軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1498話 チュシャ猫の観察眼とライトの必死の攻防

『へー、そちらがリンリン嬢のお父上で、あちらが弟君で? でもって、人族と妖精のお友達? ご家族はともかく、お友達はまーた珍しいのを連れてきたもんだにゃー』

『ここ最近っていうか、数日の間にいろいろあったのよー』

『そなの? よく分かんにゃいけど、不思議の森の外には不思議な出来事が満ち溢れてるにゃねぇー』

『この森も大概不思議だけどね?』

ゴツゴツとした岩だらけの地面を、のっしのっしと歩くリンドブルム。

森の奥に進む道すがら、リンドブルムが家族であるラーデやサマエル、そして最近新たに知り合ったライトにレオニス、ラウルをチュシャ猫に紹介していた。

チュシャ猫はリンドブルムの横並びでふよふよと浮遊していて、好奇心丸出しの目で繁繁とライト達を見つめている。

しかし、チュシャ猫はそのふざけた見た目に反して、実は礼儀や常識を重んじる性格である。

この場で最も格上であるラーデに、まず真っ先に挨拶をした。

『リンリン嬢のお父上、初めましてにゃ。ボクの名はチュシャ猫、不思議の森の案内猫をしてますにゃ。リンリン嬢には、いつも仲良くしてもらっておりますにゃ』

『丁寧な挨拶、痛み入る。我はラーデ、リンドブルムの父にして皇竜メシェ・イラーデである』

『リンリン嬢の弟君も、ようこそ不思議の森へ!ボクはリンリン嬢の大親友にゃから、リンリン嬢のご家族も心から歓迎しますにゃ』

『うむ。貴殿が親友であるということは、リン姉様から時折話に聞いていた。今日こうして直にお会いできたこと、とても嬉しく思う』

チュシャ猫のきちんとした挨拶に、ラーデもサマエルも同じくきっちりと礼儀正しく応える。

そしてチュシャ猫の視線は、必然的にライト達の方に流れていった。

『ふーーーん……ボク、不思議の森の外の人族を見るのは超久しぶりにゃ!』

「チュシャ猫、といったか? 人間が不思議の森に迷い込むことが稀に起きる、というのは俺も聞いたことがあるが……そうした人間と会ったことがあるのか?」

『そりゃね? ボクは見た通り優秀にゃからね。不思議世界以外の生き物が現れたらすぐに分かるにゃ』

「そ、そうなのか……」

レオニスの問いかけに、白くて長い髭をピコピコ☆と動かしながら得意げに答えるチュシャ猫。

『不思議の森の案内猫』を自称するだけあって、外の世界から紛れ込んだ者を素早く察知する能力があるようだ。

「人族以外にも、この世界に迷い込むことはあるのか?」

『それは殆どにゃいねー。ま、人族だって滅多にここに来ることはにゃいけど』

「じゃあ、人族が迷い込んだ場合、あんたが元の世界に戻してくれてるのか?」

『一応ねー。ただし、ボクが迷い人を見つけるより先に ここの住民(・・・・・) に襲われちゃったりしたら、助けることができないことも多いにゃけどね』

レオニスの質問に、ニヤニヤとした笑顔のまま答えるチュシャ猫。

チュシャ猫が言う『ここの住民』とは、不思議の森に生息する魔物達のことを指している。

そしてそれらは、ライトが知るBCOのイベント『不思議の森』で出てくるイベント専用魔物のことでもある。

例えば、もしこの不思議世界に迷い込んだのがレオニスやラウルのように実力のある冒険者なら、元の世界に帰還できる可能性は高いだろう。

実際サイサクス世界に伝わる不思議世界の逸話は、冒険者ギルドや魔術師ギルドに記録されて後世に残されたものが殆どだ。

これは、実力ある者なら不思議の森に迷い込んだとしても無事脱出して生還できる、という説の根拠でもある。

しかし、冒険者でも何でもない極々普通の一般人だったら―――森に潜む魔物達の襲撃に耐えられないだろう。

大きな満月が夜空を煌々と照らし、森の中は蛍が舞うような一見幻想的な光景に思える不思議世界。だが、その裏に潜む弱肉強食の原理はサイサクス世界以上に厳しいもののようだ。

今はリンドブルムの威光で安全に移動できているが、もし万が一何らかの不測の事態によりリンドブルムと 逸(はぐ) れてしまったら―――チュシャ猫と合流できるまで、何が何でも全員で生き延びなきゃな……

レオニスは心の中で、改めて気を引き締める。

そうした警戒を怠らないレオニスの前に座っているライトは、全く別のことを考えていた。

『BCOの不思議の森イベントには、チュシャ猫なんて出てこなかったけど……サイサクス世界独自のモンスターなのかな?』

『てゆか、猫の頭だけっていうと、夢の中のティファレト遺跡にいた『にゃドー』と同類っぽいよね……もっとも、 顔貌(かおかたち) や毛色なんかは全然違うけど』

『あのにゃドーは、ティファレト遺跡がBCO由来のものだって分かってたようだったけど……このチュシャ猫は、不思議の森がBCO由来だって知ってるんだろうか?』

『もし聞けるなら聞きたいけど……レオ兄やラウルがいる前では聞けんな……』

チュシャ猫について、一人あれこれと考えを巡らすライト。

胴体を持たない頭だけの猫といえば、二ヶ月半前の黄金週間の際に温泉旅行として出かけたティファレトの街の名物、ティファレト遺跡で出会った『にゃドー』が記憶に新しい。

もっとも、ライトがにゃドーと出会ったのは夢の中の話。このサイサクス世界の現実に存在するティファレト遺跡内に、本当ににゃドーがいるかどうかは未だ不明なのだが。

しかし、ライトはあの時の夢はただの夢ではなく正夢のようなものだ、と思っている。

その前提で考えると、にゃドーもまたチュシャ猫のようにティファレト遺跡の門番的な役割を持っているであろうことが窺える。

もしかして、にゃドーとチュシャ猫は親戚みたいな関係性があるのだろうか?

そんなことをライトがつらつらと考えていたのだが。ふと思考が途切れた時に、どこからか視線が向けられていることに気づいた。

なかなかに強烈な視線のもとを辿ると、チュシャ猫の顔に辿り着いた。

まん丸の大きな猫の顔が、ライトのことをまじまじと見つめている。

そしてライトが自分に向けられた視線を追ったことで、チュシャ猫と目がガッツリ合ってしまった。

バチッ!と視線がかち合うライトとチュシャ猫。

ライトは思わず怯んでしまったが、チュシャ猫は動じることなくライトのことをジーーーッ……とガン見し続けている。

『君……にゃーーーんか、どーーーっかで、会ーーーったことが、あるようにゃ、気がするにゃねぇ?』

「え"ッ!? ぼくはチュシャ猫さんに会ったのは、今日が生まれて初めてですよ!? もし万が一、以前に会ったことがあったとしたら、絶対にチュシャ猫さんのことを忘れる訳ないですし!」

『そうにゃねぇ……一応ボクもね、君とは初対面だと思うんにゃけど……にゃーーーんか、君の場合、すんげー違和感を感じるにゃよねぇ……何で???』

「そそそそんなこと、ぼぼぼぼくに聞かれたって分かりませんよぅ……」

チュシャ猫が首をものすごく大きく傾げさせながら、ライトに対する正体不明の違和感の正体を自問自答する。

実際ライトはチュシャ猫に一度も会ったことはない。

ライトが不思議の森に足を踏み入れるのは今日が初めてだし、正真正銘お互いに初対面同士である。

というか、チュシャ猫のような強烈なビジュアルを持つ者なら、一度でも会えば一生忘れることなどできないだろう。

しかし、チュシャ猫の言い方からしてライトには凡その予想がついた。

チュシャ猫はライトが持つ埒外の魂、その違和感を本能レベルで感じ取っているのだ。

チュシャ猫の無意識レベルの鋭い観察眼に、ライトは内心で恐れ慄く。

だが、ライトにはそうした予想がついたところで、これを素直に認めてその正解を口にする訳にはいかない。

チュシャ猫が勇者候補生という存在を知らないのであれば、このまま誤魔化し続けるしかない。

レオニスやラウルもいるこの場で、これ以上この話題を続けたくないライト。必死に話題を逸らそうとし始めた。

「それよりですね……チュシャ猫さんの胴体はどこにあるんですか!?」

『ニャ? ボクの胴体? それは秘密にゃ!』

「秘密ってことは、胴体があるのは間違いないんですね!?」

『ニャ!? そそそそれも秘密にゃ! てゆか、ボクの胴体の在り処を探るなんて……スケベ!』

「え"ッ!? スケベ!? 何で胴体の話をしたらスケベ扱いになるんです!?」

話題逸らしのために槍玉に挙がった、チュシャ猫の胴体問題。

ライトの鋭い追及に、チュシャ猫が何故か耳を赤らめながらライトをスケベ扱いしてきた。

胴体の有無を聞いただけなのに、何故にこんな扱いをされなければならないのか。ライトにしてみたら『解せぬ』の一言に尽きる。

するとここで、リンドブルムがチュシャ猫に話しかけた。

『ねぇねぇ、チュシャ。ファフ兄の住処は、このまま真っ直ぐ歩いていけばいいの?』

『にゃ? えーっとねぇ、もうちょい先に行くと川が出てくるから、その川のすぐ向こうにファフ君のお気に入りの洞窟があるにゃよ』

『じゃあ、もうすぐ着くのねー。ファフ兄、いるといいけど』

『多分いるんじゃにゃいかにゃ? さっきボクが洞窟の前を通りかかった時に、洞窟の奥からすんげーイビキが聞こえてきたにゃ』

『イビキ? てことは、ファフ兄はまだ寝てんのかしら?』

リンドブルムの問いかけに、チュシャ猫がパッ!と表情を変えて接している。

ライトの必死の話題逸らしは有らぬ方向に飛んでいってしまったが、リンドブルムのおかげでチュシャ猫の気が逸れて何とか助かった。

このことに、ライトは内心でものすごく安堵していた。

それから程なくして、チュシャ猫が言ったように川が見えてきた。

それは幅5メートル程の小川。水深も然程深くなさそうな、本当に小さな川である。

リンドブルムは小川の存在などキニシナイ!とばかりに川の中に入り、バシャバシャと小川の水を踏みしめながら前に進んでいく。

そうして川を渡りきってからすぐのこと。

チュシャ猫が言っていた通りの大きな洞窟が、ライト達の前に現れたのだった。