軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1457話 イベントの事前調査

難易度の低い方の七夕イベントをする決心をした翌日の日曜日。

ライトは朝のルーティンワークを終えた後、ツェリザークのルティエンス商会に向かった。

イベントを発動する前に、一応念の為にロレンツォにも相談してからにしよう、と考えたのだ。

ロレンツォはBCOで交換所店主を務めるNPCであり、イベント限定アイテムが交換所に持ち込まれることも多い。

そのため、期間限定イベント等のこともある程度精通しているのだ。

あまり朝早くに訪問しても申し訳ないので、午前十時を回ってからツェリザークに移動することにしたライト。

マイページを開き、マッピングスキルを表示させて十ヶ所の登録地点のうちの一つ『ツェリザーク/ルティエンス商会裏口』を選択した。

カタポレンの家から一瞬でルティエンス商会の中庭に移動したライト。

裏口扉を二回ノックしてからそーっと扉を開き、顔を覗かせながら中に向かって声をかけた。

「おはようございまーす……ロレンツォさん、いらっしゃいますかー?」

ライトは呼びかけた後、しばらくそのまま待っていると、奥から人が出てくる気配がした。

奥から出てきたのは、もちろんロレンツォであった。

「おや、ライトさんではないですか。おはようございます」

「ロレンツォさん、ご無沙汰してます!」

「ライトさんも、お元気そうで何よりです」

「朝早くに訪ねてきてすみません。どうしてもロレンツォさんに聞きたいことがありまして……」

穏やかな笑顔でライトを出迎えるロレンツォ。

ライトがロレンツォと直接顔を合わせるのは、コヨルシャウキとともに渡った星界空間から帰還して以来。約四ヶ月ぶりのことだ。

「ささ、こんなところで立ち話も何ですし、どうぞ中にお入りください」

「あ、はい、お邪魔しまーす」

ロレンツォに促されて、早速ライトが建物の中に入る。

そして店の方ではなく奥の客間、謎の異空間に案内されていった。

客間に入り、ライトはソファに座りロレンツォはワゴンの前でお茶を淹れてライトのもとに運ぶ。

二人分のお茶をテーブルの上に置いてから、ロレンツォはライトの真向かいに座った。

「して、本日のご用向きはどのようなものでしょう?」

「えーとですね、今日は季節限定イベントのことを聞こうと思いまして」

「ほう、季節限定イベントですか。この時期だと……夏もしくは七夕ですかな?」

「はい!実は昨日からマイページのイベント欄に、二つの七夕イベントが出てきてまして……」

察しの良いロレンツォに、ライトが嬉々としてロレンツォに相談をし始めた。

「まずは『七夕・笹魔人を倒して神寄の短冊を集めよう!』をやろうと思っているんですが」

「ああ、神寄の短冊ですか。実に懐かしいですねぇ」

「ですよね!で、このイベントを発動させる前に、そもそもこれを始めてもいいものなのかどうか、ロレンツォさんにお伺いしようと思いまして……ロレンツォさんは、笹魔人が出てくる七夕イベントについて何かご存知ですか? もし何か注意することとかあったら、是非教えていただきたいんです!」

「ふむ……少々お待ちくださいね」

思わず身を乗り出しながら問いかけるライトに、ロレンツォが冷静な声で返しつつソファから立ち上がった。

そして部屋の隅にある書棚の前に移動し、棚の中から一冊のファイルを取り出してライトのもとに戻ってきた。

「神寄の短冊が発生するイベントは、このサイサクス世界では『ササニシキ村』という地で発生することになっていますね」

「『ササニシキ村』という場所が実在するんですか?」

「はい。場所はセンチネルの街から南東に10kmほど下ったところにあり、そこはかつて『パンダの聖地』として有名でしたが、今は廃村となっていまして。現在は無尽蔵に生えた笹の茂みの中を、パンダだけが闊歩する地域となっています」

「『パンダの聖地』……そんなもんがあるんですね……」

ファイルをパラパラと捲りながら、ライトが目当てとするイベントの内容を調べていくロレンツォ。

もちろんそのファイルはロレンツォだけが扱えるシークレットファイルであり、決して他者には直接見せてはならない代物だ。

しかし、相手が 勇者候補生(ライト) となれば話は別。

現在開催中のイベントに限り、ある程度なら教えてもいいことになっているようだ。

「ていうか、どうしてそのササニシキ村は廃村になってしまったんですか?」

「ある時野生のパンダが魔人化し、大暴れしたことがきっかけで村人達が全員他所の土地に引っ越してしまったようです」

「魔人化……それって、七夕イベントで出てくる『笹魔人』ですか?」

「そうですそうです。今でも七夕の時期になると、野生のパンダが魔人化して辺り一帯の笹を食い散らかしながら暴れるようですよ」

「七夕の時期が過ぎると、野生のパンダは元通りになるんですか?」

「ええ。ですので、旧村民達は七夕以外の時期にたまに笹を刈り取っては持ち帰り、工芸品の材料などに用いているようです」

ロレンツォが語るササニシキ村廃村の経緯に、ライトは驚きを禁じ得ない。

七夕の時期にだけパンダが魔人化するとは、まさに七夕イベントのために誂えられた村としか思えない。

BCOの 創造神(うんえい) の思惑や意図が感じられる話である。

「じゃあ、ぼくが直接その『ササニシキ村』に出向いてイベントボタンを押して発動すれば、神寄の短冊イベントが始まるんですか?」

「そういうことになりますね。廃村となった村が舞台ですし、特に七夕イベント期間中は笹魔人が村内で大暴れしていて近隣住民は絶対に近寄らないので、人目を気にすることなくイベントをこなすことが可能かと」

「ですよね!」

ライトの問いかけに、ロレンツォも笑顔で太鼓判を押す。

ライトが七夕イベントのためにササニシキ村で笹魔人と対決するとして、できればその場面は人に見られたくない。

ライトのような十歳前後の子供が、笹魔人をバンバン倒すところを他者に目撃されでもしたら、それこそ大騒ぎになるだろう。

しかし、イベントの舞台が廃村ならばその心配はない。

しかもイベント期間中は特に笹魔人が凶暴化するので、それを知る旧村民達は絶対にササニシキ村に近づかないというのだから好都合だ。

「そしたら、今からぼくがササニシキ村で神寄の短冊イベントを開始しても大丈夫、ですよね?」

「そうですね。ササニシキ村はサイサクス世界に実在する廃村ですし、ビースリーイベントのような異空間が舞台ではないので、時間の差異も起こらないかと」

「ありがとうございます!実はぼく、それが一番の懸念だったんです!」

ロレンツォの後押しに、ライトの顔がパァッ!と明るくなる。

ライトがBCOのイベントをこなす時に最も気がかりなのは、サイサクス世界の時間との差異が発生するか否か。

クエストイベントのように、与えられたお題を淡々とこなすだけならそうした問題は起こりにくい。

ただし、素材の採取場所が『呪われた聖廟』のような異空間となると話は変わる。

ここら辺の時間の差異問題は、ヴァレリアに質問する予定なのだが。今のライトの職業、闘士職の闇系四次職【獣魔拳帝】の習熟度をMAXにしてからでないと聞けないのだ。

ちなみに今のライトの【獣魔拳帝】の習熟度は89%。

あと一ヶ月もすれば夏休みになるので、夏休みになってからじゃんじゃん修行を進めるぞ!とライトは内心張り切っている。

ロレンツォに聞きたいことを一通り聞けて、大満足のライト。

先程出されたお茶をクイッ、と飲み干してソファから立ち上がった。

「ロレンツォさん、ありがとうございます!これでぼくも、安心して七夕イベントに挑めます!」

「どういたしまして。勇者候補生の方々のお役に立つことこそが、私の使命ですからね。こんなことで良ければ、いつでも頼ってください。ヴァレリアさん程ではありませんが、微力な私でもそれなりにお役に立てることでしょう」

ロレンツォに向かって礼を言うライトに、ニッコリと優しい笑みを浮かべるロレンツォ。

どこまでも控えめで謙虚なロレンツォに、ライトが身を乗り出しつつ反論する。

「ロレンツォさんは微力なんかじゃありません!交換所はBCOになくてはならないものだし、そうでなくてもロレンツォさんはいつだってぼくの心の支えになってくれてますもん!」

「心の支え、ですか? この私めが?」

「はい!だってロレンツォさんは、ぼくの正体を知る数少ない仲間ですから!」

「……仲間……」

懸命にロレンツォをフォローするライトに、当のロレンツォは戸惑いを隠せない。

ロレンツォはBCOの基幹システム『交換所』で店主を務めるNPCであり、本来ならアイテム交換以外でライト達勇者候補生と交流することはない。

だがここは、BCOと似て非なるサイサクス世界。

見えない壁に阻まれた、単なる顧客と店主という間柄ではなく、互いの手を取り触れ合うことのできる世界なのだ。

ライトの言葉で改めてそれを実感したロレンツォ。

もともと柔和な顔が、内から湧き出る喜びでふにゃっとした笑顔になる。

BCOでは、ついぞ得られることのなかった他者との交流。それを得た彼の喜びは、彼自身ですら計り知れない程の大きさだった。

「ライトさんに仲間と言っていただけることが、これ程嬉しいものだとは……」

「え? ぼく、そんな大したことは言ってませんよ? でも……ロレンツォさんが嬉しいなら、ぼくも嬉しいです!」

「フフフ……勇者候補生に喜んでいただけるとは、光栄の極みにございます」

穏やかな笑みで話すロレンツォ。

彼らNPCがライトのことを勇者候補生と言うことについては、ライトももう諦めた。

ロレンツォが運営する交換所やミーアがいる転職神殿だって、ライトが勇者候補生だからこそ利用できるのだから。

故にライトは『勇者候補生』という立場は否定しない。

だがしかし、それはそれとしてライトにはどうしても譲れない一線があった。

「あッ、ロレンツォさん、これだけは覚えといてください!ぼくは勇者候補生だけど、勇者にはなりませんからね!」

「おや、そうなのですか?」

「そうなのです!ぼくみたいな臆病者は、勇者になる資格なんてないですから!それこそミジンコのスネ毛の枝毛の先に付いた埃よりも可能性ないです!」

「ミジンコのスネ毛……」

プンスカと憤慨しながら、自分に勇者としての可能性がないことを大いに強調するライト。

その例え方がミジンコのスネ毛とは、何ともみみっちい気がするが。多分気のせいであろう。キニシナイ!

「じゃ、ぼくはそろそろ行きますね。今日中にササニシキ村に行って、少しでも神寄の短冊を集めたいですし」

「ガンメタルソードを得られた今のライトさんなら、笹魔人如き敵ではないでしょうが……それでもあまり無理はなさいませんよう」

「ありがとうございます!ロレンツォさんも、神寄の短冊で交換できるアイテムを取り揃えておいてくださいね!」

「承知いたしました。お気をつけてお出かけくださいませ」

「はい!いってきます!」

今からササニシキ村に出かけるというライトに向かって、恭しく頭を下げるロレンツォ。

そんなロレンツォに、ライトも輝かんばかりの笑顔で応える。

まだ見ぬイベントへの期待感に胸を膨らませながら、ライトはルティエンス商会を後にした。