軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1544話 ヴァレリアとともにしたいこと

その後ライトとヴァレリアは、様々な話をした。

BCOで冒険フィールドとして出てきた『朝靄の草原』や『北レンドルー地方』『ノーヴェ砂漠』などはBCOの領域としての力が弱く、勇者候補生に対して直接影響が出ないこと。

そうした場所でBCOの影響を受けるのは主に魔物側であり、雑魚魔物がリポップしたり人を見れば問答無用ですぐに襲いかかってくるのはその一例であること等々。

「へー、そうなんですね……全然知らなかった」

「そこら辺の判別の仕方はね、少し考えるとすぐに分かるよ。要は『埒内の者がどれだけそこに出入りできるか』を見ればいいのさ」

「ぁー……ノーヴェ砂漠や朝靄の草原は人の往来が普通にあるし、逆に『呪われた聖廟』なんかは絶対に人の出入りなんてありませんもんね」

「そゆこと」

ヴァレリアが伝授する『時間の差異が発生するか否かの見分け方』に、ライトは心底感心しながら納得する。

BCOのシステムの力は、基本的に埒内の者達相手に発揮されることはない。BCOが特別な力を授けるのは、ゲームユーザーである勇者候補生に対してのみ。

この大原則を踏まえると、自ずと法則が見えてくる。

「前にぼくがレオ兄ちゃんといっしょに初めてこの転職神殿に入った時、ぼくだけが動けてレオ兄ちゃんの時間が止まってしまったんです。それってやっぱり、ここが転職神殿という特殊な場所でレオ兄ちゃんが埒内の人だったからなんですね」

「そうだねー。ただし、ライト君の保護者の場合、君が出す勇者候補生のオーラに常時かつ長期間触れ続けてきたせいか、先日ここに闖入してきたけどね?」

「あッ、それ、星界空間から家に帰った後に聞きました!……うちのレオ兄ちゃんが皆を驚かせてしまってすみません……」

ライトがふと思い出した、初めて転職神殿を訪れた時のこと。

それを懐かしく語るも、ヴァレリアから返す刀で先日のレオニスとの想定外の邂逅話で撃沈する。

この奇跡の出会いによって、レオニスは絶望の淵から救われたが。ヴァレリアやミーアにとっては完全に予想外のことで、ものすごくびっくりしたに違いない。

本当に申し訳なさそうに謝るライトに、ヴァレリアがきゃらきゃらと笑い飛ばす。

「いやいや、ライト君が謝ることじゃないよ。そりゃ私だって、ここに入った埒内の者が意思を持って動けるなんて完全に想定外だったけどね? でも……彼だってライト君の家族として、君のことをものすごく心配してたんだからさ」

「はい……ぼく、レオ兄ちゃんやラウルにも無断で出かけましたからね……ホントはコヨルシャウキさんに、ビースリーを中止してくれって話し合いをするつもりで出かけたんですけど」

「でも、そのままコヨるんに星界空間に拉致られちゃったんだっけ? アハハハハ、ライト君、本当に災難だったねぇ!」

「アハハハハ……」

明るく笑い飛ばすヴァレリアに、ライトもただただ苦笑いするしかない。

ヴァレリアは一見他人事のように大笑いしているが、それは実はヴァレリアなりの気遣い。

ライトがあまり落ち込まないように、ここは敢えて笑い飛ばしているのだ。多分。

そうして一頻り思い出話をした後、ヴァレリアが改めてライトに問いかける。

「さて……ライト君にはもう一つ、質問する権利があるけど……今日ここでそれを使うかい?」

「ンー、そうですね……いっぺんに二つも権利を使うのはもったいないので、また次回に持ち越してもいいですか?」

「……その心は?」

「時間の差異問題以外の質問を、全然考えてなかったです!」

ヴァレリアの質問に、ライトが遠慮がちに持ち越しを提案した。

実際のところ、四次職マスターのご褒美である質問権は無闇矢鱈に使いたくない。全部合わせても十二回分しかないのだから。

ここぞという時に使う最強の切り札にも等しいものであり、質問はよくよく吟味した上で挑みたいのだ。

そんなライトの思惑を見透かしているのかいないのか、ヴァレリアはニッコリと笑いながら承諾する。

「うん、分かったよ。そしたら質問権の保留分は、ライト君が聞きたいと思った時にいつでも行使していいよ」

「それって、四次職をマスターした時でなくてもヴァレリアさんに会えるってことですか?」

「うん。この先私に聞きたいことができたら、この転職神殿に来て私の名を呼ぶといい。いつ何時であっても、私はライト君の呼びかけに応じて馳せ参じることを約束しよう」

「ありがとうございます!」

ヴァレリアの柔軟な対応に、ライトが破顔しつつ礼を言う。

これまでは、ライトが四次職マスターした時もしくはヴァレリアの気まぐれで現れるのみで、ライトの方からヴァレリアを呼び出して会うことは決して叶わなかった。

それが、一回だけとはいえヴァレリアの方からライトからの呼び出しに応じて出向いてくれるというではないか。

これはライトにとって、ものすごく嬉しいことだった。

「じゃ、そろそろ私は帰ろうかな。やるべきことをやり終えたしね」

「ヴァレリアさん、今日も本当にありがとうございました!……って、そういえば、次にヴァレリアさんに会えたらいっしょにしようと思ってたことがあるんですが……」

「ン? 何ナニ?」

やることをやり終えて帰ろうとするヴァレリアを、一瞬だけ見送りかけたライトが慌てて引き止める。

自分といっしょにやりたいことがある、と聞けばヴァレリアとしても非常に気になるところだ。

するとライトは徐にマイページを開き、ピコピコと操作して何かを取り出し始めた。

それは、25cm四方の色とりどりの箱。

色は赤や青や黄色に緑に紫等々あり、箱の六面全てに『?』という記号が印刷されている。

これをライトが次々とマイページから取り出し続けていき、最終的には四十三箱が積まれていた。

それを見たヴァレリアが、怪訝な顔をしつつライトに問うた。

「これは…………ゴミ箱?」

「そうですそうです!ゴミ箱です!」

さすがヴァレリア、ライトが取り出したのが通称『ゴミ箱』と呼ばれるアイテム群(正式名称:ミステリー箱)であることを一瞬で看破した。

ちょっとしたピラミッド状態になっているミステリー箱の山を、ヴァレリアが心底感嘆しながら呟く。

「ンまーーー、これまたえらい大量のゴミ箱をゲットしたもんだねぇ……何かのイベントでもこなしたの?」

「季節限定の七夕イベントをやったんです。地獄巡りじゃなくて、神寄の短冊の方!」

「ああ、笹魔人のヤツね!短冊を何枚集めたの!?」

「6834枚集めました!」

「うひょー!そりゃ頑張ったねぇ!」

「はい、そりゃもう!エリクシル目指してひたすら頑張りましたよ!」

イベント話で盛り上がるライトとヴァレリア。

ヴァレリアは、BCOのイベントのことも大抵把握している。

なのでライトが『神寄の短冊』という言葉を出しただけで、それがアイテム収集&交換イベントであることを瞬時に理解したのだ。

「これだけのアイテムをゲットするなんて、さすがはライト君だ。しかもこのゴミ箱の開封の儀を、私と会えた時にいっしょにしたいだなんて……何て素晴らしい気配りなんだろう。ヴァレリアさんは嬉しいよよよよ……」

「いやいや……ゴミ箱を開封する瞬間を他の人と味わえるなんて、前世ではありませんでしたから!だからこそ、このゴミ箱はこの転職神殿で、ヴァレリアさんやミーアさん達といっしょに開封したかったんです」

流れてもいない涙を拭う仕草をするヴァレリア。

実に胡散臭いことこの上ないが、自分を気遣ったくれたライトの気持ちが嬉しかったのは本当のことだ。

そしてこのミステリー箱の山を見たミーナが、堪らずライトに声をかけた。

『主様、これは一体何なのですか?』

「えっとねぇ、これはゴミ箱……じゃなくて。『ミステリー箱』という名前のアイテムで、この箱の中に必ず何か一つアイテムが入っているんだけど。どんなアイテムがもらえるかは、実際に箱を開けてみるまで分からないんだ」

『へー……何だか宝箱のようでワクワクしますね!』

「うん、そうだね……ただし、宝箱なんていいもんじゃないけど。ハズレも多いし」

ミーナの質問に、ライトが真摯に答える。

ただし、引き運が悪いライトにとってこのミステリー箱はあまり良い思い出がなく、むしろ苦い経験の方が圧倒的に多かったのだが。

そうした苦い過去を思い出してか、ライトの顔がしばしスーン……となり表情が抜け落ちかける。

しかし、それらの苦い思い出もはるか昔のこと。

今度こそ、何か良いアイテムが引けるかも!と思い直したライト。

己を鼓舞するように、努めて明るい声で気合いを入れる。

「じゃあ、早速ゴミ箱を開けていこっか!ミーナはどの箱が気になる?」

『えーとですねぇ……この赤い箱、ですかね?』

「分かった、これだね。じゃあミーナはそれを持っててね」

『はい!』

「ルディとレア、ミーアさんも、気になる箱を一つ選んでください」

『『『はい!』』』

大量のミステリー箱の中から、どれでも一つ選ぶよう言われた転職神殿の仲間達。

遊び心溢れる指令に、ミーナやルディだけでなくレアやミーアまでもがワクテカ顔でミステリー箱を吟味している。

そんな中、ヴァレリアがスススー……とライトの横に近寄ってきた。

「ねぇねぇ、ライト君……私も一つ、選んでいい?」

「もちろんです!皆がそれぞれ選んだ箱を、一つづつ順番に開けていきましょう!」

「ヤッター♪」

ミステリー箱の持ち主であるライトの了承を得られたことに、ヴァレリアが万歳しながら喜んでいる。

そして速攻でミステリー箱の前にすっ飛んでいく。

ピューッ!と駆け出すヴァレリアの無邪気な後ろ姿を、ライトがクスクスと笑いながら見ていた。