作品タイトル不明
第1426話 ティファレト遺跡の実物と謎の視線
冒険者ギルドティファレト支部を出て早めの昼食を食べた後、ライト達は本日最後の目的地であるティファレト遺跡に向かった。
ティファレト遺跡とは、このサイサクス世界において『年代不詳の神殿様式の遺跡』とされている。
外観はパルテノン神殿のような、いわゆるギリシャ神殿と呼ばれる形式のもので、属性の女王達が住む神殿ともよく似ている。
だが、それらと比べてティファレト遺跡の方がはるかに規模が大きく、地球に現存するものに比べてはるかに状態は良い。
一番外側に見える柱こそ、ところどころ罅割れていて年代を感じさせる雰囲気満載だが、屋根はちゃんとついているし内部構造も神殿としての機能が保たれている。
何なら今でもどこかの宗教、ラグナ教あたりが神殿として再利用することだって十分可能だろう。
しかし、この手の古代遺跡は本当に神殿として使うことはできない。
何故なら時折その内部構造が変化するからだ。
その変化の仕方は様々で、しかもいつ起きるか分からない。
故に、こうした古代遺跡はどこでも観光資源として主に活用していた。
ティファレトの街中や足湯がある繁華街を抜けると、郊外に小高い丘があるのが見える。
その丘の頂きに、ティファレト遺跡があった。
遠目からでも見えるティファレト遺跡は、ほんのりとした青緑色のオーラを発している。
そのオーラは濃淡のグラデーションが常にゆっくりと動いていて、まるでオーロラのような輝きを醸し出している。
「おおお……あれが、ティファレト遺跡……」
「俺もまだ一度も中に入ったことはないが、こんな遠くからでもよく見えるとはすげーな」
「ああいう建物は、ラグナロッツァや他の街では見たことがないな」
三人とも感嘆しながらティファレト遺跡を眺めている。
そしてティファレトの街の外壁を出て、遺跡がある丘に向かうライト達。
外壁を出ると人の姿も疎らになるので、ライト達はティファレト遺跡まで一気に走っていくことにした。
さすがにここでは飛んでいくことを控えたようだ。
三人横並びで結構な勢いで走る中、ラウルがレオニスに問うた。
「ご主人様よ、あの遺跡とやらにはどこまで近づけるんだ?」
「入れないのは中だけだから、それなりに近くまで行けるはずだが……少なくとも立入禁止の柵か何かが設けられているだろうから、そこまでは行けるぞ」
「そっか。とりあえず行けるとこまで行こう」
レオニスからの答えに、ラウルはティファレト遺跡を真っ直ぐ見つめながら走り続ける。
思った以上にティファレト遺跡に興味を示しているラウルに、レオニスはニヤリ、と笑い、ライトは嬉しそうに微笑む。
これまでラウルはずっとラグナロッツァの中で過ごしてきたが、冒険者になってからいろんな街に出かけるようになった。
それはラウルのやりたいこと、ガラス温室建設の費用を稼ぐという金銭目的で冒険者になったのだが、それをきっかけにして様々な世界を見る機会が増えたのは良いことだ、とライトもレオニスも思う。
そうしてティファレト遺跡のある丘にどんどん近づいていくライト達。
程なくして、立入禁止の柵が設置されているのが見えてきた。
柵の周りには、観光客相手の屋台がいくつか出ているのが見える。
ライト達はひとまずここで休憩することにして、屋台で売られているポップコーンと温泉サイダーを三人分購入した。
買い物がてら屋台の主人と雑談して聞いたところによると、いつもはもっと遺跡の近くにたくさんの屋台や露店が出ているのだという。
今は立入禁止になってしまって露店も減ったが、それでも何件かは未だに観光客相手の商売を続けているらしい。何とも商魂逞しいことだ。
左側に温泉サイダーとポップコーンを持ち、右手でポップコーンを口に運んではもっしゃもっしゃと食べるライト達。
立入禁止の柵の前で見上げるティファレト遺跡は、遠目で見るよりもさらに雄大かつ優美な姿だった。
神殿全体を覆うオーロラの如きオーラもより一層濃く、見る者全てに強烈な存在感を与えている。
「この遺跡の再調査が、今年の夏だか秋にあるんだろ? ご主人様もそれに参加するのか?」
「一応そのつもりではいるがな。まだ詳細が決まってないから、どうするかは俺もまだ決められんところだ」
「レオ兄ちゃん、いいなー。ぼくもティファレト遺跡の再調査に参加したかったなー」
「お前ならそう言うだろうと思って、クレネとも話をしたんだがな。今回の変異は階層が増えたっつー最も厄介なタイプで、冒険者登録したばかりの新人はまず参加できんやつなんだ」
「だよねー……」
ポップコーンを食べながらのんびりと話すライト達。
その話題は自然とティファレト遺跡再調査の話になる。
再調査の頃にはライトも冒険者登録を済ませているはずだが、危険な任務だから登録したばかりの新人はお断り!と言われてしまえばライトにはどうすることもできない。
しかし、ライトはこの程度のことで挫けはしない。
キッ!と強い眼差しを神殿に向けながら、己を鼓舞するように言い放つ。
「でも、遺跡は何もティファレトだけじゃないし。またそのうち、再調査が必要な遺跡もきっと出てくるよね!」
「ああ。ティファレトの他にも、この手の遺跡はいくつもある。ホド遺跡もそうだし、マルクトにも遺跡があるし」
「そしたらぼくが冒険者としての実績を積んで、遺跡再調査に参加できるようになったら、皆でいっしょに行こうね!」
「おう、いいぞ。そん時はラウルもいっしょに行くか?」
「ああ、俺も古代遺跡というものに興味が湧いてきた。連れていってもらえるなら、是非とも同行させてもらおう」
「ヤッター!」
レオニスだけでなく、ラウルも古代遺跡再調査に参加したいという。
百聞は一見に如かずじゃないが、こうしてティファレト遺跡という実物を目の当たりにすると、古代遺跡への興味がどんどん湧いてきたのだろう。
ラウルまで参加表明したことに、ライトは飛び上がりながら喜んでいる。
しかし、この時のライトは気づかなかった。
自分(ライト) を真っ直ぐに見つめる視線が、ティファレト遺跡の中から向けられていたことに―――
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後ライト達はティファレトの街に戻り、夕方にはコテージに帰った。
コテージではアイギス三姉妹と八咫烏母娘、そしてマキシが仲良く過ごしていた。
「ただいまー」
「あッ、ライト君、レオニスさん、ラウル、おかえりなさい!」
「マキシ君やカイさん達にお土産買ってきたよー」
「ありがとうございます!」
ライト達の帰りを真っ先に出迎えたのはマキシ。
そんなマキシに、ライトがアイテムリュックから虹マスの皮のパリパリ焼きを数袋取り出して早速渡している。
マキシの出迎えから少し遅れて、アイギス三姉妹や八咫烏母娘達も玄関に出てきた。
八咫烏母娘達は全員人化の姿をしていて、カイ達が見立てたであろう服を着ている。
「皆、おかえりなさい。レオちゃん、ティファレトの街や遺跡観光を皆で楽しんできた?」
「ただいまー。ああ、足湯にのんびり浸かったり、ティファレト遺跡も間近で見てきて楽しかったよ。カイ姉達ものんびり過ごせたか?」
「おかげさまで、あれから皆でずっとファッションショーしてたのよ」
「そりゃ良かった」
レオニスとカイが和やかに会話する横で、ミサキがラウルに話しかけている。
「ねぇねぇ、ラウルちゃん、この服どうかしら?」
「おお、ミサキちゃんもパンツを穿いたのか。よく似合ってるな」
「ありがとう!でもね、これはパンツじゃないの。キュロットスカートっていうんだってー」
「そうなのか? 俺にはまだそこら辺の区別がつかんから間違えちまった、すまんな」
ミサキのパンツ姿を褒めるラウルだが、残念なことにそれはパンツではなくキュロットスカートというスカートの一種だった。
妖精(プーリア) であるラウルに人族が着る衣装の種類、特に女物の服のことなど分かるはずもない。
申し訳なさそうに謝るラウルに、ミサキがニコニコ笑顔で話しかける。
「ううん、大丈夫よ!でも、普通のスカートもいいけど、このキュロットスカートというのも動きやすくていいね!」
「皆スタイルが良いから、何を着ても似合うさ」
「ウフフ、ラウルちゃんってばホントにお上手なんだからー♪」
ミサキの優しいフォローに、ラウルも微笑みつつ褒め続ける。
他にも今日はいろんな服を着ただとか、午後三時頃に青空の下でゆっくりと露天風呂に浸かったとか、アラエルやムニン、トリスも加わって楽しく会話を楽しんでいた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜も、外のバーベキューで晩御飯を食べたライト達。
ティファレト旅行も早三日目、明日にはラグナロッツァに帰らなければならない。
ゆっくり過ごせる最後のティファレトの夜。
バーベキューの後には露天風呂に浸かり、美肌の湯をこれでもかと存分に堪能した。
風呂上がりには全員リビングで過ごし、ライト達が今日購入した土産もカイ達に渡した。
そして夜十一時になる手前頃に、レオニスが皆に向けて声をかけた。
「さて、明日の朝も早いことだし、そろそろ寝るか」
「そうね、明日は寝坊する訳にはいかないものね」
「おやすみなさーい!」
「おやすみなさーい」
カイ達女性陣とライト達男性陣は二階の階段を上がった廊下で分かれ、各自部屋に入っていく。
ライトも言われた通りに早々にベッドに入り、眠りについた。
そしてその日の夜、ライトは不思議な夢を見ていた。
…………
………………
……………………
ふと気がつくと、ライトの目の前には水色と緑色が入り混じったような靄がぼんやりとかかって見える。
はて、この色、どっかで見たような気が……としばし考えたライト。
その色は昼間に見たティファレト遺跡のオーラであることに気づくのに、そう時間はかからなかった。
そして目を凝らして周囲を見回してみると、溝が彫られた極太の柱が多数あり、奥には祭壇と思しきものがあるのが分かる。
他にも地下に続くであろう地下階段の入口や、祭壇の横に槍を持つ男神や盾を持つ女神の彫像が立っている。
これらの視覚的情報から、どうやらここはティファレト遺跡内部であることが推察できた。
え、何、ここ、ティファレト遺跡の内部?
何で俺はティファレト遺跡の中にいるの?
つーか、これ、夢だよね? だって俺、BCOで散々ティファレト遺跡の再調査任務権を課金購入して討伐してきたけど、あの任務は神殿の外に発生した恐竜型のモンスターを倒すだけで、神殿の中には一度も入ったことなんてないし……
周囲の景色を見回しながら、つらつらと思考を巡らせるライト。
ここが夢であることを、ライトは自覚していた。
しかし、ここでふとライトはあることに気づいた。
『夢の中なら、何しても大丈夫なんじゃね?』ということに。
そしたら夢の中だけでも、ティファレト遺跡の探索をしたいな!
どうせ今年の夏の再調査には、俺は参加できないんだし……
うん、夢の中なら何が出てきても大丈夫!万が一にも怪我したり、ましてや死ぬことなんてないもんね!
こーんな素敵なアイデアを思いつく俺ってば、もしかして天才?
よーし、そうと決まれば早速探索するか!
己の発想力を自画自賛しつつ、ライトは早速夢の中のティファレト遺跡を探索し始めていった。