軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1443話 黄金週間六日目

クロエの初めてのお泊まり会や、八咫烏母娘達の人化の術修行も無事終わった翌日。

この日は早くも黄金週間六日目。

九日間ある黄金週間の、半分以上が過ぎてしまった。

朝のルーティンワークを終えたライトとレオニスは、久しぶりにカタポレンの家で二人きりの朝食を摂っている。

黄金週間直後からずっと賑やかだったので、二人きりの静かな食事が寂しくも懐かしいという不思議な感覚だった。

「黄金週間とか春休み夏休み冬休みってさー、どうしてこんなに早く過ぎていっちゃうんだろうね?」

「あー、同じ一日でも仕事の日と休みの日じゃ全然違うっていうもんなぁ。つーか、それって学園通いのライト達でも同じなんか?」

「そりゃもちろん同じだよー? だってぼく達子供は、ラグーン学園で勉強するのがお仕事だもん」

「まぁ、言われてみりゃそうだよな。俺は学園通いなんてしたことねぇから、そこら辺の感覚はイマイチ分からんのだけど」

二人きりの静かな食事を少しでも賑やかにしたいがためか、朝食のトーストをもっしゃもっしゃと食べながら他愛もない雑談に花を咲かせるライトとレオニス。

休みの日とそうでない日の時間の流れが違うのは、古今東西地球異世界老若男女問わず。どこの世界にもどの年代にも共通する、同じ感覚なのである。

そして二人の話題は、自然と今後の予定に関しての話に移っていく。

「とりあえず、今日と明日はスタンプラリー回りだねー」

「だな。去年に比べたら、なかなかに過密スケジュールではあるが……ま、しゃあないな」

「うん、八日目と九日目はもう予定入ってるもんね。だからスタンプラリーの方は、今日明日のうちに全部回りきっておかなくちゃ」

「昼飯はどっかの公園で適当に食いながら、一日五ヶ所回らんとな」

「うん!よーし、エネドリゲットのために、今日も頑張ろー!」

「おーーー!」

拳を高く掲げて気勢を上げるライトの威勢のいい掛け声に、レオニスもノリノリで応じる。

今日ライト達が挑むイベントは、黄金週間中の三大名物イベントの一つ『五月病祓いスタンプラリー』。

相変わらず胡散臭いイベント名だが、これが正式名称としてアクシーディア公国全土に広まっているので今更どうしようもない。

それに、イベント名の胡散臭さはともかく、内容は間違いなく有用なものだ。

ライトも常日頃から愛用しているエネルギードリンクを、何と参加費無料で手に入れられるのだ。

このエネルギードリンクは、サイサクス世界では 『やる気が出ない、動きたくても動けない』という時、例えば五月病に罹った際に飲むものとされている。

精神的に辛い時、エネルギードリンクを一口二口飲めば俄然やる気が回復するのだ。

しかし、埒内の者達には単なるやる気回復ドリンクでも、勇者候補生であるライトにとっては全く違う効果がある。

スキル発動に必要な SP(スキルポイント) を回復してくれる、とてもありがたいアイテムなのだ。

しかもその回復量は一口で50SP、一本全部飲めば500SPが回復する。

これは、職業習熟度を上げるために大量のSPを消費しなければならないライトにとって、必要不可欠な回復剤だ。

だが、このエネルギードリンクとはもともとBCOでも非売品だった。そしてこのサイサクス世界でも、BCOと同じく非売品である。

ライトも未だその生成方法は知らず、現時点での入手方法は『クエストイベントの報酬』もしくは『フォル達使い魔のアイテム持ち帰り』の二通りしかない。

この貴重なアイテムを、『五月病祓いスタンプラリー』なら参加費無料で誰でも漏れなく得られるのだ。

こんな素晴らしい絶好の機会を、絶対に取りこぼす訳にはいかないのである。

「さて……そしたらそろそろ着替えて、ラグナロッツァの屋敷に移動するか」

「うん!ごちそうさまでした!」

朝食を食べ終えて、ライトが水魔法と風魔法で食器類をちゃちゃっと片付ける。

それぞれの部屋に戻り身支度を整えて、ライトの部屋にある転移門でラグナロッツァの屋敷に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラグナロッツァの屋敷でラウルとマキシと合流し、早速四人で出かけるライト達。

まずはスタンプカードを手に入れるために、唯一の配布所であるラグナ宮殿東門に向かう。

ライト達が配布所のテントに到着すると、そこにはほとんど人がいなかった。

「去年と違って、全然人がいないねー」

「まぁな、黄金週間ももう六日目だからな。今からスタンプカードを入手してスタンプ集めを始める人なんて、普通に考えて少ないんだろう」

「そりゃそうかー」

「ただ、他の街からやってくる観光客や、同じく他の街でスタンプラリーを完了した猛者がラグナロッツァにもスタンプラリー目当てで来ることもあるから、スタンプカードの配布自体は最終日まできちんとやるらしいがな」

「そういうとこ、割とちゃんとしてるよねー」

のんびりと話をしながら配布所でスタンプカードを受け取るライト達。

スタンプカードの配布係を担当していたのは、冒険者ギルド総本部の若手男性職員。

ライト達はその若手男性職員のことを知らないが、レオニスは総本部の職員全員と顔見知りなので気軽に話しかける。

「よう、アーサー。お仕事ご苦労さん」

「あ、レオニスさん!お久しぶりですね!」

「おう、久しぶり。今日は皆でスタンプラリーを回るんだが、スタンプカードを四人分もらえるか?」

「はい!スタンプカードを四枚ですね、少々お待ちください!……あ、スタンプカードを用意している間に水晶玉での登録をお願いしますねー」

「はいよー」

レオニスに声をかけられた、総本部の若手男性職員アーサー。

それまで手持ち無沙汰で暇過ぎて、欠伸を噛み殺していたところにレオニスが現れたので、途端にシャキッ!とした姿勢で椅子から立ち上がった。

そしてレオニスの要望に応じ、早速四枚分のスタンプカードの準備を始めた。

アーサーがスタンプカードを準備している間に、レオニスを先頭にライト、ラウル、マキシの順で次々と水晶玉に手を置き、スタンプラリー参加者登録手続きを済ませていく。

この登録手続きは一人当たり三秒で済む作業なので、四人分でも一分もかからず完了した。

「つーか、そういやマスターパレンは黄金週間中は何してんだ? 去年の黄金週間では、初日に花の森公園の鑑競祭り第一部でマスターパレンが審査員をしているのは見たが」

「あー、マスターパレンはですねぇ、今年も初日は鑑競祭り第一部の審査員をなさってましたよー。二日目以降から最終日までは、一日三回の特別チェキ会をこなした後に冒険者総本部に戻ってスタンプラリーの押印仕事をしておられますねー」

「特別チェキ会……しかも一日三回もこなした後に、スタンプ押し係までやってんのか、すげーな……」

アーサーから伝え聞いたマスターパレンの黄金週間の過ごし方に、レオニスだけでなくライトも内心でびっくりしている。

ライトもラグーン学園で、イヴリン達同級生とともに『あの伝説の超人、マスターパレンと触れ合える!特別チェキ会開催!』というイベントチラシは見ていた。

しかし、その詳細まではよく見ていなかったので、まさか二日目以降から最終日まで毎日三部もチェキ会を開催しているとは知らなかった。

しかもその特別チェキ会をこなした後に、冒険者ギルド総本部に戻ってギルドマスターとしての仕事をもこなしていると言うではないか。

そういや冒険者ギルド総本部もスタンプ押印の指定箇所になっていて、去年もマスターパレンがいたな……と昨年のことを思い出す。

その溢れんばかりのバイタリティさに、四人とも心底感心することしきりだ。

ちなみにラウルとマキシは、レオニスとアーサーの会話があまりよく分かっていなかったりする。

何故なら二人には『特別チェキ会』が一体何なのか、さっぱり分かっていないからだ。

その後スタンプラリーを回る際に、ライトやレオニスから『チェキ会とは何ぞや』を教わり、ようやくその意味を理解していた。

そしてアーサーからライト達に、今年のスタンプラリー用カードが配られた。

笑顔でカードを配るアーサーに、レオニス、ライト、ラウル、マキシの順でカードを受け取っていく。

ライトはサイサクス世界での人生二度目のスタンプカードを両手で持ち、「……ぉぉぉ……」と感激の面持ちで眺めている。

「こちらが今年のスタンプラリー専用カードになります。スタンプラリーやカードの取り扱いについて、説明は要りますか?」

「いや、去年も参加したしイベント内容は理解しているから大丈夫だ」

「分かりました。では、黄金週間も残り四日ですが、皆さんどうぞ『五月病祓いスタンプラリー』を存分に楽しんでください」

「おう、ありがとうな」

「ありがとうございます!」

アーサーの丁寧な対応と優しい言葉遣いに、ライトもペコリ、と一礼しながら満面の笑みで礼を言う。

四人ともそれぞれスタンプカードを空間魔法陣やポケットに仕舞い、一個目のスタンプをゲットするべくラグナ宮殿正門に向かって歩いていく。

ライトとレオニス、ラウルとマキシ、二人づつ並んで仲良く四人で歩く後ろ姿を、アーサーは微笑みながら静かに見送っていた。