軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第151話 燃え盛る闘志

そこから二時間ほど、ミサンガ編みの練習をしたライト。

ライトの周囲には、模様部分だけ編み込まれた未完成の紐が机の上に数多散らばっている。

ライトにとっては実に約10年振りの特技発動だったが、その出来はミサンガマイスターとして到底納得できるものではなかった。

『んぐぬぬぬ……これじゃ駄目だ』

『こんな不出来な代物じゃ、到底フェネぴょんへの御守として贈る資格なんてない』

『ましてやアルやシーナさんからもらった、貴重な銀碧狼の抜け毛……その採取のために、クレアさんやフェネぴょんに護衛してもらってまで氷の洞窟周辺に行ったんだ』

『御守作りのために協力してくれた皆のためにも、銀碧狼の毛糸は絶対に1mmたりとも無駄にはできない……!』

ライトが実に悔しそうに不出来と断じる数多の紐類は、傍から見れば十二分に綺麗に編み込めていると思える出来栄えだ。だが、ライトにとってはまだまだ不本意らしい。

どの分野においてもそうだが、達人とは得てして最も己に厳しく、その成果に満足を得られることなど滅多にないものなのだ。

『しかし……マキシ君の足輪外しがこのまま順調にいけば、三日後の木曜日には完了する』

『そうなると、早ければその翌日―――いや、その日の夜のうちにもフェネぴょんは旅に出ようとするかもしれない』

『それまでに……遅くとも明後日の晩のうちには、鈍りきった勘を取り戻さねば……』

10年振りに作ったミサンガだが、思っていた以上にその出来に納得がいかないライトは内心焦る。

だが、少なくともまだあと二日の猶予がある。逸る心を抑えつつ、ミサンガ編み込み練習をひとまず終了し机の上を片付ける。

片付けが一通り済んでから、レオニスのもとに運ぶ今日の晩御飯を受け取るために一階の食堂に移動した。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「お、ライト。今日は遅かったな。レオニスに届ける晩御飯は既に出来てるぞ」

「遅くなってごめんね。ラウルもいつもありがとうね」

ライトが食堂に入ってきたのを確認したラウルが、ライトに声をかける。

「気にすんな、これが俺の仕事だから。ところで、アイギスに持ってったあれらはどうだった?良い御守になりそうか?」

「うん、銀碧狼の抜け毛は一本の毛糸にしてもらって、マキシ君の羽根はブローチにしてもらうことになったよ」

「ブローチか、そりゃいいな!きっと格好いいのができるんだろうな」

マキシの羽根がブローチになると聞き、我が事のように喜ぶラウル。

「で、銀碧狼の抜け毛の毛糸はどう使うんだ?」

「ぼくが編み込んでブレスレット、腕輪にするの」

「ほほう、腕輪か……つーか、毛糸の編み込みで腕輪を作るって、いまいち想像つかんな……そんな難しそうなもの、ライトは作り方知ってんのか?」

「ん?……えー、あー、うん、ラグーン学園の図書室に毛糸を使ったいろんな編み方が書いてある本があってね?それをお手本に作ろうかと思ってるんだ」

八咫烏の羽根に続き、銀碧狼の抜け毛の毛糸の使い道をラウルに尋ねられたライト。

隠すことでもないので腕輪にすると普通に答えたのだが、その流れで『作り方知ってんのか?』と問われたことにライトは若干どころかかなり焦る。

まさかそこでバカ正直に『えぇえぇ、そりゃもう前世で腐るほど作り倒してきましたからね!目を瞑っててもいくらでもスイスイと編めますことよ!ヲーホホホ!』などと答える訳にもいかない。というか、そんなこと絶対に口が裂けても言えない。

ライトはとっさに、ラグーン学園の図書室の本のおかげ、ということにした。

「そうなのか……学園の図書室ってのはすごいところなんだな、そんな高度な知識が綴られている本があるとは」

「う、うん、図書室ってスゴイところなんだよー……アハハハ」

よし、何とか上手く誤魔化せたようだ。

とっさに口をついて出た言い訳だが、我ながら素晴らしい返しだ!

図書室の本なら学外持ち出し禁止だから、万が一『その本見せてー!』とか言われても『学園の規則でダメだから無理ー!』と堂々と断れるしな!

俺様天才素晴らしいーーー!

ライトは内心で自画自賛かつ会心のガッツポーズを取る。

「あ、ねぇねぇ、ラウル。そういえばお願いがあるんだけどさ」

「ん?何だ?」

「んーとね、もうすぐマキシ君の足輪外しが完了するでしょ?予定では三日後の木曜日だよね?」

「ああ、そうだな」

「その日にさ、皆で盛大なお食事会をしたいんだ」

三日後の木曜日にしたいとライトが望む、盛大な食事会。それの意味するところは、ラウルにも瞬時に理解できた。

「……そうだな。足輪外し完了の打ち上げと、フェネセンの壮行会をしなきゃな」

「うん、フェネぴょんも早ければ……ううん、きっと金曜日の朝にはもう旅に出ちゃうだろうからさ……」

俯きながら少しだけ寂しそうに話すライトに、ラウルがそっとその頭に手を乗せくしゃくしゃと撫でる。

「分かった、そしたらこの屋敷の大広間で盛大なパーティーを開こうな。俺もたくさんご馳走用意しとくから」

「うん、ありがとう、よろしくね」

寂しげなライトを元気づけようと、ラウルは努めて明るく振る舞う。

「レオニスにはライトの方から伝えといてくれな。あと、大まかでいいから呼びたい人数を教えてくれると助かるんだが」

「分かった、レオ兄ちゃんには今からご飯運びついでに言っておくね!呼びたい人は……1、2、3……ぼくやレオ兄ちゃん、フェネぴょんにマキシ君にラウルも含めると、全部で11人、かな?」

「11人か、了解。食べきれないほどたくさんのご馳走を用意してやるからな、楽しみにしてな」

食事会の人数をラウル問われ、頭の中で誰を呼ぶか考えながら指折り数えるライト。

全部で11人、と聞いたラウルはニカッと笑いながら、ご馳走をたくさん用意すると宣言する。

だが、その後に続くライトの言葉にラウルは戦慄させられることになる。

「うん!!……って、もしかしてフェネぴょんなら山ほどご馳走用意しても、全部ペロッと食べちゃうんじゃない?」

「!?!?」

「ほら、フェネぴょんってラウルの作るご馳走なら全部大好物でしょ?」

「…………」

「それにフェネぴょん、前にラウルと喧嘩してレオ兄ちゃんに怒られた時に言ってたよね?燃費が悪くて、いくら食べても満腹になることがないって……ん?ラウル、どしたの?」

以前、ラウルとフェネセンがこの屋敷で久しぶりの対面を果たした時に聞いた仲違いの理由?をライトが思い出しながら話していると、横にいたラウルが何やら俯き加減にフルフルと小刻みに震えている。

何事かと思い、心配そうにラウルの顔を覗き込むライト。

すると、ラウルは顔をガバッ!と上げてカッ!と目を見開いた。

「…………俺は負けん!!」

「ヒョエッ」

ライトの心配など目に入らぬ様子のラウルが突然声高に叫び、ダンッ!と床を踏み鳴らす。その咆哮と勢いに、ライトがビクつき飛び上がる。

「この俺が料理において敗北するなど、絶ッ対にあり得ん!」

「もてなすべき相手の腹を満足に膨れさせられんとか、料理人の名折れ以外の何物でもない!」

「フェネセンの奴がどれほど底無し沼の胃を持とうとも、この俺が必ずや『吾輩もうお腹いっぱーい、これ以上食べられないぃぃぃ』と言わせてやる!!」

「良い機会だ、この際フェネセンに満腹とはどういうものかをとことん知らしめてやる!」

「最後に勝つのは、この俺だ!!!!!」

「ひぃぃぃぃ……ラウル怖いぃぃぃ」

両の拳をギリギリと握りしめ、その背には不動明王も斯くやあらん業火の如き火焔が燃え盛る。何やらラウルの料理人魂に、壮絶なまでに盛大な火がついたようだ。

その火をつけたのは他ならぬライトなのだが、ラウルのあまりの凄まじい勢いに怯えきっている。

ライトにしてみれば、壮絶なまでに大食漢らしいフェネセンの食べっぷりがどのくらいなのか、話に聞いただけで実際には目の当たりにしたことがない故に純粋に心配していただけなのだが。

ラウルにとっては、満腹になったことがないというのは『満足に食べさせられない』と同義であり、つまりは敗北にも等しいらしい。

そもそも門出を祝うパーティーに勝ち負けなど存在するはずもないのだが、一度ついた火は止まることを知らぬかのように燃え盛る。このままでは、ラウルvsフェネセンのフードバトルにまで発展しそうな予感すらしてくる。

……どうしてこうなった??

メラメラと闘志を燃やすラウルの背後で、ライトは涙目になりながら子兎のようにプルプルと震え上がるしかなかった。