軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第1425話 野望と無駄な努力と玉砕

コテージを出て、のんびりとした足取りでティファレトの街中に向かうライト達。

今日のお出かけの目的は三つ。

ラウルの『街で一番大きな魚屋に買い物に行く』とライトの『冒険者ギルドティファレト支部にいるクレネに会いに行く』、そしてレオニスの『ティファレト遺跡を外から見る』。

この三つをどの順で回るかを歩きながら話し合った結果、『魚屋 → 冒険者ギルドティファレト支部 → ティファレト遺跡』という順に決まった。

まずはティファレト最大の魚屋『レインボートラウト』に向かうライト達。

途中、木彫りの虹マスの置物や木の枝で組み立てたティファレト遺跡の模型などの土産物屋などがあり、ついつい足を止めては見入ってしまう。

他にも公共の足湯施設がいくつもあり、一番最初に見つけた足湯に早速三人で足湯に浸かる。

「足湯、気持ち良いねー」

「こういうのが至るところにあるってのが温泉地らしいよなー」

「ラグナロッツァにも、こういうのが一つくらいあればいいのに」

四阿の下でベンチに三人並んで座り、ふぅー……と一息つくライト達。

頬を撫でる爽やかなそよ風が何とも心地良い。

十分ほど足湯を堪能し、ラウルが出してくれたタオルで足を拭いてから靴を履き、ライト達は再び目的地に向かう。

そうして辿り着いた『レインボートラウト』は、ラウルにとってまさに宝の山だった。

「おおお……虹マスがこんなにたくさんあるとは!」

目をキラキラと輝かせながら、早速買い物を始めるラウル。

ライトとレオニスも、店の中の商品を興味深く見ている。

「へー、虹マスの骨を使った骨せんべいかー。カルシウムたっぷりで健康に良さそうー」

「ほう、こっちは虹マスの皮のパリパリ焼きとな。何ナニ、刺身を作った時に出る皮で作るのか」

「よし、それも十個づつ買うか」

ライトやレオニスが眺めていた虹マス系食品を、ラウルが手当たり次第に買い物カゴに入れていく。

どれもラグナロッツァでは買えない品だけに、ラウルが爆買いするのも無理はない。

ちなみにラウルはその他にも、虹マスの一夜干しや虹マスジャーキーを大量に買い込んでいた。

思う存分『レインボートラウト』で買い物をした一行は、店を出て次の目的地、冒険者ギルドティファレト支部に向かう。

その道中で、ライトがレオニスにクレネの情報を聞いていた。

「ティファレト支部のクレネさんって、十二姉妹の中の六番目なんだよね?」

「そうそう。ちょうど真ん中あたりだから性格もそこまでキツくないし、人当たりは良い方だぞ」

「他の姉妹と見分けるポイントはどこ?」

「クレネの見分け方か? クレネはな、十二人の中で最もまつ毛が長いんだ」

「まつ毛、ね…………うん、頑張って見てみる!」

ライトが聞きたかったのは、クレネの特徴。

ライトの目には完全コピペにも等しいクレア十二姉妹だが、レオニスは十二人全員を正しく見分けることができる。

その見分けるコツを、前もって伝授してもらおう!と言う訳だ。

もっとも、これまでレオニスが語ったクレア十二姉妹の見分け方は『眉尻が3mm高い』とか『耳が丸くて耳たぶが一番大きい』等々、実際に見比べてもどこがどう違うのかさっぱり分からないという、実に難易度が高過ぎるものばかりだったが。

そして、そうしたこれまでの経験からすると、今回もまた惨敗を喫する予感しかしない。

だがしかし、ライトの辞書に『諦める』という言葉はない。

いつの日か、レオニスのようにクレア十二姉妹を完全に見分けられるようになってやる!という野望は未だ捨てていないのだ。

そうして冒険者ギルドティファレト支部に到着したライト達。

早速中に入り、三人でクレネがいる受付窓口に向かった。

「よう、クレネ。一昨日ぶり」

「あらー、レオニスさんじゃないですかー。ティファレト旅行は楽しんでおられますか?」

「ああ、おかげさまでな」

「それは良かったですぅー♪ ……それはそうと、いっしょにおられるのは、もしかして……」

「ああ、今日はうちのライトがクレネに会いたいと言うから、連れてきたんだ」

レオニスの来訪を笑顔で迎えるクレネ。

そしてすぐさまレオニスの横にいるライトの存在に気づき、嫋かな笑顔をライトに向けた。

「クレネさん、初めまして!ぼくはライトといいます、レオ兄ちゃんがいつもお世話になってます!」

「まぁまぁ、噂のライト君にお会いできて本当に嬉しいですぅー!私はクレア姉さんの妹のクレネ、六番目の六女ですぅー。ライト君のことは、クレア姉さんやクレナ姉さんにいつも聞いておりまして。いつか私もライト君にお会いしたいなぁ、と常々思っていたんですよー」

「ホントですか? そう言われると、何だか照れ臭いけど……でも、すっごく嬉しいです!」

初めて会うクレネを前に、大喜びしながらも礼儀正しく挨拶をするライト。

内心では、天にも昇るような気持ちでガッツポーズをしているのだが。

「ライト君は、今年十歳になるのですよね? 先日レオニスさんからそうお聞きしましたよ」

「はい!八月の誕生日が来たら、その日の朝イチに冒険者登録するつもりです!」

「将来有望な冒険者が増えることは、冒険者ギルドにとっても実に喜ばしいことですぅー。八月の誕生日が待ち遠しいですねぇ♪」

「はい!」

大好きなクレア十二姉妹に会えて、ものすごくご機嫌なライト。

ちなみにここに来る前にレオニスが語っていたクレネの見分け方『まつ毛が一番長い』というのは、ライトの中ではもう綺麗さっぱり吹き飛んでいた。

受付に座る彼女の顔を見た瞬間、ライトは思ったのだ。『うん!やっぱり違いが全然分からん!』と。

そう、ライトの『今度こそ見分けられるようになってやる!』という意気込みは見事に瞬時玉砕していた。

だいたいさ、そもそもまつ毛なんて人間の毛髪類の中でも短い部類だし。まつ毛の長短なんて、パッと見どころかなんぼ見比べても分かんねぇって!

それに、今日はクレネさんとは初対面だし。初対面の俺が他の姉妹とすぐに見分けがつかなくても、そりゃ仕方ないよね!

クレネさんの顔をじっと見続けるのも失礼だし、今日のところは普通に挨拶するだけにしとこう!

ライトはそんなことを考えながら、クレネとの会話を楽しむ。

今すぐクレネの顔の特徴を覚えることは即時スッパリと諦めて、初めて会うことができたクレネとの会話に専念することに方向転換したのだ。

特徴を前もって聞いても分からんとか、結局は無駄な努力だったな!と嘲笑うことなかれ。

難題に向かって挑む気概を持ち、常に意欲と闘志を燃やしながら挑み続けることこそが最も大事なのだから。

そうしてライトとの初対面の挨拶を和やかに交わしたクレネの視線が、今度はライト達の斜め後ろにいるラウルの方に注がれた。

「えーと、そちらにおられるお連れ様は……もしかして、ラウルさん、ですか?」

「正解。今日は私服で普通の格好なのに、よく分かったな?」

「そりゃあもう!ラウルさんのお噂も、クレエ姉さんやクレノ、クレハに会う度に聞いてますもの!」

「殻処理貴公子ってヤツか?」

「そうですそうですぅー!クレエ姉さん達は、口を揃えて『黒髪巻き毛に金眼の、それはもう素敵な素敵な救世主様♪』と大絶賛してますものー♪」

ライトだけでなくラウルにも会えたことに、クレネはますます笑顔になる。

ライトもレオニスの養い子として有名だが、ラウルもまた極一部の特定の支部では超有名な人気者だ。

一度も訪れたことのない街のギルド受付嬢にまでその存在と名を知られているというのは、なかなかにすごいことである。

そして自分のことが話題になったラウルが、自らクレネに向けて挨拶をした。

「初めまして。俺の名はラウル、レオニスの屋敷の執事をしているが、最近は冒険者としてもぼちぼちやっている。よろしくな」

「まぁまぁ、ご丁寧なご挨拶、痛み入りますぅー。クレエ姉さん達が崇敬して止まない御方にお会いできて、本当に光栄ですぅー。ちなみにラウルさんの今の階級をお聞きしてもよろしいですか?」

「俺の階級か? 白銀級だ」

「白銀級ですか!? ラウルさんが冒険者になってから、一年くらいだそうですが……たった一年で白銀級にまで上がれるというのは、かなりすごいですねぇ」

「お褒めに与り光栄だ」

ラウルの今の階級を聞いたクレネの顔が驚きに染まる。

ラウルが黒鉄級から白銀級に昇格したのは、実は一ヶ月ほど前のこと。

ラグナロッツァで起きたビースリー勃発騒動の時に、ラウルは空間魔法陣を使って食糧の調達や民間人への配給等にずっと尽力していた。

その時の多大な貢献と功績が認められて、階級が一つ上がったのだ。

「さて、クレネにも挨拶できたことだし、そろそろティファレト遺跡を見に行くか」

「うん!」

「じゃ、またな、クレネ」

「いってらっしゃーい」

クレネとの顔合わせも一頻り済ませたところで、次の目的地に向かおうと声をかけるレオニス。

その言葉に、ライトが大きく頷きながらクレネに話しかけた。

「今日はクレネさんに会えて、すっごく嬉しかったです!」

「こちらこそ、ライト君とラウルさんにお会いできてとても嬉しかったですぅー。今、ティファレト遺跡は少し離れたところから見るしかできませんが……再調査が終わったらまた一般解放されますので、またその時にライト君も見に来てくださいねぇ」

「はい!ありがとうございます!じゃ、いってきます!」

「皆さん、お気をつけてお出かけしてきてくださいねぇー」

出口に向かって歩いていくレオニスとラウルを追いかけつつ、振り返ってはクレネに向けて大きく手を振るライト。

将来有望な冒険者の卵の溌剌とした笑顔に、同じく手を振りながらライト達を見送るクレネもまた自然と笑みがこぼれるのだった。