軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1560話 レオニスの望みとベスの感謝

ベスの回復を喜び合ったマクシミリアーノ達。

するとマクシミリアーノがレオニスの方に向き、深々と頭を下げた。

「レオニス殿、貴殿のおかげで我が妻はこんなにも元気を取り戻すことができた。心より感謝する、本当にありがとう」

「エリクシルが病に効くかどうかは賭けだったが、ちゃんと効いて良かったな!」

「このご恩を、どのようにして返せばよいか分からぬ……レオニス殿、何か望みはあるだろうか? 我らにできることならば、何でもしよう」

「ご恩、か? ンー、そうだなぁ……」

恩返しを望むマクシミリアーノの申し出に、レオニスが上目遣いでしばし考え込む。

そして何かを思いついたのか、徐にその口を開いた。

「あー、だったら俺のことを普通に『レオニス』と呼んでくれないか? 『レオニス殿』なんて畏まって呼ばれるのもむず痒いし、呼び捨てで構わんから」

「命の恩人を呼び捨てにするなど、非常に心苦しいが……貴殿が強くそう望まれるのであれば、我らが拒む理由もない。貴殿のことは、今後『レオニス』と呼ばせてもらおう」

「おお、よろしく頼むぜ!」

マクシミリアーノは若干戸惑いつつも、レオニスの望みを受け入れる。

生真面目な東の里のオーガ達にしてみれば、妻の命の恩人を呼び捨てにするなど以ての外だ。

しかし、当人がそう望んでいるならば仕方がない。

「……で? レオニスよ、他には何か望みはないのか?」

「他、かぁ? ンー……何かを返してもらいたくてした訳ではないしなぁ……望みってのもすぐには思いつかんから、とりあえずは名前の呼び方だけでいいわ!」

最後はニカッ!と笑いながら、他の望みなどないことを伝えるレオニス。

全く予想外の答えに、マクシミリアーノ達は呆気にとられるばかりだ。

「 真(まこと) 、欲のない御仁なのだな……」

「いやいや、そうは言うがな? 名前をきちんと呼んでもらえるってのは、本当に素晴らしいことなんだぞ? だってよぅ、ニル爺なんて他のやつは普通に名前で呼ぶくせに、俺のことだけは絶ーーーッ対に『角なし』って呼ぶんだぞ?」

「「「………………」」」

大真面目な顔で名前呼びのありがたさを説くレオニス。

その原因は、レオニスのことをいつも『角なし』と呼ぶニルにあることは間違いない。

その娘であるベスが、とても気まずそうにレオニスに謝る。

「えーと……私のお父様が、本当に申し訳ありません……」

「ああ、いや、別に娘のあんたが謝る必要なんざないさ。ありゃ物覚えが悪いニル爺がいけないんだからよ」

「今度里帰りした時に、お父様に私からよーーーく言い聞かせておきますので……」

「ああ、それも必要ない。ニル爺は今のままでいてくれりゃいい。口では『老い先短い』とかいつも言うが、実際には人族である俺の方が寿命が短いしな。だったらもう好きに呼ばせてやるさ、ニル爺限定だけどな!」

必死に謝るベスに、レオニスがカラカラと笑い飛ばす。

ニルがレオニスのことを『角なしの鬼』と呼ぶのは親愛の証であることは、レオニスだって分かっている。

口ではあれこれ文句を言いつつも、ニルだけには角なし呼びを許すあたり、レオニスもまたニルのことを大親友と認めているのだ。

するとここで、レオニスが一転して真面目な顔になり話題を変えた。

「さて、そしたらベス、あんたが中央の里に里帰りする前に言っておかなきゃならんことがある」

「何でしょう?」

「あんたの身体を治した薬のことだ」

「そういえば……私は何故こんなにも急激に、身体が良くなったんでしょう? 貴方、フェル、どうしてか分かる?」

「それはだな―――」

レオニスが切り出したエリクシルの話に、ベスがはたとした顔で夫や息子に問いかけた。

そう、ベスは自身が健康を取り戻した原因を未だに知らない。彼女にエリクシルを飲ませた時には、まだ意識が朦朧としていて何が成されたのか全く分かっていなかったからだ。

そのことについて、マクシミリアーノとフェルディナンドがこれまでの経緯を説明していった。

レオニスは本来別の要件で東の里の近くにきていたこと、その要件は東の里の平和を脅かすものだったこと。

その要件を済ませた後、ニルの娘であるベスに会おうとこの里に来たこと、だがフェルディナンド達東の里のオーガ達はレオニスの訪問を快く思わなかったこと。

そこにちょうど今ガイ達中央のオーガが滞在していたことにより、レオニスがニル達中央のオーガの友であることが彼らの証言で証明されたこと。

そしてベスが病気で寝たきりなことを知ったレオニスが、エリクシルを用いてベスの病気を治す申し出をしてくれたこと等々。

全てを聞き終えたベスの顔は、本当に驚愕に満ちていた。

「そんな……エリクシルなんて貴重なものを、私に使ってくれたなんて……どうして見ず知らずの私なんかのために、そこまでしてくれたの……?」

「『私なんか』なんて言うな。俺にとってあんたは見ず知らずじゃないし、エリクシルを使ってでも救う価値があるんだから」

「私を救う、価値……?」

「ああ。あんたはニル爺の一人娘で、俺はニル爺の親友だ。親友の家族が苦しんでいたら、助けたいと思うのは当然のことだろう?」

「ッ!!!!!」

事も無げに答えるレオニスに、ベスの目が大きく見開かれる。

レオニスとベスは、今日初めて会ったばかりの初対面同士。

見ず知らずも同然の自分に、何故レオニスはエリクシルなどという伝説の神薬を使ってくれたのか―――ベスには全く分からなかった。

しかし、レオニスにとっては会った回数など端から関係ない。

ベスがニルの娘だから助けたのだ。

親友の家族が危機に陥っていて、その危機から救い出す手段をレオニスは持っていた。

だからレオニスは 有効な手段(エリクシル) を迷わず行使したし、そうして当然だと思っている。

そう、レオニスにとって親友の家族は自分の家族も同然の存在なのだ。

レオニスの思いがけない答えに、マクシミリアーノがベスに語りかける。

「君が里帰りする時には、私もともに行こう。そして私からも、岳父殿に御礼を言わねばな」

「ええ……ええ……私はお父様の娘であることを、今ほどありがたく思ったことはないわ……」

「私もだよ。岳父殿が君のお父上であることを、今ほど感謝したことはない。君のお父上は、本当に偉大な御方だ」

「お父様……本当に、本当にありがとう……」

自分の命が助かったのは、自分がニルの娘だったからだということを知ったベス。その瞳から、再び大粒の雫が零れ落ちる。

今でこそニルは次代に後を譲って隠居したが、かつては中央の里を族長として長年束ねてきた傑物。

偉大な父のおかげで救われたことに、ベスもマクシミリアーノもただただ感謝しかない。

マクシミリアーノがベスの肩をそっと抱き、ベスはマクシミリアーノの腕の中で感涙に咽び泣く。

遠く離れた故郷に住む父を思うベスの感謝の涙は、その後もしばらく止まらなかった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ベスの感涙が少し落ち着いてきたところで、レオニスが空間魔法陣を開いてエリクシルを取り出しながら再び話を続けた。

「さて、ベス、あんたの身体を治したのはこのエリクシルだということが分かってもらえたか?」

「ええ……エリクシルのことは、私もお父様から何回か聞いたことがあったけど……まさか本当に実在するものだとは思っていなかったわ」

「このエリクシルは、かつてラキにも使ったことがある。だが、そのことを知っているのは俺とニル爺、ラキと他に二人。本当に極僅かな人数だけだ。こんな貴重なものを俺が持っていることを、そうおいそれと知られる訳にはいかないんでな」

「そうよね……だって、エリクシルですものね。秘匿するのも当然だわ」

レオニスの話に、ベスだけでなくマクシミリアーノとフェルディナンドも深く頷く。

【神の恩寵】とも呼ばれる万能薬、エリクシル。それは『貴重』などというありふれた言葉では到底言い表しきれない稀少品だ。

その凄まじいまでの効能は、時に災いをも呼び寄せかねない。

レオニスが持つエリクシルを狙う輩がいないとも限らないのだから。

「で、だ。ラキやニル爺以外には、エリクシルのことは伏せて『人族がもたらした秘薬がラキの命を救った』ということにしてある。だからあんた達も、ベスの病を治したのは『人族が持つ秘薬を使ってもらった』ということにしておいてくれ」

「承知した」

「ああ、母上を救ったのは紛れもなく『秘薬』だ」

レオニスの要請に、マクシミリアーノとフェルディナンドがいち早く承諾する。

そしてレオニスは、間を置かずにベスにも承諾を求めた。

「ベス、エリクシルのことについては、あんたの旦那と息子にも既に真名に賭けて他言無用を誓ってもらってある。ベスも真名に賭けて他言無用を誓ってくれ」

「分かったわ。私も己の真名に誓って、今日のことは絶対に誰にも言わないわ」

「結構、それで頼む」

レオニスの要請に、ベスが即答する。

ベスには自分の身体に何が起こったのかを知っておいてもらうために、レオニスの方からエリクシルの存在を明かした。

しかし、これ以上他の者にエリクシルの存在を知られるのはよろしくない。だからこそ、エリクシルを投与する直前にフェルディナンドの側近チェスワフやガイ、テオ、ノアに退室してもらったのだ。

マクシミリアーノ達三人の承諾を無事得たレオニス。

徐に部屋の東側に移動し、窓を開けながらマクシミリアーノ達に声をかけた。

「さて、そしたらそろそろチェスワフやガイ達にもベスの回復した姿を見せてやらなくちゃな。そのためにも、窓を開けて換気するぞー」

「あ、ああ、この芳しい香りを残しておく訳にはいかんな!」

「そゆことー」

何故にレオニスは窓を開けたのか?と言えば、外の空気を入れて部屋中に漂うエリクシルの残り香を消すため。

この世のものとは思えない甘美な香りは、エリクシルを知らない者でもたちまち魅了しかねない。

レオニスはこうした隠蔽工作を怠らない、実はしっかり者なのである。

入口以外の部屋中の窓を全部開けて、十分に換気をし終えたところでレオニスがフェルディナンドに声をかけた。

「さ、そしたら部屋の外にいる四人を呼んで、ベスが元気になった姿を見せてやりな」

「あ、ああ!」

「あ、秘薬の説明はフェルディナンドに任せるからよろしくな」

「任せておけ」

ベスを死の淵から救うという大役を果たし終えたレオニス。

その後の他者への説明はフェルディナンドに丸投げしたが、これくらいは許されるだろう。

フェルディナンドが小走りで部屋の入口に向かう姿を、レオニスだけでなく再び椅子に座ったベスや彼女に寄り添うマクシミリアーノも微笑みながら見守っていた。