軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

【投稿開始四周年記念SS】第1420話 正義の人(後編)

ゲブラーの近隣の村に出現したというスカベンジャー。

それはドラゴンの一種で、体表はどす黒い紫色の鱗に覆われている。

見た目は典型的なティラノサウルスで、人族の間ではドラゴタイラントの変異体とされているが、実はBCOのレアモンスターでドラゴタイラントのコピペ魔物である。

その性質は、変異体と言われるだけあって体格も凶暴性もドラゴタイラントをはるかに上回る。

体高は5メートル超のくせに、俊敏性はドラゴタイラントの倍以上。

こいつが一度人里に出没したら、その街は数日も経たないうちに滅ぶとまで言われている。

その理由は、スカベンジャーの醜悪な性質にあった。

『スカベンジャー』という名の通り、こいつは死肉を漁るのを何よりも好む。そのため仕留めた獲物をすぐには食らわず、数日放置して腐らせてから食らいつくという習性がある。

スカベンジャーが通った後には、生き物という生き物は何一つ残れない。

何故ならこの怪物は、生命を奪った後に腐乱していく死体を貪り食うのがたまらなく好きだからだ。

故に生き物と見れば人魔問わず手当たり次第に攻撃し、絶命して腐りゆく餌を大量に確保してはゆっくりと食事に耽る。

別名『腐肉漁り』という二つ名は決して誇張ではなく、スカベンジャーの悍ましい習性を的確に表していた。

故にこのサイサクス世界では、スカベンジャーが出現した場合迅速な対応が求められる。

冒険者ギルドでも、一刻も早くスカベンジャーを討伐するために尽力する。全支部で討伐に向かう冒険者を募り、普段はあまり使わない転移門も積極的に解放して高位の冒険者を惜しみなく出没地域に向けて送り出す。

ただし、スカベンジャー討伐に加われるのは白金以上の階級に限定される。

それ以下の階級ではスカベンジャーに対抗する実力が足りず、返り討ちにされる危険性が高いためだ。

そして大広間に飛び込んできた男性職員が、パレンがいることに気づき慌てて駆け寄ってきた。

「ああッ、パレン君!ちょうどいいところにいてくれた!聞いての通り、ゲブラーの近くにスカベンジャーが出た!早速だがスカベンジャー討伐に向かってくれるか!」

「もちろんだとも!ゲブラーの街に向かえばいいのだな!?」

「ああ!スカベンジャーが出たのは、ゲブラーから少し離れたギボールという村だ!今全支部からゲブラーに高位冒険者を集結させている、君もゲブラーの街に向かってくれ!」

「……ッ!!!」

スカベンジャーの出現地を聞いたパレンの顔が青褪める。

ギボールは、かつてドラゴタイラントに襲われた時にパレンが救援に向かった村。

その村が、八年後に再びその変異体に襲われるとは。あまりにも不幸過ぎる悲運に、さしものパレンも絶句する。

しかし、ここで戸惑っている暇はない。

パレンはすぐさま気を取り直し、男性職員に向かって声をかけた。

「では早速転移門を使わせてもらおう」

「パレン君、回復剤とか用意していかなくていいのか?」

「その時間も惜しい。ゲブラーからギボールまで行くのにだって、三十分はかかるのだからな」

「三十分? ……そ、そうだな、今は一分一秒すら惜しいからな」

ゲブラーからギボールまで三十分で移動するというパレンに、男性職員が面食らった顔をしている。

しかし、パレンの言うことも尤もで、今は一刻も早くスカベンジャーを討伐しなくてはならない。

二人は早速奥の事務室に行き、パレンは転移門を使ってゲブラーの街に移動していった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

パレンがゲブラーに到着し広間に向かうと、そこには五人の高位冒険者がいた。

皆聖銀級で、お互いに顔見知りの者達ばかり。

その中には、当時現役冒険者だったオラシオンの姿もあった。

「ンッフォゥ!皆スカベンジャー討伐に集まったのか!?」

「よう、パレンじゃねぇか。あんたもスカベンジャーを殺りに来たのか?」

「当然だとも!今すぐギボールに向かうぞ!」

「いやいや、ちょっと待ってくれ。ここからギボールまで行くのに、走っていくには時間がかかり過ぎる。だから今、俺達は竜騎士団の支援待ちなんだ」

「そんなことを言っている場合ではないだろうに!」

聖銀級仲間の制止に、パレンが気色ばみながら食ってかかる。

そんなパレンに、オラシオンが割って入ってきた。

「パレン、君の気持ちも分かりますが少し落ち着いてください。まず、馬に乗れる者は既に各自ギボールに向かっています。そして、あと二十分もすれば竜騎士が五組、ここゲブラーに来ることになっています。竜騎士達に私達をギボールまで連れていってもらえば、今から四十分後にはギボールに到着します。私達が単独で向かうより、余程早くギボールに着くことができるのです」

「……分かった」

オラシオンの冷静沈着な説明に、一度は頭に血が上っていたパレンも次第に落ち着きを取り戻していく。

今ここにいるのは、乗馬の心得がない者か、もしくは乗れても不得手な者達ばかり。

そうした者達でも迅速に現場に向かうために、彼らなりにあらゆる手を尽くしていたのがパレンにも理解できた。

また、馬に乗れる者は既にギボールに向かっているという。

これ以上パレンがオラシオン達に食ってかかる理由など、もはやなかった。

冷静さを取り戻したパレンが、改めて冒険者仲間達に宣言する。

「ただし、私はこの身一つで今すぐに現地に行かせてもらう。私は身体強化することで、ここからギボールまで走って三十分で行けるからな」

「「「……三十分……」」」

パレンの言い分に、オラシオン他冒険者仲間達が全員絶句する。

普通に考えて、ゲブラーからギボールまで走って三十分で行ける距離ではないのだが。

しかし、彼らの目の前にいるのはパレン・タイン。『伝説の金剛級冒険者に最も近い男』と呼ばれる男だ。

そんな男がキッパリと断言することに、嘘偽りや法螺、見栄などあろうはずもない。

いち早く気を取り直したオラシオンが、再びパレンに声をかける。

「……分かりました。そしたらお手数ですが、ここに用意してある救援物資もいっしょに持っていっていただけますか? こういうものは、少しでも早く現地に届けるべきですから」

「うむ、承知した」

オラシオンが指した右手の先にあるたくさんのリュック。

そのリュックはオラシオン達がギボールに持っていくはずだったもので、中にはあらん限りの回復剤が詰め込まれていた。

パンパンに荷物を詰め込まれたリュックをまず一つ背負い、それから右腕に三つ、さらに左腕にも三つ、肩紐を通して持ち上げた。

「では、一足先に行っている。皆も一刻も早く来てくれ!」

「おう!パレンもくれぐれも気をつけてな!」

「俺達が到着するまで、無茶するんじゃねぇぞ!」

「パレン、君の武運を心より祈ります」

一人で七つもの救援物資を詰め込んだリュックを持ち、颯爽と出口に向かうパレン。

正義の人のこれ以上ない頼もしい背中を、オラシオン達は熱い思いとともに見送っていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

冒険者ギルドゲブラー支部を出てから、約二十五分後にパレンはギボール村に到着した。

その途中、馬に乗って走る聖銀級冒険者仲間を何人かごぼう抜きで追い越したような気がするが。多分それは気のせいではない。

そうしていつも以上に早く到着したギボール村は、あまりにも無惨な姿を晒していた。

ギボール村の中では戦闘が繰り広げられた痕があり、パレンより先に到着した聖銀級冒険者三人が地に伏していた。

そして、ギボール村の中にいたのはスカベンジャーだけではなかった。

あろうことか、複数のドラゴタイラントがいたのだ。

合計五頭のドラゴタイラントは、スカベンジャーに命令されて動いているのか、それぞれバラバラの方向に動いて民家を襲っていた。

村のあちこちから、ドラゴタイラントに襲われた者達の悲鳴が聞こえる。

この凄惨な光景を見たパレンの理性は、一瞬にして吹っ飛んだ。

「ンンンッッッフォォォォゥゥゥゥ!!!!!」

パレンはそれまで抱えていたリュックを放り出し、手下のドラゴタイラントの後ろでふんぞり返っていたスカベンジャーに拳一つで突っ込んでいった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

パレンがギボール村に到着した十五分後に、竜騎士と聖銀級冒険者達の増援が到着した。

スカベンジャーに襲われたにしては、ギボール村の中は不気味な程に静まり返っている。

オラシオン達が不審に思いながら、竜騎士達とともに村内の様子を見て回っていると———

彼らの目に飛び込んできたのは、血だらけで地面に横たわるスカベンジャーと、その前に立つ血達磨のパレンだった。

「パレン君!」

「パレン、しっかりしろ!」

「今回復魔法をかけてやるからな!」

ズタボロのヨレヨレで、今にも倒れそうなパレンのもとに聖銀級冒険者達が駆け寄る。

パレンの身を心配する仲間達に、パレンが息も絶え絶えに口を開く。

「……私の、ことは、後回しで、いい……今は……一人でも、多くの……村人を……助けて、やって、くれ……」

「もちろんだとも!村人達の救助も並行して行う!だからパレン、お前も治療を受けてくれ!」

「……私、は……チャクラ、活性で、大丈夫、だ……」

「こんな血だらけになってるくせに、何言ってんだ!いいから黙って治療されとけ!」

「…………手間を、取らせて……すま、ない…………」

「あッ、おい!パレン!しっかりしろ!」

冒険者仲間達が到着したことに、パレンも気が緩んだのか。力が抜けたように、パレンの体勢がグズグズと崩れていく。

程なくして気を失ってしまったパレンの恵体を、聖銀級冒険者仲間二人が必死に支えながらゆっくりと地面に寝かせていった。

「ったく……あれ程無茶すんなって言ったのに……」

「パレンの性格を考えたら、しゃあないけどな」

地面に寝かせたパレンの腕や足、腹部など目に見える傷がある場所に、冒険者仲間達が手分けしてエクスポーションをかけていく。

エクスポーションは飲むだけでなく、切り傷や擦り傷などの外傷に直接かけても効果を発揮するのだ。

パレンへの応急処置をしている中、一人の冒険者が周囲を見渡しながら呟く。

「……つーか、これ、全部パレン一人で殺ったんか?」

「多分な」

パレンが単身で繰り広げたであろう激闘の痕。

彼の周りに転がっていたのは、スカベンジャー一体だけではない。ギボール村で暴れていた五頭のドラゴタイラント全てが、パレンの拳によって仕留められていた。

「こんなんを一人で倒しちまうって……ホント、すげーとしか言いようがねぇな」

「全くだ。スカベンジャー一体だけでも倒せりゃ御の字だってのに、まさかドラゴタイラントまでいやがったとはな……」

「しかもこれ、一体だけじゃねぇぞ? ひぃ、ふぅ、みぃ……五体もいるじゃねぇか!」

目の前に広がる凄惨な光景に、改めて驚愕する聖銀級冒険者達。

その後パレンの応急処置を終えた冒険者仲間達は、一人だけパレンのもとに残り、他の者達は村内の生き残りの捜索に回ったり、他の魔物達が侵入してこないよう退魔の聖水を撒くなどして、各々がすべきことを粛々とこなしていった。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ギボール村のスカベンジャー襲撃事件から約三ヶ月後。

パレンは冒険者ギルドゲブラー支部にいた。

あの事件の後、パレンは自宅で一ヶ月半の療養を要した。

本人は「一週間もすれば大丈夫!ほれ、この通り!」とベッドの上で主張したのだが。さすがにタイン家の家族達が総出で猛反対したのだ。

「パレン、頼むからもうしばらく安静にしていてくれ!」

「この母や父を安心させるためだと思って、お願いだから!もう少し寝ていて!」

「そうだぞ、パレン。これ以上父上や母上、そして私達の心を痛めさせないでくれ」

「パレン叔父様、もっとお休みしなきゃダメ!」

「お休みしてくれないと、パレン叔父様のこと嫌いになっちゃうからね!」

「この子達やお義父様お義母様、そして私達夫婦の願いを……どうか、どうかお聞き届けくださいまし……」

父母や兄夫婦、そして可愛い姪っ子甥っ子、全員の涙ながらの懇願。

これにはさしものパレンも太刀打ちできなかった。

観念して家族の言う通りに療養に専念したパレン。三週間の絶対安静の後、三週間のリハビリ期間を経て華麗なる復活を遂げた。

一ヶ月半の療養生活中に、何人もの仲間が見舞いに訪れてくれた。

ゲブラーに集結した聖銀級冒険者仲間達、当時の冒険者ギルドマスター、受付嬢クレナ他顔馴染みの冒険者ギルド職員達、他にもいつも冒険者ギルド総本部で仲良く会話を交わしていた冒険者仲間達。

パレンの身を案じる者達が、ひっきりなしにタイン家を訪れた。

そして、そうした人々からパレンはギボール村のその後のことを聞いていた。

スカベンジャー襲撃事件で生き残れた村人は、僅か十人。

約二百人いた村人達の半数はドラゴタイラントに殺されていて、パレンがスカベンジャーを倒した時にまだ息があった者達も傷が深く、ほとんどの人がその後亡くなってしまったという。

生き残ったのが十人では、もはや村の再興は望めない。

ギボール村は事実上消滅し、生き残った者達は他の街に移住することになった。

しかしその十人のうち、一人だけ全く身寄りのない子供がいた。

両親はドラゴタイラントに殺されてしまったが、母親の機転でクローゼットに押し込められて隠れていたことで生き延びた子だった。

パレンはその子のことをよく覚えている。

八年前のドラゴタイラント襲撃事件の復興の際に、パレンに一際懐いていた男の子。

当時四歳だったカレルは、十二歳の少年に成長していた。

身寄りのないカレルは、ひとまずゲブラーの孤児院に預けられた。

しかし、十二歳という年齢で孤児院に入るというのはなかなかに難しい問題であった。

まず、それまで両親とともに普通に暮らしていたカレルは、スカベンジャー襲撃事件のショックからなかなか立ち直れなかった。

そして、孤児院にいる先輩達?とも馴染めずにいた。

もともと孤児院に入る子というのは、赤ん坊から幼児期に預けられることが多い。

そんな中で、十二歳のカレルがいきなり仲間に入って他の孤児達と仲良く過ごせ、という方が無理難題というものである。

この悲しい話を、パレンは冒険者仲間達から療養中に聞いていた。

そしてこの日、パレンがゲブラーの街に出かけたのは、カレルに会うためだった。

冒険者ギルドゲブラー支部から、ゲブラー孤児院に向かうパレン。

十分程歩いて孤児院に到着したパレンは、早速中に入っていった。

建物の中で孤児院の責任者に会い、カレルとの面談を申し出て快諾された。

その後責任者がカレルをパレンの前に連れてきた。

パレンと再会したカレルの瞳が、あっという間に潤む。

「……パレン、兄ちゃん……」

「カレル……長いこと待たせてすまなかった」

「…………うわああああぁぁぁぁッ!」

カレルの緑青色の瞳から、ボロボロと涙が零れ落ちる。

そしてカレルは視界が霞んだまま、パレンの胸に一直線に飛び込んだ。

パレンはカレルの煉瓦色の髪をそっと撫でながら、優しい口調で語りかける。

「カレル……もし良ければ、私の養子にならないか?」

「養子?……俺、パレン兄ちゃんの子になるの?」

「ああ。私は一生独身を貫くと決めているので、君に新しい母親を与えてやることはできないが……もしそれでも良ければ、私が君の父親代わりとなろう」

「………………」

パレンの突然の提案に、カレルは泣き止みしばし無言になる。

今のパレンは三十三歳、カレルは十二歳。二十一歳差は普通に親子として通る。

しかし、カレルはパレンのことを『パレン兄ちゃん』と呼んで慕っていた。

兄と慕う人が養子縁組で父親になるというのは、カレルにとっては抵抗があるかもしれない。

だから、この提案は断られても仕方ないものだ―――パレンはそう考えていた。

だが、カレルの反応はそれに反するものだった。

「……俺、パレン兄ちゃんの子になる!」

「本当に、カレルはそれでいいのか?」

「うん!だって、ここには俺の家族はいないもん……俺にはもう、父さんも母さんもいないし……」

「…………」

「だから、パレン兄ちゃんと……ううん、パレン父さんと家族になりたい!」

「ッ!!」

涙で目も鼻も真っ赤にした少年が、真っ直ぐな視線でパレンを見つめる。

その目は先程までの絶望に染まったものとは打って変わって、パレンとともに歩む未来を渇望する力に満ちていた。

「よし、そしたら早速養子縁組の手続きをしてこよう」

「手続きって、何をするの?」

「この孤児院の責任者と話し合って、君の親権を私が得る手続きをすればいいのだ」

「よく分かんないけど……俺はここで、パレン父さんが戻ってくるのを待っていればいいの?」

早速養子縁組の手続きをするというパレンに、手続きの意味やら手順を全く理解できないカレルが小首を傾げて問いかけている。

そんなカレルに、パレンがニヤリ、と笑いながら答える。

「いいや、カレルには仕事がある」

「仕事って、何?」

「この孤児院を出る支度だ。君の荷物を全部まとめて、ここで待機していること。できるかな?」

「……うん!」

パレンの言葉に、カレルの顔がパァッ!と明るくなる。

そしてカレルはすぐさま踵を返し、荷物があるであろう自室に向かって駆け出していく。

元気を取り戻したカレルの後ろ姿を、パレンは微笑みながら見つめていた。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆

それから十二年の月日が過ぎた。

パレンはスカベンジャー襲撃事件の時に負った傷が原因で、その半年後に冒険者を引退して二年後に冒険者ギルド総本部マスターとなった。

彼の引退は周囲から非常に惜しまれたが、パレンに悔いは一片もない。

現役時代に思う存分世界中を旅して回ったおかげで、心残りは何一つなかった。

一方パレンの養子となったカレルは、タイン家の一員として皆から快く迎え入れられた。

最初はぎこちなかったカレルも、祖父母のアインシュやホルス、伯父夫婦のバレンにナタリー、従姉妹のコレットや従兄弟のルーシェ、皆がカレルの素性や生い立ちを知った上で家族として接してくれたことにより、徐々に心を開いて本当の家族になっていった。

そんなカレルには、突出した才能があった。

それは、料理の才能。その中でも特にスイーツ作りの才能に恵まれていた。

コレットとのお菓子作りをきっかけに、スイーツ作りの楽しさに目覚めたカレル。その後製菓の道を極めるべく、十五歳で名門菓子店の門を潜り二十歳の時に独立して店を開いた。

その店こそ【Love the Palen】である。

そして姪のコレットは、絵を描く才能を活かしてデザイナーの道を歩み、甥のルーシェもタイン家の跡取り息子としての研鑽を積みつつ、姉とともにアパレルブランドの事業を立ち上げた。

冒険者引退後、見事に花開いたパレンのコスプレの才能。その全ての衣装は、叔父をこよなく愛する姪っ子と甥っ子の手によって成り立っているのである。

そして、パレンが四十五歳の時。

ラグナロッツァでビースリー騒動が起きた。

この時ばかりはパレンも現役復帰を覚悟したが、金剛級冒険者レオニスを筆頭に数多の冒険者や魔術師、薬師達のおかげで危機を免れた。

レオニスからの報告を受けて、すぐに旧ラグナロッツァ孤児院に向かうパレン。

中庭にあった謎の亀裂が完全に消滅したことを、その目で直に確認し安堵する。

その後再び総本部に戻り、ギルドマスター執務室に入ってソファにドカッ!と座った。

ンッフォーーーゥ……と大きなため息をつくパレンに、第一秘書のシーマがお茶を持ってきた。

「マスターパレン、お疲れさまです」

「おお、シーマ君か。気が利くな、ありがとう」

「どういたしまして。謎の亀裂が消えたのでしたら、マスターパレンも少し仮眠を取られては如何ですか?」

「そうだな……昼前には、ラグナ大公にご報告に行かねばならんが……それまで少し時間があることだし、シーマ君の言う通りひと休みするとしよう」

「おやすみなさい」

シーマの勧めにパレンが頷き、ソファにゴロン、と横になる。

あまり行儀はよろしくないが、パレンもこれまで十日もの間、ほぼ休まずずっと働き詰めだったのだ。たまにはこんな時もあっていいだろう。

あの亀裂が消えて、本当に良かった……

しかし、その報告をしてくれたレオニス君の様子がいつもと違って、かなり険しい顔だったが……何かあったんだろうか?

今度、レオニス君が来てくれた時に……

さり気なく……尋ねてみるとしよう……

つらつらと考え事をしていたパレンだったが、ビースリー回避で安堵したせいかすぐに眠りに落ちてしまった。

ソファの上で眠るパレンの身体に、シーマが毛布を持ってきてそっと掛ける。

ラグナロッツァの平穏を取り戻すことに成功した男の顔は、久しぶりに安らぎに満ちていた。