軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第150話 昔取った杵柄

翌日の朝、ラグナロッツァの家で起きたライトは、朝食を摂り学園に行く支度をする。

制服に着替えながら、そういえば、とふと思い出し、ラウルを呼ぶ。

「ねぇ、ラウル、ちょっといーい?」

空(くう) に向かってラウルの名を呼ぶと、しばらくして音もなくラウルがライトの傍に姿を現した。

「どうした、ライト。呼んだか?」

「うん。前に頼んでおいたマキシ君の羽根、あった?」

「ああ、あれか」

ラウルはライトが制服を着替えていた部屋、二階の元宝物庫に設えた机の引出しを開ける。

その引出しの中から、大きくて黒々とした立派な羽根を二本取り出した。

「ライトに頼まれた翌日、マキシを寝かせていた部屋を掃除して見つけておいたんだ。失くしちゃいけんから、ここの机の引出しにしまっておいた」

「ラウル、ありがとう!」

「どういたしまして。これで御守を作るんだろう?いいのができるといいな」

「うん!」

ラウルが自分のお願いを忘れることなく、ちゃんと守ってくれたことがライトは嬉しかった。

「今日は学園終わったら、これとアルの毛をアイギスに持っていくから帰りは少し遅くなるけどよろしくね」

「分かった、気をつけて行ってこいよ」

八咫烏の羽根と銀碧狼の毛を、大きめの鞄に潰さないように大事に仕舞うライト。

いつものようにラウルに見送られながら、ライトは学園に向かっていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

学園の授業を終えたライトは、アイギスに向かって足早にに歩いていく。

アイギスの前に到着したライトは、息を整えてから店の扉をそっと開いた。

「こんにちはー」

「いらっしゃいませー。……あら、ライト君。昨日ぶりね!」

いつものように、メイが来客を出迎える。

「ライト君、今日はどうしたの?」

「えーっとですね、昨日まではフェネぴょんがいっしょにいたので言えなかったんですが……これはカイさん達にも聞いてもらいたいので、奥でお話してもいいですか?」

メイにお願いして、奥の作業部屋で仕事をしていたカイやセイにも同席してライトの話を聞いてもらうことにした。

ライトはアイギス三姉妹に、フェネセンがもうすぐ長い旅に出ること、そのフェネセンに御守を作って持たせてあげたいこと、先日の氷の洞窟周辺行きは御守の素材である銀碧狼の毛を採取するためのものであったこと、その御守の材料として銀碧狼の毛と八咫烏の羽根を持ってきたことなどを話した。

「まぁ、そうだったの……フェネセンったら、そんなこと私達には一言も言わないで……」

「全く……水臭いやつよね、本当に」

「それで、ライト君はフェネセン閣下のために御守を作ってあげたくて、素材採取のために氷の洞窟周辺まで行ってきたのね?」

「はい……」

アイギス三姉妹は、ライトの話を沈痛な面持ちで静かに聞いていた。

ライトは一通り話し終えた後に、持参した銀碧狼の毛と八咫烏の羽根を取り出してカイに渡す。

「この銀碧狼の毛を、毛糸のように紡いでもらうことはできますか?」

「ええ、このくらいの量なら数時間程度もあればできるから、明日またこの時間に来てくれればお渡しできるわ」

「よろしくお願いします。そして、こちらの八咫烏の羽根は……どうしようかな」

「そうねぇ、ブローチにするのはどうかしら?そしたら、帽子でもマントでもどこにでも着けられるし」

「ブローチ!それいいですね!そしたら羽根が二本あるので、ブローチ二個作ってもらえますか?」

「いいわよ。ライト君とお揃いにするのよね?」

「はい!!」

八咫烏の羽根は二本あったので、せっかくだからフェネセンとお揃いのものを作ってもらおうと考えていたライト。

そんな考えなど、アイギス三姉妹にかかればとっくにお見通しなのだ。

「そしたら、二箇所で止めるラペルピンにしましょう。付け外しの手間は多少かかるけど、羽根以外の装飾もつけられるから付与魔法も施せるし」

「主役はあくまでも八咫烏の羽根だから、つける装飾は小ぶりのものにしましょうね」

「小粒の最上級ダイヤモンドを装飾に入れましょう。フェネセン閣下は本物志向の御方だし、施す付与魔法も超一流ですからね」

話がサクサクと進んでいくのはありがたいのだが、装飾に最上級ダイヤモンドを使用するとかどんどん大仰になっていってる気がする。

もとはラグーン学園の図書室の本『子どもでもできる!つくれる!5さいからはじめるおまじないとまどうぐ』に書かれていた、子供向けの御守なのだが。

「あ、あの……最上級ダイヤモンドとか、ぼくにはそんなお金払えないんですが……」

ライトがおずおずと、申し訳なさそうにカイ達に声をかける。

ライトが心配するのも無理はない。アイギスと言えばその名を知らぬ者などいない、王侯貴族も愛用する超一流ブランドなのだ。

そのアイギスで用いられる最上級ダイヤモンドなんて聞いたら、制作費用がどれほどのものになるか想像もつかないのだから。

「ん?ああ、制作費用のことなら要らないわよ」

「ええ、昨日は素敵なツェリザーク土産もいただいたことだし」

「ツェリザーク土産のお礼もあるけど、それより……」

カイが目を伏せ、自分の手に持っていた八咫烏の黒々とした美しい羽根を見つめながら、その毛先をそっと撫でる。

「私達も、フェネセン閣下の旅路の無事をお祈りしながら御守を作りたいの」

「ライト君の願いや企画案にそのまま便乗して利用しちゃう訳だから、ライト君には本当に申し訳ないし自分でも図々しいとは思うんだけど……」

「私達にも、フェネセン閣下の門出を祝う贈り物を作る機会を与えてもらえないかしら?」

カイが真剣な眼差しで、ライトを見つめる。

旅立つフェネセンの身を案じるのは、何もライトだけではない。ここにいるカイ達三姉妹にとっても、フェネセンは大事な友達なのだ。

そのことを知っているライトには、彼女達の願いに対して否やを唱える気など毛頭ない。

「もちろんです……皆でフェネぴょんのために素敵な御守作って、フェネぴょんをあっと驚かせてやりましょう!」

「ライト君、ありがとう。うふふ、フェネセン閣下の驚く顔が今からとても楽しみね」

「はい!では、明日また学園が終わってから来ますので、毛糸の方よろしくお願いします」

話が一通りまとまり、ライトはアイギスを後にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アイギスを出た後、ラグナロッツァの屋敷に戻ったライトは今朝八咫烏の羽根と入れ替えに机の引出しに仕舞っておいた毛糸玉を出す。

この毛糸玉は、ツェリザークでアイギス三姉妹用のお土産を購入した店で、おまけとしてもらったものだ。

その毛糸玉から毛糸の先端を取り出し、スルスルと糸を引っ張り出して長めに切り取り、直線状の毛糸を数本分用意する。

『長さは……これくらいか』

『あの技を、この世界でも使うことになるとはな……』

『昔取った杵柄だが、貴重な銀碧狼の毛糸をぶっつけ本番で使って失敗する訳にはいかん』

『他の普通の素材で練習して、勘を思い出しておかんとな……』

そんなことを感慨深く脳内で考えながら、ライトはいつになく真剣な表情で着々と準備を進める。

今からライトが作ろうとしているのは、前世で言うところのミサンガである。

そう、ライトはフェネセンに贈るための御守『フェンリルの抜け毛で作る、開運厄除けブレスレット』をミサンガという形で手作りしようとしているのだ。

『小学生の時は手先の器用さを買われて周りの女子にねだられ続け、中学では体育祭での御守としてクラス全員分作らされ……』

『高校では学園祭の売り物としてアホほど作成しまくり、成人後は親父関連の地域ボランティアで毎年フリマ販売品作り……』

『前世ではほぼその生涯を通して、散々散々散々散々ミサンガ編み要員として長年こき使われてきたが……』

『あの時の経験が、こんなところで活きるとは……』

『人間どこでどうなるか、本当に分からんもんだな』

何を隠そう、ライトは前世でミサンガを散々作り続けてきた、いわば『ミサンガマイスター』であった。

超簡単な三つ編みや難易度低めの四つ編みはもちろんのこと、平結びやねじり結び、斜め模様やV字模様、果ては大小様々なハート模様に花模様、アルファベット全種までマスターしているのだ!

とはいえ、それはあくまでも前世での話。思えばライトとしてこの世界に生を受けてから、一度もミサンガなど編んだことはなかった。

今の今までそんな必要性が全くなかったから、とも言えるのだが。

10年近く封印されてきたライトの特殊技能、ミサンガ編み。

今こそ過去世での功徳『ミサンガマイスター』の威光を呼び覚ますべく、ライトは準備し終えた毛糸の束に向かう。

静かに目を閉じ、しばし精神集中するライトの脳裏には前世でのミサンガ編みの数々のシーンが走馬灯のように甦る。

その走馬灯の如きミサンガ編みの再生シーンが一通り過ぎた後―――

ライトはその燃え盛る双眸をクワッ!と見開き、その魂に火がついたかのように電光石火の如き早業でミサンガを編み込んでいく。

その姿はまるで、後光が差す千手観音の降臨のようであった。