軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1586話 レオニスとクレアの力関係

冒険者ギルドディーノ出張所の野外実習演習場に出たライト達。

そこは、今年の年始にドラゴンの幼体クー太と散々遊んだところだった。

「ここ、今年のお正月にクー太ちゃんと遊んだところですよね?」

「そうですよー。あの時はクー太ちゃんもとっても喜んでいて、いつになく良いお正月でしたぁー」

「ここって野外実習演習場だったんですね……普通の裏庭かと思ってました」

「このディーノ出張所は、今でこそ冒険者どころか村の人口そのものが激減して寂れていますが……かつては多くの冒険者が賑わう、それはもう活気に溢れた支部だったんですよ。そのため訓練や演習、そして災害時に対応できる避難所にも使えるような広い場所が必要だった訳です」

「そうだったんですね……」

ライトが何気なく溢した所感に、クレアが遠い昔を懐かしむような眼差しで広々とした演習場を見つめる。

そんなクレアを見て、ライトもちょっぴり切なくなってくる。

この演習場には大勢の冒険者、強者達が集い互いに研鑽を積んでいた―――そんな過去の栄光が淡い幻像のように浮かぶ。

「ちなみにレオニスさんも、ここでよくグランさんとともに木刀での打ち合い稽古をしてたんですよ。ね、レオニスさん?」

「ああ……懐かしい思い出だ」

クレアの問いかけに、レオニスもまた懐かしそうな眼差しで目の前に広がる演習場を見つめる。

そこではかつて、クレアが言うようにレオニスはグラン相手に木刀で稽古をつけてもらっていた。

間違ってもそれは剣術などといった大層なものではなく、あくまでも自己流で流派などあろうはずもない。

しかしグランは、レオニスの木刀攻撃など器用かつ軽々と往なしていく。

ただでさえ頼もしいグランが、まだ冒険者になる前のレオニスの目により強く大きく見えた。

幼かったあの頃の気持ちが、レオニスの中で鮮明に蘇ってくる。

そんなレオニスの気持ちを汲んでか、ライトが努めて明るい声でレオニスに話しかける。

「ねぇ、レオ兄ちゃん、そしたらぼくにもレオ兄ちゃんが稽古をつけてくれる!?」

「ン? ……おう、いいぞ。グラン兄の代わりに俺がライトの相手をしてやろう」

「わーい!ヤッター!」

レオニスの承諾を得られて喜ぶライトに、クレアも微笑みながら喜ぶ。

「まぁまぁ、ライト君は幸運ですねぇ。世界最強の現役金剛級に稽古をつけてもらえるなんて、滅多にあることじゃないですよ? まぁ、もともとレオニスさんはライト君の保護者ですけど」

「はい!レオ兄ちゃんには、父さんと母さんの分まで可愛がってもらってるから全然寂しくないですし。その恩返しに、いつかレオ兄ちゃんを超えるような立派な冒険者になります!」

「フフフ、その意気です」

「だからクレアさんも、ぼくのことをずっと見守っててくださいね!」

「もちろんですとも」

ライトが目を輝かせて夢を語る。

子供が将来の夢を語る姿はとても眩しく、実に良いものだ。

希望に満ち溢れたライトを見つめながら、クレアが改めて声をかけた。

「さあ、ではライト君の夢を叶えるためにも『冒険者のイロハ講座』でみっちりと学びましょう!」

「はい!クレア先生、よろしくお願いします!」

「再履修のレオニスさんにも、ガンガン指導しますからね!」

「ぉ、ぉぅ、ホントにお手柔らかに頼む……」

天高く掲げた拳にグッと力を込めて握りしめながら、並々ならぬ意欲を燃やすクレア。その姿はまるで、どこぞの覇王もしくは拳王を彷彿とさせる世紀末的オーラを感じさせる。

ライトはその神々しい勇姿を拝まんばかりに熱い眼差しで見つめ、「わー、クレアさん、すごーい!」と嬉しそうに拍手している。

だがレオニスの顔は、ライトとは打って変わって途端に憂鬱なものに変わる。

そんなレオニスの苦悩など、一切合切キニシナイ!とばかりにクレアが振り返って二人に宣言する。

「さ、では今から薬草採取及び野草類の見分け方講座を始めます。演習場の向こう側にある薬草園に行きますよー!」

「はーい!」

「はぁーい……」

ご機嫌な様子で移動を促すクレアに、ライトも右手を真上に上げて元気よく返事をする。

一方でレオニスは、何とも気乗りのしない腑抜けた返事をしている。

この体たらくを見逃すクレアではない。

気合いの足りないレオニスに、即座に檄を飛ばした。

「レオニスさん、声が小さいッ!」

「はいッ!」

「よろしい。レオニスさん、ディーノ支部の薬草園の位置は覚えてらっしゃいますか?」

「もちろんです!」

速攻ですっ飛んできたクレアの檄に、レオニスが背筋をピシッ!と伸ばし直立姿勢で立つ。

完全に教官と部下のような構図は、レオニスとクレアの力関係が丸分かりである。

「ではレオニスさん、復習も兼ねて薬草園までの案内をよろしくお願いいたしますぅ」

「イエス、マム!」

ニッコリと微笑むクレアに、レオニスが右手でこれまたピシッ!と敬礼した後演習場の向こう側に歩き始めた。

今のレオニスにここまで物が言える人物は、冒険者ギルド総本部マスターのパレンを除けばクレアだけであろう。

レオニスに初心を思い出させる稀有な人物、それがクレアなのである。

レオニスの珍しい姿を見て、ライトも思わず笑いだす。

ライトの笑い声を聞いたレオニスが、ガビーン!顔で後ろを振り返りながら文句を言う。

「あッ、ライト!笑ってんじゃねぇ!」

「だぁーってー、レオ兄ちゃんとクレアさんのやり取りが面白過ぎてー。こんなん笑うなって方が無理だよー」

「くッそー、俺の威厳が台無しだ!」

口を尖らせながら愚痴るレオニスに、ライトの笑い声がますます止まらない。

そこにクレアもシレッと参加する。

「威厳なんてなくても大丈夫、むしろ親しみやすい方が何かといいと思いますよ?」

「ぐぬぬ……他人事だと思って……」

嫋かな笑みを浮かべるクレアに、レオニスはこれといった反論を出せずにぐぬぬとなる。

今までも、そしてこれからもずっと変わらぬであろう二人の確かな絆に、ライトは嬉しくも安堵するのだった。