくださいますねぇ」

少しだけ呆れたように言うレオニスに、フンス!と鼻息荒く張り切るライト。

人外ブラザーズの温度差が明らかに顕著だが、嬉しそうに微笑むクレアがレオニスにも話しかける。

「レオニスさんも、私との約束を守ってくださって嬉しいですぅ。レオニスさんのことだから、忙しいとか何とか言って来ないんじゃないかと思ってたんですよー」

「そりゃまぁな? 正直なところ、逃げたいとかサボりたいとか全く思わん訳じゃないが……」

「レオ兄ちゃん……それ、言っちゃダメなヤツでしょ……」

目を閉じうんうん、と頷きながら正直な所感を述べるレオニス。

その言い草は、正直どころか馬鹿正直という言葉すら生温い。

あまりの杜撰さに、クレアの顔がスーン……となりかけている。

だが、レオニスの話はこれで終わりではなかった。

閉じた目をパッ!と開けて、クレアのラベンダー色の瞳をじっと見つめながら口を開いた。

「それでもあんたとの約束だ、死んでも破る訳にはいかんだろう?」

「フフッ……私、レオニスさんのそういうところ、好きですよ?」

「そりゃ光栄だ」

クレアとの約束は絶対に守る!と言い切ったレオニスに、クレアも嬉しそうに笑う。

何だかんだ言いつつ仲の良い二人に、ライトの方まで何だか嬉しくなってくる。

「クレアさん、『冒険者のイロハ講座』は十時からですよね? 時間割はどんな感じなんですか?」

「まず午前中は、野外実習となります。この暑い時期、午後の野外活動は正直しんどいですからねぇ。間違っても熱中症になどなる訳にはいきませんし」

「ですよねー……」

「で、お昼休みは正午から午後一時まで。午後の前半は会議室にて座学、午後三時から三十分間のおやつタイム、午後三時半から午後五時までは解体所にて解体の実践。今日一日の流れは、こんなところですぅ」

「分かりました!」

クレアから講座の流れを聞いたライト、目をキラッキラに輝かせて元気に返事をしている。

かなりギュウギュウ詰めのスケジュールだが、確かに野外活動に関しては午前中に済ませておいた方が最も良いだろう。

ちなみにこの野外活動、夏以外の季節は基本的に午後に行うものらしい。

季節や陽気によって授業を入れ替えるとは、なかなかにフレキシブルな対応である。

そして、この『冒険者のイロハ講座』をものすごく楽しみにしていたライトにとっては、どれも新鮮でワクワクが止まらない。

早く十時にならないかなー、と思っていると、クレアがライトの顔を覗き込みながら話しかけてきた。

「あら、ライト君、もしかして今すぐにでも野外実習をしたい感じですか?」

「えッ!? どうしてぼくの考えていることが分かったんですか!?」

「だってー、ライト君の顔にそう書いてありましたものー。『今すぐ講座を受けたい!』って」

「ええええ、そんなに顔に出てました!?」

「はい、それはもう如実に」

嫋かな笑みのクレアに、ライトが恥ずかしそうに己の頬や額をペタペタと触る。

さすが十二姉妹の長姉、子供の扱いは天下一品である。

「では、ライト君の願いにお応えして、今から野外実習を始めましょうか」

「はい!」

「私も野外活動用の支度をしてきますので、お二人ともここで少々お待ちくださいねぇー」

「分かりました!」

クレアはそう言い残すと、奥の事務室に向かってパタパタと走っていった。

それから一分もしないうちに、着替えたクレアが戻ってきた。

コルセット付きの制服?を一分未満で着替えられるとは、舞台役者の早着替え以上の早業だ。

そして超早業で着替えてきたクレアは、やはりラベンダー一色に染まっていた。

上下ともにラベンダー色のジャージで、上は長袖、下は左右のサイドに細い白のラインが二本入っている。

首にタオルを巻いているのは、首の日焼け対策か。

そして手にはラベンダー色の軍手を嵌めていて、ライトとレオニスにも同じ軍手を渡した。

「今日の野外実習は『薬草の採取』ですので、お二人とも軍手を嵌めてくださいねぇー」

「はい!」

「はいよー」

クレアから軍手を受け取ったライト、いそいそと嵌めている。

ちゃんと子供用サイズで、ライトの手にぴったりだ。

クレアの話によると、これも『冒険者のイロハ講座』専用の備品の一つとして、必ず各支部に常備されているものらしい。

冒険者ギルドの新人初心者に対する心遣いが伺える逸話である。

そしてライトと同じく軍手を嵌めていたレオニスが、素朴な疑問を口にした。

「つーか、クレア、ジャージになってもそのベレー帽は被ったままなんか?」

「当然です。夏に日射し避けの帽子は必須でしょう?」

「ベレー帽って、日射し避けになるんか……?」

「もちろんなりますよ? この暑い夏に長袖を着ているのも、ひとえに紫外線対策の一環ですし」

「さいですか……」

レオニスが疑問に思ったのは、野外実習でもベレー帽を着用していること。

紫外線対策なら、大きなつば付き帽子を被った方が余程効果があると思うのだが。

しかし、クレアにとってベレー帽とは自身のトレードマークも同然の必須アイテム。絶対に欠かす訳にはいかない。

服くらいならジャージに着替えることはできても、ベレー帽だけは絶対に、絶対に外さないんだから!という彼女の強い決意がそこにはあるのだ。

「あ、一応レオニスさん達用の帽子と首に巻くタオルも用意しておきましたので。お二人はこちらを着用してくださいねぇー」

「はーい」

「はいよー」

クレアがそう言いながら差し出したのは、大きなつば付きの麦わら帽子とフェイスタオル。

麦わら帽子は普通の麦わら製だが、帽子についている極太幅のリボンがラベンダー色で、フェイスタオルももちろんラベンダー色。

とことんラベンダー色に統一しているところに、クレアの並々ならぬこだわりを感じる。

こうして野外実習の支度を万全に整えたライト達。

左から順にライト、クレア、レオニスの三人がババーン!と立ち並ぶ姿は、完璧に農作業用の出で立ち。中でもレオニスの『コレじゃない感』が半端ない。

一応レオニスもライトと同じく、冒険者用の格好=深紅のロングジャケットと黒の革パンで来ているのだが、そこにラベンダー色の麦わら帽子やら軍手、首巻きタオル等々、スタイリッシュさの欠片もない。

だが、今日の野外実習は薬草採取ということなので、それらの着用は必須だし正装と言っても過言ではない。

これに文句をつけようものなら、速攻でクレアに「またまたぁ、金剛級冒険者ともあろうお人が何を寝言吐いてるんです? 寝言は寝て言うものですよ? 夏の野外実習で熱中症対策しないなんて、冒険者の風上にも置けない愚行ですからね?」と論破されて終了するに違いない。

なので、レオニスも異論を唱えることなく素直に従っている。

「さ、支度も整ったことですし。今から『冒険者のイロハ講座』を開始いたしますぅー」

「はーい!」

「お手柔らかにな」

クレアの掛け声に、元気に応えるライトと渋々といった様子で応じるレオニス。

二人の温度差を見逃すクレアではない。

レオニスに対してジロリ!という視線を向けながら言い放つ。

「本物の初心者であるライト君には、それ相応にお手柔らかにしていきますが。再履修のレオニスさんには、猛烈にビシバシいきますからね?」

「ぇー……それ、逆じゃねぇのかよ……」

初っ端から鬼教官モードのクレアに、レオニスがうへぁー……と凹んでいる。

そんなレオニスに、横にいたライトがペカーッ☆と輝くような笑顔で話しかける。

「レオ兄ちゃんも、ぼくといっしょに頑張ろうね!」

「……しゃあねぇなぁ。俺もライトといっしょに楽しむくらいの気概で頑張るとするか」

「ふふふ、その意気ですよ」

弟(ライト) の純粋な笑顔に、 兄(レオニス) も苦笑いしながら応える。

そんな兄弟の微笑ましいやり取りに、クレアも穏やかな笑顔を浮かべる。

そうして三人は冒険者ギルドディーノ出張所の建物から出て、建物裏側にある野外実習演習場に移動していった。